最強の一角
唯と唯、炎と氷は交わらない。互いの信念を押し通し、雌雄を決するのみだ。
彼らの戦いを見ることは出来ないし、激戦の余波を感じ取った訳でもない。
それでもエイトは、そうなるだろうという確信を持っていた。
地面に膝を付いたまま周囲の様子を窺う。目の前には強敵、《ディメンシャード》レリクスが佇んでいる。のっぺりとした銀色の外装、七色に発光するエネルギーライン……今は静止しており、発光の明滅もゆったりとしたものに変わっていた。
《ディメンシャード》を幾度となく破壊したが。その度に復活し強くなった。
エイトは次に、それを成し遂げた男を見る。《ディメンシャード》の向こう、少し離れた位置にいる白衣の男だ。プラトーのドクターであり、《ディメンシャード》の開発者らしい。
白衣の男は、その平坦な目で全てを捉えている。《ディメンシャード》の挙動も、倒れつつあるこちらの状態も。
そう、倒れつつある。全力で戦い、それでも《ディメンシャード》を完全に倒すことは出来なかった。自分は膝を付き、緑と光は地に伏している。こちらは既に、レリクスの維持すら出来なかった。
全員が死力を尽くし、それでも届かず唇を噛む中で。最初に立ち上がり一歩踏み出したのは自分ではなく、彼女だった。
「もう一度言うけど。あたしは、そんな未来はいらない」
土や泥、砂塵に血……汚れても尚煌めく金髪が揺れる。金色少女、ゼロはふらつきながら一歩二歩と歩き、しかしそこが限界だったのだろう。膝ががくりと曲がり、地面に座り込む。
「はあ。ほんとのほんとに一歩も動けない。一発ぶん殴ってやろうと思ったのに」
まあいいけど、とゼロは呟く。そして僅かにこちらを振り向く。その横顔に、表情らしい表情はない。いつも通りの、少し不機嫌で神経質な無表情だ。
ゼロは何も言わない。だが、エイトはその言葉を噛みしめる。
未来……ここで《ディメンシャード》を倒せなくとも、殺されることはない。なぜなら、結局の所これも実験だからだ。プラトーは《ディメンシャード》という最強のレリクスを完成させ、身を守る術を手に入れた。
随分と窮屈な未来になることだろう。プラトーと戦う上で、《ディメンシャード》は大きな脅威となる。
ゼロは、そんな未来はいらないと言った。つまり。
「変えてみせろと。時々思う。君は中々に我が儘だ」
「時々ならいいじゃん」
にべもなくそう返してくる。エイトは一瞬だけ口元を緩め、ちらと後ろを見た。地に伏し、倒れた緑と光がそこにいる。
二人は動かない。だが、エイトはそれを額面通りには受け取らなかった。
「……後は任せたぞ」
エイトは小声でそう呟く。返事はない。それで良い。
全身に力を入れ、エイトは立ち上がる。外れかけていた左義手型アームドレイターを、気付け代わりに殴りつけ、音を立てて装着する。
「プラトーのドクター。二つほど確認したい」
エイトは一歩踏み出す。激痛で目の前が眩む。
白衣の男は、こちらを指し示すハンドサインを行う。肯定と捉え、エイトは続ける。
「《ディメンシャード》は偶発的に完成したと言ったな。ここにいる《ディメンシャード》を破壊すれば、《ディメンシャード》を再構築することは難しく、次元システムとやらは使えなくなる。そう考えていいのか?」
白衣の男は頷く。
「そこが一番の問題点と認識している。偶発的に次元が開き、偶発的に《ディメンシャード》と共鳴する何かが私の下へ来た。再現性は最低クラスと言っていい。加えて」
白衣の男は首を横に振る。やれやれと、自分に対して呆れているような仕草だ。
「それを前提にして構築した次元干渉網は、《ディメンシャード》の不在によって無用の長物となる。もっとも、いつかはこの手で完成させるつもりだ」
なるほどとエイトは頷く。次元干渉網……《ディメンシャード》に無尽蔵のエネルギーを与え、破片の代替の役割も担っている。このシステムが完成したせいで、《ディメンシャード》は何度でも蘇り、強くなる。
だがそのシステムすらも、今ここにいる《ディメンシャード》を中心に設計されていた。
やはり、この《ディメンシャード》を片付けるのが手っ取り早いということだ。
エイトはもう一歩踏み込む。本能がもう動くなと警鐘を鳴らし、理性が今動かずにいつ動くのだと自分自身を説き伏せる。
「前提条件は理解した。では、最後の確認だ。《ディメンシャード》をバックアップしている次元干渉網。これは、地球上全てを網羅しているのだな?」
「そうだ。出力の濃い薄いはあるが、実用に問題はない。この地球のあらゆる場所で、《ディメンシャード》は活動出来る」
白衣の男、その目に好奇の色が混ざる。
「次元濃度の薄い場所なら、或いは勝てると?」
エイトはその問いには答えず、ただ口元を緩める。そして、座り込んでいるゼロの隣に立つ。
二人は視線を合わせる。多くを語る必要ない。彼女が何を望み、自分が何をしたいか。全て分かっているからだ。
だが、それでもエイトは口を開く。
「ゼロ……命を貰うぞ」
端的な宣言、それだけで充分なのだ。
少女は歯を見せて笑みを浮かべる。年相応の笑顔は、エイトをまっすぐに見上げていた。
「……全部あげるよ」
端的な返答、それだけで充分だった。ゼロは右手を振り上げ、白金の弾丸を直上に投げる。それだけではない。少女の姿が燐光となって舞い上がり、自らが投げた弾丸へと集約する。
落下してきたそれを、エイトは右手で掴む。白金の弾丸は、金色のラインで装飾されていた。
《アーマード》が堅牢なのは、何も見た目だけではない。そのシステム構造も偏執的に強固であり、それ故にゼロの安全が担保されていた。
だが、これは違う。その強固なシステムでは超えられないものを超える為、強引な手段を選んだ。
左義手型アームドレイターのボルトハンドルを操作し、チャンバーを露出させる。そこへゼロそのものである白金の弾丸を押し入れ、流れるような手付きでボルトハンドルを元に戻す。
その瞬間、エイトを中心にレリクトが炸裂した。
『ArchiRelics......《0》』
炸裂したレリクトの波は、黄金の結晶となってエイトの周囲に形成されている。それだけではない。長方形のプレートが生じ、エイトの周囲を回り始めた。
「《アーマードライブ》では速度が足りず」
『liveA』
エイトは長方形の一つに触れる。それは翻り、左義手型アームドレイターへと溶け込んでいく。
「《ブレイクドライブ》では剛性が足りない」
『liveB』
エイトは追加で長方形に触れる。それもまた翻り、義手の中へと溶けていく。
「ならば、どちらも使うまで」
『liveC』
更にもう一つ、長方形に触れる。それもまた翻り、煌々と輝くアームドレイターへと取り込まれていく。
エイトは左義手の拳を眼前に握り締め、レリクトの奔流を感じ取る。ゼロの声は聞こえない。だが感じることは出来る。
エイトは左義手を背面に引いてから、地面を踏みしめ掌底を繰り出す。
「変身!」
『Turned......A.B.C.S.ofResolve......』
力強い掌底と共に始動キーを叫ぶ。掌から生じたレリクトは、黄金の輝きとなってエイトを包み込む。
白金の重装に黄金のライン……《アーマードライブ》の外装は瞬時に形成された。だが、これで終わりではない。
「炎を宿したリンは、炉心となることで極限の炎熱を武器とした。ならば!」
エイトは左義手を直上に突き上げる。その手の先で、黄金の結晶が形成された。その塊は、見る見る内に巨大なものへと変わっていく。
「君を炉心として、俺は!」
エイトは左義手を振り下ろす。同時に、直上に形成された巨大な金結晶が降下する。その結晶とレリクスはぶつかり合い、融和を始める。
『......《ABsoluteRelics》』
結晶が砕ける。白金の重装に金結晶の鎧……ゼロを炉心とし、エイトは《アブソリュート》レリクスとなった。
「君の未来へ続く、勝利を手にしてみせよう」
エイトはそう宣言する。《アブソリュート》レリクスを覆う金結晶が、意思を宿すように煌々と輝いていた。




