第39球 決戦前日
平土学園を倒し、ベスト16入りを果たした翌日の日曜日。
青北高校の選手達は、グラウンドにて軽めの練習を行っていた。
というのも、昨日の戦いの疲労を明日に残さないためだ。
「うえええ、身体重いなぁぁ」
「そうか?俺はそうでもないけどな」
「俺は余計な肉がついてるからな。その分余計に疲れるんだよ」
「なら痩せろよ……」
芝生の上でストレッチする大山と宗谷。
平土学園との試合の疲れが抜けきっておらず、へばっている大山がデブだから仕方ないと開き直っていると、宗谷が半眼で突っ込んだ。
「ほら、一年を見てみろよ。あいつら元気が有り余っているようだぞ」
宗谷が促すと、大山もグラウンドに視線を向ける。
そこでは、光一が初心者組みにノックを打っておいた。
「へいへーい!!こっちに打ってこいよー!!この逆転スリーランホームランを打ったこの中丸和也様のところによー!!」
中丸が手を上げながら叫ぶように促すと、周りにいた一年はイラついた表情を浮かべて、
「うぜーー」
「ふん、完全に調子に乗っているな」
「ははは、カズ調子に乗りすぎ……」
「クソ、俺だって守備練習してーのに。大山先輩がヘバってなかったら……」
いつもノックしてくれる大山が休んでいるので、仕方なく光一がノッカーをしていた。
「ほらほら早くしろよー遅ーぞー!!」
「テメエ絶対後ろに逸らすんじゃねーぞ!!」
楽しく練習をしている彼等の横で、雄馬と慎吾は近い距離でキャッチボールを行っていた。
「ちっ、あの野郎マジで調子こいてやがる」
「いいじゃねーか、実際中丸がホームランを打ったから勝ったんだしよ」
「それがイラつくんだよ」
「まあお前は全然勝負して貰えなかったしな、最後は三振だし」
「うるせー」
雄馬の余計な一言につっこむ。
そうなのだ。
平土学園戦で、慎吾は一度しか勝負をしてもらえなかった。
四打席中三つのフォアボール。
青北一番の得点源である慎吾が勝負して貰えなかったことで、青北の攻撃力は半減してしまっている。
慎吾はボールをキャッチすると、投げ返さないで雄馬に問いかけた。
「中丸が打たなかったら実際に負けてたぞ。どうすんだ進藤」
なにか作戦はあるのか。
そう尋ねる慎吾だったが、雄馬はぽりぽりと頭をかいて、
「どうするも何も、別に誰も負けるつもりで戦ってる訳じゃねえしな。全力でやったとしても負ける時は負ける、そういうもんだろ?」
「……お前、たまに熱い奴なのかクレバーな奴なのかわからなくなるぜ」
「そうか?そんな事中学で言われたこと一度もねーけどな。ほら早く寄こせよ」
雄馬に要求された慎吾はボールを投げ、キャッチボールが再開される。
「それにお前、エンジンをかけんのが遅えんだよ。今までは打線というよりも守備重視の相手ばっかだったから助かったが、打撃が強いところだとボロクソに打たれるぞ。特に明日やる東峰なんかは、昨日のピッチングだったら三回には十点取られるぜ」
「あーそれなー。試合が始まる前に肩は作ってんだけど、どうも気分が乗らねぇんだよ。まあ安心しろよ、明日はなんとかするさ」
そう呑気に告げる雄馬に、慎吾はため息をつきながら、
「なんとかってお前な……そういやチェンジアップも一回も投げてねぇよな。どうして投げなかった。あれを使ってたらもっと楽に投げれただろ」
「バーカ、それこそ東峰の為に取っておいたんだよ。一つでも隠し玉は持っておいた方がいいだろ?」
そう言う雄馬に、慎吾はポカーンと口を開けて驚いていた。
「取っておいたって……まさかお前、最初から東峰と戦るつもりだったのか?てか、力を隠してそこまで勝ち上がるつもりだったのかよ……」
「だからそう言ってんだろ」
何を当たり前のことを言ってんだ。
そう言わんばかりの表情の雄馬に、慎吾は「はは」と可笑しそうに笑った。
「勘違いしてたぜ。お前は熱い奴でもクレバーな奴でもねえ。ただ頭がおかしい野球バカだったわ」
「あん?馬鹿にしてんのか?」
「褒めてんだよ」
「そらどうも」
慎吾はボールを見つめながら「進藤……」と雄馬の名前を呼んで、
「勝つぞ」
真剣な眼差しでそう告げる慎吾に、雄馬は勝気な笑みを上げながら、
「だから、誰も負けるつもりで戦う奴はいねぇって」
「みんなー!ちょっと集合してー!!」
三里先生がグラウンドにやって来て、練習しているみんなを呼ぶ。
みんなが三里のもとへ集まると、彼女は「明日の説明をするわね」と前置きして、
「明日は平日だけど、公式試合だからみんなは学校で授業は行われず直接会場に行きます」
「おっ、ラッキー!」
授業がないと聞いて喜ぶ中丸に三里が「こらこら」と注意した後、話を続ける。
「試合開始は一時から。場所は平土球場よ。だから、余裕を持って11時には球場に集合すること。球場の場所は分かるわね」
みんながこくりと頷くのを確認した三里は、続けて、
「じゃあそんな感じでお願いね。絶対ユニフォームは忘れちゃダメよ。それと、学校のみんなも午前で授業を切り上げて、希望者だけ応援に来てくれるわ。応援に来ない人はそのまま自習ね」
それを聞いて中丸が「んだよ、結局授業ねーのかよ。つまんねー」と口を尖らせ愚痴る。
今度は誰も突っ込むことはせず、三里は最後にこう締めくくった。
「明日の対戦相手は東峰大相模高校。凄く強い相手ってことは分かるけど、ここまで勝ち上がってきたのはみんなも同じ。だから、みんななら勝てると私は信じてる。頑張って!」
「「はい!!」」
「それじゃあ、マネージャーの春野さんから皆さんに渡す物があります。春野さん、いいわよ」
「はい」
突然うららがバッグを持って登場すると、みんなは「なんだなんだ?」と楽しそうに身を乗り出す。
うららは恥ずかしいのか、身体をもじもじさせて、
「あのね、私……お守りを作ってきたんだ。明日の試合までに間に合ったから、みんなに渡そうと思って」
「お守りって、もしかして手作りか?」
大山が尋ねると、うららは小声で「うん」と頷いた。
その瞬間、全員が「うおおおおおおおおおおお!!!」と盛り上がった。
女子の手作りと聞いて馬鹿騒ぎするアホな彼等に、うららは言いづらそうに顔を下に向けて、
「でもね、初めてだからうまくできなくて……」
「顔を上げろ」
自信なさ気なうららに雄馬がそう言うと、うららは雄馬を見た。
彼はにししと笑いながら、
「うららが一生懸命作った物を、誰も笑ったり馬鹿にしたりしねぇよ。だからくれよ、うららが作ったお守り」
「……うん!!」
笑顔で返事をするうららは、みんなにお守りを渡していく。
それは手編みで作られ、それぞれの背番号が編み込まれていた。
「うおーすげー!!」
「女子の……手作りお守り……これだけで一生生きてられる!」
何名か馬鹿騒ぐ者もいたが、ほとんどの者は静かに喜び、うららにお礼を言っていた。
「ありがとな、春野!!」
「ありがとう!」
「サンキュー!」
みんなが喜んでくれて、ありがとうと感謝してくれて、うららは少しだけ嬉し涙を流しながら「うん」と答えた。
「しゃあ、久々にあれやっか!」
突然言い出した雄馬に、みんなが頭の上にハテナマークを掲げる。
「あれってなんだよ」
「やだなーキャプテン、あれって言えば円陣に決まってんじゃないっすか」
雄馬が片目を瞑りながらそう言うと、大山はポンっと手を叩き、
「なるほど。よし、やるか。みんな集合!」
「「おう!」」
うららと三里を含めた全員が円になって集まり、中腰になりながら両隣と肩を組む。
みんなを代表して、キャプテンの大山が口を開いた。
「明日は県内最強の東峰大相模だ!!けど俺達だってここまで勝ってきた!!自身を持とうぜ!!」
「「おう!!」」
「三里先生の激励をもらった。春野からお守りを貰った。俺達に怖いもんは何もねえ!!だから絶対勝つぞ!!」
「「おう!!」」
「青北ぅーーーーーーーーーーーーーーファイ!!」
「「オーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」
ついに明日、決戦の時。




