来訪者たち
アロガントは電柱を振り回し、《アーマードロウ》の騎槍を弾き飛ばす。否、《アーマードロウ》はわざと騎槍を手放したのだ。
相手の大振りに隙を見出し、騎槍を手放しながら《アーマードロウ》はアロガントの懐に潜り込む。同時に左義手による掌底が叩き込まれ、アロガントは為す統べなく吹っ飛んでいく。
壁面に叩きつけられ落下するも、アロガントは再び立ち上がる。
そんな《アーマードロウ》の横に、唯とリンの《バーンド》が並び立つ。
「正常に機能しているようだな」
エイトが、《アーマードロウ》が《バーンド》を一瞥しながら言う。
「向こうはなんか異常っぽいけど」
唯は、《バーンド》は咆哮を上げるアロガントを見据えながらそう返す。
「ところで」
飛びかかってきたアロガントの電柱を、即座に形成した騎槍で防ぎながら《アーマードロウ》は言葉を続ける。
「こいつにも名前を付けるのか?」
エイトはリンに向かって問いかけているのだろう。リンは溜息を返す。
「識別名は付けたい、けど特徴が少なくて。仮として、《ストレンジャー》アロガントでいくわ」
特徴がなくても付けるんだと思いながらも唯は、《バーンド》は《ストレンジャー》アロガントを殴りつけて《アーマードロウ》から引き剥がす。
「了解した。それのテストも兼ねているのだろう。俺がディフェンス」
「こっちがオフェンスだ!」
二騎のレリクスが同時に駆け出す。体勢を立て直した《ストレンジャー》アロガントへと、《バーンド》は炎を纏った跳び蹴りを放つ。着弾と同時に爆発し、衝撃がアロガントを襲う。並の相手ならそれだけで消し飛んでいる所だが、《ストレンジャー》アロガントは身を捩って後退しながら電柱を振り回す。
カウンター気味に繰り出された電柱は、無視できない破壊力を秘めている。しかし、《バーンド》はこれを無視して着地する。
「凌ぐだけなら」
横合いから騎槍が差し込まれ、電柱を弾く。
「造作もない」
《アーマードロウ》はそのまま騎槍を振り上げ、《ストレンジャー》アロガントをかち上げようとする。しかし、《ストレンジャー》アロガントは空いている方の手で騎槍を受け勢いを殺す。
「これなら」
一方、余裕をもって体勢を整えた《バーンド》は、燃え盛る炎を全身に宿し、《ストレンジャー》アロガントへ肉薄する。
「どうだ!」
《バーンド》の連撃が炸裂する。左フックからの右ストレートでよろめかせ、軽く飛び上がってからあびせ蹴りを放ち着地と同時に右アッパーをかます。攻撃全てに炎が宿り、命中する度にそれが爆ぜる。
アロガントは打ち上げられ回転しながら落下している。
「当たってはいるけど」
リンが呟く。唯は頷く。
「ちょいちょい電柱で防いでた。反応というか勘というか。よく動く」
《バーンド》の攻撃を、食らいながらも対応していた。
横に並んだ《アーマードロウ》から、少女の溜息が漏れる。
「めんどくさ。あの図体でガードすんなよ」
「防御の技、というよりは。獣のそれだな」
ゼロが文句を言い、エイトが所感を述べる。《アーマードロウ》も、概ね同じような意見のようだ。
「まあ、それなら防げない攻撃をする」
唯は、《バーンド》はそう言うと走り出す。《バーンド》はアロガントの落下地点へ滑り込むと、右義手でレリクト・シェルを掴み、手の平の上で燃焼させたそれを地面へと叩き付ける。
「炎の檻、こいつはどう動こうが!」
地面が揺らぎ、炎が駆け巡る。それらは赤熱化した鎖となり、《バーンド》の周囲をうねる。
それらは鎌首を上げる蛇の如く、落下してきた《ストレンジャー》アロガントへと食らいつく。
炎の鎖は、瞬く間に空中にいたアロガントを囲い込んだ。
《バーンド》は立ち上がり、炎に絡め取られたアロガントへと右義手の手の平をかざす。
「お前を焼き尽くす!」
そう宣言し、《バーンド》は右義手の拳を握りしめる。それに連動するように、アロガントを捕らえた炎の檻はその温度を上げる。
レリクトの炎は際限なく熱を上げ、それらは赤熱を通り越し極光へと至る。金切り声にも似た音が鳴り響き、その極光が破壊へと切り替わっていく。
「これで」
「あ、まずいかも」
決めようとした唯に、ぽつりと零すリン。何がまずいのか聞き返す前に、唯はその異変を感じ取る。炎が消え、熱が冷めていく。《バーンド》自身も、アロガントを囲う炎の檻もだ。
《ストレンジャー》アロガントは、全身が焼け爛れた状態ながらまだ生きていた。同じく 焼け爛れ、だが形を保っている電柱を振り回し、熱を失った鎖を破壊する。
「ちょ、っと! 逃げられる!」
「オーバーヒートよ。加減しないで使うとこうなるのね」
《ストレンジャー》アロガントは、跳ね飛びながら後退している。全身焼けているだけあって、動きは多少鈍化しているものの。このままでは取り逃がす。
唯は焦るも、リンは冷静だ。
「再起動掛けてる。一発で仕留められる?」
「やるだけやるよ! エイト、俺を殴れ!」
《バーンド》の炎は徐々に灯りつつある。返事を待たずに、《バーンド》はその場で飛び上がる。
「では殴る」
即座に意図を読み取った《アーマードロウ》が、騎槍を振り抜いて《バーンド》を殴打する。《バーンド》はタイミングを合わせて騎槍を蹴り抜き、爆発を伴いながら一直線に飛翔する。
狙いは当然、逃げようとする《ストレンジャー》アロガントだ。
その馬鹿でかい背中目掛け、《バーンド》が右の拳を握りしめる。
これでこの戦いは終わる。飛翔した《バーンド》が着弾と同時にアロガントの背中を撃ち抜き、今度こそ決着を付ける。
誰もがそう思っていた中、離れた位置にいた《アーマードロウ》だけがその影を見つける。
「エイト」
「……人か? いや」
ゼロが警戒を露わにした声を発しエイトが目を凝らす。ビルの屋上にいたそれは、間違いなく人影だ。だが、あろう事かその人影はビルから飛び降りた。真下には、逃げようとする《ストレンジャー》アロガントがおり、今まさに《バーンド》レリクスがそこへ追い付こうとしている。
飛び降りた人影は、黒い靄を纏い落下していく。そう、であるならばあれは。
「レリクスか」
「たぶん」
エイトとゼロは結論を見出すも、最早何をするにも手遅れだった。
やがて三つのレリクトは重なり合う。一つは唯とリンの《バーンド》、もう一つは《ストレンジャー》アロガント、そして最後の一つが。
「黒いレリクス」
ゼロがその姿を、簡潔に呟いた。




