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ブランクアームズ -BloodRhizome-  作者: 秋久 麻衣
-歪む時空、氷と血-
3/12

終わりの見えない戦い


 唯とリンはだだっ広い施設の中を歩き、指定された一室へと向かう。酒は結局買えなかったとか、他愛のない話をしながら入室する。

「ただいまー」

 唯が気の抜けた挨拶をする中、リンはさっさと中に入り、部屋の一角に集積された物資を検分し始めた。

「遅かったな」

「また道草?」

 金髪の青年と金髪の少女が、それぞれの趣味に没頭しながらそう返す。金髪の青年、エイトは読書を、金色少女、ゼロは携帯ゲーム機片手に菓子を摘んでいる。

「おかえりなさい、唯くん」

「おかえり唯兄」

 作業の手を止め、車椅子を回転させ挨拶を返してくれた女性が鈴城(すずしろ)(みどり)、同じく作業の手を止め、手を挙げてくれた少年が狗月(いぬつき)(ひかる)だ。

 唯はあらかじめ入手しておいた菓子の詰まった袋をゼロに贈呈してから、手近な椅子に座り込む。

 エイトとゼロ、緑と光はプラトーへ対処して貰っていた。本当なら自分達もそれに参加する予定だったが、急遽アロガントが出現、それに対処したのだ。

「そっちも特に問題なかったみたいだね」

 唯の問い掛けに、エイトはふむと答える。

「殆ど無血開城のようなものだ。多少の抵抗で足止めし、避難する。ブービートラップの類もなし」

 ゼロは鼻で笑う。

「何か企んでるのか、何も出来ないのかは分かんないけどね」

 ドクター・ウォームとの決戦を経て、プラトーは徹底してこちらとの交戦を避けるようになった。かといって、こちらの目的が変わった訳ではない。

 レリクト・デバイスを破壊し、プラトーを殲滅する。レリクトという元素を、地上から消し去る。

「そちらはどうでしたか? 左義手の具合とか」

 緑の問いに、唯は困ったように左義手で手を振る。ぎこちない動きを見せると、やはりといった様子で考え込む。

「エルさん抜きで完全制御は難しいですね。かといって、これ以上レリクトを操作系統に入れるのはどうかと思いますし」

 エル……今はいない、かつてはここにいた少女を思い返す。プラトーの施設で、部品として使われる予定だった彼女は、自らの意思で違う未来を見出した。

 だがその結果、彼女は自分の目の前で死んだ。自らの意思で、その細い首を切り落とした。でも、それで終わりではない。終わりではなかった。

 彼女の意思は左義手に宿り、決戦まで自分を、皆を支えてくれた。今はもう、ここにはいない。遠い場所へ、彼女の望む場所へと旅立った。

「まあ、慣れていくしかないよ」

 そう唯は返す。そんな唯に緑は寂しげな笑みを見せる。そんな中、光がそういえばと口を開く。

「唯兄、あれは? えっと、ミラージュフェイザー、だっけ」

 光の問いに、ああと唯は頷く。

「なんかダメだって」

「ダメじゃない! もうちょっと時間が必要なだけ」

 唯が簡潔に伝えると、真横からリンによる訂正が飛んでくる。

 唯は自身の左義手を、ぎこちないそれに視線を落とす。

「エルがいないと《ブランク》ぐらいしか使えない。腕を取り替える系はなんか、よく分かんないけどダメらしいし」

 《ブレイド》に《ブラスト》、《ブリンク》に《アブレイズ》……これらは今使えないということだ。

 もっとも、現状の敵戦力ではそこまで困ることもないのだが。

「その為のミラージュフェイザーよ。貴方も私もレリクト制御に大分慣れてきている。そこに私の炎と貴方の変換力を組み合わせれば、実体のある陽炎を作り出せる」

 実体のある陽炎は陽炎ではなさそうだが、そこには突っ込まずに唯はリンを見る。

「となると、時間を伸ばす方向で頑張る感じ?」

 今日の戦いを見る限り、使い勝手は悪くなかった。三十秒はさすがに短いが。

「そうね。ミラージュフェイザーに関してはそう。だけど、まずは。緑?」

 リンに声を掛けられた緑は、光に何かを手渡す。光はリンに駆け寄り、それを渡した。

「仮組みですけど。形にはしました」

 緑が簡潔に報告する。リンは頷き、にやと笑みを浮かべる。

「緑が苦心していた奴か。それは何が出来る?」

 聞いていないようで聞いていたのだろう。エイトが本から視線を外し、リンの悪い笑みを見据える。

「炉心よ。ミラージュフェイザーはこれまでの積み重ねを無駄にしない為の施策で、これも方向性としてはそれに近しいけど」

 リンはその場で座り込み、手渡された機構をいじり始める。

「より新機軸で、今の私達に合った方法がこれ。やっぱりこっちの方が速く形になるかもだわ」

 上機嫌そうなのは結構だが、何を言っているのかは分からない。エイトは分かっているのか分かっていないのか、ふむとだけ呟きまた本に視線を落とす。

「ま、そのご自慢の発明品が、使わずに済むといいんだけどね」

 興味なさげにゼロが呟く。散らかしたい放題散らかしているゼロは、床に寝転がりながら怠惰の極みといった様相を呈している。

 だがまあ、ゼロの言う通りだろう。準備を怠るべきではないが、使わずに済むならそれが一番だ。

「それに関しては問題ないわ。絶対使うことになるから。賭けてもいいわ」

 自信ありげにリンはそう返す。

 まあそうだろうなと、唯は溜息を吐く。

 敵はプラトー、常人の考えを超えた天才が相手なのだ。

 時間を掛ければ掛けるほど、脅威は増えていくだろう。それこそ、こちらが思いもしない奇抜で、致命的な脅威を。プラトーなら見い出せる。

「でも、続けるしかない」

 唯は小さく呟く。悪戯に命を奪うような真似はしない。結果長期戦になろうとも、自分はこの道を選んだ。

「そうだな。どんな脅威も殴りねじ伏せ、最後まで立ちはだかることで勝利する。君の戦い方だ」

 小さな呟きを拾い上げたエイトが、本から視線を外さずにそう告げる。唯は頷くも、ちょっと待ってくれと疑問を口にする。

「あのさ。俺ってそんなに分かりやすいかな? 一言しか喋ってないのにつらつら読み取るじゃん」

 そんな唯の問いに、エイトはふむと答える。

「書痴の慧眼、と言いたいところだが。それ以上に君は分かりやすいので、質問に答えるとしたらイエス以外の返答は存在しない」

 イエス以外の言葉を長々語っているが、要するにイエスということだろう。

 ああでもないこうでもないと言い合う二人を余所に、リンは黙々と機構を調整しては笑みを浮かべていた。

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