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第40球 第五回戦vs東峰大相模高校

 



『いやー、今年も来ましたねー、高校球児の熱い時期が』

『そうですねぇ』

『第一試合目の桐陽学園と森が丘高校の試合、手に汗握る接戦でしたねえ』

『そうですねぇ。取って取られてのシーソーゲームでしたが、春のベスト8の意地を見せた桐陽が勝利をもぎ取りましたね』

『ですねぇ。あの試合だけで今日一日分の体力を使い切ってしまいましたよ』

『はっはっは』

『あっ、申し遅れました。わたし、神奈川県予選第五回戦を実況させて頂く、実況の高野です。よろしくお願いします。そしてこちらの解説者は、元プロ野球選手、東峰大相模高校OBの坂巻さんにお越し頂きました。坂巻さん、どうぞよろしくお願いいたします』

『よろしくお願いしますー』

『さて、本日の第二試合は昨年の神奈川王者、東峰大相模高校対青北高校の試合です。東峰が早速守備練習を行っているようですが、いやいや、練習風景を見るだけでレベルが違いますねぇ』

『ですねぇ、みんな集中していますし、声がよく出ています。流石強豪校です』

『東峰大相模は本日までの三試合、全て五回コールドで勝ち上がってきています。いやはや、やはり東峰は頭一つ飛び抜けていると言っていいでしょう。全国三本に入るスラッガー三年竹中を筆頭に、他のメンバーも打撃力はピカイチ。そしてアンダー15に選ばれた天才我妻翔平、一年生ながらに五番を任されています。守りは固く、二年生エース四宮海斗。未だに一点も与えていません。つけいる隙がどこにも見当たらない盤石の布陣です』

『ですねぇ。僕も東峰監督の森下さんに取材させてもらいましたが、監督本人が歴代最強と言ってましたから。今年は甲子園優勝も狙ってるんじゃないですかね』

『なるほど、まさに王者といった感じでしょうか』




 甲子園予選第五回戦当日。

 雲一つない晴れ渡った青い空。

 正午をこえたあたりから、気温は32度を越え今年一番の猛暑。

 そんな中、青北高校の選手達は平土球場に集まり、第一試合が終わった後サード側ベンチにやって来ていた。

 目の前で繰り広げられる東峰のレベルの高い練習を目の当たりに、誰もが呆然としている。


「あれ……やばくない?」

「ああ、やばいな」

「レベルの差があり過ぎんだろ……」

「か、勝てる気がしないよぉ」

「あれが東峰の一軍レギュラーか……」


 自分達とのレベルの違いに、戦う前から戦意を喪失してしまう。

 彼等がプロ野球選手なら、こっちはおままごと。

 声も、動きも、技術も自分達とは数段かけ離れていた。

 みんながやる気を失っている中、雄馬はバッと立ち上がって、


「悪い、トイレ行ってくるわ」

「お前……全然緊張してねぇのな」


 呑気に言う雄馬に大山が半眼で口にすると、雄馬は「すぐ戻ってくる」と行ってしまった。

 その後すぐに東峰の練習が終わり、青北高校が練習する番になる。

 青北の選手達は初の球場で試合ということからガチガチに緊張してしまい、ミスばっかりしてしまう。

 レベルの低い練習を眺めながら、実況の高野と解説の坂巻が話し合っていた。


『いやはや、さっきの東峰と比べてしまいますと、青北高校の守備は酷いですねぇ。緊張しているのか、動きがガチガチなように見えます。こちらで手に入れた情報によりますと、どうやら青北高校の野球部は今年の四月に出来たばかりなんだとか』

『へえ、そうなんですか』

『はい。なのでメンバーも出場できる九人しかおらず、野球をやっていた子も四人しかいないみたいですね』

『逆に凄いですね。初心者が五人もいて、ここまで勝ち上がれるなんて』

『それがどうにも、ピッチャーの進藤雄馬君が凄いみたいですね。第一回戦の山王高校にはノーヒットノーラン達成。第二回戦の川澄高校には三点取られてしまいましたが、三回戦の厚森高校には完封。四回戦の平土学園にも二点しか与えていないようです。また、一年生ながらMax140kmを出したとか』

『凄い選手ですねぇ……彼一人の力で勝ち上がってきたとは思いませんが、進藤君なくしてはここまで勝ち上がれなかったでしょう。こりゃ東峰もうかうかしていられないですねぇ』

『またまた~、坂巻さんも口が上手いんだから~』

『いえいえ、本当にそう思いますよ』

『そうですか?では東峰の一方的な展開にならないよう祈りましょうかね。神奈川県大会第五回戦、東峰大相模高校対青北高校の試合は、もう間もなく始まります』



 青北高校の生徒会長である冬月えりなは、生徒達の誘導係の手伝いを任されていた。


「はいみなさん、青北高校のベンチはこちらです。他の観戦者の邪魔にならないよう騒がず観戦してください」

「みなさーん、こっちですよー」

「こっち、です」


 副会長の野薔薇静香と、書記の西川茜も手伝っていた。

 雄馬達の練習試合、それと予選第一回戦を見たからか、意外にも観戦に来る生徒は多かった。

 全体で二百名ほどいるかもしれない。

 彼女達の目的は雄馬達の応援もあるが、もう一つ理由があった。


「ねえ、この試合テレビに映るんだって」

「えっ嘘!?ちゃんとメイクしてくればよかったー!!」

「イケメンのアナウンサーにインタビューされたらどうしよう……」


 そうなのだ。

 彼女達の言う通り、ベスト8をかけた試合から神奈川県内で試合がテレビ放送されるのだ。

 だから学校ではなくちゃんとした球場で試合を行うし、実況や解説者もつくのである。

 テレビに映ると聞いて盛り上がっている女子達を横目に、えりなはため息をついた。


「どうしたの、えりな」

「いえ、なんでもないわ」

「そう。それにしても進藤君達、凄いよね。ここまで勝っちゃうなんて誰も思ってなかったんじゃない?」


 そう言う静香にえりなは「そうかしら」と口にする。


「あら?それともえりなは信じていたの?進藤君ならやってくれるって」

「ば、馬鹿を言わないで。何で私がそんなことを……。でも、そうね」


 えりなは一泊置いてから、


「なんとなく、そんな気がしていたわ」



 応援に駆けつけていたのは青北の生徒達だけではなく、おなじみの応援団もやって来ていた。


「ダーリン本当に凄いよ。こんなデカい場所で試合に出るなんて。それもテレビにも映るって言うし、はあ……あーしのダーリンが超かっこいいって、みんなにバレちゃう……」

「いつからお前のダーリンになったんだ?」


 蟹田みやびが夏川愛理に突っ込んでいると、甲斐が「でもな~」と言って、


「ここまで勝ち上がってきたのはスゲーけどよ、流石に東峰には勝てねーだろ」

「そうなん?」


 菊岡が首を傾げながら尋ねると、代わりに横にいたうららの父である春野芳樹が答える。


「正直ここまで勝ったのも奇跡に近いよ。けど今度の相手は、昨年の夏と春の神奈川を制覇した王者東峰。流石の雄馬君でも、東峰には通用しないと思うよ」

「ああん!?おっちゃん、ダーリンが負ける訳ないじゃん!なに言ってんのさ!」

「ごめんごめん、でも本当の事だからさ」

「ダーリンは勝つし、絶対勝つし!」

「うん、そうだね。みんなで応援しよう」



 応援には、青北高校の理事長である冬月宗一郎も来ていた。

 宗一郎は誰かに電話をかけていて、相手が出るのをずっと待ってる。


『あい、進藤ですが』

「おー原ちゃんかい、やっと出てくれた」

『その声、んだよ宗一郎か。何回も鳴るからオレオレ詐欺かと思ったぜ』

『ははは、変わりないね原ちゃん』

『で、何の用なんだよ、今いいところなんだ。早めにしてくれや』

『なんの用って、君の孫の雄馬君がこれから平土球場で投げるんだ。だから教えてあげようと思って電話したんだよ』

『んな事はとっくに知ってんだよ。ラジオもばっちしつけてるからな。実況の奴に腹立ててたところだ』

『はは、そうかそうか。では、一緒に見守ろうか。雄馬君達の晴れ舞台を』

『はん、ダラしねー試合だったら帰った時にしばいてやるよ。じゃあ俺はもういくぜ』

『ああ、また後で連絡するよ』

『おう』


 電話を切った宗一郎は、グラウンドを眺めながらこう思う。


(原ちゃんも見てるよ。雄馬君、頑張りたまえ)



「流石に球場となると凄い数ですね」

「そうだな……まぁほとんどは東峰の関係者だろうがな」


 新人記者の鳥谷綾乃とベテラン記者の松平康介も球場に訪れていた。

「はぁ、せっかく進藤君の記事を書いたのに、ボツにされちゃうし……松平さんの力ならなんとかしれくれる思ってましたのにな……」

「し、仕方ねーだろ!あんな無名校なんて記事にするのは難しいんだよ!」


 頼りになる先輩が頼りにならず落ち込んでいる鳥谷に、慌てて松平が言い訳を口にする。

 鳥谷には青北高校、それも雄馬をメインに記事を書いて編集部に提出したのだが、ボツを食らってしまっていた。

 松平も力添えしたが、今年出来たばかりの無名校。

 それもまだベスト16に入っただけの青北高校を記事に乗せることはできなかったのだ。

 落ち込む鳥谷に、松平は「だがよ……」と続けて、


「今日の試合の結果で、お前の記事が取り上げらるかもしれないぞ」



 青北の下手な守備を見ながら、東峰ベンチは馬鹿にした風に話していた。


「あれだろ?うちの二軍が負けたのって」

「そうみたいだな。ったく、あんなチームに負けるようだから、いつまでも二軍なんだよ」

「俺だったら死ぬね、あんなクソチームに負けたらよ。お前もそう思うだろ、竹中」

「……」

「竹中先輩は無口だから。まぁ安心してくださいよ先輩方、俺が誰にも打たれませんから」

「お喋りはそこまでだ。そろそろ試合が始まる。全員集中しろ」

「「はい!」」


 東峰キャプテンの神里がぴしゃりと告げると、それまで緩んでいた選手達の顔つきが一瞬にして変わった。

 それを横目に見ていた東峰の監督森下は、顎を摩りながらこう思う。


(やはり神里をキャプテンにしてよかった。去年の夏の甲子園での悔しさを直に体験し、それでいてみんなを引っ張る統率力。ぶっちゃけ選手達は、俺よりも神里にビビってるからな。本当に頼もしい奴だよ)


 森下監督は、グラウンドを眺めながら、


(不動の四番、竹中。新戦力の我妻、絶対的エースの四宮、それらを率いる神里。正直言えば、長い監督歴の中でも最強のメンバーだ。今年ならいける、去年果たせなかった甲子園優勝に手が届く!!)


 監督の森下は、下手な守備をさらしている青北選手達を見ながら、


(青北には悪いが、さっさとコールド負けしてもらおう。我が東峰は君達程度に構っていられないのでな)



 雄馬がトイレで用を足していると、横から「あっ」と声が聞こえてくる。

 そちらを向くと、東峰一年、我妻翔平がいた。


「んだよ、お前もトイレか」

「よう」

「おう」

「……よくここまで来たじゃねぇか。俺が認めただけはあるな」

「認めたって、何様だよお前」


 雄馬が半眼で睨むと、我妻はチャックを締めて手を洗う。


「まあ残念だったな。俺達に当たらなければもう少し上にいけただろうによ」

「あん、馬鹿言ってんじゃねえよ。それはこっちのセリフだ」

「……まさかお前、東峰うちに勝つつもりじゃないだろうな。たかが二軍に勝ったからってあまり調子に乗らない方がいいぞ」


 険しい表情を浮かべる我妻。

 雄馬もチャックを締め、手を洗おうとする。

 雄馬が「どけよ」と言うと、我妻は場所を譲った。

 雄馬は手を洗いながら、我妻にこう告げる。


「お前等こそ、あまり青北を舐めないほうがいいぜ」

「――ッ!!」


 雄馬が我妻を見やる。

 その瞳に宿る闘志に、思わずひるんでしまった。


「負けた後でつまんねー言い訳したくねぇならな」


 そう言った後、雄馬をドアを開けて去っていく。

 彼の背中を眺めながら、我妻は口角を上げて、


「進藤、やはり面白いやつだ」




 雄馬がベンチに帰ってくると、大山が声をかける。


「おい雄馬、遅いぞ。守備練習終わっちまったぞ」

「あっ、すんません」

「はん、どんだけ長いの出したんだよ、緊張感なさすぎだろ」


 慎吾が突っ込むと、城田が「ちょっと、女子もいるんだから」と下ネタを注意する。

 雄馬はみんなに微笑みながら、


「んじゃまあ、行くとしますか」

「「おう!!」」


 集合!!

 主審の掛け声により、両校の選手達がグラウンドの中央に集まり整列する。


「これより、東峰大相模高校対青北高校の試合を始めます。互いに礼!!」

「「お願いします」」



 ついに、ベスト8をかけた王者東峰との試合が始まったのだった。



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