再会の炎
《バーンド》は《ディメンシャード》を追い詰めた。だが、それ以上の成長を以て《ディメンシャード》は《バーンド》を、唯とリンを追い詰めた。
《ディメンシャード》に慈悲はない。放たれた斬撃波は、数瞬後にここを通り過ぎ、生身の自分達を絶命させるだろう。
死は眼前に迫っていた。
その瞬間、空が瞬く。
死がここへ辿り着くよりも速く、それは飛来し唯の目の前に降り注いだ。《ディメンシャード》の放った斬撃波は、それに阻まれて霧散した。
唯は目を見開く。降り注いだもの、それは灰色の結晶だ。
知っている色だと、唯は痛みの走る身体を動かし立ち上がる。
灰結晶は瞬き、広がるようにして唯とリンを包み込む。結晶に包まれながら、その表面の反射にいつか見た少女の姿を捉える。
それは夢か幻か、すぐに消えてしまったけれど。唯にとってはそれで充分なのだ。
左義手の手の平を握りしめる。機械的な動きではない。人のような自然な動作……唯はリンと視線を交わし、互いに頷き合う。
唯の行きたい方に私も行く。彼女は、確かにそう言っていた。
「また……力を貸して貰う」
そう唯は左義手に話しかけながら、左手を振って灰結晶のベールを取り払う。
二人を包む灰結晶は、唯の意思で砕け道を開けた。
《ディメンシャード》は変わらずそこにいる。こちらは今も傷だらけ、だが。
「三人掛かりなら負ける気がしない」
「そうね、好きなだけ暴れなさいな」
唯とリンは笑みを交わす。唯の右義手とリンの左手、二つの拳がぶつかり合った。リンは右義手の中へと入り、その熱を高める。
『ArchiRelics......《blank》』
《ディメンシャード》が、今度は連続で斬撃波を放つ。乱用される死を前に、唯は右義手をかざすのみ。その手の平には火球が形成されており、その熱を斬撃波は切り裂けない。
そして、唯はその火球を握り潰した。爆発で炎が広がり、《ディメンシャード》は飛び退く。
『resonate......《Burned》』
右義手を中心に、炎が渦巻いていく。その炎を更に燃え上がらせる為に、唯は右の拳を握りしめ後方に引き絞る。
「変身ッ!」
『Turned......BurningDawn......』
右ストレートを放ち、当然のようにそれも爆発する。爆炎が唯を覆い隠すも、その炎熱すら取り込んで外装が形成されていく。
灰色の外装、その右半身に深紅の炎が宿る。
『......《BurnDed》Relics』
右義手を真横に振り払い、余燼を霧散させる。唯とリンは《バーンデッド》レリクスとなり、左の手の平と右の拳を打ち付ける。
「さあ行くぞ。やるべきことをやらせて貰う!」
そう宣言し唯は、《バーンデッド》は駆け出した。
一歩踏み込む度に炎が溢れ、足跡を残していく。煌々と燃え盛る《バーンデッド》は、《ディメンシャード》の繰り出す斬撃波を物ともせずに突進、右の拳を振り抜いた。
《ディメンシャード》は両手をクロスさせ、それを防御する。
この拳が《ブランク》、或いは《バーンド》の物であれば、それで良かったのだろう。
「止まるかよ!」
しかし、《バーンデッド》の拳は違う。構わず振り抜き防御を貫通、全身を焼かれながら《ディメンシャード》は吹き飛ばされる。
燃えながらであっても、《ディメンシャード》は空中で回転し体勢を立て直そうとしていた。
「それもさせない!」
《バーンデッド》はバレルフェイザー、ベルセルクフレイルを形成し右手で掴み、それを振り上げてから振り下ろす。
赤熱化した鎖が音を立てて延伸し、その先にある棘だらけの火球が空中にいる《ディメンシャード》に直撃、これを叩き落とした。
《バーンデッド》は鎖を引っ張り、棘火球を自身に引き寄せながら走り出す。
その隙に、《ディメンシャード》は立ち上がろうと動き出した。まだ、《バーンデッド》はそこに辿り着けない。
「だから」
しかし、《バーンデッド》は走りながら、戻した棘火球を蹴飛ばした。
「させないって!」
再び鎖が音を立てて延伸し、サッカーボールよろしく飛来した棘火球は《ディメンシャード》の胴に直撃した。
今度は吹き飛ばず、壊れた玩具のように痙攣し足をばたつかせ、ふらふら後退している。
「言ったろうが!」
駆け寄りながら《バーンデッド》は鎖を引き、それを右腕に巻き付ける。引き寄せられた棘火球の根本を右手で掴むと、フレイルとしてではなくシンプルな鈍器として棘火球で《ディメンシャード》殴りつけた。
技も何もない、強いて言うなら暴としか表現しようがない振り下ろしによって、《ディメンシャード》は膝を付く。
《ディメンシャード》は緩慢になった動きで、右手を突き出し光剣を《バーンデッド》に突き立てる。
その攻撃に対し、《バーンデッド》は身体を捻るだけで対処した。右半身を向け、光剣を敢えて受けたのだ。
右半身は紅蓮の炎に包まれている。光剣は、今この瞬間であっても強大なレリクトを発していた。触れるもの全てを破壊するだろうことは、想像に難しくない。
だが、その光剣は炎を抜けなかった。
「レリクトはレリクトで超える、だっけか」
リンがそんなことを言っていた気がする。
《バーンデッド》は焼けた光剣を蹴飛ばして砕くと、そのままの流れで相手の膝を踏み抜き踏み付けた。
「お前のそれはその程度だって事だよ。じゃあ壊すぞ」
そう宣言し、《バーンデッド》は右腕を振り上げる。そこには棘火球が握られている。
《ディメンシャード》がぶるりと震えた。実際はただ痙攣しただけかも知れない。その反応が生物的なのか機械的なのかは分からないが、そもそも唯にとってはどちらでも構わない。
なぜなら、壊すと宣言したからだ。
《バーンデッド》は棘火球を振り下ろす。一度や二度ではない。何度も何度も、全身のバネを活かして力の限り振り下ろす。
《ディメンシャード》はたまらず防御するも、《バーンデッド》は構わず振り下ろす。四、五発も叩き込めば腕はひしゃげ、だらりとぶら下がるからだ。
殴打は更に速度を上げ、殴られ続けたのっぺりとした頭部はぶらぶらと垂れ下がり始めた。
一際大きく振りかぶり、棘火球を相手の胴体に投げ付ける。火の粉を散らしながら、棘火球は胴体に突き刺さった。
《ディメンシャード》は時折痙攣しながらも、まだ動いてはいた。踏みつけた膝は千切れかけ、両腕は地面をうぞうぞと這い、頭部はふらふらと揺れている。
そして胴体に刺さった棘火球に、《バーンデッド》は右足をあてがう。軽く乗せているように見えて、その実しっかりと押さえ込んでいた。
《バーンデッド》はレリクト・シェルを数発握り、それをぱらぱらと《ディメンシャード》へと落とす。
落下したシェルが《ディメンシャード》本体や地面に当たり跳ねる中、《バーンデッド》の炎が一際大きく燃え上がる。
「今度こそ……終わらせる」
《バーンデッド》は右足に力を込め、そのまま棘火球を踏み潰した。
その瞬間、棘火球に内包された炎が炸裂する。それは周囲のレリクト・シェルを呑み込みながら火力と規模を上げ、《バーンデッド》以外の全てを焼き尽くしていく。
やがて炎と煙が過ぎ去り、静寂がこの場を支配する。
炎を宿したレリクスのみが、そこに立っていた。




