4-32 前哨戦
「よし、行こう!」
「え、ちょっと待って」
「でも対戦相手出揃ってるぞ。それにレイは出番ないんだから手ぶらでもいいくらいだ」
「え、いや、さすがにそれは……」
「いいからいいから!」
「ああちょっ──」
手を引かれ無理矢理連れ出される。
やばい、ほんと最低限しか持ってこれてない。
辛うじて剣と杖は持ってきたけど散々用意した仕込みは何一つ持ってこれてない。
何もさせてくれなさそうだな……。
「さあさあ満を持しての登場だ!昨日は激戦を見せてくれた戦魔術師クラスレイチェル選手!今日はどんな活躍を見せてくれるのか楽しみですね!」
「そうですね!それに他の二人、ヒナ選手マルク選手もまだまだ未知数ですのでこれからどう動くか楽しみです」
グラウンドに出た瞬間歓声とやかましい解説に包まれる。
「毎度のことだが凄いな」
「だね……」
二人も私と同じ感想だ。
ほんと始まる前から疲れる。
「それでは!試合、始め!」
そうこうしてるうちに合図が響き、剣に手をかけ動こうとするが──
「レイはそこで見てろ」
「レイチェルちゃんは見てて!」
私を置いて二人が走り出す。
事前に組んだ作戦を完全に無視した動きを見る限り、本当になにもさせる気がないというのが伝わってくる。
……仕方ない。この装備だと無理に今から行っても邪魔になりそうだし二人の言う通り大人しく見とくか。
会場の端まで下がり、結界のそばで座り込み剣を置く。
まあ二人ならこっちに相手が来ることは無さそうだし本当に出番無さそう。
そして予想通り二人の戦いはどっちも安定して負傷せず、着実に勝ちに向かっていた。
相手の二チームは三人チームと四人チームで、三人チームをマルクが、四人チームをヒナが担当してる。
まあ妥当だな。マルクは体術剣術とかの近接戦が強くて一対一で確実に制圧していけるのに対してヒナはその魔力量や魔術の威力で多対一でも戦える。
あと戦闘スタイルも影響してる。
マルクは体術剣術メインでその補助に魔術を使ってる。
そしてヒナは魔術メインで近接戦はオマケ。魔術の大技を当てる隙を作るために剣を使ってる。
だからそれぞれの強みを前面に出すスタイルになっている。
実際そのスタイルがうまくハマってる。
マルクは着実に制圧し、ヒナはその小柄を活かして躱し弾き隙を作り出して一人一人脱落させていっている。
例の爆発による機動力もあるし尚更攻撃が当たらない。
まあ、小柄云々は私も言えないくらい小さいんだけど。
前世の身長が欲しい。
あ、最後の一人が降参した。
……なんか呆気なかったな。
とりあえず立ち上がって二人と合流する。
「とりあえず、お疲れ様」
「まあ余裕だったな」
「だね。準備運動くらいにはなったかな」
「そ、そう……」
まあ息も上がってないし魔力もそれほど使ってない。
本当に余裕だったんだろうけど失礼だからあんまりそういう事言わないで欲しい。
「それじゃあ控室戻ろうか」
会場を背に歩き出す。
「それじゃあここはヒナの担当でいい?」
「いいよ〜」
「それじゃここは俺が──」
決勝戦に向けて決勝戦の会場である闘技場の控室で改めて作戦を固めていく。
そしてその過程で、疑問が零れ落ちる。
「なあ、この作戦本当に上手くいくのか?下手したら一騎打ち以上に……」
「うん、まあ多少無茶だと思うけどいけると思う」
「まあ練習では上手くいってたし大丈夫じゃない?」
「それに上位魔術師クラスの方が人数も魔力量も上だと思うし真正面からやり合っても勝てないと思うんだよね」
「まあそれはそうだが……流石にこれは危なくないか?」
「マルクならいけると思う。この作戦はどこまで燃費をよくできるかが重要だからね。それに、並大抵の火力じゃ多分防がれるし、人数不利のなか大技通すならこれくらいしないと」
「まあそうか……」
うん。自分で言っててかなり無茶なことやろうとしてるとは思う。
けど実際こうでもしないとジリ貧だ。
なら、無茶だろうとなんだろうとやるしかないのだ。
「まあマルクが作ったの利用するだけだし多少は私たちで補強できるからこっちでなんとかするよ」
「……わかった」
「それじゃそろそろ装備確認して準備しとこ」
「そうだね」
これまで用意した仕込みを至るところに仕込む。
この作戦では魔力を補給する手段が要る。
だからこれまで刻印した魔術を還元して補給するため持てるだけ持っていく必要がある。
まあもとの使い方で使う必要が出てきたら普通に使うけど。
「よし……準備できたよ」
「こっちもだ」
「私も」
「よし……行こう」
闘技場のアリーナへ向かって一歩踏み出す。