前編
〈八月五日 午後六時頃〉
「オリビア中尉、君にはラウレアイロ駐屯地への出向を命じる」
場所はノールキア王国首都、ロイマーグロール。中央憲兵隊隊長、すなわちオリビアの上司であるタイラー・ブルーム中佐が、オリビア・アズウェルにそう告げたのは、一週間前のことだった。
「ラウレアイロ、ですか。確か隊長はダコタ少佐⋯⋯でしたっけ」
「ああ。俺としても気乗りしないんだが⋯⋯」
ラウレアイロ駐屯軍隊隊長、ダコタ・ジズオルド少佐。下の者はこき使い、上の者に対しては常に媚売りに苦心している、いわゆるクラッシャー上司と呼ばれる人物だ。
「隊長の命なら、何だって喜んで受けますよ」
苦い顔一つせずに、オリビアは微笑んで答えた。
オリビアとは、彼女が憲兵隊に配属された当時からの付き合いである。タイラーの立てた訓練メニューが他より厳しいことも、タイラーが無愛想な性格をしていることも彼女は理解し、それでもなお慕ってくれている。
「そう言ってもらえると助かる。だがまあ、今回の件はお前でも一筋縄でとはいかないだろう」
ノールキアの軍事体制は大きく分けて、主に、平時は軍隊内の秩序及び規律の維持、戦時は戦地及び占領地の交通整理や捕虜の取り扱いなどの任務を行う憲兵隊、君主を警護する君主直属の軍団である近衛兵隊、そして、国内の警察機構、国外に対する軍備を担う中央軍隊及び各地駐屯軍隊の三つから成る。
オリビアは、衛生兵や輜重兵などの後方支援や、特技兵などの技術関連を除く、前線で戦う兵としては世界中でも稀な女性軍人だ。ノールキアでは女性が士官学校や軍学校に通うこと自体は認められているが、無論男女で成績のハンデは全くないため、以前に女性軍人を輩出した前例は皆無だった。
「と、言いますと?」
「ラウレアイロの件は知っているな?」
「要塞建設の衝突問題ですよね」
「ああ、そうだ」
憲兵隊は平時から遊撃隊として任地に赴くことが多いため出張自体は珍しくないが、オリビアにたった今任ぜられたその地は、まさに有事へ変わらんとしていた。
ノールキアは君主制だが、その王は世襲ではなく上級貴族の中から国民選挙で選出される。そのため名君が立つことが多く、現女王ブランカ・リジェリオも例に漏れず、国民によりその座に着き、その聡明な頭脳で長年続いている平和を保ってきた。しかし昨年、女王が病床に伏したために、王座が不在の状態が現在進行で続いている。だが問題はそこではない。女王は緊急事態にも備えて、自分が不在でも国が回るように指導している。なんと時を同じくして、隣国が攻めてくるとの噂が急に立ち始めたのだ。早急に隣国との頂上会議を開き、真相を明らかにするべきだが、ノールキアには女王の代理として会議に参加し、なおかつその責務を全うできる適任者がいない。選挙君主制であることと、女王が没するにはまだ若すぎる年齢であることから、後継決めが後手に回ったのが仇となったわけだ。
国全体に社会不安が広まる中、ダコタが声を上げた。曰く、隣国との国境付近であるラウレアイロに要塞を築き、襲撃に備えるべきだ、と。国民側では、真相も明らかになっていない段階で要塞建設は時期尚早だという声が上がる一方で、走り続ける緊張と広まる不安から、一部ではダコタを支持する声も上がった。かくして、ダコタは王命が下りる前に、ラウレアイロの住民に立ち退き及び要塞建設を要求したが、当然ながら住民の抵抗に遭い、軍と住民との間に軋轢が深まりつつある。
「ダコタ少佐は要塞建設の王命を要請しているが、それはまだ速断に過ぎる。下手するとこちら側から仕掛けていると捉えられかねない。だが、隣国襲来の件も強ちデマではなさそうだ。タイミングが出来過ぎているからな。頭ごなしに少佐を止めるわけにもいかない。そこでだ、オリビア中尉」
タイラーは一拍置いて、オリビアの目を射抜くように見つめながら告げた。
「表面上はダコタ少佐の応援という形で、ラウレアイロにお前を派遣する。だが本命は全く逆だ。代理人が決まるまで要塞建設の件は先延ばしにしろ。そして女王不在の今、警察機構を担う各地の軍兵が最大の権力者となり得る。ダコタ少佐が今に何を仕出かすか分からない状態だ。何としてでも市民へ及ぶ被害は阻止しろ。できるな? オリビア中尉」
齢二十四にして、中尉の座に就くオリビア。それも、狡い手は一切使わず、正真正銘の実力による功績で得た階級なのだから、彼女は優秀を通り越して末恐ろしい。タイラーは自分が無茶な要望をしているのは理解しているが、同時に、オリビアが根っからの負けず嫌いであること、煽るように言えば結果で返してくることも理解していた。
「承知しました、タイラー隊長」
オリビアはその青の目を光らせ、誓いにも似た強い決意を浮かべた。
「それはそうと、隊長はこの戦争を止められるとお考えなんですね。どなたか代理人に心当たりでも?」
「ああ。と言っても、現在行方不明で、探させている最中なんだがな」
ヘラヘラとした憎らしい面が脳内に浮かび、「あのバカどこへ行きやがった」と思わず零してしまった。オリビアが目を見張るのが分かり、軽く咳払いして気を引き締め直す。
「いいか。我ら軍兵の使命は戦争をすることではなく、自国の民を守ることだ。手に持つ武器が国民に向けられることなど、決してあってはならない。肝に銘じろ」
「はッ!」
オリビアの敬礼が、隊長室で音高く響いた。
***
〈八月十二日 午後十時〉
オリビアは、ラウレアイロにある小さなダイニングバー『セレナーデ』を訪れていた。
バーにしては明るい配色のこの店は、どちらかというとカフェを連想させる。ブラウンやベージュの温かい色味はどことなく親近感があり、かつ落ち着いた雰囲気もある。
タイラーから密命を受けて一週間。オリビア派遣された身のため、訓練に参加する義務はない。自由に動ける立場を利用して、昼間はダコタの仕事の補佐をそれなりにし、夜は繁盛している酒場を中心に訪れ、情報収集に徹していた。情報、とは言っても、大したものではない。そこらの客の雑談を盗み聞くだけだ。やれどこの酒がどう美味いだの、自分の嫁が最近急に可愛くなくなっただの、どこの国から巷で有名な吟遊詩人がやって来るらしい、だの。一見なんてことない噂話に聞こえるが、それらには非常に重要な情報が含まれている。
例えば今出てきた吟遊詩人。話を聞く限り、三年前に指名手配された盗賊の特徴と完全に一致している。移動距離的にも不審な点はない。移動場所も懇切丁寧に話してくれたので、非常に参考になった。
——この一週間で、報告書二十枚はくだらないわね。
とにかく今は、何の問題も起こさないことが重要だ。ダコタはこの町の権利書を狙ってとにかく神経質になっている。町長が権利書を渡さなければ問題ないが、住民が何らかの問題を起こせば、軍で必要以上の厳罰に処し、住民に圧力をかけるつもりだろう。そうなれば不安は町一体に広がり、やむをえずという形でますますダコタの支持派が増えてしまう。
——ダコタの動きを早急に止める必要がありそうね。
注文したファジーネーブルをチビチビ飲みつつ、一人頭の中で考えている——と。
「よっ、きれーな姉ちゃん。ここは初めてか? あんま見ねぇ顔だな」
先程から、情報収集に図らずも協力してくれている男が、ビールの入ったジョッキを持って、オリビアの近くに立っていた。
「はい。つい最近、ここに越してきまして」
首都とは大分違う距離感だ、と内心で学習しながら答えた。
「一人で飲みに来てんのか?」
「そうですが」
「なら、一緒に飲んでいいか? さっきまで連れがいたんだけどよ、帰っちまった」
男は口でそう言いながら、オリビアの返事を待たずに右の空席を埋めていた。
しかし丁度いい。この町のことを知りたい体を装って、情報を一つでも多く聞き出してやろう——と言いたいところだが。
「左手の指輪、綺麗ですね。ご結婚されてるんですか?」
「ああ。三ヶ月前にな。バリバリの新婚だぜ?」
「ふふ、じゃあ奥さんとの結婚生活も楽しんでるんでしょう? 私なんかといていいんですか?」
「あー⋯⋯」
男はここで、オリビアから目を逸らし、手の中のグラスを見つめた。
「情けねぇ話、もう破局の危機かもしれなくてよ」
「なぜですか?」
「嫁がさ、最近すげぇ俺にあたってくんだよ。顔合わせるたんびに喧嘩腰で向かってくるし。あと、家事は碌にやらず放っぽり出して、すぐ寝ちまうんだよ。腹が痛いだの何だの言い訳して。なんかもう、冷めちまったというか⋯⋯」
さっきから怪しいとは思っていたが、確定だろう。
「今すぐ家に帰って、奥さん連れて病院行ってください」
「⋯⋯おう? なんでそうなんだよ」
「おめでとうございます、ご懐妊です——って言葉は、病院で奥さんと二人で噛み締めあってくださいね」
「⋯⋯⋯⋯へ」
「それ、全部妊娠の初期症状ですよ」
にこりと笑って告げると、男は三秒間フリーズし、刹那——座っていたカウンターチェアをひっくり返し、周りの客にぶつかりながら、店のドアを壊す勢いで出て行った。
***
ドカドカと遠慮のない足音が聞こえたかと思えば、ガランゴロンッ、と木製のドアベルが、いつもより切羽詰まった音で鳴った。店内の奥の方で接客していたルイス・リクーアは、何事かと音のした方へ目を向けた。一角のカウンターチェアがひっくり返っており、周りの客も、一様に呆気に取られた顔をして騒然としている。視界にポタポタと滴り落ちる液体が見えて、それはカウンターテーブルに倒されたジョッキが原因だとすぐに分かった。
「あ」
ひっくり返ったチェアの隣に座っていた、金髪の長髪をポニーテールにした女性が自分の膝元を見て、動揺するでもなく淡々と声を出した。女性の履いていたジーンズの腿あたりが、広範囲に渡って色変わっている。カウンターの接客をしていた、ルイスの祖父であるセス・リクーアが、磨いていたグラスを置いて、素早くタオルを女性に手渡した。
「申し訳ありません、お客様」
「いえ、私が悪いようなものですし。ありがとうございます」
女性は気を悪くした素振りもなく、タオルを静かに受け取って腿を拭った。
この国では滅多に見ない、真っ青な色をした瞳が印象的で、思わずまじまじと眺めてしまった。店内の照明をやけにてらてらと反射している床にハッとして、すぐにモップを手に取って濡れた部分を拭き始める。どうやら、女性の隣に座っていた客が、相当乱雑に店を出ていったようだ。その拍子にジョッキが倒れたのだろう。
「さっき隣に座っていた方の料金は、私がお支払いしますね」
あまつさえ、にこやかに女性は言った。セスはその言葉に目を見開いたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「いいえ、それには及びません。彼は店の常連なので、近いうちにまた来ますから」
「そうですか」
女性はそう言うと、自分のカクテルの残りをクイと呷って飲み干した。
「ご馳走様でした。それでは、失礼します」
女性はカウンターに代金を置いて、そのポニーテールをはためかせながら、颯爽と立ち去って行った。
「かっこいい⋯⋯」
店内の注目が一つに集まっていた中、女性客の誰かが声を漏らした。同調して、周りの客もいつしかコクコクと頷いている。
——今日一番の、心に残った出来事のこと。
***
〈八月十三日 午後二時頃〉
「⋯⋯⋯⋯やばい」
ただ一言、オリビアは静かに呟いた。その言葉は誰にも聞かれることなく消えていく。
「かんっぜんに迷った⋯⋯」
手元にある地図も、現在地が分からなければただの紙切れだ。空の太陽は大分上まで昇ってきてしまっている。もう昼も近いのだろう。わざわざ休日を使って、朝から出てきたと言うのに。
『セレナーデ』を訪れた翌日、オリビアはラウレアイロに派遣されてから初めての休日を迎えた。それを利用して、町の散策でもしようと思った⋯⋯のだが。
「十年前と道が変わってるのね⋯⋯」
手元にある地図は、十年前に発行されたものであることが記載されている。途中までは合っていたのだが、分かれ道が一本多いな、と思った辺りから発展していき、道の方向が違うな、と思った辺りで、きっともう完全に迷っていた。
「取り敢えず来た道引き返して⋯⋯いや、誰かに道を聞く方が早いか」
人通りがもっと多い道へ出るべく少し歩くと、早速最適と思われる場所を発見した。
「商店街⋯⋯いや、露店市場⋯⋯かしら」
視線の先にある通りは、街頭に括り付けられた、やや煤けたガーランドを境に、人の行き交いが激しくなっている。屋台のような店が寄り集まって、盛んに商売を繰り広げている。
小さく安堵の息を一つ吐いて、一歩また歩き出した時だった。
「あれ、あの時の⋯⋯?」
すぐ後ろで男性の声がした。
後ろを振り返ると、そこには桑色の髪と翠色の目をした、長身の青年が立っていた。一八〇強、と言ったところだろうか。
「えーと⋯⋯」
記憶の片隅の方で、何かが小さく引っかかった。必死で辿ろうとするも、なかなか思い出せない。
「ああ、店員の顔なんて、いちいち覚えてなくて当然ですよね。昨日の、『セレナーデ』でのあなたが印象的だったから、俺は覚えてて」
青年の言葉で、ようやく記憶を完全に手繰り寄せた。
「ああ、昨日のモップがけしてくれた店員さん」
そうだ、彼は昨日の店で接客を担当していたはずだ。
「あ、そうです。覚えててくださったんですね」
彼はにこりと愛嬌のある笑みを浮かべた。
「俺、ルイス・リクーアって言います」
「どうも。オリビア・アズウェルです」
「よろしくお願いします。ところで、オリビアさんはここへは何をしに?」
青年——ルイスに言われてハッとした。そうだ、現在絶賛迷子中なのだった。この歳で道に迷った、など恥さらしも良いところだが、時間を浪費するのはもっと避けたい。
「実はその、道に迷ってる最中でして⋯⋯」
「え、そうだったんですか? ラウレアイロには、来たばかりなんですか?」
「はい。仕事の関係で、一時的に滞在することになりまして。地図は持ってきたんですけど、道が合わなくてですね」
地図を見せると、ルイスは覗き込むなり「ああ」と納得したような声を出した。
「そういえば、この辺に大きい道路を新しく造った関係で、小さい道は埋められて、新しく家が建てられたりしたんでした」
「やっぱり⋯⋯」
自分の地図の読み取り能力が狂っていたわけではないことに安堵した。
「俺、ここへは店の食材の買い出しに来たんです。行きたい場所があれば案内しますが?」
——青年の優しい微笑みが太陽に照らされて、まるで天使のように感じる。
「お願いします」
ノータイムで頭をぺこりと下げた。
「あ、けど今日はもう戻ろうと思います。『セレナーデ』までご一緒させてもらえれば、それで⋯⋯」
「はい。じゃあ、俺はさくっと仕入れに行ってきますんで、あの通りの入り口で待っててください」
「了解です」
返事を聞くなり、ルイスは駆け足で露店の集まる通りへ先に向かった。
***
ルイスは足早に露店が並ぶ通りを歩く。小さい頃から訪れているため、今では勝手知ったる場所だ。昔から店の配置がほとんど変わっていないのもあって、購入するものが分かっていれば、足を運ぶべき場所も効率的な回り方も、その場で考えるには容易い。
通りの奥の店から順に回り、手ぶらに近かった両手に次々と重量が嵩む。全ての買い物を済ませる頃には、はち切れんばかりの袋がいくつも両の手に提がっていた。それなりの重量はあるものの、世間的には恵まれたと言える肉体のおかげで、ふらつかずに歩けるくらいの余力はある。長年の慣れもあるのだろうが。
行きに歩いた道を再び数メートル歩けば、露店市の入り口が見えてくる。オリビアの長いポニーテールは僅かな風にも靡き、少しばかり傷んだ金髪が、太陽の光を受けて輝いていた。
オリビアの真っ青な目が、通りの真ん中辺りを中心に、右へ左へと彷徨っている。瞳がルイスを捉えた瞬間、ピタリと動きを止めた。
オリビアが小さく手を振って微笑む。店で見たのとはまた違う、安心したような、柔らかな微笑。澄み切った水晶のような青の瞳が、誰へでもどこへでもなく、ルイスだけを捉えている——その事実を認識した途端、なぜか胸がジワリと熱くなり、図らず顔が綻んだ。
オリビアの元へ急ぐべく、行き交う人々の隙間を足早に縫っていると、真っ直ぐに自分を捉えていた青の瞳はなぜか真ん丸く縮まり、オリビアの顔には明らかに驚の色が浮かんでいる。何をそんなに驚いているのだろう、とルイスは頭に疑問符を浮かべた。
「お待たせしました。どうかしましたか?」
オリビアの視線はルイスの手元に釘付けになっている。
「いや、軽く三十キロオーバーしてる荷物だなって⋯⋯店の食材って、いちいち直接買い出しに来てるんですか⋯⋯?」
なるほど、オリビアはこの荷物の量の多さに動揺していたのか。
「いえ、店には定期的に食材が配送されますよ。けど、足りない食材が出たときはこうして時々買いに来るんです」
「それは大変ですね⋯⋯あ、私いくつか持ちますよ」
そう言って、オリビアはルイスに向かって手を出した。
「え? 『持つ』って⋯⋯この荷物をですか?」
「それ以外に何がありますか」
「いや、えーっと⋯⋯有難いんですけど、一番軽いやつでも五キロくらいありますよ? 店まで三十分くらい歩きますし⋯⋯」
正直、オリビアの細い身体にこの大荷物を持たせるのは非常に気が引ける。
「もしかして私に持てるわけないとか思ってます?」
オリビアがムッとした顔つきをする。
——あれ、この人、こんな幼い表情もするんだ。
店で抱いた大人の印象とは大分違っていて、意外さに少し驚く。
「いや、持てないとは思ってません! けど、荷物を持たせるのは気が引けるなって」
「大丈夫ですから、こっちのいくつか貸してください。道に迷っていたところを助けてもらったんですから、これくらいはします」
オリビアはなお、ルイスにその手を差し出してくる。一つだけなら問題ない⋯⋯のだろうか、と即断できずにいると、オリビアは焦れたように、「はい、貸した貸した」と素早くルイスの右手から、食材の入った袋を三つほど取り上げてしまった。
しかし驚くことに、その身体はふらつく素振りをするどころか素知らぬ顔をしている。
「え、あの⋯⋯重くないんですか?」
「トレーニングにちょうどいいくらいですよ」
そう言って強気な笑みを返してきたオリビアは、頼もしくも、やはり昨日と違って子供っぽさがあった。
「あ、じゃあ店に帰りますけど⋯⋯重くなったら俺が持ちますから、言ってくださいね」
「言いませんし、強がってるわけでもないので最後まで持ちます」
オリビアは拗ねるように、顔をふいとルイスから背けた。
——もしかしなくても、相当な負けず嫌いっぽいな。
ルイスは静かに苦笑しつつ、オリビアと共に帰路を辿り始めた。
それにしても、その細い身体のどこからそんな力が出てくるんだと聞きたいくらい、オリビアの足取りはしっかりしている。歩くペースもさっきと全く変わっていない。重荷の重量を感じさせない、綺麗にピンと伸びた姿勢が彼女の凛とした雰囲気を醸し出している。白のブラウスにデニムジーンズというシンプルな服装、アクセサリーの類は一切なし。強いて言えば、腰に巻きつけているベルトポーチくらいだ。それなのに洒落て見えるのはなぜだろうか。
「ちなみに、今って何時だか分かりますか?」
歩きながら、オリビアがふとルイスを見上げて尋ねた。無遠慮に眺めていたことがバレただろうかと内心僅かに焦る。
「ええっと⋯⋯さっき時計塔の鐘が二回鳴りましたし、多分二時半過ぎとかだと」
「ああ、言われてみればさっき鐘が鳴ってたかも⋯⋯けど、道探しに必死で全然聞いてませんでした」
オリビアは俯いて、はぁ、という大きな溜息と共に肩を落とした。どうやら、ルイスの焦りは杞憂だったらしい。
「せっかく朝から出てきたのに、無駄足になったわ」
それはルイスに向けたものではなく、オリビアが独り言ちた愚痴だった。自分自身にほとほと呆れたと言わんばかりの声色で——それがなんだか、嫌だった。俯く顔は、オリビアには不釣り合いな気がして。
「オリビアさんって、今日はお仕事休みなんですか?」
「え? そうですけど」
「じゃあ次のお休みはいつですか?」
「五日後⋯⋯ですけど?」
何の脈絡もないような質問に、オリビアは疑念を抱きつつも素直に答えた。
「じゃあ、今度俺が案内しますよ」
「え?」
「俺はこれから店で仕込みしなきゃいけないので今日は行けませんが、五日後なら俺もシフト休みです。オリビアさんの行きたい所、付き合いますから」
にこりと笑ってそう言うと、オリビアは急いで首を左右に振った。
「いやいや! 地図は新しく買いますから。一人で大丈夫です」
「地理に詳しい人がいる方が便利ですよ。俺、生まれた時からこの町にいるので、適任だと思います」
「いやそんな、面倒かけるわけには⋯⋯」
「俺は休日暇してるんで、全然面倒じゃないですよ。寧ろやることがあった方が嬉しいです。十時頃にあそこの時計塔集合でどうですか? 町で一番高い建物ですから、迷いにくいですし」
「いや、あの」
「俺、オリビアさんが来るまで、ずっと待ってますから」
「私の話聞いてる? あなたがそこまでする必要ないですよ」
「俺がしたいんです。⋯⋯あ、それとも、オリビアさんは俺と出かけるの嫌ですか?」
しょぼくれて小さくなると、オリビアは分かりやすく狼狽えた。
「え、いや、あの、そうじゃなくて」
「ごめんなさい。オリビアさんの気持ちも考えずに」
「いや、だからそうじゃ⋯⋯⋯⋯い、行きますから。時計塔、五日後の十時に行きますから」
オリビアは慌てながら、観念したように承諾した。無事にオーケーが貰えたことに、自然と広角が上がっていく。
「ほんとですか? 俺、楽しみにしてます!」
「え? あ、うん⋯⋯君さ、ひょっとして嵌めた⋯⋯? ——あれ⋯⋯もしかして、私の休日最初に聞いたのも、全部——」
「あ、店もうすぐですよ」
「はぐらかすなこの!」
手が荷物で塞がっていたからか、ガシガシと肘打ちをしてきた。全く痛くなかった。
——オリビアが意外と子供っぽいこと、そして押しに弱いことを覚えておこう。
***
〈同日 午後十一時〉
目の前のドアを、軽く三回ほど叩く。
「ニールでーす」
「どうぞ入って」
予めアポを取っていたため、すぐにドア越しの女性の声から許可を得た。「失礼しまーす」と一声かけてから入室する。
もう夜もいい時間、男が女の部屋に入室するという現場なわけだが、残念ながら如何わしい関係は一切ない。こちらとしては、肉体関係を築くことは吝かではないのだが、まあ彼女——オリビアには、十中八九色仕掛けだとかは通用しない。かと言って無理矢理押し倒しでもすれば、こちらが殺されてしまう。悲しきかな、何の比喩でもない。
オリビア・アズウェルというこの女性は、一週間前、憲兵隊からダコタの応援として派遣されてきた、非常に稀有な女性軍人である。にも関わらず、齢二十四にして中尉の座に着いている。
話を聞いた当初は、絶対裏があるだろ、でなきゃ化けもんだ、などと思っていたものだった。しかし、午前の訓練に参加しているオリビアをたまたま見かけた際、その考えは覆された。
何があったかって? 何てことはない、ただ熱中症にやられた七十キロ超えの後輩軍人を一人で俵担ぎし、医務室に運んで行っただけだ。
さて、ほんの閑話は休題。部屋には当然主であるオリビアがいたのだが、いつもきっちりと結われている金髪が、今は重力に従って長く下ろされている。随分レアな光景だ。
さらに、オリビアはいつもの軍服ではなく、緩めのスウェットを白と黒で上下に着ていた。仕事中の、かっちりとした隙のない格好しか今まで見ていなかったからか、何だか⋯⋯いつもじゃ考えられないほど空いた胸元とか、曝け出された足首とか、すごく⋯⋯新鮮だった。
「ごめん、椅子が他にないの。ベッド使って」
「あざまっす」
完璧なまでにベッドメイクされたそれは、シーツに皺一つ残っていない。部屋の中も、装飾を含め、余計な物が一切置かれていない。
女性ということで他の隊員との相部屋ではなく、六畳程度の部屋一つがオリビアに支給されたのだが、他人に見られていないからと言って弛む軍人精神ではないらしい。
あまり形を崩さないように、浅くベッドに腰掛けた。
「悪いわね、消灯時間過ぎてるのに」
「いやいや、夕方からずっと座って酒飲んでただけなんで、いいですよそのくらい。寧ろ、業務が減ってラッキー、くらいに思ってます」
「酒飲むのに夢中で、本来の目的忘れた、なんてことないでしょうね?」
オリビアはジト目で腕を組んだ。
「だーいじょぶですって。俺、酒は強いんで」
「ならいいのだけど。早速報告頼むわ」
「りょーかいです」
先日、オリビアから、指示された酒場で客の会話を盗み聞きし、話を持ち帰ってこいとの命令を受けた。正直、何の意図があるのかさっぱり分からない。
「つっても、オリビア中尉の望むような情報はないと思いますよ〜? ただの酒場の世間話ですからね」
「構わないわ」
ニールは今日訪れた酒場での話を、できる限りオリビアに伝えた。どこぞの男の金回りが良いらしいだの、どこぞの女の羽振りが急に良くなっただの、どこそこの国から輸入した荷馬車の出来が良いだの悪いだの、諸々。話してて馬鹿馬鹿しいと思った内容のものも、オリビアは腕組みしながら真剣な様子で聞いていた。
全てを話し終えると、オリビアは暫く斜め上を見上げ、コツ、コツ、と傍にあるデスクを指で叩いて何やら考え込んでいる。
オリビアの集中を切らさないよう、身を固くして待つこと数十秒。
「ニール准尉」
はたと名前を呼ばれ、オリビアの視線が再びニールへと戻る。
「明日の昼、そうね⋯⋯ダンテ軍曹とジル軍曹、あとカイ伍長の三名を小会議室に呼んでくれる?」
オリビアが挙げた三名は、いずれも下士官の人物。まさか、この一週間でこの駐屯地の全員の顔と名前を覚えたとか⋯⋯いや、まさかな。
「いいですけど⋯⋯理由を聞いても?」
「駄目」
「ええ。めっちゃ気になるじゃないすか」
——ここまで意図の分からない指示出しといて、理由教えてくれねぇのかよ。
ニールは胸中信じられない思いだったが、同時に、上司には下手に食い下がらない方が良いことも分かっていた。
「ま、今日はもう寝たいのでいいです」
「そう。今日はありがとう。引き続き頼むわね」
「はーい。んじゃ、失礼しまーす」
疑問が残る中ではあるが、部屋を退出するべく大人しくベッドから立ち上がった。
オリビアは何気なく自分の髪に指を差し込み、手櫛で梳かし始めている。その時、クッ、とその手が髪先の辺りで止まり、オリビアの眉がピクリと動いた。どうやら絡んでいる部分に引っかかったらしい。
前々から思っていたが、オリビアは髪だけが妙に傷んでいる。彼女の肌は白いものの、不健康そうではない。それなのに髪だけが傷んでいるのだ。シャンプーやコンディショナーは兵舎のシャワー室に共用で置いてあるので、自分と全く同じものを使っているはずなのだが。
「オリビア中尉って髪乾かさないで寝てたりします?」
「え? いや、ちゃんとシャワー浴びたらすぐに乾かしてるけど。シーツがカビたら嫌だし⋯⋯あぁ、私の髪ってすぐに傷むのよね。もう慣れっこよ」
ニールの言いたいことを悟ったらしいオリビアは、気を害した様子もなく平然と答えた。自覚はしていたらしい。
そういえば、オリビアの容姿で前々から思っていたことと言えば、もう一つあった。
「そういやオリビア中尉って⋯⋯あ、聞いちゃいけないことだったらあれなんですけど、聞いてもいいです?」
「ん? 別にいいけど」
「中尉の目って、ノールキアじゃ滅多に見ない色ですけど、ハーフだったりするんですか?」
ノールキアは基本、——少なからず多少の個人差はあるものの——金や茶系の髪に緑系の目を持って生まれる。かくいうニールも、ミントグリーンの目にコルク色の髪を持つ。
「ああ、そうよ。父が北国の出身なの」
自分の目元に手をやりながら、オリビアは答えた。
「⋯⋯⋯⋯やっぱり、変?」
「え」
ニールは続いた言葉に耳を疑った。強気で凛としている普段のオリビアからは想像もできないほど、か弱い声が聞こえたから。しかし、その声は確かにオリビアのものだった。
「変⋯⋯って?」
「そのままの意味よ。この国の人たちはみんな綺麗な緑色の目してるし、目の色だけが違うってのは、やっぱ変かなって。それにほら、軍人って、祖国を背負う役割——みたいなとこあるじゃない。外国の血が混じってると、その、なんていうか⋯⋯軍人に、相応しくないんじゃないかって」
ニールは不審感を覚えた。なぜあの高潔なオリビアが、目の色だけでここまで卑屈になるのか。まるで別人だ。
彼女の性格からして、オリビアが自分だけで気にしている、という線はかなり考えにくい。となると——訳ありか。
——他の奴の言うことなんか、別に気にする必要ない。いつも通りでいればいいのに。そう、いつも通りで。
「なんであんたがそこまで目の色に拘ってんのかは知りませんけど、ただ俺が言えるのは⋯⋯」
ニールは、ニヤ、といつもの軽薄な笑みを浮かべた。
「目が青かろうが緑だろうが、オリビアさんは美人だ、ってことっすよ」
「⋯⋯⋯⋯はぁ?」
オリビアは眉根を寄せ、怪訝な顔をした。
「いや冗談抜きなんすけど、めっちゃ美人ですよね、オリビアさん。今度、どっかお茶でも行きません?」
「いや、どういう流れで上司口説き始めてんの⋯⋯てか、『オリビアさん』?」
「今業務時間外なんだから、別に構わないでしょー?」
「いやまぁ、そう、だけどさ⋯⋯」
心底呆れた顔をしていたものの、少し間を置いて、オリビアが突然クッと吹き出した。
「なんすか〜?」
とは言いつつも、内心では安心していた。
——やっぱ、しょげた顔は似合わねぇや、この人には。
「まったく、君みたいな部下初めてよ。けど——」
呆れ笑いするも、その顔はどこか、嬉しさを滲ませているようで——
「ふふ、君みたいな部下が一人でもいて良かったよ」
——不覚にも、キュンとしてしまった自分がいる。
「あぁええ、と⋯⋯俺そろそろ寝ますね、おやすみなさいっ」
「あ、おやすみなさい⋯⋯?」
矢継ぎ早に言い放ち、逃げるようにしてオリビアの部屋を出た。
——ああ、かっこわりぃ⋯⋯。
やけにボヤぁとした頭はきっと眠気のせいだということにして、ニールは足早に自室に戻った。
***
〈八月十四日 午前九時五十五分〉
約束の時刻まで、あと五分。
——あの人は、来るだろうか。
——この場に来て、俺を見つけた時、どんな顔するだろうか。
心がざわついて仕方ない。理由ははっきりしないけれど、なぜだろう。早く、会いたい。
彼女の青い瞳を思い起こしていると、よく晴れた青空が目に入った。今日は、雲がなかなか見当たらないほどの快晴だ。
「空に何かあるの?」
はたと耳に入ったメゾソプラノ。妄想にしては、やけにはっきりしていた。思わず目を見開いて、ゆっくり目線を下げていく。
「今日は良い天気よね」
「オリビアさん!」
陽の光がよく似合う綺麗な笑みを浮かべ、その人はいた。
髪先がもう少しで脚に届いてしまいそうな、長い金色のポニーテール。空の色に似た、青色の目。幾度となく自身の頭の中で描いても、本物の方がずっと鮮やかだった。
「来てくれたんですね」
ルイスは、待ち焦がれたその人に思わず破顔する。
「君がずっと待ってるとか言うから。仕方なくよ仕方なく。風邪でも引かれたら私が悪いみたいじゃない。それに、行くって自分で言っちゃったし」
オリビアは約束事を簡単には破れない性格らしい。それでいて、相手のことを思わずにはいられないお人好し。ちょっと、危なっかしいような。
「ありがとうございます」
「別に、君のためじゃないし。それに君の言った通り、案内役はいた方が便利だからね」
そう言いながらも、オリビアはルイスの様子をチラチラと伺っている。
——キツい言い回しでも、相手の地雷を踏まないよう気を遣っている辺り、やっぱり彼女は優しい人だ。
「はい、案内は任せてください。ところで、行きたい所はありますか?」
「⋯⋯甘いものが、食べたい」
少し恥ずかしそうに目を逸らしながらオリビアは答えた。甘味が好きなのだろうか。
「了解です。パンケーキとフレンチトーストが美味しい店知ってるので、そこに行きましょう」
提案すると、オリビアは目をパッと持ち上げ、身体を瞬時に反応させた。なぜだろう、あるはずのない、ピンと立った耳と、しきりに揺れる尻尾が見える。
ふふ、と微笑ましさを零して、目的地へと歩き出した。
***
〈同日 正午前〉
「へぇ、二十二ね。もっと歳下かと思ってた。二つしか違わないのね」
店に到着して注文した料理を待っている間、事も無い会話をしていた。
「え、逆に俺、普段歳上に見られることが多いんですけど」
「ああ、背高いものね。一八五くらい?」
「あ、すごい。ジャストです」
「ふふん」
少しだけ鼻を高くしながら、手元の紅茶を啜った。
「あの店で働いてるの?」
「はい。あの店、俺の祖父が経営してて、俺はその手伝いって感じです」
「そう。もしかしてあの店、自宅も併設してるの?」
「はい。三階建てになってて、二、三階が自宅です。祖父と一緒に暮らしてます」
「ご両親は?」
「親は都会の方に稼ぎに出てます。俺も一緒に、って親から誘われたんですけど、あまり興味がなくて。この町に残って、祖父の店の手伝いをすることにしたんです。長期休暇の時は帰って来ますし、手紙でもやりとりしてますよ」
「そう」
——両親、か。
オリビアはティーカップの中のマルーンを眺める。カップの底は、色濃くなるそれに隠れて見えない。
「ちなみに、オリビアさんは何の仕事されてるんですか? 確か、出張でラウレアイロに来たんですよね?」
——ま、普通の質問よね。
予想していた流れに、不自然に焦ることなく反応する。
「内緒。あんまり他人に誇れるような仕事じゃなくてね。語るには恥ずかしいのよ。ああ勿論、法に触れるようなヤバい仕事ではないけど」
出張のある仕事の中で、当たり障りのない職を騙ればその場凌ぎにはなるものの、いつどこで仕事の質問をされるか分からない。その職に詳しくない以上、どこかでボロを出しかねない。
その点、仕事については語りたくない、という意思を明確に示せば、相手はそれ以上追求することがなくなる。
——それに、強ち間違いじゃないしね。
「そう、ですか。——あ、そうだ。この後、どこか行きたい場所はありますか?」
無事にルイスが話題を転換したことに、そっと安堵した。
「んー⋯⋯いや、特には。町の地理を把握したいだけだし」
「じゃあモリヤナ通りに行きましょうか。色々お店がありますから、楽しめると思いますよ」
「へぇ。まぁ、その辺はお任せするわ」
「はい」
ルイスはにこやかに返事をする。愛想の尽きない良い子だ。容姿もかなり優れているようだし、女性からの引く手は数多なのだろうな、などと何と無しに思った。
「お待たせしました」
会話が丁度一区切りついたタイミングで、ウェイターがやってきた。注文した料理がテーブルに並べられていく。
「わぁ⋯⋯!」
目の前に置かれた皿に、思わず感嘆の声が漏れた。厚切りの食パンは、明るい黄色と香ばしい焼き目の茶色を身に纏っていて、非常に食欲を唆る。その周りには、宝石の如く鮮やかな赤に輝く苺が盛り付けられ、その隣にはふんわりとした生クリーム、さらにバニラアイスがメープルシロップとミントの葉を頭に飾りつけて座っている。生唾が大量に湧いてくるのが分かる。
「ふふ、喜んでもらえたみたいで良かったです」
ルイスが零した笑みに、オリビアはハッとして見惚れていたフレンチトーストから目を離す。年甲斐もなくはしゃいでしまったことに赤面し、咳払いをして居住まいを正す。ルイスの注文したコーンスープとブリトーがテーブルに乗り、ウェイターは一例してその場を後にした。
「いただきます」
軽く手を合わせ、ナイフとフォークを手にする。トーストを一口サイズに切り、クリームとバニラアイスを少量乗せ、パクリ、と口に運んだ。
「⋯⋯んんっ!」
ふわふわな食パンは、噛むとジワッとバターの香りを広げる。滑らかな舌触りのクリーム。そして、舌の上でゆっくり溶けていく、温かいパンと相反するように冷たいバニラアイス。そのどれもが甘い。
「お口に合いましたか?」
ルイスが微笑ましそうに見ているのも気にならず、その言葉にコクコクと頷いて、二口目は一口目よりも大きめにパンを切って頬張った。
***
〈同日 午後三時頃〉
食事を済ませた後、二人で店を後にし、ルイスはオリビアに報じた通り、モリヤナ通りを案内していた。
「あそこの店、最近町の女の子たちに流行ってるんですよ」
「へぇ」
オリビアはショーウィンドウに飾られた華やかな洋服に目を向けるも、さしたる興味はないらしかった。
「あ、あそこに見える大きい建物、分かりますか?」
「ええ」
「あれ図書館です。奥の美術館とも建物が繋がってるんですよ」
「ほう」
今度はさっきより反応があった。
「気になります?」
「ええ。読書が好きでね。それに、絵画とかの美術品って、当時の生活とか、景色とか⋯⋯写真とは違って色があって鮮やかで⋯⋯それが面白くって」
「寄って行きます?」
「ううん。今日はいい。また今度、ちゃんと時間取って見に来るとするわ」
——自分も一緒に行きたい、なんて。
咄嗟に思ってしまった。オリビアと一緒にいれば、それだけで楽しくなりそう、などと、何の根拠もなく期待してしまう、不思議な自分がいる。
「ねぇ、あれ何?」
視線を通りへと戻したオリビアが、指先だけでルイスの腕をつついた。
オリビアの視線の先を目で辿っていくと、見慣れない、小さな人だかりができていた。
「何でしょう?」
何となしに近づいていき、その奥を覗き込む。ルイスの長身は、人だかりを視線の障壁としなかった。
中心には小さめのテーブルが設置されており、手前側に一人、その向かいには二人の男が立っていた。現在、奥側の一人は手の中の懐中時計をまじまじと見つめ、もう一人は五つの白い球体を見事にジャグリングしていた。それを手前側の男が食い入るように見つめている。妙な光景だった。
「すみません、あれ、何されてるんですか?」
一方オリビアは、女性にしては上背があるとはいえ、男だらけの周囲ではあまり意味を成していないようで、人の隙間から顔を覗かせつつ、近くにいた、体格の良い四十代くらいの男に全容を尋ねていた。
「ん? ああ、ギャンブルだよ」
「ギャンブル?」
「ああ。路上賭場ってやつだな。あの五つのカプセルの中に、一つ印の入ったやつがあんだよ。カプセルをあの男が一分間ジャグリングして、印の入ったやつを当てられたら、そこに置いてある金を全部貰える」
男が指さした先には、テーブルの端に乗った小袋が五つ。かなり膨らんでいて、見た目だけでも重量感がある。
「あれ、いくら入ってるんです?」
「聞いて驚け? 袋一つに小金貨が百枚ずつ。一番奥のは今、九十枚だがな」
「小金貨四百九十枚⋯⋯?」
オリビアが怪訝な顔つきになる。
「最初は百枚だけだったんだがな、今までの挑戦者が払った金も全部注ぎ込まれてんだよ」
「賭け金⋯⋯というか、挑戦額は?」
「小金貨十枚だ」
「え⋯⋯挑戦者がお金をどんどん増やしたとはいえ、割に合わなすぎませんか? あんなシンプルなゲームで、最初から勝ち金が小金貨百枚だなんて」
「と思うだろ? けど、実際あれに挑んで負けた回数は三十九回。何回か挑んでる奴がいるにしても、三十人以上は挑戦してるだろうよ。それでも、勝てた奴が一人もいねぇんだ」
「確かに、彼のジャグリングの腕は見事ですが⋯⋯」
男はただ規則的に球体——カプセルを投げているだけではなく、多彩な技を見せている。
それでもオリビアは、胡乱気に眉根に皺を寄せ、首を傾げた。
「はい、いっぷーん」
奥側、ジャグリングをしていない方の男が、不意に声を上げた。もう一人がジャグリングの手を止め、テーブルにカプセルを並べる。
「さて、おにーさん、どれにしちゃう?」
小突くように楽しそうな声で、手前側の男性に話しかける。
「今回は自信がある。これだっ!」
男が意気揚々と、一番左のカプセルを指さした。
「これだね? ファイナルアンサー?」
「ああ」
「んじゃ、レッツオープン!」
やけにハイテンションな男が、指示されたカプセルを手に取り、カパリ、と二つに割り、ゆっくりとその手を持ち上げた。
「⋯⋯あー! ざーんねーん!」
カプセルの中は真っ白だった。
「ちくしょうっ! 今回はいけたと思ったのに!」
「にゃはは〜。楽しかったよぉ、おにーさん。これに懲りず、また遊んでねー」
ギリギリと奥歯を噛み締めて、人だかりを押し退けて去って行く男と、手をひらひらと振って、その背中を見送るジャグラー。
「さってと! みんな僕のジャグリングを楽しんでくれているようで嬉しいなぁ! 恐悦至極だよぉ。んでんで、お次の挑戦者は誰かな〜?」
人だかりがざわつき、お前が行けよだのなんだのと、押し立てる声までが上がり始める。
俺たちはそろそろ行きましょうか、とオリビアに声をかけるべく、視線を横にやった——その時だった。
「——私がやっていい? お兄さん」
綺麗な微笑を湛えて、オリビアが一歩前に出た。人々の注目は一気に彼女へと降り注ぎ、彼女の周囲が自然と道を開ける。
「え、オリビアさん⋯⋯?」
戸惑いの声を上げるルイスを宥めるように、オリビアは左手をすっと上げ、後ろを振り返ることなく悠然と人だかりを抜けて行った。
「おおっ! 今度は綺麗なおねーさーん! 女性のお客さんは初めてだよ〜。いらっしゃいいらっしゃい!」
男は掌を下に向け、ちょいちょい、と両手で手招きをする。
「この五つのカプセルの中の一つに、当たりがあるんだー」
男が徐に、テーブルに並んだカプセルの一つに手をかけ、その中を開く。カプセルの底に、赤い丸が書き込まれていた。
「んで、この子たちを一分間、僕がジャグリングします! おねーさんは、僕の芸に魅入らないように注意して、当たりを見ててね? それで見事当てられたら、ななな、なんと! ここにあるお金ぜーんぶ、おねーさんにプレゼントしちゃいまーすっ! その額なんと、さっきのおにーさんのを合わせてー⋯⋯?」
男は懐から、掌に乗るくらいの、ほんの小さな小袋を取り出し、見せびらかすように取り出して掲げ、そのままテーブルに乗っている方の小袋の中に、その中身を落とした。
「ピッタンコカンカンで五百枚っ! や〜おめでたいっ!」
「なるほどね、よく分かったわ」
オリビアは異様な男のテンションに呑まれることなく、一貫して冷静だ。
「賭け金は小金貨十枚だよ〜」
「ん、はい」
オリビアは、着用していたベルトポーチから金色に輝くコインを十枚取り出し、テーブルに置いた。
「毎度ぉ」
男は先程の小袋に、オリビアから受け取った金貨を入れ、懐にしまった。
「んじゃ、始めよっか」
男は面白そうに笑って、カプセルをその手に取った。
「一分間は、僕の愛するこの弟、バミヤが測ってくれるからねっ。あ、ちなみに僕はガストン。以後、お見知りおきを〜」
男——ガストンは恭しく頭を下げ、続けて懐中時計を手にしたバミヤが、同じように頭を下げた。終わると、バミヤが一歩下がる。
「レディー⋯⋯ゴー!」
バミヤの合図で、白の球体が一斉にそれぞれの放物線を描き始めた。
上へ下へ、上へ下へ。
穏やかだったそれらは徐々に速度を上げる。
目紛しく、忙しなく。
やがて、一つずつ投げられていたカプセルが二つ、三つと同時に投げられ、クロスし、まるで意思を持っているかのように、男の手に吸い込まれては跳ねていく。
「もう俺わっかんねぇ⋯⋯」
ルイスの近くで、誰かが情けない声を上げていた。ルイスも目でカプセルを追ってはいるが、正直、だんだんと確信が薄くなっていく。
——オリビアさんは、分かっているのだろうか。
ここからでは、オリビアの背中だけしか見えず、表情は伺えない。見る限り、首の角度は一切変わっていない。視線だけで追っているのだろうが、果たして。
——見守ること六十秒。
「はい、終わりー」
バミヤが呼びかけ、ガストンが手を止める。先程と同じように、テーブルにカプセルを五つ並べた。
「はい、おねーさん。どれが当たりでしょーかっ」
ガストンはテーブルに向かって両手を広げる。オリビアは暫しテーブルを見下ろしてから、ゆっくりと目線をガストンの方へと上げた。
「分かった。印があるカプセルは——」
す、とオリビアがその右手を持ち上げると、向かいの二人の広角が、期待したようにクッと上がるのが分かった。
オリビアの手がテーブルの少し上で、ぴたりと動きを止め————刹那。
がァンッ、と派手な音を立てて、テーブルが吹っ飛んだ。
その場が、水を打ったように静まり返る。
「へ⋯⋯?」
素っ頓狂な声を上げたガストンの目の前に、右手を真横に突き出して動かない、金色のポニーテールの女性がいた。伸ばされた手の方向には、ひっくり返ったテーブルと、無造作に転がったカプセル、重々しく地面に落ちた五つの小袋と、そこからはみ出してしまった数枚の小さなコイン。
「あー、あったあった」
彼女は倒れたテーブルを見やり、酷く淡々とした声で言った。そのままスタスタと右へ歩き出し、テーブルの傍まで行ってしゃがみ込むと——テーブルの内側に不自然に取り付けられた、筒状の入れ物の中に手を入れた。
「これでしょ? 当たり」
徐にオリビアが掲げた物は——真っ白なカプセルだった。周囲がようやく口を切り始め、ざわつきを取り戻す。
「どういうことだ?」
「イカサマだったってこと?」
人だかりから、聞こえるように声を上げる者もいた。しかし肝心の兄弟二人組は、口を噤んだまま動かずにいた。
「まっさか、『曲芸師』じゃなくて『ペテン師』だったとはね」
二人は、思わずと言った風に目線を互いにやり、顔を俯かせてしまった。オリビアが、はあ、とわざとらしく大きな溜め息を吐く。
「君たちさ、さっきの慣れた礼といい、その態といい、かなりの名家出身でしょ? イカサマギャンブルは法律で禁止されてる。遊び半分で手を出したその行動一つで——家が一つ堕ちるわよ?」
冷たい冷たい声音でオリビアが言い放つ。決して張り上げたものではないのに、澄んだその声はよく通った。誰かがボソリと、「終わったな」と呟いていた。
一方、兄弟二人はガタガタと震え出し、バミヤがバッと立ち上がったかと思えば、二人同時に勢いよく頭を下げる。
「も、申し訳ありませんでした!」
さっきのキャラはどこへやら、ガストンの声はみっともなく震えていた。
「はい、思ったより素直でよろしい。ま、私もタネを知りながら君たちのお遊びに乗ったわけだし、軍に引き渡すと色んな貴族さんたちから恨みを買いそうで怖いから、今回は見逃したげる」
「「え⋯⋯?」」
まさか許してもらえるとは思っていなかったのか、二人が目をぱちくりさせながら顔を上げる。
「君のジャグリングの腕は本当に見事だったわ。こんな路上ギャンブルで燻らせておくのが、もったいないくらいにね」
オリビアは地面に落ちた小袋五つと、散らばった小金貨たちを丁寧に拾い上げる。全ての小袋の口をきっちり絞め、その一つを人だかりの前へ無造作に投げた。ガシャンッ、と大量のコインが入った袋が地面に落ちる。人々は目をしばたたかせ、一様に首を傾げた。
「口止め料よ。今いる全員、ここで見たことは誰にも口外しないこと! 別に二人を庇ってるわけじゃない。今、軍と住民の間で面倒ごとが起こってる、って言ったら、何のことか分かるでしょう? 今二人のことが軍に知れても、あなたたち住民側のデメリットの方がでかいわよ」
小袋を片手で抱え、人だかりの一方——ルイスのいる方に向かって歩き出すオリビア。またも周囲の人間が彼女への道を開け、オリビアは袋を抱えていない方の右手でルイスの腕を引いて、その場を後にした。
「かっけぇ⋯⋯」
「惚れたわ⋯⋯」
譫言のような呟きが聞こえる中、クッ、とオリビアは一人、小さく吹き出すように苦笑しただけで、ルイスを連れて、振り返ることなく立ち去る。
——オリビアに掴まれたその腕が、ジリジリと痺れたような感覚を覚えた。
***
〈同日 午後六時半頃〉
大きなガラス張りのドアを押して、オリビアが建物から出てくる。
「お待たせ。ごめんなさいね、急に銀行に案内しろだなんて無茶言って」
「いいえ。小金貨四百枚だなんて、気軽に持ち運びできる量じゃないですからね」
この女性は、先程、見事に路上賭場での不正を暴き、大金を難なく手に入れてしまった人物だ。なんでも、ジャグリング中、印の入ったカプセルが右手に落ちた瞬間、テーブルの天板に取り付けられたペンスタンドの中にカプセルを入れ、同時に、予め天板の裏に貼り付けてあった、代わりの真っ白なカプセルと交換していた、というカラクリだったらしい。
オリビアは、なぜか勝てた人物が未だ一人もいない、という話を聞いた瞬間から、テーブルが腰の位置まである高さだったこと、教卓のように天板から下が見えないタイプになっていたことに目をつけ、ジャグリングの最中はガストンの手元を見ていたそうだ。すると、手が下がった瞬間、ギリギリテーブルに隠れていたらしい。
「いやー、あんな派手にテーブル吹っ飛ばしといて、もし違ってたらさらに謝金払わないといけないところだったわ。合ってて良かったぁ」と、数メートル歩いた瞬間に大きく息を吐いた女性と同一人物とは思えない程の、鋭い洞察力であった。
その後、オリビアは小金貨を両替したいということで、町の銀行へ案内した。
腕に抱えていた小袋は一つになり、その量も大分減っている。オリビアはその中に手を入れ、先ほどより一回り大きくなった金色のコインを一枚、ルイスに差し出した。
「これ、今日のお礼」
「え⋯⋯いや、いいですよ! そんな、悪いです」
ルイスが両手を振って断るも、オリビア笑顔のまま、その細い指でルイスの右手を取り、金貨を握らせた。
「受け取って。君にはたくさん迷惑かけたし、たくさんお世話になったし。私からのほんの気持ち」
優しい笑顔でそう言われると、断るに断れなくなる。観念してオリビアからの金貨を握ると、彼女に釣られるように自然と笑みが零れた。
「分かりました。大切に使います」
「ええ。そうして」
身につけていたレザー製のショルダーバッグに金貨を入れると、オリビアは満足気に微笑んだ。
——トクリ、と、なぜか急に心臓の音が気になり始める。
「今日はそろそろ帰りましょうか。もうそろそろ暗くなるでしょうし」
底がピンクがかった雲が浮かぶ空を見上げ、オリビアが言った。
「そうですね。オリビアさん、お家どこですか? 俺、送って行きますよ」
「ううん。『セレナーデ』を通り過ぎなきゃいけないから、そこまでで十分」
「そうですか」
オリビアと二人並んで、通りを歩き出す。
「思わぬ臨時収入になっちゃった」
オリビアがポーチに小袋をしまいながら言った。
「何に使うんですか?」
「数枚頂いて、あとは寄付」
「え」
子供の頃によくする話題、『金貨十枚あったら何に使うか』という状況が、今まさに実現しているにも関わらず、オリビアは迷わずそう答えた。
「何?」
「いえ⋯⋯自分で手に入れたのに、使わないんですね」
「うん。ぶっちゃけお金には困ってないの。貯金もそれなりにあるし。無駄に眠らせておくくらいだったら、必要な人に譲って、有意義に使ってもらった方が良いじゃない?」
空の赤みが縁に溜まり、小さな星が点々と姿を表し始めた頃。当たり前のように言って笑うオリビアは、とても綺麗だった。
「寄付はどこにするおつもりですか?」
「うーん⋯⋯新聞に、孤児院への募金の知らせがあったし、そこら辺にいくらか。あとは——十四年前の、戦災を受けた人たちに」
オリビアは前を向いて、悲しそうな笑顔をして言った。
「ああ、テマヒヴィナ戦争ですね」
テマヒヴィナ戦争——『世界史上最悪の殺戮戦争』とまで呼ばれた、もう地図上には存在しない島国の名前を取って付けられた戦争。
十四年前、テマヒヴィナという島国が、セリウロス帝国に攻め落とされた。宣戦布告なしに、テマヒヴィナの首都に不意打ちで落とされた核爆弾を戦争開始の合図とし、一年の後に戦争は終結した。小さな島国と、世界でも有数の軍事力を誇る大国との差は歴然で、当時のテマヒヴィナの人口五千万に対して、テマヒヴィニアンの死者、その数なんと三千万。セリウロスは『テマヒヴィニアン絶滅』を目的に掲げていたらしく、実質、ほぼ一方的な蹂躙だったそうだ。
正直ルイスは、可哀想、くらいにしか思えなかった。遥か遠い国々が争い合ってても、両国のどちらとも、何の同盟も結んでいないノールキアでは、変わらず平和な日々が続いていたから。
でも——
「戦災者にパンの一つでも、食べさせてやりたいじゃない?」
——あなたは、思いやれるんですね。そんな、悔しそうに苦笑いできちゃうほどに。
「だから、さっきもああ言ったんですね。『軍と住民の間の面倒ごと』って、要塞建設問題のことですよね」
「ええ。住民が問題を起こさなければ軍は住民側へは干渉できないから、下手な問題は起こさずに、軍が介入する余地を失くすのが今できる最善、と私は考えてる」
言うまでもなく、オリビアは要塞建設反対派らしい。
「そうですね。俺もくれぐれ気をつけるようにします。——あ、そうだ。俺、孤児院に案内しますよ。それに、海外の復興資金寄付も手続きが要りますから、その場所の案内も」
浅はかにも程がある。オリビアとまた出会うための口実になる——だなんて。けれど、たとえそれでも彼女の近くにいたかった。彼女と——オリビアと一緒に過ごす時間を、作りたかった。
「え⋯⋯いいの?」
「もちろんです。オリビアさんの次の休日はいつですか?」
「一週間後」
「ならその日に、今日と同じ時間に時計塔の前で待ってます」
「分かった。——ほんと、ありがとうね、ルイス」
花の咲くような優しい笑みと、彼女が最初に呼んでくれた名前。
——ルイスの心を引き摺り込むのなんて、それだけで充分だった。
ドクン、と、心臓が何かに呑み込まれるような感覚。思わず足が止まった。
「好きです」
「⋯⋯⋯⋯え?」
オリビアも二歩先でピタリと止まって、ルイスをパッと振り返る。
「あ、えと」
ふと零れてしまった告白はルイス自身も想定外で、たじろぐ。が、もう後戻りもできなくて、覚悟を決めて、真っ直ぐにオリビアを見つめた。
「好きです、オリビアさん」
この感情を見て見ぬふりなど到底できなくて、ひた隠しにしておくには手に余る。この人は、今まで出会ってきたどの女性たちとも違う。
——キュウゥ、と胸が締め付けられる感覚が止んでくれない。
「え⋯⋯」
オリビアは急な状況を理解できていないようで、まだポカンとしている。
「付き合いませんか? 俺たち」
誘いかけるように微笑みながら言うと、オリビアの顔は徐々に朱に染まっていく。
「え、あ⋯⋯」
こんなに美人ならば、告白の一つや二つ慣れているものだと思っていたが、そんなに初心な反応を見せられると⋯⋯可愛いな、なんて。
急かすことなくオリビアの反応を待つこと数十秒。
バッ、と物凄い勢いで、オリビアはルイスに背を向け逃げ出した。
「え? オリビアさん?!」
追いかけるべきなのかと躊躇していると、数メートル先でオリビアが止まって、首だけでルイスを振り返った。顔は陽に焼けたように真っ赤だった。
「い、一週間後ね! 今日はもう無理!」
弾かれたように、待ったなしで駆けて行ってしまうオリビア。
「⋯⋯ぶはっ。あっははははは!」
想像の斜め上を行く反応に、思わず腹を抱えて笑ってしまった。
***
〈九月四日 午後二時頃〉
パシン! と乾いた打撃音が牢の中で響く。
「そろそろ、権利書を渡す気になったかい?」
隣に立つ男の声に、オリビアが手を止める。
「死んでもお断りだ」
床に転がされた五十代辺りと見える男は、その顔を、苦痛に歪めながらも力強く上げて答えた。
「ふん。本当に死ぬ間際になったら渡す気にもなるさ。中尉、続けてくれ」
「⋯⋯⋯⋯はっ」
オリビアは再び右腕を持ち上げ、男に振り下ろした。右手に握られた鞭が撓り、男を無遠慮に叩きつける。その度に、空気を叩く音が高く響く。
「うっ⋯⋯」
男の呻き声。
——ごめんなさい。ごめんなさい。
オリビアは胸中で何度も謝罪しながら男を打った。
手首を鎖に繋がれ鞭に打たれているこの男は、ラウレアイロの町長、ウォルター・マシューズである。昨日の夜、交渉——という名目で、ダコタが勝手に誘拐同然で連れ出してきてしまったのだ。今日は妙に上機嫌だな、と朝から不審に思い、周りの兵に聞いてみた結果、呆気なく発覚。ダコタが何をしようとしていたかは想像に難くなかったため、オリビアは自ら拷問役を買って出たのだった。
「この国には要塞が必要なんだ! 戦争が起これば、この町はまず壊滅する。故郷を守りたきゃ、戦力が必要だ。どうしてそれが分からない?!」
オリビアの隣に立つ男——ダコタは焦れたように声を荒らげた。
「それは、戦争、ありきの、考え方、だろ⋯⋯っつ⋯⋯これ以上、兵器を⋯⋯っ作って⋯⋯ぁ、ど、するんだよッ」
この人は、本当に町を大切にしている。
金に目が眩んだだけで上の地位を目指す人間はどこにでもいる。ダコタが正にその例だ。
——良かった、この人がラウレアイロの町長で。
予め鞭の先の革紐を解し、手首の角度をわざと固定し、重心を逸らし、痛覚が比較的鈍いと言われる肘や膝、背中を打ってはいるが、痛いものは痛い。
——お願い。もう少しだけ耐えて。
オリビアは強く祈りながら、右手を振り上げる。
「っ⋯⋯このッ!」
「あっ⋯⋯!」
ダコタはオリビアから鞭を奪い、力任せにウォルターに叩きつけ始めた。
打撃音から、ビシャンッ! という破裂音に変わり、その後暫く牢に響いていた。
***
〈九月五日 午前一時〉
——今日はここまでにしてやる。一晩よく考えるんだな。
ダコタがそう言ってこの場を去ったのは、何時間前だったか。
「まるで罪人だな⋯⋯」
我らがラウレアイロの軍隊長があのざまなのだから、将来が思いやられる。
牢の小さな格子窓から見える月を、力なく寝転がって眺めながら考える。許可書のサインも町の権利書も渡す気は毛頭ないにしても、今日みたいな日が何日も続くとなると流石に参る。身体の諸処が痛い。暗くてよく見えないが、身体に痣がいくつもできていることだろう。
けれど眠る気も全く起きず、深くため息を吐いた。
今は何時だろうか。あと何時間で、またあの拷問が始まるのか。
牢の天井を見上げながらぼんやりと考えていると、ふと、コツ、コツ、と近づいてくる足音があった。見回りだろうか。
しかし、クレッシェンドしていく足音はその絶頂で止まった。牢の外に目を向けると、人影が真っ直ぐこちらに向かって立っている。顔はよく見えない。鍵をカチャカチャと操作する音が聞こえたかと思えば、キィ、と牢の扉が開いた。足音がさらにこちらへ向かってくる。
ウォルターは急いで上体を起こし、思わず近づいてくる人影から後ずさる。手首に繋がれた鎖が、シャラ、と音を立てた。
「しっ、動かないで。鎖を外すだけです。何もしません」
その声は、思っていたものよりずっと高かった。
驚いてその場で固まっていると、人影がしゃがみ込んだ。窓から漏れる月明かりにちょうど顔の部分が入り込み、その正体が露わになる。
「あなたは⋯⋯さっきダコタと一緒にいた⋯⋯」
軍服を身に纏うその女性は苦々しく笑い、ウォルターの手首に手を伸ばした。カシャン、と音がして、手首が重い鉄から解放される。
「あの——」
「まず謝らせてください。この度はダコタの愚行によって、何の罪もないあなたをこんな目に合わせてしまいました。大変申し訳ありませんでした」
そう言って、女性はその小さな頭を地面に擦り付けた。思わぬ深謝に目を見開き、あたふたして口を開く。警戒心など、どこかへ吹っ飛んだも同然だった。
「顔を上げてください⋯⋯! あなたが謝ることじゃ⋯⋯」
声をできるだけ抑えて、女性の頭を上げさせる。女性は土下座の体勢から上体を起こすも、沈んだ表情と視線はそのままだった。
「いいえ。ダコタを止められなかった私にも、責があります」
この人は、外面だけでなく内面までも美しいのか。こんなに真っ直ぐだと、軍にいるだけで辛いことも多いだろうに。
「あなたは一体⋯⋯」
滅多に見ない女性軍人。しかも若い。明らかに二十代前半だろう。女性がラウレアイロ軍に入ったとなれば、それこそ町中でニュースになりそうなものだが。
「この部隊章がどこのものか、ご存知ですか?」
女性は自身の軍服の襟についた徽章を指さした。それは銀糸に縁取られている。確か、各地駐屯軍の徽章は必ず緑だったはずだ。銀は⋯⋯
「憲兵隊?」
「はい。中央憲兵隊より、ラウレアイロ駐屯軍軍隊長ダコタ少佐の応援の命を受けて派遣されました、オリビア・アズウェル中尉と申します」
女性——オリビアは、ビシッと敬礼をしながら言った。と思えば、言い終わったと同時に敬礼をゆるゆると解く。
「というのは名目で、実際は要塞建設の件を先延ばしにするよう任ぜられたのです」
ウォルターは大きく目を見張った。この若さで中尉ということは、士官学校上がりの軍人だろうが、それでも出世ペースが異例なまでに早い。士官学校をこの細い女性が卒業した事実も驚きだというのに。
それに、彼女に命令された任務はそれこそ隣国との戦争に関わる重大なものだ。それを任ぜられるとは、その実力は上司の折り紙つきというわけか。
「よく聞いてください。外にあなたの知り合いを呼んであります。この牢を出たら右へ真っ直ぐ進み、分岐点に出たら左に直進。突き当たりに扉があります。中の階段を上れば外です。監視は払っておきましたのでご心配なく」
「え⋯⋯けど、私が逃げたらあなたが⋯⋯」
「大丈夫です」
オリビアは力強く答えた。彼女の言葉には魔法でもかかっているみたいだ。不思議と安心感があって、本当に大丈夫な気がした。
「それと一つ、約束してください」
オリビアが右の人差し指を立てた。
「私のことはご内密にしていただきたいのです」
「理由を聞いても?」
「私が動きにくくなってしまうからです。非常に不愉快に思うでしょうが、ダコタの動きを止めるには住民サイドを動かして、間接的にダコタに都合が悪くなるよう仕掛ける他ありません。つまり、私が住民を利用したい、ということです。もちろん、危険が及ぶような真似は絶対にさせないと誓います」
「言えば住民側も協力すると思いますが」
オリビアは微笑みながらも、静かに首を振った。
「住民の動きが急に変われば勘づかれるかもしれません。ダコタはもちろんですが、軍の中にも要塞建設支持派がいるでしょう。私も派遣されたばかりなので、まだ敵味方——と言うといけませんね。賛成反対派の把握がついていないのです。それに、住民たちにも、少なからず軍を良く思っていない方たちがいると思いますから」
オリビアは、誰よりも住民のことを第一に考えている。気を遣ったのか、『住民を利用する』と言い方を悪くはしていたが、単に民間人に負担をかけないようにしているのだろう。住民はただいつも通り普通に生活していれば、あとはこの女性が解決してくれる⋯⋯と。
——町長である自分さえ何もできない。『何もしない』が今一番の得策とは、何たる皮肉か。情けない。
ウォルターの奥歯が、ギリ、と小さく鳴った。
「了解、しました。けど、手伝えることがあるなら何でも言いに来てください。必ず力になりますから」
「ありがとうございます。さ、時間もありませんから、もう行ってください。立てますか?」
「はい。あなたはちゃんと、加減して打ってくれましたからね」
オリビアの手を借りてウォルターは立ち上がる。さっきまで動く気力が全くなかったのが、嘘のように感じる。
「気づいていたのですか」
オリビアが目を見開いた。本気で言っているのだろうか。
「当たり前ですよ。——あなたは本当に良い人だ。最後に礼を言わせてください。ありがとう」
「いえ、あなたがこんな目に合う必要性は最初から全くなかったわけですから、礼を言われるようなこと⋯⋯」
「いいえ。あなたに会えたことに対して礼を言っているのですよ。あなたのおかげで、希望が見えたというか、頑張ろうって思えましたから」
オリビアは頬を僅かに紅潮させて、照れ臭そうにモジモジとした。純粋な人だな、と思わず笑みを零してしまう。
「それじゃあ、行きますね」
「はい。いずれまたどこかで」
ウォルターはオリビアに手を振り、夜の地下牢の廊下を駆け出した。
***
「みーぃちゃった、みーちゃった」
「まるで私が悪いことしたみたいな言い方やめてくれる? ニール准尉」
ニヤニヤしながらオリビアに近づくと、オリビアは大して驚きもせず、睨みを利かせながら後ろを振り返った。あの様子だと、ニールが隠れて様子を伺っていたことは、最初から気づいていたのだろう。
「あの人は何の罪も犯していない一般市民よ。拘束を受ける謂れはないと判断したのだけど」
オリビアは少しも躊躇いなく、真っ直ぐな瞳でニールと対峙した。
「分かってますよ。流石に、今回は俺もやばいと思いましたからね。中尉が拷問役引き受けてなかったら、あの人今日だけで後遺症残すくらい酷い目にあってましたよ。言ってくれりゃ、話だって合わせますよ」
そう言うと、オリビアが意外そうな顔をした。
「あら、随分優しいこと」
「俺、美人の味方なんで」
ニヤリと笑って一歩踏み出し、オリビアに顔を寄せる。
——肌がきめ細けぇ⋯⋯睫毛なが⋯⋯。
自分の部下がそんなことを考えているとは露ほども思っていないのだろうオリビアは、戸惑いもせず呆れた顔をした。
「まるでダコタ少佐に忠誠がないような言い草ね」
「あの人にその価値があると思います?」
「それは同感だけど、そのチャラチャラした態度を何とかしなさいよ、って言ってるの。いつかボロが出るわよ」
「はーい」
受け流すように適当に返事をすると、オリビアが溜め息を吐きながらニールから一歩離れる。
「ほんとに知らないからね。ダコタ少佐、最近随分気が立ってるみたいだし。今日の件だってそう。⋯⋯一体何だってのよ、更年期かっての」
「めっちゃブーメランですよ中尉。落ち着いて」
オリビアが顔を不快そうに歪めて吐き捨てた言葉に、あー、こりゃ相当苛立ってるなぁ、と苦笑いが出た。
最近、時々こうしてオリビアが、普段見せないような顔を見せてくれるときがある。その実、意外と子供っぽいところがあったり、意地っ張りだったり。何があっても余裕な顔でさらりと対処しそうなイメージがあったために、それを知った頃は驚愕したものだった。
けれど、他の部下には見せない一面を自分が見られるようになったことが、オリビアとの距離が近づいた証拠みたいで、少し嬉しい——なんて、いい歳して男子学生のようなことを思ってしまう、馬鹿な自分がいる。
「なんか、要塞建設の話が上手く進んでないらしいですよ。俺も聞いた話なんですけどね」
「そうなの? あの人一体何やらかしたのかしらね」
「もうダコタが原因の体なんすね」
なんだかんだ言って、オリビアもダコタを相当嫌っているらしい。苦笑いが漏れる。
「残念ながら、ダコタが原因じゃないです」
「じゃあなんで?」
「要塞建設の費用援助の話を打ち切られたんですって。何でも、その貴族の息子がギャンブルで大損こいたとか。笑っちゃいますよね」
「⋯⋯⋯⋯ん?」
オリビアがなぜか眉根を寄せ、こめかみを押さえた。
「どうかしました?」
「あいや⋯⋯何でもない」
明らかに何でもないわけがない苦笑いを浮かべている。揶揄いの意味も含めて追求したくなるが——それよりも、ニールには聞きたい本命があった。
「けど、オリビア中尉にとっては好都合なんじゃないですか?」
試すように聞くと、オリビアはすぐさまニヒルな笑みを浮かべて、「何が?」と答えた。とは言いつつも、オリビアの顔に疑問は浮かんでおらず、その綺麗な微笑みが『恍け』を語っている。
「もう白状してくださいよ。ダコタの応援で来た、なんて嘘ですよね?」
「その根拠は?」
「こないだの武器密輸の件、中尉の仕業以外何が考えられるんですか」
三日前、ラウレアイロへ輸送された荷馬車の中に、未申告の銃器が数丁紛れ込んでいた。法律により民間人の武器の所持は規制されているため、武器を輸送する際は正式な手続きをし、国からの許可を得なければならない。問題となった荷馬車には大量の食材が積まれていたが、それらの荷物を全て降ろし荷台を確認したところ、床下から銃器が発見されたということだった。
検問の時点で発覚したため犯人の特定は困難となり、御者は『馬車に武器があるなんて知らなかった』と主張。『見せしめにしろ』と息巻いていたダコタだが、『証拠がない以上、叛逆の罪には問えません』とオリビアは軽くあしらって、荷馬車を送り返すだけに留めた。
そもそも、平時ならば荷馬車自体を詳しく調べるなんてこと、するはずがないのだ。それが、あの時たまたま荷台を調べたら、銃器が発見された、と。加えて言うならば、その時関所の勤務を担当していたのはダンテ軍曹が隊長を務める分隊だったことか。
「私は別に、関所の管理を担当してる分隊の隊長に、荷馬車をよーく調べるように助言しただけよ。それだけで、私をまるでスパイのように推察するのは、些か無理があるんじゃない?」
そう、オリビアは助言しただけ。
オリビアは分かっていたのだ。ラウレアイロへ武器の密輸があることを。
関所の管理を担当している分隊の隊長といえばあの三名。ジル軍曹、ダンテ軍曹、カイ伍長。つまり、ニールが初めに情報を渡した時点で少なくとも見当はついていたわけだ。情報収集をしに直接話を聞いたはずのニールでも、武器流入の話には全く辿り着かない。きっと彼女は、ごく僅かな情報から、恐ろしい数の思考を巡らせている。
オリビアは、プライベートでの嘘は苦手なくせして、肝心な部分はボロを出さない。先程の調子で流されてくれるかと思ったが、そう簡単にはいかないらしい。
本当に——
「おっそろし⋯⋯」
全てを分かった上で、オリビアは表面上、『助言する』という行為一つを行なったのみ。ダコタに睨まれる可能性は限りなく低い。
犯人という名の犠牲者を出すより先に問題を発見し、大事への芽を刈り、容疑にかけられた人物には最小限の罰を科す。
ここまでくれば、オリビアの目的は明瞭だ。十中八九、ダコタの応援で派遣されたというのはただの口実。明らかにダコタの邪魔をして要塞建設を阻止しようとしている。
「小さな事件を見逃さず、大きな問題に発展させない。ラウレアイロ軍の評判も上がるだろうし、良いこと尽くしじゃない?」
——そんなニマニマした顔で、ホントよく言うよ。
オリビアは最後まで知らぬ存ぜぬ態度を貫き通し、クルリと半回転してニールに背を向け、廊下を歩き出す。
しかしなぜだろうか。オリビアが何を企んでいるのか全く分からないのに、全てを託したくなってしまう。彼女の好きなようにやらせれば、きっと何かが起こる。そしてそれは、恐らく悪い方には傾かない。
——いつもなら、他人の掌で踊らされるのは気に食わねぇと思うはずなのに⋯⋯あの人の手の上でなら、自ら踊ってやってもいい、と思ってしまう。
————けど。
「俺を直接頼ってくれる日は来るんでしょうか、ね」
分かっている。オリビアは慎重になっているだけだと。そりゃあ、密命を受けてきたとなれば、簡単に味方と信じ込んで大っぴらに『自分は要塞建設を阻止するために来ました』なんて言えるはずもない。自分で解決できるものは自分の力だけで解決するだろう。それがなんだか⋯⋯堪らなくもどかしい。
——俺はもうあんたの側につく気満々でいるのに⋯⋯って、口で言っても伝わらないんだろうな。
微かな期待と、看過するには大きすぎる焦燥を胸に潜め、ニールはオリビアの背を追った。
***
〈十一月九日 午後三時〉
「ちっくしょう! またやられた!」
まだ開店していない『セレナーデ』の店内で、ルイスの幼馴染であるランダン・ハーマンドが、テーブルに拳を打ち付けて叫んだ。
開店前の店内には、セス、ルイス、ランダン、そして、仲間のうちの二人が武器の受け渡しに失敗し、軍に連行された、とたった今報告に来た、仲間のアルダ・ボイトラー、バイロン・フェルアの五人が集まっていた。
「それで、オドアとマクレは無事なのかよ?」
「ああ。容疑者として連れてかれたけど、証拠不十分で今日中には釈放されるだろうって」
「そうか。良かった⋯⋯」
アルダの言葉に、ランダンは安心したように息を吐いた。
ルイスたちは、要塞建設の話が持ち上がった時点で、近隣住民の知り合いたちと小さな集団を結成していた。万が一のことがあった場合、最終手段として機能する役割を持つ。その万が一に備えて、軍に抵抗できるよう、手始めに小火器から集め始めたのだが、ここ数ヶ月は全くと言っていいほど武器の密輸は成功していない。
「最近になって、どうしてこうも上手くいかないんでしょうね? ちょっと前までは普通に上手くいってたのに」
チーム内で最年少のバイロンが言いながら、店のカウンターの方にチラと目を向けた。以前に手に入れた銃器は、カウンターの裏側の床下に収納している。
「ああ、噂なんだけどよ、なんでも憲兵が派遣されてきたらしいぜ」
「憲兵? こんな辺境に?」
「いやいやルイス、辺境とはいえ、あのクソ野郎が軍の隊長やってる町だぜ? いつ憲兵が派遣されてきても可笑しくなかったろ」
「ランダン、それ本人の耳に入ったらとんでもなく厄介なことになるんだから気をつけてよ。つい最近、町長がやられたばかりだろ」
三ヶ月ほど前、ラウレアイロの町長が誘拐同然で軍に連行され、尋問を受けた。幸い、その日中に助け出すことができたものの、衣服は所々破け、身体中に鞭で叩かれた痕ができていた。現在は自宅療養中だ。
「へいへい。⋯⋯それにしても、誰だったんだろうな、あれ」
ランダンの言葉に一同で顔を見合わせるも、やはり答えは出なかった。
町長が連行された直後、町長の息子が半泣きで助けを求めに店にやって来た。しかし助け出す良い案が全く浮かばず途方に暮れていた時、今度は町長の妻が大慌てでこの店にやって来た。その時手に持っていたのは、掌サイズの石と、グシャグシャになった紙。聞くと、家に突然、その紙で覆われた石が窓ガラスを破って投げ入れられたそうだ。その紙は手紙となっており、軍の基地裏への呼び出しの旨が書かれていた。武器を懐にしまって充分に警戒しながら、指定された時刻にルイス、ランダン、町長の息子・妻で行ってみると、何の弊害もなしに、唐突に町長が基地から転び出て来たのだった。
「案外、その憲兵の人が悪い人じゃなかったりするんじゃない?」
皆が一様に難しい顔をして考え込んでいる中、セスがのんびりと言った。
「冗談よせって、セスさん。このタイミングで憲兵が派遣されたって、どう考えてもダコタの援助目的だろ。武器の件が上手くいってないのも、多分そいつのせいだって」
確かに、ランダンの言っていることは間違っていない。本当に憲兵が派遣されたのなら、武器の入手が唐突に困難になったのは恐らくその者の影響だろう。
——けど、じゃあなんで検問だとか取引直前だとかに発見するんだ? 武器の密輸があると分かっているのなら、取引現場を直接押さえて現行犯で捕まえればいい。そんな小さな事件でも、地方新聞の表紙一面を飾るくらいの大事にするのなんて、軍の専売特許だろうに。
これまでは銃器の入手が容易かったため、様子を見ながら次々と取引を行っていた。だからどうしても、すぐには武器の流入を中止できなかった。しかし後悔しても今更どうしようもないということで、とりあえずは取引済みの武器だけでも予定通り受け取ることに決定したが、そのどれもが軍に発見された。けれど同時に、そのどれもが犯人特定の前に起こる。
——憲兵はダコタの応援目的ではなく、本来の仕事である軍の規律維持で来たのか、それとも他に何か目論見があるのか、そもそも憲兵の話自体が真実ではないのか、それともセスの話が本当に⋯⋯
「あー、わっかんないなー」
考え出すとキリがない仮説を中断すべく、頭を片手で軽く掻いた。
「ルイスでも分からないことってあるんだな」
ランダンが唐突に、意外そうな顔をして言った。何言ってんだか。
「俺だって人間なんだから、当たり前だろ」
「いや、そりゃそうだけどよ。お前、昔から超人過ぎて、人間だってこと忘れそうになんだよ」
「何それ」
「だってそうだろ? 涼しい顔して全科目ぶっちぎりの一位取って、軍学校を首席合格するの、お前くらいだって」
「え、何ですかそれ? ルイスさん、軍学校卒ってのは知ってましたけど、首席だなんて⋯⋯」
「マジだぜ。何なら、歴代の首席の記録全部塗り替えたくらいだからな」
「すげぇ⋯⋯!」
バイロンの顔が尊敬の念に包まれ輝き出す。若さゆえか、まるで御伽噺の勇者に憧れる、純真無垢な少年のような顔だ。
「そんなに持ち上げないでよ。今はめっきり訓練なんかやってないんだから、身体も鈍ってるって」
ルイスはチーム内で唯一の軍学校卒業者だが、卒業生の殆どが軍の道へと進む中、ルイスはただ一人軍への所属を辞退した。理由は至ってシンプル。興味がなかったからだ。
「そんな生意気な身体つきしてるくせに、よく言う。頼りにしてるぜ? たいちょーさんよ」
「できることはやるけど、このチームは烏合の集団に過ぎないんだから、あんまり宛てにされても困るよ」
「でも、ルイスさんがいれば一騎当千じゃないですか!」
バイロンは相変わらず、キラキラした瞳でルイスを見る。アルダも心做しか、期待したような目でルイスを見つめていた。
「ほらランダン、お前が無駄に煽てるからだぞ」
「ひっでぇ。事実を単に述べただけじゃねぇか」
「俺が多少戦えても、一人でできることなんかたかが知れてる。数でこられたらどうしようもないって——」
ルイスの非難を遮るように、ドアベルがカラカラと木の音を立てた。
「ごめん、遅れたー」
入って来たのは、町長の息子であるエイク・マシューズだった。ウォルターが尋問にあってから、最近では町長の代理で仕事を幾らか引き受けているらしい。
「いらっしゃいエイクくん。ウォルターさんの調子はどう?」
セスは聞きながら、流れるような動作でエイクに水を出した。
「今のところは絶好調ですよ。薄い痕の方は全部消えましたし、傷になってたところも完全に塞がって、ちょっと痕があるくらいです。業務にも殆ど支障ありません」
エイクは晴れやかな笑顔で言った。
ルイスには気になることがもう一つあった。ウォルターの身体には、主に二種類の痕があったのだ。赤くなっているだけの薄い痕と、真っ赤にミミズ腫れになった深い傷。同じ人間がやったにしては、二極化されすぎていた。
「あ、めっちゃ良いニュースがあるんだけど、聞きたい?」
エイクがニヤっとしてルイスたちを振り返った。ランダンが怪訝な顔をして口を開く。
「何だ? 期待させといて、大して良いニュースじゃなかったらぶっ飛ばすかんな?」
「うひゃー怖い。けど安心して。本当に笑える良い話だから。ジャーン! こちら、新聞編集に勤めている友達から貰ってきました、明日の朝刊です」
バサリ、と音を立てて、新聞がエイクの手の中から広がる。表紙を大きく飾っている見出しには——
「なになに? 『ラウレアイロ軍隊長ダコタの不倫騒動』⋯⋯? ⋯⋯グフッ」
ランダンが腹を抱えて大笑いし始めたのは、言うまでもない。
「ヒーッ! こ、これ、あの野郎、一体何やらかしたんだよ⋯⋯ッハハ!」
「なんかね、どういうわけだか、不倫相手への手紙が間違って奥さんの元に届いちゃったらしいよ。それで激怒した奥さんが、『あんたの社会的立場を地に沈めてやるー!』って叫びながら新聞社に乗り込んできたそうな」
「傑作、だなッ⋯⋯ック」
ランダンの笑いがなかなか収まらない中、ルイスは一人思う。
——武器密輸の件と言い、町長の件と言い⋯⋯何か軍に変化が起きたのはほぼ間違いない。それが憲兵の存在だとするならば合点がいく。まさか、このダコタの不倫騒動も⋯⋯いや、考えすぎか。
「あと父さんから伝言。『町の権利書は何があっても渡さないから、安心しろ!』って。今日も腕を振り上げて熱弁してたよ」
エイクは疲れたような顔で苦笑した。
「また? 町長、そんな熱血キャラだったか?」
アルダも釣られるように苦笑いしていた。
「ほんとだよ。軍に連れてかれてから父さん、これまでと熱の入りようが桁違いなんだよね。まるで別人みたい」
「悪いことではないし、いいんじゃないですか?」
「まぁね。けどほんとに怖いくらいだよ。父さん、いたぶられて喜ぶような嗜好でもあったのかな? どうしよう、変な扉開いてたら」
一見ふざけた話に聞こえるが、本人の声音や顔の青ざめようが本気で心配している様を語っている。
「その点はまぁ、俺たちは何も言えないけど。ところで、手紙の件に関しては何か聞いた?」
「ううん。やっぱり何も答えてくれないんだよね。『心当たりはあるんだろ?』って聞くと、いつも絶対『うん』って言うのに」
マシューズ宅に投げ入れられた手紙に関してウォルターに質問すると、何かしら知っている反応を見せるらしいのだが、詳しくは何も教えてくれないのだそうだ。
「うーん、町長がなんか情報持ってそうな気がするんだけどね。口を割らないならしょうがない。悪い人じゃないし、本当に必要になれば教えてくれるよ。とりあえず今後のことだけど、武器の入手作戦は一旦中止。とにかく余計な問題は起こさないように注意して。ひとまずは軍の情報収集かな。その噂の憲兵のことも、真実かどうかだけでも知りたいし」
色々と気になる点は残るが、情報が少ない以上、やはりできることはあまり多くない。特に大きな問題がないだけ幸甚だと思おう。
「ん、りょーかい。んじゃ、ぼちぼち解散すっかー」
ランダンが話を切り上げ、今日の集まりはお開きとなった。
皆が店を出ていき、最後にランダンがドアノブに手をかけた時、はたとルイスを振り返った。
「そうだルイス。明日ちょっと付き合えよ」
「明日? どこに?」
「あそこの公園近くのパン屋、新作出すんだってよ。しかもルイス連れてくっつったら、まけてくれるってさ。やー、持つべきものはモテるマブダチだな!」
何の悪びれもなしに言ったランダン。勝手に人の予定を決めてくるあたり、彼は昔から変わっていない。それは一重に、今までルイスが積極的に遊びに出かけたりしなかったからなのだが。
「あ、ごめん。明日は用事があるから」
「はあ?! おいおいマジかよ〜。奥さんカンカンになっちまうぜ」
あんまりだと言わんばかりの顔をするが、勝手に決めたのは向こうだ。こちらに非は一切ない。
「知らないよ。ランダンが勝手に言ったんだろ」
「最近お前、付き合い悪くなったよな。俺と出かけんのが嫌だってぇのか、ああん?」
「違うよ。ほんとに先約があるんだって」
「は、もしや女か? ついにお前も恋しちゃったか? この歳になってようやく初恋か? お熱いねぇ、青春だねぇ」
ランダンは、ルイスが学生の頃から数多の女性と交際しているのを知っているが、同時に、その全てにルイスの恋心は伴っていないことも知っていた。
ランダンはルイスの元へどんどん近寄り、わざとらしくニヤニヤしながらルイスを小突き回す。が、間違っていないのが事実だ。
——早く、あの人に会いたい。
来る明日を待ち侘びる思いでいると、目の前にいたランダンの顔が揶揄の色を沈め、代わりに驚愕に塗り変わった。かと思えば、上半身を反らし、カウンターの方にいるセスに顔を寄せ、わざとらしく口元を手で覆い隠す素振りをする。
「セスさんセスさん、とうとうルイスくんにも春が来たのかしら?」
気持ち悪いとさえ感じる裏声。
「ええ奥さん。今回は本当に本当の春らしいですわよ」
セスまでも楽しそうに、奥さん口調で話し出す。
「けど、初恋の九十九パーセントは叶わないと言いますし⋯⋯」
「あら、最後までわかりませんよ? その一パーセントをうちのコが掴み取らないとも限りませんからね」
「じゃあ、アタシたちは陰ながら応援するとしましょう」
「ええそうしましょう」
「⋯⋯茶番はもういい?」
ルイスは気恥ずかしくなりながら、布巾を手に取ってテーブルを拭き始めた。
***
〈同日 午後二十三時頃〉
「——いじょー。今日はこんくらいです」
「ん。どうもありがとう」
「いえいえ」
オリビアの内通者——なんて仰々しいものではなく、ただ酒場での駄弁りを伝えるだけ。そんな、微妙で奇妙な関係を築いてから、約三ヶ月が経った。
オリビアの自室で、ニールは日課になりつつある報告を行っていた。
「なんか役に立てる情報はありましたか?」
「んー? んー」
——またはぐらかされた。
オリビアは一向に、ニールへは何も教えてくれない。オリビアの指示を大人しく聞いておけば、いつか信頼して、ちょっとくらい教えてくれると思っていた。けれど、その道のりは思っていたよりずっと遠いらしい。
内心でごねる自分はまるで分別のつかない子供のようで嫌気が差すが、三ヶ月だ。たった三ヶ月、されど三ヶ月、ほぼ毎日オリビアの情報収集に付き合ってきた。
オリビアは、勝手に納得したような顔をしてみたり、その時は全く意味の分からぬ指示を出してみたりで、こちらの疑問は募っていくばかりだ。それで後になって、『あれはそういうことだったのか』と一人で知るハメになるのがパターン化している。後味が悪すぎる。まるで自分だけが何も知らないみたいで——
「いや、あんただけが全部知ってる、のか」
「ん? なんか言った?」
「いーえ、何でも。それで、今日は他に何かご用はあるんですか?」
「んー⋯⋯いや、今日は特にないわね。ありがと、お疲れ様」
「はーい。んじゃ、失礼しまーす」
特に何も気にしていないフリをして立ち上がる。
本音は一旦押し込めば溜まっていくばかりだ。
ダコタの応援なんて真っ赤な嘘なんですよねとか、何でも協力するから何を考えているのか教えてくださいとか——今度一緒に、飲みにでも行きませんか⋯⋯とか。
押し殺した胸中はどうしようもない焦燥へと変わり、胸に支えて苦しくなる。
その一片でもうっかり零したりしないように、ギュッと口を引き結んでドアノブに手をかけた——その時。
「あ、ニール。まだあったわ、用事」
オリビアがふとニールを呼び止めた。後ろを振り返ると、オリビアが小型冷蔵庫へ手を伸ばしているところだった。扉を開け、中から何やら大きめの瓶と、二つ重なったグラスを取り出す。
「明日丁度、君も休みでしょ? 付き合ってよ」
オリビアが悪戯っぽく言って、瓶とグラスをテーブルに置いた。
「白は嫌い?」
ポカンとするニールに微笑みかける。
——なんでこの人は、無自覚に俺が求めるものを与えてくるんだろう。ああ、質悪ぃ⋯⋯。
「いいえ。酒なら何でも好きです」
得意の上面だけの笑みで本心を覆い隠し、ドアノブから手を離す。
「良かった」
オリビアがワインボトルを開けて二つのグラスに中身を注いでいる間に、今や定位置となりつつあるオリビアのベッドに座り直した。オリビアから差し出されたグラスを礼を言って受け取り、オリビアのと軽くぶつけ合わせる。チン、と涼やかな音が鳴った。
「なんで急に飲もうなんて?」
ワインに口をつけるオリビアを眺めながら訪ねた。
「労いよ。君には頑張ってもらってるし、一応だけど上司として、酒の一杯くらい、ね。たまたま休みも被ったし、丁度いいかなって」
「有り難く頂きまっす」
手の中のグラスを口元へ傾ける。
「あ、美味い」
「でしょ? この間ちょっとした臨時収入があったから奮発したの。分刻みでぎっちりスケジュール入ってる毎日な上に、あの利己主義上司をほぼ毎日見る日々を送ってるんだもの。美味い酒でも飲まないとやってられないわ」
「ですね〜」
ダコタ少佐という食わせ者の上司の一番近くで毎日働いているオリビアは、大した度胸と頭脳を持ち合わせているのだろうとは思っていた。それは間違いではなかったのだが、やはりストレスは溜まるらしい。正直、一番労われるべきなのは彼女だと思う。
「君に情報収集を頼んで三ヶ月、か。毎日毎日よくやってくれたわよね、ほんと。感謝してるわ」
「オリビアさんの綺麗な顔拝めるから、役得でしたよ〜。寧ろずっと続けてたいくらい」
言うと、オリビアは呆れた顔をして、はぁ、と大きな溜め息を吐いた。
「君は相変わらずね。ま、その飄々とした性格が情報収集に向いてると思ったから、君に指示したのだけど」
オリビアは徐にグラスをその口に傾けた。
「ニールはさ、羨ましいくらい世渡り上手よね」
「⋯⋯え?」
脈絡のない急な嘉賞に、思わずワインを口に流し込む手が止まる。オリビアが微笑みながら、こちらを見ていた。
「相手の愚痴には嫌な顔一つせず素直に頷き、相手の働きを認める。初対面で一見距離が近いように見えるけど、それは外面的な話。内面では他人が踏み入ってほしくない領域をきちんと見極めて、無理に踏み込まずに聞き役に徹してる。おまけに、話の引き際も弁えてるときた。こうなると相手は、『この人なら自分を分かってくれる』と無意識に認知し、君を優遇し始める。——これを自然な流れでできるから君はすごい。多分、もう特に意識しなくても体感的に身についているんでしょう」
「は、はぁ⋯⋯」
褒められたことに対して嬉しくないわけではないが、話の意図が読めず、戸惑いの方が優っている。
「大した才能よ。正直者が馬鹿を見る、なんて言われてる現実世界でも、その潜在能力があれば大分生きやすくなる。——でもね、ニール」
その顔に、す、と真剣な表情を落とした。
「もったいない、というのが正直なところよ。この間、少し訓練現場を拝見させてもらったけど、銃の腕も悪くなかった。けど、君は必要な分だけ最低限こなして終わった。言われたことをただ淡々とやるだけ。せっかく器用なのに、生かさないともったいないわ。⋯⋯ま——」
不意に、ニヤリ、と挑戦的に微笑んだ。
「それは君を指導してた教官が、センスのない訓練やってたんでしょ。明後日から私も訓練の方に回るから、君のも見てあげる。本気で取り組まざるを得ないようなきっついやつ、覚悟しといた方が良いわよ」
「え⋯⋯?」
正直、喜び半分、恐怖半分⋯⋯いや、三対七くらいかもしれない。
「けど、オリビアさん、ダコタの補佐は⋯⋯」
「ああ。多分あいつ、明日から仕事どころじゃないから」
「え、それはどういう⋯⋯」
オリビアがニンマリと、その口角を深めた。それはもう、恐ろしいくらいに。
「今頃奥さんのご機嫌取りに苦心してるでしょうね。奥さんには悪いけど、あんな男、とっととフった方が幸せよね」
「何しちゃったんですか⋯⋯」
苦笑いしながら呟くと、ふと、オリビアが顎に右手を添え、考え込むような素振りを見せた。
「⋯⋯ニール」
暫ししてから、はたと名前を呼ばれた。宝石のような青い瞳が、真っ直ぐにニールを見つめる。
「君がダコタ側だったらっていう想定をしてたから明言はしてなかったけど、ダコタが私を疑うような素振りはない。告げ口するつもりなら、もうとっくにしてるでしょう。だから⋯⋯君に対しては信頼してる。——言ってたわね、ニール。本当にダコタの応援として派遣されてきたのか、って」
急に自分の胸のわだかまりを突かれて、心臓がドクドクと波打ち始める。
「君の予想通り、私は中央憲兵隊隊長、タイラー・ブルーム中佐から、要塞建設を先延ばしにしろと命令を受けてきた。住民側に被害を出すな、ともね」
ニールの予想していた通りだったが、改めて聞くと、それを無闇に他人に知らせるのはかなりの危険を伴う。それを——俺に言った、ということは。
「これからは、私が動くときも君に詳しく伝えようと思う。ただ、君の仕事の負担も増えるから、これはニールが選んで。情報収集役のままか、それとも——」
「手伝います」
——聞くまでも、ないじゃないか。
「さらにオリビアさんの役に立てるなら、何でも」
柄にもなく、真面目に答えてしまった。急に気恥ずかしくなって、ワインを口に流し込む。
「ふふ。ありがとう、ニール」
——何なんだよ。今まで焦らしに焦らして、急に欲しいもん全部寄越してきやがって。そんでそんな可愛い笑顔して。
まるで中毒性の高い薬物だ。夢中にならないわけがない。
「まぁ、まずは明後日の訓練からね。これから君に動いてもらう以上、もっと使える人材になってもらわないと。見てなさい、本気で訓練して後悔はしない⋯⋯いや、私がさせないわ」
——その挑戦的な笑みに、いつか余裕の笑みを返せるくらいまでは⋯⋯本気で取り組んでみてもいいかもしれない。あなたを本気で追って、少しでも隣に並べるようになったら、告白してみようか。
「はぁ〜あ。これから大変そうだ」
いつもの緩い調子で言って、手の中のワインを呷った。
***
〈十一月十日 午前十時五分〉
約束の時間になってから五分。今まで遅れてきたことはなかったために、何かあったのだろうかと心配になる。いつも待ち人が来る方向を眺めていると、ふと、長い長い金髪を振り乱しながら、駆けてくる人の姿があった。
「ごめん、遅れた!」
その人は額に汗をかきながら、両手のひらを顔の正面で合わせ、謝罪の意を示した。
「いえ、遅れたと言っても五分ですし、顔上げてください。オリビアさん」
彼女がギュッと瞑った瞼を開くと、今の季節の空よりも深い、澄み切った青が姿を現した。
「ほんとごめん。あの、昨夜ちょっと、夜更かししながらお酒飲んで⋯⋯寝坊しました」
バツが悪そうに目を逸らした。
「オリビアさんに何事もなくて良かったです」
正直、オリビアがちゃんと約束を覚えていてくれて、自分のために急いで来てくれたという事実だけで嬉しかった。
「ほんと、今度何かお詫びするわね」
「え、いいですよ、そんなの。俺もいつかやらかさないとも限りませんし、お互い様です。そのときは、笑って許してくださいね」
「ええ、それはもちろん」
——気づいてないんだろうなぁ。これからも一緒に出かけてくれるっていう確約をしちゃってること。
ルイスはクスッと小さく笑った。
オリビアと出会ってから約三ヶ月。告白は断られた。
しかしオリビアは、恋人がいるわけでも、他に好きな男がいるわけでもないと言う。
一度の告白だけでは、オリビアへの感情に終止符を打てず、未だにみっともなく抗い続けているのが現状だ。出かける度にオリビアの休日を聞き出し、また幾度も一緒にデートし、その度に告白している。
一向に断られ続けているが、待ち合わせには必ず来てくれる。当初は、休日を聞いてもなかなか教えてくれなかったり、待ち合わせの約束をしようとすると、『もう行かない』と突っぱねたりすることも多かったが、眉尻を下げて縋れば簡単に流されてくれることを知った。
そんな押しに弱いところや、強がりなところ、そして、時折見せる美しさ。彼女の全てにのめり込んだ。恋心は冷めていくどころか膨れ上がっていくばかりで、気づけば一日中、心はオリビアを求めている。
「今日は髪、結んでないんですね」
陽の光に照らされて輝く金色の髪が、今日は纏まっていなかった。こうして髪を下ろしていると、大分印象が変わる。
「結んでる時間がなくてね。邪魔だし結ぶわ」
オリビアはいつものウエストポーチから小さなブラシと髪ゴムを取り出し、髪を梳かし始めた。少々傷んでいるためか、頻繁にブラシがクッと止まり、その度にオリビアが僅かに顔を顰める。何だか大人しく見ていられなくて、手に持っていた荷物を、近くにあったベンチに置いた。
「貸してください」
「え?」
オリビアの手から優しくブラシを取り上げる。
「前向いててください」
「いや、自分でやるわよ?」
「いいからいいから」
有無を言わせず、オリビアの長い髪を少し手に取って、丁寧に梳かしていく。オリビアは諦めて、大人しく前を向いてくれた。
絡んでいる部分は、その部分だけ手に持って、オリビアの頭皮を引っ張らないように注意しながら梳かす。やがてブラシに引っかかる部分がなくなり、髪の毛の方向も全体的に均一になってきた頃。
「ゴム、貸してもらえますか?」
「いや、だから自分でやるって」
「俺にやらせてくれませんか?」
懇願するように、後ろを振り返ったオリビアを見つめる。すると、オリビアは僅かに頬を赤く染め、ヘアゴムのかかった自分の手首をチラと一瞥した。
「まぁ、減るものでもないから別にいいのだけど」
ヘアゴムを手首から外し、ルイスに差し出した。
「ありがとうございます」
礼を言って受け取ると、オリビアはさっさと前を向いてしまった。
そのままオリビアの髪を掻き上げ、ブラシで整えていく。
「あの、さ⋯⋯」
不意に、オリビアが気まずそうな声を出した。
「はい?」
「⋯⋯変なところとか、ない?」
躊躇いがちに尋ねてきた。質問の意図が分かりかねて、首を傾げる。
「髪にですか? いいえ、特に変わったところはないですけど⋯⋯」
「そう?」
オリビアは不安げに息を吐いた。
他人に髪を触られるのがあまり好きではないのかもしれない。ルイスは少し急いで、オリビアの髪をいつもの位置で縛る。
「はい、できました」
髪から手を離すと、オリビアはペタペタと自分の髪の毛を触りだす。
「おお、綺麗。この髪型って、下の方で縛るよりも、形が崩れやすくて意外と難しいのに。器用なのね」
「いえ、それほどでも」
確かに、自分が人より器用な自覚はある。けれど、それを誇らしく思ったことはなかった。寧ろ——こんな才能、なければ良かったのに、とすら思ったことがある。
——けど、オリビアに褒められるなら、それも悪くなかったかも、なんて。
「そうだ、今日は良い天気なので、俺お昼持ってきたんです」
ベンチに置いたバスケットを手に取る。
「今日は外でお昼にしましょう。俺、良い景色が見れる場所知ってるんです」
「へぇ。楽しみにしてる」
「はい」
オリビアと共に町を歩き出す。
今までに、色々な場所をオリビアに案内した。けれど、オリビアが一緒にいると、代わり映えのしない見慣れた町のはずなのに、どこもかしこも輝いて見えて、未知の世界のように感じるのだ。
***
「ここです」
「わ、ほんとだ。綺麗⋯⋯」
ルイスに案内された町はずれの小高い丘には、誰もいなかった。
「子供の頃に見つけた穴場なんです。町全体が見渡せて、空も広く感じるので、いつも小さな町で暮らしてる俺には物珍しく見えて」
「ええ。小さな町と言えど、こうして見渡すと大分大きく感じるわね。あ、ほら見て。あそこ、『セレナーデ』じゃない?」
見覚えのある屋根をいくつも見かける。指差してルイスの方へ視線をやると、こちらの顔をじっと見つめて微笑んでいた。
——そんな、あからさまに甘い顔、されると。
頬が熱くなりかける。見られたくなくて、町の景色を見渡すフリをしてルイスから顔を背ける。すると、町の一端に、異様に広い土地を占めている建物が見えた。
「あれが、駐屯地⋯⋯」
息の音だけで呟いた。
オリビアが住まう場所であり、生計を立てている場所。出張中で平時とは違う土地と言えど、似たような所だ。同じように生活している仲間は他にもいて、オリビアだけではないのに——物凄く、ショックだった。まるで自分が、異質だと言われているみたいで。
——やはり、この綺麗な町に、要塞など似合わない。
——あの駐屯地も、解体できたなら⋯⋯
「オリビアさん?」
耳慣れた青年の声がはたと耳に入って、ハッと我に返る。後ろを振り返ると、眉尻を下げて心配そうな顔をするルイスの顔があった。
「どうかしましたか? 急に動かなくなるから」
表情や声色から、心底オリビアを心配している様子が伝わってくる。それが——嬉しかった。けれど、やはりルイスには笑っていてほしい。
「ううん、何でもない。それよりさ、お昼にしない? 今日、朝ご飯食べ損なっちゃったから、もうお腹ペコペコなの」
苦笑い気味に言うと、ルイスは「あっ」と呟いて、慌てた顔つきになる。
「そうでした。急いでお昼にしましょう」
ルイスは肩に提げていたレザーバッグからレジャーシートを取り出し、丘の中央に立っている大樹の木陰に広げた。葉は黄色に染まり、草や土の上にも、その色を今も柔らかく広げている。
「どうぞ」
「お邪魔します」
靴を揃えてシートに上がると、ルイスがテキパキと昼食の準備を始めた。食器が並べられ、彼からおしぼりを差し出される。礼を言って受け取り、手を拭いていると、ルイスがバスケットの蓋を開ける。
「バゲットサンドは、卵、生ハム、こっちがサーモンチーズです。これがサラダで、これが卵焼き、ウィンナー。あと、デザートにオレンジも入ってます」
「う、わぁ⋯⋯」
それはまぁ見事だった。レタスやきゅうりの緑、トマトの赤、卵の黄色、パンやウィンナーの茶色、そしてオレンジが見栄え良く並んでいる。ウィンナーに至っては蛸さん型。どれも美味しそうで、見た目から食欲を唆る。
「これ、もしかしなくても君が⋯⋯?」
「はい! 俺の手作りです!」
「うわあぁ、言わないで欲しかったぁ!」
思わず頭を抱えてしまう。本当は分かっていた。というか、普通に考えれば分かることだ。彼は飲食店で毎日のように働いている。店で出せるレベルの料理ができるのは当たり前じゃないか。
「あ、嫌でしたか⋯⋯?」
彼は彼で、とんだ見当違いな思い込みをして肩を落としている。
「違う。全然全く違う」
「えと、じゃあ何が⋯⋯」
「⋯⋯料理」
「へ?」
「料理! こんなにできるのが羨ましいの!」
もう自棄になって叫んでいた。何だか悲しくて。
「えと⋯⋯オリビアさん、料理できないんですか?」
受け取りようによっては煽りにも聞こえるが、彼にそんな気がないのはその表情から読み取れる。黙ってコクリと頷く。
「最初はみんなできないものですよ。練習すればできるようになりますって」
「嘘、絶対嘘! 私の料理見たことないからそんなこと言えるのよ! 学生時代の調理実習、それは悲惨だったんだから!」
思い出したくもない思い出である。
「じゃあオリビアさん、普段は買って食べてるんですか?」
「⋯⋯ええ」
本当は兵舎の食堂で三食提供されるのだが、言えるはずもなく。
「じゃあ、俺と一緒に暮らせば全部解決です」
「っ! よくもまぁ、そんなことを臆面もなく⋯⋯!」
一気に顔へ熱が集まり始めた。
「えへへ」と笑う彼は、最近愛情表現に遠慮がなくなってきている。最初の告白は、ルイスに対して恋愛感情は持っていないと言って断ったのだが、彼氏や好きな男はいないのか聞かれ、正直に答えてしまったのがいけなかった。彼はオリビアを何度も休日に連れ出し、その度に猛烈なアタックを仕掛けてくる。
「もう食べるからね! いただきます!」
話題を逸らすように手を思いっ切り合わせた。
「はい、召し上がれ。あ、そうだ」
ルイスは食器などをしまっていたバスケットから水筒を取り出し、グラスに中身を注いだ。
「自家製のレモネードです。どうぞ」
「あ、ありがとう⋯⋯」
もう至れり尽くせりの状況に、もはや驚きもついていけなくなる。流れのままにグラスを受け取り、その中身を口に含んだ。爽やかなレモンの酸味と蜂蜜の甘みが溶けた液体が、喉の中を滴り落ちる。
「んっ! おいっし⋯⋯」
「飲食店の経営者として、それ以上にない褒め言葉です」
相変わらず、青年はキラキラした笑顔を浮かべていた。
「あ、卵焼きは甘いやつですよ。バゲットサンドのソースには⋯⋯」
ルイスのまめまめしいまでの解説を聞きながら、勧められるままに弁当を二人で平らげた。勿論どれも美味しかった。
***
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
昼食を済ませて後片付けをしていると、オリビアが次第に、こっくりこっくりと船を漕ぎ始めた。
「オリビアさん、眠いですか?」
「あ、ごめん。後片付け⋯⋯」
「もう終わりますから大丈夫ですよ」
言っている間に食器を全て回収し終え、バスケットに収納する。荷物をレジャーシートの端に置いてオリビアを見ると、やはり、瞼が今にも閉じそうになっては、ぱっと開く、を繰り返している。
ルイスは思いつき、オリビアの隣に正座——は流石に痺れるので、足を真っ直ぐ伸ばして座る。
「オリビアさん、ここ、寝てください」
「⋯⋯⋯⋯は?」
ルイスが自分の太腿を指差すと、オリビアは、暫く働かない頭でぼんやりと示された先を見つめていたが、やはり怪訝な顔をした。
「膝枕、ってやつです」
「⋯⋯え、やだ」
「そんなこと言わずに、一回試してみてください! 地面、ゴツゴツしてて寝にくいですし、座った状態だと上手く眠れませんよ?」
「いや、だからって⋯⋯うわぁ!」
オリビアには悪いと思ったが、彼女の頭を引き寄せて、ルイスの膝に乗せた。大して力は入れていなかったが、やはり眠気で力が入っていなかったのか、簡単に倒れ込んだ。そして倒れ込んだら倒れ込んだで、抵抗もほとんどない。
「どうです?」
「⋯⋯正直に言っていい? めっっっちゃ硬い」
「ええ?!」
予想だにしなかった反応に驚愕する。
「君筋肉すごいわね? あっはは、羨ましいくらい」
オリビアはカラカラと笑って、ルイスの腿の筋肉を叩いている。今まで他人に称賛される対象でしかなかった筋肉が、よもやこんなところで仇になるとは。
「けど、枕にするには無理があるかな。これだったら土の方が柔らかい」
「そんなぁ⋯⋯」
良い考えだと思ったが、予想外の事態により、オリビアはさっさと起き上がってしまった。
肩と視線が自然と下がっていく。それを見ていたオリビアが、しょうがないと言わんばかりに、小さく息を吐いて笑った。
「ありがとうルイス。その、ひ、ひざ、枕⋯⋯は、気持ちだけで十分。私は——」
オリビアが、ふとルイスの隣に腰の位置をずらして座る。そのまま——ポン、と小さな頭がルイスの肩にもたれかかった。
「え⋯⋯」
「うん、こっちのがいいや」
——この人は、一体どれだけ人の心を掻き乱したら気が済むんだろう。
まさかオリビアから甘えた様子を見せてくるとは夢にも思わず、ルイスは暴れ出した鼓動を押さえつけるので精一杯だった。
「オリビアさん、あんまり寝てないんですか?」
「んー、寝てるっちゃ寝てるんだけどね。最近ちょっと仕事が忙しくなってきて、四、五時間睡眠を続けちゃっててさ」
「ちゃんと寝ないと駄目ですよ。オリビアさん、それなりに筋肉はついてますけど、それでも細いんですから」
オリビアの趣味の一つが筋トレだと聞いたのは、一体いつだっただろうか。知り合ったばかりの頃、あの重い荷物を涼しい顔して持ち上げられたのはその影響だったのか、と納得もした。
しかし、オリビアの線はやはり細くて、頼りなくさえ感じる。
「そんなすぐ倒れたりするような、ヤワな肉体してないわよ⋯⋯」
オリビアの喋るスピードが段々速度を落とし、やがて小さな寝息が聞こえてきた。目にかかった前髪をそっと横に払うと、無邪気で可愛らしい寝顔が露わになる。
彼女を起こさぬように、そっと首を傾け——ルイスもまた、オリビアの頭にもたれかかるようにして、その頬を寄せた。目を閉じれば、髪越しに彼女の色々なものを感じる。息遣い、体温、匂い、心音⋯⋯その全てが愛しいと感じる、幸せな時間だった。こんな満たされた時が、永遠に続けばいいのにと、舞い落ちる木の葉に囲まれながら、密かに願った。
——しかし、状況が一変したのは、皮肉にも、二人が次に会う約束をした日の前日のことだった。
〈続く〉
〈本作のキャラとか補足説明とか。端的で優しい説明!〉
○ノールキア王国
本作の舞台の国名。
○ロイマーグロール
ノールキア王国首都。
○オリビア・アズウェル
二十四歳女性。中央憲兵隊中尉。身長一六七センチ。金髪ベリーベリーロング・青目。めっちゃ強いし賢い。ポニーテールがチャームポイント。
○タイラー・ブルーム
三十五歳男性。中央憲兵隊隊長(中佐)。黒縁眼鏡。こちらも強い。
○ブランカ・リジェリオ
ノールキア現女王。病に伏せっちゃった人。
○ラウレアイロ
ノールキア王国にある町。小さめ。要塞建設問題で揉めてます。
○ルイス・リクーア
二十二歳男性。ダイニングバー『セレナーデ』店員。身長一八五センチ。桑色髪、翠目。軍学校卒(しかも主席)。筋肉すごい。オリビアが好き。
○セス・リクーア
六十三歳。ルイスのじいじ。『セレナーデ』店長。首都で昔ホストやってた経験あり。だから接客が上手。
○ニール・ワイズ
二十二歳男性。ラウレアイロ駐屯軍准尉。オリビアの情報収集役。チャラい。認めたくないけど、オリビアに恋しちゃった。
○ダコタ・ジズオルド
五十二歳男性。ラウレアイロ駐屯軍隊長(少佐)。クラッシャー上司。
○ガストン、バミヤ
イカサマギャンブルで稼ごうとした、貴族の兄弟。オリビアに勝負を挑まれたのが運の尽き。
○ウォルター・マシューズ
五十三歳男性。ラウレアイロ町長。
○エイク・マシューズ
二十二歳男性。ウォルターの息子。ルイスらとチームを組んでいる。
○ランダン・ハーマンド
二十二歳男性。ルイスの幼馴染で親友。ルイスらとチームを組んでいる。
○アルダ・ボイトラー
二十三歳男性。ルイスらとチームを組んでいる。
○バイロン・フェルア
十九歳男性。ルイスらとチームを組んでいる。
○テマヒヴィナ戦争
『世界史上最悪の殺戮戦争』と呼ばれた十四年前の戦争。テマヒヴィナ共和国対セリウロス帝国。テマヒヴィナは消滅し、セリウロスに吸収された。宣戦布告なしで戦争開始&大量殺戮により、セリウロスに敵対する国が増えた。
○お金
銅貨=百円 銀貨=千円 小金貨=一万円 金貨=十万円 と思っていただければ。つまり銅貨千枚=銀貨百枚=小金貨十枚=金貨一枚。
ちなみに、金貨は大きい価格での取引に使用するためのものであるため、流通はしていない。銀行での両替が必要。基本的には銅貨、銀貨、小金貨で買い物する。
○軍学校
入学は十三歳から。三年制。
○士官学校
入学は十六歳から。四年制。
どうも初めまして。三割引のおはぎです!
こんだけ書いてもまだ前編というね。ちゃんと読んでくださる方が果たしているのだろうかと内心冷や汗ダラダラです(笑)
やー、この作品は編集が多かった! 私、文章書くとどうしても文字数が多めになっちゃって、場面を一つ丸々削除したくらいなんですよ。この量でも。
書いては消して、書いては消してを繰り返し、当初のお話と大分変わってしまいました⋯⋯。あ、でもラストの展開は何とか当初の予定通りに進ませます!
それとちなみになんですが、このお話の登場人物の名前やら架空の地名やらは、全部ネットの色んなサイトさん方にお任せして決定したものです。ランダムで名前を生成してくれるやつとかありました。名前決めはそれら使ったらほんとに楽でした⋯⋯ありがとうネット⋯⋯(笑) というわけで、深い意味は全くありません!
ちゃんと読んでもらえるか正直不安しかないのですが、最後まで読んでくれる方がいらっしゃるなら嬉しすぎて私は咽び泣きます。本気です。
それでは後編でまたお会いしましょう! ありがとうございました!




