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第十五話 予兆

 妖怪の住み家マヨイガ、常に騒がしい所だが最近になり余計に騒がしくなってきた。

 理由は月一の妖怪広告&活動許可が迫っているから。

 第一回を逃した妖怪たちがこぞって伝承審査会に突撃し玉砕している。

 猫又の様にいくつかの妖怪も、どれか通れと数打ちをしているが審査会は手抜きを見つけて追い返している。

 審査会もすでに審査を抜けた妖怪の集まり、ライバルを増やす真似はしたくないのだろう。

 私欲しかない結果だ。


 そんな皆が忙しいときにぬえは前日に撮影された始祖龍の決闘を見ていた。

 あまり見れなかったという事もあるが、最大の理由は。


「やっぱりカメラの方が良いんよ」


 映像を記録する水晶とカメラを見比べていた。水晶は画質が良く魚眼レンズの様に視野が広い。しかしカメラと違いテレビに繋いで大画面で見るなどが出来ない。

 水晶はしょせん手のひらに乗るサイズ、画質が良くても、視野が広くてもこれでは意味がない。

 そしてぬえが何より気にしているのは。


「始祖龍が戦う理由を探しているのかい?」


「木霊、どうしたんよ? 伝承は、最初に通ってたんよ」


 木霊の言う通りぬえは始祖龍が戦う理由を探していた。

 始祖龍は非常に数が少ない。カロ山脈の中では上位の捕食者に入ることが分かっている。それが何故争っているのか。

 牛鬼が暴れた所為? 可能性としてはあるが同じ種族で争う理由が分からない。縄張りもいくつか空きが出来ているため縄張り争いとは思えない。

 何よりもぬえが疑問を抱いているのは殺し合ったこと。


 通常同種同士の争いはどちらの格が上かを決める争いであり、生死を掛けることはほとんどない。結果的に死んでしまうことはあるが。

 同種を平然と殺せばいずれ種が絶える。それくらい生物でない妖怪だって知っている。

 この始祖龍は殺し合ってまで何をしたかったのか。気になり繰り返しビデオをみていたぬえだが。


「そういえばね、木々に聞いたんだけどここから西に行くと常に吹雪が吹く雪山があるらしい。そこを北に行けば恐竜がいるらしいんだ」


「マジなんよ!? 恐竜とか絶滅してから全然見てないんよ。木霊、今度一緒に見に行くんよ」


「良いけど、その発言歳がばれるから止めようね」


 別に興味のあることが上がればビデオを止め、水晶をその場に放置。しょせんその程度の好奇心。

 恐竜の居場所は木霊が木々から得ただけの情報で距離などは不明、ならば地図を得て考えるしかない。

 ついでにあまり使えない水晶を売り払って来よう。

 ぬえは木霊と共にカラルへ向かった。




「地図なんぞ無い」


 大老から地図を購入しようと尋ねるが帰ってきた答えは否だった。


「カラルにはカラル周辺の地図しかない。他国の地図などむしろ欲しい位だ」


 日本の常識に慣れきっている妖怪からすれば衛星でも打ち上げろ、もしくは伊能忠敬を呼んで来いと言いたいが、そんな技術力も人物もいないことは知っている。

 早速計画が崩れたと木霊と今後について話し合おうとするが。


「それとその木の人形は何だ? 精巧な出来のようだが」


「どうも初めましてー、ぬえがお世話になっております。木霊と申します」


「なんよ」


 また妖怪か、大老は疲れ切り絞るような声で呻くが、その反応に妖怪二人はにやにやと笑う。

 気づいていないかもしれないが、大老はきちんと妖怪と向き合い悩んでいる。それが妖怪としては嬉しいことなのだ。


「それで、今月の広める妖怪は彼なのか。始祖龍のオークションが近いから他の国々に広める好機だぞ」


 他国に広まればここで広める必要は無いよな、と言外に含めるがぬえは笑顔でそれを否定する。


「それは明日決まるんよ、だからカラルには妖怪発祥の地として頑張って欲しいんよ」


 死ぬまで、いや死んでも放すつもりはない、そう言われれば大老はがっくりと肩を落とすしかない。

 非常に友好な関係を確認したところでぬえは始祖龍の決闘を記録した水晶を取り出し大老の前に置く。


「……これは!」


「買い取って欲しいんよ。これいらない」


 手に取りジッと水晶を見て、どこにも異常がないことを確認して一度置く。


「すぐには支払えんぞ」


「それで良いんよ。この前の一件のように痛い目を見たくないんよ」


 妖怪道的対応、二度と味わいたくはなく、それでも大老が買い取り金をこの場に出されればもう一度同じことを繰り返す自信がぬえにはあった。

 だからやるべきことを終えた後、ぬえは木霊と共にそそくさとその場を後にした。




「ギルドマスター、始祖龍のオークションを商会と連携……、ギルドマスター?」


 今事務員が入ってきた扉から先程ぬえと木霊が出て行ったはずなのに、事務員は誰にも出会った様子無く入ってきた。

 いつもどう入り出て行っているのか、つい気になり返事が遅れた。


「すまんな、それとオークションの件は私ではなく倅、副ギルドマスターだ」


「し、失礼しました!」


 そろそろ引退を考えていた時に妖怪が飛び込んできたため未だ現役だが、いつでも引退できるように大老は子であり、補佐である副ギルドマスターに事務仕事の少しずつ移している。

 オークションも副ギルドマスターの管轄になっている。目の前の事務員はそれを忘れていたのだろう。


「ああ、待ってくれ」


 顔を赤らめて出て行こうとする事務員を呼び止める。


「済まないが始祖龍の資料を全て持ってきてくれ」


「全て、ですか?」


 大老は机に置かれた記録用の水晶を手に取り頷く。

 そこに映し出されるのは始祖龍の決闘。


「面倒なことになるやもしれん」


『木霊』

 妖怪というより精霊に近い存在。でもそこまで変わらないと思う。妖怪の中でも最古参の一角。木の歴史は木霊の歴史。神通力や分身を生み出し人化などはお手の物。木と交信なども可能。ただ本体はマヨイガに生える樹木であり、傷つけるとすごい怒る。


『伊能忠敬』

 精巧な日本地図を作った人。しかし完全な日本地図を作る前に死去。だが大部分は作った。その精巧さは今の日本地図と比べても遜色が無い。地道な努力の末に成したものは歴史に、世界に残る偉業となる。なお日本各地を歩いたため妖怪の中でもかなり知名度が高い。

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