表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/40

40 庭

 二層式の洗濯機で脱水された反物は物干し竿に通され軒下に干された。風が通ると微かに棚引く。


(えり)とおくみはどう干すべか?飛ばされそうだべ……」


「洗濯ばさみで閉じれば?」


「跡が付くのが面倒くさいべ……」


 おばあちゃんは洗濯ばさみで留めながら呟いた。

 あやめは豚鼻の蚊取り線香を窓際に置いた。雨戸を明け放ち、部屋から出て廊下を挟んで、庭に出る。


「久しぶりだべ。雨戸を全部開けるのは、風通しの為に網戸をしていてくれだべ」


 ガラスの入った扉窓。全面をガラス張りにしてあり、部屋の襖が丸見えである。


 だか、あやめが幼い時は毎朝おばあちゃんは雨戸を明け放ち、朝一番の空気を家に入れていた。


「今日は乾かすまで作業は中止だべ。何か他の物でも作るべか?巾着なら端切れで作れるだべ」


 おばあちゃんが網戸を開けてから廊下へと足を上げた。


「あやめ?」


 石畳みの玄関から庭の入り口が良く見えた。聞き覚えのある声の主は弥彦だった。


 道路から中を覗いている。


「ここが家だったんだ……。市外から少し離れているね……」


「弥彦はどうしたの?」


「やっぱりあやめだ……」


 弥彦は顔を乗り出して庭先にまで入って来た。おばあちゃんの顔を見ると、真剣な表情をした。


「川村弥彦です。あやめさんとは友達になったばかりで……」


 おばあちゃんは視線をずらすと、軒先に入っていって大声を出した。


「玄関さ、入ってこい!茶ば入れてやる!」


 大声を聴いたあやめがおばあちゃんに駆け寄った。


「どうしたの?」


「ちゃんと見といてやるべ。ささ、玄関開けてやるべ」


 あやめは居間を通って、玄関に向かうと、弥彦の人影が揺れていた。


「どうしたのかな?あやめのおばあちゃん……」


「さあ、良く分からないけど……。お茶飲んでけって……」


 弥彦は敷居を跨ぐと、大きな声を出した。


「失礼します!」


 玄関の高い上がり(かまち)を上がり、障子戸を内側から開いた。


「こっちこい……。弥彦さんとやら……」


 テレビのある部屋、いつもおばあちゃんと食卓を取る部屋である。

 襖を背にして上座におばあちゃんが座る。こたつのテーブルの上、向かいに茶を出した。弥彦は下座に座れと言っているのである。


 玄関を背にして弥彦が座る。


 あやめは二人の間、テレビが見える席に座った。


「弥彦はどっか行く予定じゃないの?駅に向かってるみたいだったから……」


「携帯を使わせて頂いても宜しいですか?」


 おばあちゃんに弥彦は聞いている。


 カバンからスマホを出すと、画面をタップしてメールを打ってるようである。


 無言で二人は見詰めた。


「友達との予約はキャンセルしたよ……大丈夫」


 おばあちゃんは長い溜息を吐いた。


「大丈夫じゃねえべ。友達の予約ば大切に出来ない奴は嫌な奴はだべ」


「すみません。今日でなくとも良い予定でしたので、友達にはキチンと埋め合わせします」


「でも、気に食わんべ」


 あやめが不安な顔をした。


「どうしたの?おばあちゃん?」


 おばあちゃんは険しい表情をしている。

 あやめはテレビを付けると、ニュース番組が流れていく。おばあちゃんの表情は崩れない。


「すみません。お手洗いをお借りして宜しいでしょうか?」


 おばあちゃんは頷くと、あやめが立ち上がった。障子戸を開けると、廊下に出た。


 庭を横目にトイレに向かう。


 弥彦が庭を見ると、庭の真ん中に山椒の木が植わっている。


「あやめ、あそこの木、じゃまじゃない?」


「え?おばあちゃんは何も言ってないけど?」


「山椒の木は棘があるから庭の真ん中には植えないんだけど……」


 確かに、細い木が庭の中心に植わっている。


 弥彦はトイレを借りてから、戻って着て庭を見た。高い木は荒れ放題だった。


 居間に戻ると、あやめがおばあちゃんに聞いた。


「庭の山椒の木って?」


「じいちゃんが山椒の実が好きで植えた木だべ。料理にも使わなくなって必要なくなっただべ。だが棘が強くて切れないだべ」


 弥彦が真剣な顔をした。


「では、僕で宜しければ切りましょうか?」


「じいちゃんの思い出だべ……」


「でもあそこにあるのは危ないですよ。庭は綺麗なのに山椒の周りだけ手が届いてないように見えます」


「確かに、腰が痛くて手が届かないだべ……」


「なら、切りましょうか?」


 おばあちゃんは悩みながら頷いた。


 弥彦とおばあちゃんだけ庭に出て、話始めた。軍手とノコギリを持ち出すと、弥彦に手渡した。


 あやめは山椒の木が切られた所までは見ていた。二人が長いこと炎天下の下に居たので、テレビの部屋で扇風機の前に居た。


 ニュースが終わり、番組が変わり、その番組が終わり、また、ニュースになり、また終わり、カルチャーが変わろうとした時に、二人は帰って来た。


「見どろこのある若造だべ。悪くねえ」


 玄関からおばあちゃんが汗を拭いながら入って来た。あやめを横切り台所へ向かった。


「あやめ、暑いから冷たい物貰えるかな?」


 弥彦は玄関に腰を下ろすと、首から下げたからタオルで汗を拭う。二人は汗を拭う暇もなく作業をしていたようだ。


「麦茶でいい?」


「うん。後、手を洗ってもいいかな?」


「ここ、台所と風呂場しか水流れないの……。」


 弥彦は立ち上がり、台所へと向かう。おばあちゃんはテキパキと料理をしている。


 古い昭和型の台所から湯煙が出ている。炊事場で弥彦が水を出して手を洗っている。


「石鹸借りて良いですか?」


 あやめが台所の隅にある石鹸を指さした。弥彦の爪の奥まで土が入ってしまっている。


「御苦労さまだったべ。飯さ、食べてけだべ」


 おばあちゃんは味噌汁を作っている。


 弥彦が数回爪を洗ってから、麦茶を三杯飲んだ。


 あやめと弥彦はおばあちゃんの手伝いをしながら食事を作った。そして、炊事場は三人で賑わうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ