4-25 一騎打ち
「一騎打ちか……」
「うん」
ああ、実況と外野がうるさい。
喉が渇く。心臓がうるさい。
きっとこんなことは前代未聞、前例のない提案だろう。
だからこそ、強気に通す。
表情を崩すな。フラフラするな。相手に弱みを見せるな。
「おい、審判!これはアリなのか?」
「えぇっと……前例はありませんが合意するなら私の独断でアリとします!」
審判から許可が降りる。
これで不安要素は一つ減った。ここで押し切りたい。
「もともとそっちの作戦はベインが一人で戦える状況を作って一人一人制圧していく戦い方でしょ?だったら状況は変わらないはず。そっちはやることは同じで戦う回数が減る。悪い条件じゃないはずだよ」
「ふむ……」
短く返事をして仲間と話しに行ってしまった。
唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
もう何秒経ったのかもわからない。
「いいだろう!その話に乗る!」
声高らかに、宣言する。
それと同時に観客席から歓声が沸き上がる。ついでに実況からも。
「では!勝利条件は変えず、戦う二人以外は最初から降参扱いとします!使う武器、技、魔術はこれまで通り制限無し!それでよろしいでしょうか!?」
「はい」
「ああ」
両者ともに提示されたルールに同意し、構える。
開始の合図と同時に、どこへでも、どこからでも攻撃し、対応できるよう剣に手を掛ける。
「それでは、始め!」
始まると同時に動き出す。
刹那の見切りとも言うべき状況で、選ぶのはこの世界独自の技術。
「《曇魔の涙》!」
「《地震》!」
しかし魔術を選んだのは相手も同じ、互いに有利なフィールドにするための魔術を放つ。
下手な攻撃魔術は使わない。
しっかり準備した魔術以外は多分すぐに斬り落とされて終りだ。
魔力は節約しなきゃこいつ相手はすぐ息切れするし隙にも繋がる。
だからこそ有利なフィールドにしたかったんだが、先に効果が出たのはベインの《地震》だった。
私のは高所から撃ち、着弾するまで時間がかかる。そうしないと限られた範囲しか塗れないからだ。
対してベインのは直接地面に干渉する。
そのわずかな時間、コンマ一秒にも満たない時間とはいえ、私だけが不利なフィールドが成立する。
そして、相手はその時間を見逃す程甘い敵じゃない。
「はぁッ!」
「っ!」
不安定な足場でフラつく私に容赦なく、遠慮なく踏み込み、その剣先を走らせる。
同時展開した《空間把握》でその軌道を観測し、かろうじて逸らすことに成功する。
しかしあくまで逸らしただけ。
急所も避けたし深くはないが、たしかにその剣先は私の左手脇腹を裂いた。
が、その程度の傷ならすぐに治せる。
無詠唱で《治癒》を発動させ、傷口を塞ぐ。
そしてここまでの一連の流れを経て、ようやく水滴が着弾し、私も、ベインも、何もかも巻き込んで全てを濡らす。
そして二合目が振るわれようとしたタイミングで、ベインの服を凍らせ、後に跳ぶ。
それにすぐさま反応したベインは火の魔術を発動させ服の氷を溶かしたがそれだけの時間があれば十分に距離を取れる。
ここまで散々後手に回ったが、これでようやく魔術を使える。
「はッ──!?」
取られた距離を詰めようと踏み込んだ瞬間、バランスを崩したようで前に進むことは叶わない。
もう片方の足を出し、なんとか倒れ込みはしなかったものの、時間をくれたのは事実。
その時間を使ってさらに魔術を構築する。
これは私も予想してなかったが多分ベインが使った《地震》の効果で地面を揺らしたからより深くまで水が染み込んでより柔らかくなったのかもしれない。
何にせよありがたい。
その数秒で取れる手段がさらに増える。
ここまでの魔術、読み合いの末、ようやく攻勢に出れる!
「『差し貫け』!《凍結氷牙》!」
染み込んだ水を喰らい、身長の倍は下らないサイズの氷柱を何本も生やし攻撃する。
流石にここまで準備したうえでの質量攻撃だ。そう簡単には防げないはずだ。
これでさらに時間を稼げた。
これでまた攻撃を仕掛けられる。
「『剣気を纏う氷晶よ』!『呼びかけに応え』『舞い踊れ』!」
ここで、切り札を一枚切る。
「《飛翔氷剣》!」