プラトーの在り方
白い天井に白い壁、白い机に白い椅子、何もかもが白い部屋で、一人のドクターと二つのホログラムが顔を合わせていた。
一年に一度あるかないとといった具合の会議が、ここ最近は随分と増えてしまった。
「この光景も見飽きてしまったな」
男がぽつりと漏らす。相も変わらず平坦な声だったが、そこにはちょっとした皮肉が込められている。
『いやはや、懐かしむ暇もないか』
ノイズ混じりの機械音声がそう切り出す。
『まあ、旧友と語らうのは嫌いではない。この界隈にいると、友人は得難いものだからな』
そう言って機械音声は溌剌に笑う。
反対に、もう一人の男は小さく首を横に振る。
『友人との語らいを否定するつもりはありませんが、目の前の問題を避けては通れませんよ』
柔和な男の声が、呆れ半分といった様子で続ける。
『プラトー全体の進捗は日に日に低下しています。不満の声はそれなり、資産的損失も拡大中……これが続けば、プラトーはその理念を失います』
ほう、と機械音声が興味を示す。
『ちなみに、現状のままとして。どれだけ保ちそうかね?』
プラトーの理念を……挑戦と未来を失う。そのタイムリミットを、機械音声は問う。
それに対し、柔和な男の声はそうですね、と口を開く。
『襲撃ペース、被害規模がこれまでと大差ない場合、五年は保ちますよ。襲撃者は、プラトーを構成するもっとも重要なパーツには手を付けませんから』
もっとも、と柔和な男の声は続ける。
『そこまで放置していては、プラトー内部に相当不満が溜まっているでしょうね。内側からあっさり、といった結末もあり得るかも知れません』
そんな意見に、男は小さく頷く。
「それは」
『面白いな』
平坦な男の声と機械音声が、どこか楽しげにそう答える。柔和な男の声は溜息を返し、彼のホログラムがやれやれと首を横に振る。
『何も面白くありませんよ。内部抗争で瓦解なんて凡庸も凡庸じゃないですか』
『そこは天才の集いだ。多少は期待出来るんじゃないか?』
そう返し、機械音声は笑う。だが、彼は自ら咳払いをし場をリセットする。
『まあ本題に入るとするか。顔馴染みは、どうにも気が緩む』
ですねと肯定を返しながら、柔和な男の声が議題を口にする。
『プラトーへの襲撃、その対抗策ですが。そちらでプランを準備中と聞きましたが』
話を振られ、男は頷く。
「基本に忠実でいこうと思う。レリクトを凌駕するのはレリクトのみ。レリクスはレリクスで対処する」
『だがねえ。あの三騎は、素人目で見ても次元が違うぞ? 特に灰色の奴がやばい。最高だ』
機械音声が興奮を隠そうともせずにそう言う。
『暗殺、或いは戦略兵器での抹消は考えていない、ということですか?』
柔和な男の声もそう問いかける。
「暗殺は可能だ。有効手段の一つだろう。レリクスとなっていない状態であれば、戦闘能力は格段に下がる。手段を選ばないというのであれば、人道には背くが人質なども有効だろうと見ている」
それに、と男は続ける。
「戦略兵器による対処も変わらず有効だ。こちらも人道には背くが、街一つ、国一つと引き替えに消滅させることは出来る」
だが、と男は二つのホログラムに視線を向ける。
「それはあまりにも」
人質を取り、生身の彼らを殺害する。或いは、国を地図上から消すようにして霧散させる。その手段はあまりにも。
「面白くない。故にレリクスを創造し、これをぶつける」
男の意見に、機械音声は笑い柔和な男の声は
溜息を吐く。
『いい。いいじゃないか。プラトーの存亡よりも実験を優先する。これだよ。プラトーのドクターはこうあるべきだ』
『止めはしませんがね。実際、興味はありますし』
旧友二人の声に頷きながら、男は話を続ける。
「こちらで構築予定のレリクスだが、ほぼ完成していると見ていい。あとは中身を見繕うだけだが、これが難しい」
難しい。その言葉だけで伝わったのか、機械音声がおいおいと興味ありげに身を乗り出す。
『まさか、お前さんのライフワーク絡みか? マジかよ! こりゃあ確かに、ミサイルなんぞ撃ってる場合じゃねえな!』
『つまり、それの目処が立つまで堪え忍んで下さいと。そういうことですね?』
機械音声は興奮しながら、柔和な音の声は呆れながらそう返す。
「ああ。今すぐは無理だろうが、そこまで待たせるつもりもない。このレリクスも所詮、理論の上辺だけをなぞっているに過ぎない」
そう話を纏めようとした時、男の携帯端末が警告音を発する。それを手に取り、内容を確認していく。
「これは……」
『こっちでも確認したぜ。異常なエネルギー反応、見ない波形だな』
『座標は二つ。一つは市街地、何の因果か彼らが滞在している場所の近くですね。二つ目が』
男は眉をひそめる。二つ目の座標は、そう。
「ここか。正確に言えばここではなく」
携帯端末を操作し、場所を特定していく。といっても、検討は付いていた。
「やはり……《ディメンシャード》か」
外装は完成している、あとは中身を見繕うだけ。そんな空っぽの《ディメンシャード》レリクスへと、そのエネルギーは集約していく。
弱ったな、と男は舌打ちをする。
「事例が突発的過ぎる。再現性が低いな」
『だが……利用しない手はない。だろ?』
男は頷く。当然だ。
思う事はあれど、プラトーのドクターとして最後に残るのは、結局この感情なのだ。
「これはこれで、面白い実験になりそうだ」
やはり機械音声は笑い、柔和な男の声は溜息を返した。




