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第十四話 ピクニック

「機材の運搬急ぐんよ。ガスコンロ、炭火、鬼火、炎魔石はこっち。猫又、お前火車になってこっち手伝うんよ。カメラは飛行可能な妖怪に持たせて、記録の水晶も忘れないんよ。戦闘班、周りうるさいから黙らせてくるんよ。黙らせたら持ってくるんよ? 焼くから」


 その日、カロの山脈を飛行していた一反木綿が非常に面白い物を見つけ、マヨイガへと戻ってきた。

 それを聞いた妖怪たちは総出でカロの山脈に侵攻。カメラにコンロなどピクニック気分でやってきた。

 そのお目当ての物とはまさに今上空で繰り広げられている。


 始祖龍の決闘。


 それにどんな意味があるのか、妖怪たちには分からないが目の前で怪獣映画のような光景を見られるだけで十分だった。

 そして今は互いにその体をぶつけ合う空中戦。勢いがあり表皮を僅かに傷つけるだけで終わるところを見るにまだまだ序盤。

 その隙に準備を済ませようと妖怪総出で頑張っている。


 またこれには様々な試みもあった。

 火で味が変わるのか、自然の火、妖怪の火、魔法の火、あとついでに妖怪自身。猫又は逃れようと抵抗したがぬえに押し込まれ、肉でも乗せたら瞬時に灰にしてやると火車に変わり待機している。


 映像についても現代から持ってきたカメラと魔法で映像を記録する魔法の水晶、どちらが良いのかも比べ、妖怪のカメラマンとしても腕も比べることになっている。


 周りの魔物についても邪魔にならないようにある程度間引き、間引いたものはそのまま食材となるようになっている。魔物は美味いのか、そもそもどう調理すれば良いのか。

 別に妖怪は餓死しないが気になったのだから確認することになった。

 調理はぬえが行うことになった。金の使い込みがばれてから雑用のようなことをしているが、ぬえは現代で暇だった頃にふぐの調理師免許を持っているためでもある。

 

「スタンド設置完了したぞ」


 最初の報告は雪女から。非常に大きく、美しい氷のスタンドが出来ていた。妖術で出来ているため溶けることはないが冷たくはあるため、事前に対策物を持ってきた者や平気な者は上がり、そうでない者は地べたに座り込んだ。

 その後、すぐに全ての火が点火可能状態になったのを確認。

 飛行可能の妖怪にもそれぞれカメラか水晶を持たせ、こちらも準備万端。


 そして。


「ぬえよ、周囲の魔物の殲滅終了。ほとんど怯えて逃げおった。殺したのは持って来とるから待っとれ」


 戦闘班も終わったらしい。がしゃどくろが報告し、戦闘班の妖怪が戻ってくるついでに魔物の死骸を持ってきてはぬえの近くに置いて行き、大きな山となった。

 その量を見てぬえは頷き。


「カマイタチを呼ぶんよ。ああ、転ばすのと薬役はいらんよ。これ斬ってもらうだけだから」


 スタンドに向かおうとしていたがしゃどくろを呼び止め、助っ人を呼ばせる。

 現れたのはイタチの姿をしながらも前足には刃、に見える長く鋭い収納自在な爪を生やしたカマイタチ。

 今まさに見ていたのに、とばかりに不満そうな顔をしているがぬえは気にしない。


「その魔物の山を適当なサイズのブロックにして欲しいんよ。ああ、でも山ごと斬るのは危ないんよ? 毒持ちいるだろうから一体ずつをオススメするんよ」


「チッ!」


 あからさまな舌打ち。すぐにでも始祖龍対戦の観戦に行きたいのだろう。

 そこでぬえはカマイタチがある程度魔物を斬った所で。


「あ、その肉そこの焼き網を上に乗せて欲しいんよ。こっち手が離せないんよ」

 

 ブロック状にされた魔物の肉をそれぞれの火が点いた焼き網の上に乗せていく。その中でも未だに一つも乗せていない焼き網をカマイタチに任せた。

 特に疑問も持たず。カマイタチは斬ったブロック状の肉を盛大に焼き網の上に乗せると。

 禍々しい火柱が上がった。

 そこは猫又、もとい火車が入っていた。その火の勢いはカマイタチに僅かに火傷を負わせ、魔物の肉を炭に変えるほど。

 まさに予想通りとぬえは笑い。


「シャアァ!」


 嵌められたカマイタチは真っ二つにするとばかりに、ぬえに鋭い爪を振り下ろしたが。


「ふん!」


 見事な真剣白羽取りに防がれた。


「甘いんよ、かつて上泉信綱に挑み幹竹割りを食らった俺に死角はないんよ」


 塚原卜伝でも呼んでこーい、と調子に乗るぬえ。その直後、炎に包まれた。

 カマイタチはぬえを斬りつけたと同時に焼き網も切り裂いて火車を解放していた。解放された火車はぬえを燃やした。

 してやったり、二匹は喜び手を叩くが燃えた跡から現れたのは転ばせる担当のカマイタチ。

 そこにいつの間にか変わり身で抜け出したぬえは、坊さんの格好で木魚を持ち出し、焼け果てたカマイタチの前で木魚を叩いて二匹を煽る。


「「キシャァ!」」


「止めい、遊ばれるだけじゃぞ」


 怒りに任せぬえに襲い掛かろうとした二匹の後ろに突如がしゃどくろが現れ、器用に首根っこを掴むと氷のスタンドに放り込む。そしてついでとばかりに焼け果てたカマイタチも放り込む。

 せっかくのおちょくり相手を、とぬえはやや不満そうにがしゃどくろを見るが。


「実はな、少し相談があるんじゃが」


「おお! どんな相談でもどんと来いなんよ。女? 金? 何でも良いんよ! あ、その前に焼けた肉を氷のスタンドに投げ込んどいて欲しいんよ」


 一瞬で目を輝かせ他の妖怪に邪魔されないように素早く肉を焼き上げ、がしゃどくろに投げさせる。

 

「それでどんな相談なんよ? 人間関係、相続関係?」


「何でそんなドロドロして欲しそうな予想をするんじゃ。わしの伝承についてじゃよ」


 ちゃかせる面白い相談かと思いきや真面目な相談に、ぬえはあからさまにやる気のなさそうな顔をする。


「へぇー、良かったんよ」


「まだ何も言っとらんぞ。この前にお主が買ってきて没収された品の中にな、これがあった」


 がしゃどくろが取り出したのは『魔物大全』。前に金の使い込みがばれ、妖怪道的扱いの名の下に私刑が執行され、持ち物はすべて没収された。その没収された中の一つ。

 実はぬえも似たようなものを持っている。それは『魔物大全~完全版~』、全て没収させたと思わせて隠し持つ品の一つ。


「これを見て欲しいんじゃ」


 開かれたのはアンデット、スケルトンの項目。そこに書かれているのは、スケルトンの特徴、対策、発生個所。そして。

 骸骨に死者の怨念、もしくはゴーストが入り込むことにより発生すると思われる。他のアンデット同様生者を憎み――。


「めっちゃ儂と被っとる」


 備考に書かれている内容が、がしゃどくろの伝承と類似していた。姿がほぼ同じなのに伝承まで似ているようでは魔物との差別化が出来ない。


「どうすれば良い……」

 

 今にも消えそうなか細い声で悩みを打ち明けるがしゃどくろ、そして意外なことに。


「とりあえずアンデット系列の魔物を全て調べ上げるんよ。必要とあらば捕獲も視野に入れると良いんよ。とりあえずここに発生個所が書かれてあるからその辺りを巡ればいいんよ」

 

 ぬえがまともな助言をした。ダメ元で聞いてきたがしゃどくろは驚いた様子でぬえを見る。


「まともな助言を貰えるとは思っておらんかったわ。感謝するぬえ」


「良いんよ」


 この時、がしゃどくろは気づいていなかった。

 ぬえがわざと時間のかかる方法を助言することにより、がしゃどくろが審査会に出るのを先延ばしにし、月一で選ばれるライバルとなる妖怪を減らしていたことを。

 喜ぶがしゃどくろの後ろでぬえは邪悪な笑みを浮かべていた。


『火車』

 生前に罪を犯した人の死体を奪う妖怪。その正体は実は猫又。というか猫系は全て猫又が犯人。知名度を上げるために色々やっていたら伝承が分裂してしまった例。こいつ似た妖怪だな、と思ったら同一妖怪かも。しかし親戚の可能性もあるから判断は難しい。


『カマイタチ』

 三匹組の妖怪、チビとデブとメガネではない。それぞれイタチの姿をしているが、役割がある。一匹目は人を転ばせ、二匹目が斬りつけ、三匹目が薬を塗る。おそらくジェットストリームアタックだろう。それと一匹目は必要があるのか。考えてはいけない、それが妖怪だ。


『上泉信綱・塚原卜伝』

 日本人で最強なのは、という話で必ず名前が上がる偉人。生涯無敗、剣術流派の開祖、弟子多し、人格者。剣聖の名にふさわしい化物。長く生きた妖怪でも敬遠するほど恐ろしい強さを持つ人間。



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