第十二話 抽選結果
「枕返しはどこだ!」
深夜のマヨイガ。妖怪が活発に行動する時間、ぬえらは殺気を漏らしながら活発に行動していた。
ぬえは帰った後に、今回の成果を大々的に発表し、条件については話すのを渋り自分の適当な伝承を通らせる悪徳交渉に成功。
条件を伝えた後に審査会に襲われるぬえだが見事に逃げ切った。
その後、第一次審査会が開かれ、多くの妖怪の伝承が没を食らいながらもいくつかは審査を通り抜けた。
その審査が終われば街に広めてもらう妖怪を誰にするのか、話し合いが始まるが開始一分で話し合いは終わり、熾烈な戦闘へと変わった。
そもそも審査を抜けた以上誰も譲る気が無いので仕方がない。審査を抜けられなかった妖怪にすれば興味のないことだ。
しかし死んでも復活するので戦闘に意味はなく、結局は公平を期すためにくじ引きとなった。
その結果、最初に広められ活動できる妖怪の座を掴んだのは。
枕返しだった。
「ぶち殺す!」
妖怪は死んでも復活する。例え枕返しであっても。なのでぬえら審査をくじ引きで負けた妖怪たちが枕返しを惨たらしく殺しても結果は変わらない。ただの嫌がらせのようなものだ。
しかし嫌がらせせずにいられない。第一回目と言うのは非常に重要だった。
まず妖怪と言う存在が広められると同時に名が出るのだ。下手すれば妖怪の代名詞になれたかもしれない。
それに第一回目が最も人数が少なく選ばれる可能性が高かったのだ。重箱の隅を突くようにして落とされた者、いっぽんだたらのように一年に一度などの制限を入れていた者、牛鬼のように弱点を残すかどうか悩んだ者、彼らが次には審査を超えてくるかもしれない。
そうなればまたくじ引きとなり当選確率は倍になるだろう。
だから今回、誰もが狙っていた。運だけでもなくさりげなく妖術すら用いて自分が引こうとしていた。
なのに栄光の座を掴んだのは枕返し。職人技を持つ妖怪。しかし力そのものは貧弱であり、八つ当たりするには丁度よかった。
「見つけ次第ぶち殺せ!」
次にカラルに向かうのは日が明けてからと決められている。そこで大老に話を通し、古文書に似せた物を渡して妖怪を広めてもらう。
果たしてそれまで枕返しは何度見つかり何度死ぬのか。それは誰にも分からない。
「ええっと、すまん読めぬ。……枕返し? まさかこの短期間でこんな珍しい紙と暗号まで用意するとは」
結局七度殺された枕返しを連れ、ぬえはギルドの執務室、大老の部屋に忍び込んだ。
警備について大老が考えるほどあっさりと。
そして枕返しについて書かれた和紙を提出、日本語を読めるはずがないので内容を口頭で伝える。
大老はぬえから伝えられる内容を全て書きとり、問題が無いか確認して頷く。
これで妖怪側の条件は揃ったが。
「良し分かった。一週間後にはこの枕返しを広めるとしよう」
「え? 何で今すぐじゃないんよ?」
カラル側の準備が整っていなかった。
「出来ん、とは言わんが効果的ではないぞ。今はお前さんが持ち込んだドラゴン、調べて分かったが始祖龍と言うらしいが、それの騒動真っ最中だ。妖怪の話を出しても始祖龍の話題が上。更に職員も始祖龍騒動で他のことに手を伸ばせる余裕もない。また根回しもまだ。はっきり言うが一週間と言うのはかなり早い方だ」
そう言われてはぬえらも下がるしかない。ここに来るまでに街が妙に盛り上がっているのを自分たちの目で確認してきたのだ。
すでに形勢は決した。だが大老は念のためにもう一押ししておく。
「安心せい。始祖龍の話題が少し弱まったところにこの古文書を出せばいい。そうすれば始祖龍の話題が盛り上がると同時に古文書、妖怪の話題も一気に広まる」
想像する。始祖龍の新たな話題に盛り上がる住人、その内容は妖怪枕返し。夜な夜な枕をひっくり返す。……しょぼい。
本当に枕返しで良いのか、本気で悩むぬえに大老が書き取った紙を見てやや遠慮するように聞いた。
「気になるのだが、妖怪は始祖龍を屠る力があるのだろう。それなのに、何故枕をひっくり返すだけなんだ?」
「え? あんなでっかいドラゴンを楽々殺せんのは一部なんよ? 苦戦するのもおるん、勝てん奴もおるんよ? 例えばこの枕返しは戦闘能力皆無なんよ。殺すことなんて、……少し死んだ奴も居たけど昔の話しなんよ? 今は悪戯で済ませているんよ。それにもそう書いてあるんよ」
全く以て聞き捨てならないことが聞こえたが、やり直せと言って恐ろしい化物を出されても困る。
「あまり老体を苛めんでほしい」
「あっはっは、それはすまんよ。でも大丈夫、こっちに比べれば十分若いんよ」
かれこれ八十は生きている大老だがそれを若いと言える少年の姿をしているぬえ、その後ろにいるぬえより更に幼く見える坊主の枕返し。
一体いくつなのか、大老は恐ろしくて結局聞けなかった。