55 東京
緩やかに時は流れる。
あやめが二十歳を過ぎた頃、東京の父から連絡があった。久しぶりに会いたいとの事。
群馬で就職やら弥彦の東京への大学受験やらで忙しくしているあやめには会う気すらなかった。
母に相談すると、「良いんじゃない?どうせ父親には変わらないし……。弥彦くんにもついでに会いにいく電車代だと思えば?」とあっけらかんとしている。
ならばと、父に連絡をいれ、あやめの養育費の口座に金額が入るのを待った。
「とうさんは七回忌に呼ぶの?」
「離婚した人を呼ぶ理由ないでしょ?」
「そんなもんか……」
「そんなもんよ」
母は普通にしている。群馬に来て当たり前の日常は山と風と木々と共にある。あやめにとっては当たり前の日常になった。
「まあ、いいわ。行ってくる」
あやめは東京に向かうため、車の鍵を握った。弥彦の家の近くに駐車場を借りている。
気長に沼田インターから東京へと向かった。
東京は様変わりしていた。自分が住んでいた地域は都市開発の為に更地になり、区画整理が行われている。
都心の店舗はコロコロと様変わりしている。軒並み貴金属店が店舗を閉めてしまっている。
弥彦の部屋から近くのファミレスに父を呼んだ。土日の東京は人混みに溢れていた。
肌に纏わりつく暑さに嫌気が差しながら、あやめは約束の時間に間に合った。
「待ち合わせです」とあやめはファミレスに入って行く。
少し草臥れた父が座席に座っている。その隣に見知らぬ女性が座っている。
かあさんと離婚の原因になった女とは会いたくないとあやめは後ろを向いた。
逃げてやろうと思い、あやめは足早に帰っていく。しかし、父はあやめを見付けて手を振った。
「あやめ…!こっち!こっち!」
無視して帰るわけにもいかず、テーブルの方へ向かった。女性は若かった。自分よりも年下だろうか?
「お久しぶりです」
あやめは席に着くと直ぐにミートドリアとドリンクバーを頼んだ。
会計は勿論父持ちである。
「あやめは初めましてだよな。この子が妹のさよりだ……。仲良くしてくれると嬉しい。」
あやめは愕然とした。聞いた事のある名前だからだ。だが、父はお構いなしに続ける。
「さよりはな大学生になるんだ。あやめは成績が良かったのに、大学に行かなかっただろ?折角だから大学にいけば楽しい事もあるんだぞ。群馬の地元で就職もしてしまうし……。」
さよりはあやめを真っ直ぐに見ている。
あやめの記憶から薄くなった戦国時代のさよりの面影を探した。目が似ている。
「初めまして、薬玉あやめです」
「山陵さよりです……」
さよりは目を背けた。居心地の悪そうな顔をしている。仲良くと言ってるのは父だけらしい。
あやめも弥彦の事があるので仲良くする気もさよりを弥彦会われる気もない。
先祖のことがあるから当たり前である。因縁を感じながら、父の嫌らしさを感じた。戦国時代のさよりの名前を母から聞いたのだろうか?
その上、自分が原因であやめの両親が離婚しているとは考えないのだろうか?
「ねえさんとか呼ばれたくないから……」
父の饒舌な言葉の横であやめが呟いた。
「どうした?あやめ?」
「いいえ、何でもないわ。続けて……」
父のさより自慢を聞きながら、あやめの腹が冷たくなるのが分かった。
自分の人生で二回目はないとあやめは鋭く父を睨んだ。
「ジュース取ってくるわ……」
あやめが離席する。
ついだジュースを立ったまま、飲み干すと、腹が立って仕方なかった。あれが父だと思うと良く母は耐えていたなと思う。
「あの……」
さよりが後ろに立っている。
「なあに?仲良くなるつもりはないわよ。二度と会うつもりもないし……、とうさんの葬式で会いましょう……」
あやめはさよりを残して席に向かった。年下には可哀そうだが母を裏切る気がして、話したく無かった。
あやめは無駄な時間だとため息を付いた。
「弥彦に会いたいな……」
この後会う約束があったがあやめにとっては、長い時間になりそうだと思った。
「あやめ、あやめ。それでな……」
父は上機嫌ではなしている。
あやめは短く息を吸った。
東京よりも心は群馬に置いてきたのだ。
完結
お読み頂き有難う御座います。本当はこんなに時間の係る作品ではないのですが、思ったよりも遅筆でした。また、お会い出来る日を楽しみにしています。 木村




