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気付いたら異世界で飯作ってた  作者: ハル


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 カルロの傷を治療し、消毒してから軟膏を塗る。ガーゼで覆い、場所によっては包帯で保護した。

 大きな背中をぽんぽん優しく叩くと、ぐうっと背伸びをしたカルロがTシャツを着る。ロレンツォが着ればオーバーサイズになるだろうそれは、カルロによってパンパンに張り詰めており、悲鳴をあげている。

 ……これが巨乳の姉ちゃんだったらな、としょっぱい気持ちになりながら、食事の用意をする。

 テーブルいっぱいに並ぶ皿に、子供みたいに目を輝かせたカルロがそわそわと尾を揺らした。


「先に食べててくれる?」


「ロレンツォは?」


「お茶を淹れるから、すぐ戻るよ」


「わかった」


 紅茶を淹れてテーブルに戻ると、まだ手をつけていなかったことに驚く。

 カルロを見ると厳めしい顔で飯を威嚇していて、腹から雷のような音を鳴り響かせていた。待っていたのかと座り、紅茶のはいったマグを出すと、ようやく手を合わせた。

 

「いただきます」


「いただきます」


 いただきますの挨拶を共有したのはカルロが引っ越してきてすぐだった。

 飯が食える幸せと食材と農家に感謝するんだと言うと、カルロは祈りの先が神ではないことが気に入ったと笑ってから共にいただきますをするようになった。


「今回はどんな依頼だったの?」


「行動に出てくるようになった野盗の討伐だ。最近は麻薬にも手をだしているみたいで、王都からも手配書が出ていた。だが随分と統制が上手く、いつも逃げられていたが、本部を叩くことに成功した」


「それって、ドブネズミ?」


「知ってるのか?」


 眼を丸くしたカルロはロレンツォを見上げた。

 ハイペースで木匙を動かしていた手を止めているあたり、そうとう驚いたらしい。


「ここいらの錬金術師はみんな知ってると思うよ。何度か高額で薬品の精製を依頼したあと、麻薬を作らないかって声をかけてくるから」


「…そうだったのか」


「僕は警備隊やギルドにはそれとなく報告したけど、家族がいる人とかは報復を恐れてそれすらしてないんじゃないかな?」


 ロレンツォが周囲に言えたのは、ロレンツォの実家が貴族で、気儘な独身だったからだ。

 なにかあればケツまくってトンズラすると決めていたロレンツォだから出来たが、家族がいるような人間にはそうそう出来ない芸当だろう。聞けば錬金術師の界隈では有名で、胡乱な錬金術師が数人、近くの領地で消息不明になったという。

 ドブネズミに入ったのか、あるいは潰されたか。

 いずれにせよ危険であるため、ロレンツォは自宅はもちろん、近くを出歩く時でさえ、そのまま逃げられるように最低限の荷を持ちは込んでいる。


「まあ、ドブネズミを撃破してくれたのなら安心したよ」


「いや、残党もいる。出来ればしばらくは気をつけてくれるか? 討伐を先導したのが俺だということくらい、あいつらもわかっているはずだ」


「なるほどね。わかったよ」


 狡猾で厭らしい連中だ。

 カルロの定宿がここであるということくらい情報として知っているかもしれない。そうなれば確かに矛先は見るからに貧弱なロレンツォに向かうだろう。


「うーん……。はい、これあげるね」


 席を立ち、店のカウンター裏に置いていた小瓶を持ってカルロに手渡した。

 粘度を感じさせないさらさらとした液体はうっすらと緑がかっている。苔の繁茂した沼にも似ている汚い色の液体をまじまじと眺めたカルロが、不思議そうに頭を傾けた。


「これは?」


「猫には効かない毒。眼や鼻、喉などの粘膜に触れると猛烈な痛みと痒みを引き起こし、咳がとまらなくなる。猫にも多少影響があるけど、そこまでじゃないから、逃げるには十分だと思うよ」


「俺が猫の獣人だと言ったことあったか?」


「無い。でも猫でしょ? 見ればわかる。猫好きを舐めないでよね」


 そういって紅茶を啜ると、カルロはぱちぱちと数回まばたきをしてから苦笑した。


「ありがたく使わせてもらう」


「ん」


 大事そうに懐にしまったのを見守ってから、ロレンツォは皿を重ねた。

 綺麗に平らげてくれたお陰でほとんど汁気もない皿を洗ってから、ロレンツォは調剤部屋に入り、ふぅ、と嘆息した。


「どうしよ……」


 国家の眼を掻い潜って地下深くに潜る犯罪組織、通称「ドブネズミ」。

 構成人数、およそ数百人に渡る巨大な組織にギルド側の情報を流すスパイをしているのが、ロレンツォであった。


「さいあく」


 チビの大きな体に抱きつきながら、ロレンツォは苦味の強い感情を振り払うように眼を伏せた。

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。






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