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not mistake.間違いありません!

「魔王グレイファー!今度こそ、決着をつけます!行きましょう、トルスさん!」


「ああ!行くぞ、リエル!」


 トルスはリエルをかばうようにして、前衛に立つ。

 リエルは後ろで、魔剣に魔力を込め続ける。


(俺は聖剣を失ったが……リエルの盾くらいにはなれる!トドメは任せたぞ、リエル!)


 これが2人の作戦だった。


 ◇


「魔王グレイファーを倒すには、恐らくこの魔剣に私の全魔力を込めて放つ必要があります。

 とはいえ、ここで魔力を込めて万全の状態で向かっても、感知されて事前に魔力を散らされるのがオチでしょう」


 冷静に、リエルは説明をしていた。


「なるほど。じゃあどうすりゃいい?」


 トルスがそう尋ねると、リエルは言った。はっきりと。


「大変心苦しいのですが……トルスさんには、魔王の攻撃を受け止め、かわし続ける役目を担って欲しいのです」


「なるほどな。分かった」


 トルスはあっさりと囮役を引き受けた。

 どのみち、聖剣を失った以上、今の自分に出来るのはそれくらいだ。


 リエルもそう言ってもらえると思ってました、と頷き、拳を付き合わせるジェスチャーをする。

 トルスは無言で、拳を出す。


 ……こつん。


「生きて帰ろう、絶対にな」

「ええ、勿論です」


 ◇


「はぁああああああああああ!!!」


 全神経を魔剣グレイド・レイヴに集中させるリエル。

 無防備になる彼女に襲い来る魔王の呪文。

 しかし、すんでのところで全て、トルスが受け止め、弾き飛ばす。


「はっ!そんなもんかよ!リエルには指一本触れさせねえからな!!」


 身体が傷つく事も厭わない。

 リエルのために、全力で時間を稼ぐ。


「おのれ……人間ごときが……」


 魔王は歯噛みし、己自身も切り札を出すべきと判断したらしく、またも必殺の呪文の詠唱に入る。


「!やらせっか!!」


 好機とばかりにトルスは飛び込む。

 ここで組み伏せれば、リエルの時間をより長く稼げる。


 ダァン!!

 魔王を押し倒し、その手を床に叩きつけ、呪文を紡ぐ口を封じようとする。


 しかし―――


「……かかったな、愚か者めが」


 魔王は短詠唱の呪文で、トルスの体を射抜いた。


「ぐっ……あ!!」


 鋭い痛みが脇腹を貫通する。


「トルスさん!」


 一瞬、集中が途切れかけるリエル。しかし、すぐさまトルスが怒鳴りつける。


「バカ!!!俺の事は気にすんじゃねえ!!!全力でグレイド・レイヴに魔力を込めんのが、今のお前の役目だ!!」


 言いながら、魔王ともみくちゃになる。


「くそっ……グレイド・レイヴだと……!?

 余の骨肉より生まれしかの魔剣、よもやリエル=フォルシュタインの手に渡っていたとはな……!」

「はっ!ご丁寧な来歴の説明、ありがとうよ!今からてめぇの魔剣は、てめぇ自身を滅ぼすんだよ!!」

「その前に貴様らを滅ぼす!!」


 魔王はまたも呪文を唱え、散々にトルスの身体を射抜こうとする。

 しかしトルスはその動きを見切り、いよいよ魔王の口を封じることに成功した。


「ぐむっ……ぬぅううう!!」


 怒りに目をギラギラと輝かせる魔王。

 そこまでだった。


「トルスさん!!避けて!!!」


 リエルの声が玉座の間全体に響き渡る。

 荒ぶる大魔力を制御した時以上の、途轍もない魔力の奔流。


 トルスは叫ぶ。


「良いから早く撃て!!」


 リエルは躊躇わなかった。


「当たっても!!知りませんからね!!!」


 大上段に構え、魔剣グレイド・レイヴを振りかざすリエル。


「ぬぐっ!?ぬぅうううううううう!!!」


 バタバタともがき、トルスの腕から逃れようとする魔王。

 しかし、手遅れだった。


「はぁあああああああああああああああああ!!!!!

 斬り裂け!!!!!グレイド・レイヴ!!!!!!!!」


 リエルの叫びとともに、魔剣グレイド・レイヴは振り下ろされ、そして。


 ズッ………………ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 闇の魔力はその全てを余すことなく、魔王グレイファーの身体に叩きつけていた。荒れ狂う魔力の濁流は玉座の間を崩壊させ、瓦礫がグレイファーに降り注ぐ。


「ば……か……な……まさか……仲間……ごと……」


 魔王グレイファーはリエルの渾身の一撃を受け、全身に黒い火傷を負っていた。

 魔力の中枢部は跡形もなく吹き飛ばされており、完全に致命傷。

 ―――いや、もう絶命が近い。


「き、きさま……こそ、真の……魔王、よな……よ、よもや仲間ごと余を、斬り捨てるとは……おもわ…なん……だ」


 今際の際の言葉は、リエルの非道に対する、糾弾だった。



 ◇



「……」


 リエルは、沈黙する。


 ―――そして、玉座の間の跡地に、静寂が訪れ。



「バーカ。リエルとおめーを一緒にすんじゃねえ」



 魔王グレイファーと共にグレイド・レイヴの一撃を受けたはずのトルスが、

 その身に火傷を負いつつも無事に瓦礫の中から現れる。


「トルスさん!」


「あー、いってて。やっぱ、リエルの加護は安心だな」


「無茶しないで下さいよ……ほんとに殺しちゃったかと、思っちゃったじゃないですか」


 リエルはホッとする。


「そんな事になるって分かってたらリエルは剣を振り下ろさないって、俺は信じてた」


「もう……」


 ◇


 リエルは、玉座の間に向かう途中で言った。


「万一の事があったらいけませんから、囮役のトルスさんには、限界まで結界を重ねます。それと、闇の魔力への抵抗力を強化する呪文を……」

「……大丈夫なのか?グレイド・レイヴに込める魔力を減らして」

「これくらいなら、多分。それと、私、最悪の場合はトルスさんを連れて逃げます」

「おい……」


「だって私、トルスさんの命のほうが大事ですから」


「リエル……」


「だから、私がもしグレイド・レイヴの一撃で巻き込みそうになったら、ちゃんと逃げて下さいよ?」

「約束しかねる。魔王を倒すほうが大事だ」

「……むぅ。トルスさん、基本的に私の言うこと大体聞いてくれるのに、強情ですね」

「勇者だからな。魔王を倒す目的は、大事だ」

「分かりました。私もトルスさんを巻き込むなんてごめんですから、最大限注意します」

「ああ。頼むよ」


 ◇


「信頼関係の賜物ってやつだ」


「ヒヤヒヤさせないでください。回復しますから、診せてください」


 リエルは残りわずかになった魔力で、回復の魔法をかける。激しく傷付いた身体に優しく暖かな光が注ぎ込まれ、トルスはほっと息をついた。

 魔剣グレイド・レイヴ、防御結界、回復魔法に全ての魔力を使い果たしたリエルも、脱力してその場に座り込んだ。


「はぁ……これで、終わった、んだな」


 トルスは呟く。


「ええ、全部終わりました。私と……トルスさんの仇は、この世から消滅しました。平和の世の訪れですよ!」


 リエルはにこやかに笑う。


「……リエルは、これからどうするんだ?」


 トルスは尋ねる。リエルは即答した。


「私は、魔王になります。

 ―――魔王を打ち倒した私が、この世界の新たな魔王になるんです」


「世界を支配するってことかい?」


 冗談めかして、トルスは言う。リエルは笑って言った。


「私は、暴力や恐怖で世界を支配なんてしたくありません。平和な世の中を見守りたいんです。―――私、魔王になっても、変わらないでいたいです。今の偽らない私が、大好きなんです」


「……リエルはきっと、そう言うだろうなって思ったよ」


 心配なんて何もなかった。

 魔族となったリエルが魔王を打ち倒したら、どうなるのか、なんて。


「ええ、心配なんてなさらないで下さい。私は、『良い』魔王になるんです!」


「そんな魔王を見逃す俺は、『悪い』勇者なのかな」


 トルスは自嘲気味に言った。いや、それは先程と同じく半ば冗談みたいな一言だったが、リエルは強く反駁する。


「いえ!トルスさんは、『良い』勇者です!自信、持って下さい!

 勇敢で、優しくて、魔族の私を信じてくれた……そんなあなたが、『悪い』勇者であるものですか!それに……」


 リエルは少しだけ言い淀み……そして。

 顔を赤くしながら、はっきりと言い切った。



「―――私がこの世界で、一番!大好きな!『良い』勇者様ですよ!

 間違いありません!」



 そして、リエルはトルスにぎゅうっ、と抱きついて、嬉し涙と照れ笑いで見せられなくなった顔をトルスの胸に埋めた。



「……そっか。リエルのお墨付きなら、間違いない……な」



 トルスはリエルを抱きしめて、恥ずかしそうに笑った。



 ◇


 ―――それから20数年後。


 聖都アストリアは、見事な復興を遂げていた。

 聞く所によると、復興したアストリアを治める女王はかつての魔王グレイファーを打ち倒した『新たなる魔王』であり、夫である勇者を伴って、『人間と魔族が平和に暮らせる世』を願い、人々と共に今も幸せに暮らしているのだとか。




 間違いだらけの人生を送ってきた魔族のお姫様、リエル。



 魔族なのに聖女のように振る舞い、魔剣を聖剣と偽り、聖剣の守護者を騙り……ちぐはぐで、噛み合わなくて、ありとあらゆる間違いを犯し続けて。



 長い旅の果てに―――彼女はようやく『魔違えない』生き方を見つけ出すことが出来たのだった。



(おわり)

まちがいだらけのプリンセス、最終話です。


魔王グレイファーとの最終決戦。

そしてリエルは、まちがいだらけのプリンセスではなく、間違いなく女王になれた。

魔界と聖都アストリアはこれからリエルがゆる~く、ふわっと統治していくのでしょう。


ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!

以下、ちょっとした余談です。


最終話のサブタイトルがナンバリングではなく『not mistake』なのは、アニメの1クールシリーズ構成を意識したんだから『14話』ってあんまりないし、そのまんまつけたくないなあ、という個人的な感情があり、『間違いありません!』を英訳したら良い具合にラストっぽいタイトルになったからです。


この物語を最初に思いついた時は、『ゆるふわ聖女モノ』みたいなかなり大雑把なイメージでした。

要素を色々と煮詰めている時に『リエルが実は(半分)魔族』『だから聖剣は使えない』というネタが浮かんだ瞬間からあれよあれよと物語は膨らみ始めましたが、伏線処理にかなり困ったり、全体構成に煮詰まったり、結構時間かかりましたね……。

構想2日、執筆3日くらいかな?

こんな真面目に考えたの初めてで、なろうに投稿した中でも、特に思い入れが強い作品です。

構想段階で見て頂いて、意見をくれた友人には大感謝です!



最後に改めて。


この物語を読んで頂いた全ての方に、ありがとうございます!

いつかまた、リエル達に会える日が来るかも知れません。

その時も、今回と同じく『ゆる~く』『ふわっと』楽しんで頂ければ幸いです!


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もし、本作品を少しでも面白いと思っていただけたら


☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると、モチベーションになります!


ブクマ・感想・レビューなどもお待ちしております!

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