4-38 天と地の衝突
「ヒナ!こいつ倒してレイの方に合流するぞ!」
「了解!」
……まずい。俺も《空間把握》を使えるからわかる。
レイの相手がやばい。
今はレイが抑えてるが長く持ちそうにはない。
ここで炎に対する一番の回答のレイを失えばまた状況は不利に戻る。
せっかく作戦通りに奇襲が決まったんだ。
この有利をできるだけ保ちたい。
それにレイが出した冷気もまだ残ってるがいつまで残るかも分からない。
だから、さっさとこっちの敵を倒して合流する!
魔力の消費も惜しまない。
最短最速で撃破する!
「てめえらよくもラザとダグラスをやってくれたなァ!?《樹木の芽吹》!!」
魔術……名前からして恐らく木属性。
木属性の魔術は大半が地面から発生する。
なら──
「《土壁》!」
壁が作り出される勢いを利用して斜め上に跳ぶ。
地面から離れながら相手との距離を詰める。
そして予想通り植物が地面から生える。
しかし、生えただけで何も仕掛けてこない。
「《蔓よ、絡め取れ》!」
敵が追加で唱えたのと同時に植物、特に蔓が伸びこちらに向かってくる。
推測するにこいつは恐らく自分に有利な領域を作ってから受けるなり攻撃するなりする戦い方なんだろう。
それなら──
「ヒナ!全部焼き払ってくれ!」
「了解!《灼竜砲》!」
例の特異体質から放たれた焔で生まれたばかりの樹木が灰に変えられていく。
「チッ!わかってはいたが面倒だ!それにこの冷気に邪魔されて他の魔術が使えない!」
「だろうね!だから手伝いに来たよ!」
「サリー!?助かる!」
《空間把握》でわかってはいたがレイの方にいたやつが一人こっちに来た。
確かこいつの属性は雷だったはず。
だったら俺が相手したほうが相性がいい。
燃える地面から愛馬を作り考えを共有する。
「ヒナ!作戦通りにやるぞ!」
「わかった!《火壁》!」
「《土壁》!」
二人で壁を作り、互いに相性がいい方を引きずり込む。
レイが考えた作戦はことごとく嵌まるな。
これも練習しといてよかった。
分断作戦。
相手を分断し、有利な人がそれぞれ対応し各個撃破する作戦。
おかげで咄嗟に有利相性のやつとの戦いにできた。
「分断された……てことはこっちの属性もバレてるのか?おいおい容赦ないなぁ、マルク・ヴァルスさん?」
「悪いが会話に付き合う気はない。仲間が戦ってるんでな。《岩兵作成・巨兵》!」
地面の土を喰らい人の形を模した岩石の兵団を作り出す。
金属以外の土や岩は雷を通さないと本で読んだことがある。
なら、これが最適解のはずだ。
「行け!」
進行する巨兵の影に隠れながら俺も近づいていく。
巨兵が倒すまで悠長に待ってられない。
どこかで攻撃を仕掛けて早めに決着をつける!
「《雷閃》!」
接近する巨兵に向かって雷撃を放つが以前読んだ本の情報通り雷撃を防ぎきり、完全に無力化できた。
「クソっ!《雷閃》!……やっぱ駄目か!……退場するにしてもやれるだけやってやる!『晴天包む暗雲』『天上の雷鳴は神々の怒り』!」
「くっ……詠唱か!」
魔術師にとっての一番の隙である詠唱を唱え始める。
本来ならその隙を突くことが一番の方法とされているが、相手の雷を防ぐ盾代わりの巨兵の動きが遅いせいで攻撃を仕掛けようとしたら新しく魔術を使うか居場所を晒すしかない。
……多少危険はあるがやるしかない。
「『土壁』!」
もう一度跳躍し、間合いまで近づく。
そしてその勢いのまま剣を振り抜き、胴に赤い線が走り血が噴き出す。
それほど深くは斬ってないが放っておけば致命傷になる傷だ。
「がっ──『それは神々のっ──怒りの具現』!っ──『今墜ちるは裁きの雷』!」
しかし敵は致命傷も厭わず詠唱を紡ぎ続ける。
振り抜いた剣をさらに突き刺したが、間に合わない。
「ははっ──せいぜい防いでみせろよ!墜ちろ!《神雷衝》!!」
「くっ──《大地の護り》!《土壁》!《岩石殻》!」
間に合うだけ防御用の術式を発動させていく。
防げるかはわからない。なにせさっきとは術式の規模が違う。
レイ達につかった雷の何倍も魔力が込められている。
それに避けるのももう間に合わない。
だから、取れる手段全てを使う!
雷鳴が響き、矛と盾が衝突する。