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分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


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38 家系図

 あやめとばあちゃんが台所の床下収納を開ける。中には梅干しの壺と梅シロップ、ぬか床が入っている。1個1個取り出しては、流し前に並べた。


「これが一番古い梅干しだべな。おっそ分けする農家も無くなってしまっから……。」


 ばあちゃんは硬い梅干しをあやめに一つ渡した。


「今日はにぎり飯にでもするべ。昔はたくわんも作ってたべよ……」


 雑巾でプラスチックの床下収納を拭く。ばあちゃんはバールをすき間に入れて押した。パカンと上へ持ち上がる。


「中は暗いべ。あやめちゃんは懐中電灯でも持っだべ。ばあちゃんはランタンで明るくするべよ。」


 ばあちゃんはマッチで火を灯して口に取っ手を食わえた。横に置かれた床下収納のプラスチックがゴトリと転がる。


 真下に穴が掘られている。


 その横に垂直に近い階段がぶら下がる。


「まあ、ちょっと見てれば分かるべ。昔の防空壕跡だべよ。良いものがあるべ。あやめちゃん。おいで……」


 ばあちゃんは慣れた手つきで階段を降りてゆく。


「あやめちゃん。こっち、こっち」


 おばあちゃんは穴下に着くとランタンを揺らした。あやめもポケットに懐中電灯を詰め込む。階段にしがみ付きながら下った。床に着くと直ぐに土床だと分かった。


「あやめちゃん、これを履くだべ。ここは只、掘ってあるだけの場所だべ。我が家の家長だけが知る場所だべ」


 あやめが横を見ると案外広い。部屋を半畳掘ってあるのだろう。地盤の強化も考えていない家の上だから掘れた場所だろう。


「えっ!」


 人影が見えてあやめがたじろいだ。


 ばあちゃんは奥にランタンを向けながら微笑んだ。


「ご先祖様だべ」


「笑えないよ」


「この鎧は戦場に行ってない鎧だべ。戦国時代に先祖が苦労を労われて贈呈されたものだべ。だから綺麗だし、明治時代に修繕もされてる。家が一軒は建つ代物だべ。」


「ご先祖は武将だったの?」


「只の足軽だっただべ。矢沢武将に引き立てて貰っただべ。その後も沼田城に配属された城主様に仕えてきただべ」


「甲冑なんてレプリカしか見た事ないよ。良く出来てる……」


 ばあちゃんは鼻が高そうにした。


「もう鑑定ば出してる。真田に縁のある鎧ば間違えなか……。後、こっちに刀が入ってる。」


 胴回りの甲冑の座っている箱の上に、兜があり、足を防具する甲冑まである。全身を守っていたのだろう。


 板の間になっていて、行李が置いてある。ばあちゃんは蓋を開けると、刀を二本出した。


「あやめの刀と弥彦の刀だべ。家長が亡くなると胸にあやめの刀ば置く。あやめが迎えに来てくれるらしいだべ。ばあちゃんもばあちゃんの亡くなる時に、あやめば見たべ。だから、ばあちゃんが家長になっただべ」


「あやめと弥彦がご先祖様なのね?」


「まま、見てみるべ」


 おばあちゃんは行李から古い巻物を出した。甲冑の板場に転がす。補修されているようで綺麗な巻物になっていた。


「あやめちゃんここさ側見てみろ。自分の名前ばあるべ」


 家系図にはやすこの下にあやめの名前がある。懐中電灯を掲げて良く見る。やはり自分の名前だ。


「でで、広げて一番古い人に弥彦がおる。あやめとは夫婦であった。だが、子は無せず、さよりを後妻に貰ってとるだべ。その子孫が薬玉家の祖先だべ。あやめちゃんのご先祖様だべ」


 あやめが嫌な顔をした。


「あやめが祖先じゃないの……?」


「昔はそうゆうもんだべ……。戦国時代なら尚更だべ。子をなせねば駄目な時代だべ」


「何か複雑……」


「薬玉家は代々女主を守ってきた家系だべ。子もなさなかったおなごの名前が残ってるのが不思議だべ。」


「それだけあやめを大切にしてたと言う事ね?」


「だろうな~。あやめの刀が残ってるだべな。さよりの刀ではないべ……。」


 巻物を巻くと行李に戻した。


「あやめちゃんは何色が好きだべ?」


 他の行李から着物の帯を出している。


「洗い張りしてあやめちゃんに渡してやるべ。正絹は無理だが、木綿ならサイズを大きくしてやれるべ。古い着物だから、袷にして着れば大丈夫だべよ」


「暗くて見えない……」


「なら、部屋に戻って見てみるべ。あやめの刀を入れてくれだべ。この刀は家長が亡くなると胸に載せないといけない決まりがあるだべよ。ささ、行李を頭に乗せながら階段を上がるべ」


 おばあちゃんは張り切って、行李を頭に乗せながら、階段を登った。

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