4-23 変質
視線から逃げるように控室に駆け込む。
「失礼な奴らだったな」
「うん……もう私次の試合までここから出ない……」
引きこもり宣言をし、苦労して買ってきた弁当を食べる。
おいしい……
「観戦には行かないのか?」
そういえば忘れてたけど時間はまだ十二時を回ってない。まだ試合をやってる時間帯だ。
けどなぁ……見に行きたい気持ちはあるが正直それより大人たちに囲まれたくないって気持ちのほうが強い。
マルクが釘を刺してはいたけどやっぱり一定数無視して来るやつはいるからなぁ……
まあここからでも情報自体は手に入るしいいか。
「うん。てか私ならここからでも《空間把握》視れるし」
「こんな遠くからか?」
「ざっくりとしか視えないけどね。結界にちょっと弾かれて魔力が通りづらくて」
「いや、ここから魔力届くの?」
「え、うん」
「えぇ……」
「え、何?なんか変なこと言った?」
「いや、基本遠距離用に組まれた術式でもない限り百メートルも離れれば魔力が霧散して魔術を維持できなくなるだろ」
「あ〜、それはまあ、練習次第でなんとかなったよ」
「なるもんなのか……」
「まあ特に《空間把握》は新しい感覚を伸ばしていくような術式だし、やりやすいのかも」
「そうなんだ……」
「ヒナも練習すればできると思うよ?とくにその魔力量があれば」
「無理!それは多分レイチェルちゃんがおかしいの!」
「そう?練習すれば意外とできるけどな」
まあ、普段使いしてたら多少は上達するのかな。
「ていうかそんなに練習してるなら『性質の変化』とか起きてるんじゃないか?」
あ、たしかにこれだけ使ってたら例の『性質の変化』とか出てくるかも。
でも今のところなんの変化もないし、初めて使ったときからなにも変わってない。
いや、ほんとは気づかないほど小さな変化があるのかも。
もしくは使う目的に応じて変化するらしいから同じ目的ばっかりで使ってたら気づけない?
あとは自分で意識して使ってようやく変化するとか?
「今のところ目立った変化はないかな。でも気づけてないだけかも。もしかしたらマルクとと視えてるものが変わってるかも」
「感覚が違うから変わったことに気づけないってことか」
「うん。正直使いやすいように使ってるだけだから気づかないうちに本来の性能から変わっててもわかんないんだよね。ていうかそれで変化するならマルクのも変化してるかもしれないし」
「たしかにな」
「じゃあさ、どんなものが視えてるかちょっとすり合わせてみたら?」
「そうだね。マルクはどういうふうに視えてる?」
ヒナの提案で互いの感覚をすり合わせて違うところを探してみる──が、帰ってきたのは予想外かつ、とてもわかりやすい答えだった。
「まず俺には『視える』って感覚がわからないんだよな」
「え?」
「俺の《空間把握》はなんか、『視える』ってより『感じる』って感じなんだよな。はっきり見えるより、感覚的に分かるというか。なんか勘が良くなるような感じだ」
「そうなんだ……逆に私ははっきり『視える』んだよね。魔力が弾かれたり薄まるとぼやけて視えるんだよね」
まさかここまで違うとは……
「じゃあ私は『視ること』、マルクは『感じること』に変化してるってこと?」
「恐らくそうだろうな」
「意外ともう変化してるんだね……気づかないうちに私のもなんか変わってるかも……気をつけよっと」
私は『視ること』、マルクは『感じること』か。
伸ばせる距離とか考えると千里眼とかそんな感じなのかな。
やっぱ情報を集めるためにしか使わないし、情報を集めるためには視るって先入観があったからこう変化したのかな。
話を聞いた感じマルクの方が便利そうだな……
ぶっちゃけ至近距離の戦いとかだと『視る』って工程が挟まってワンテンポ遅れたりでもしたらそれだけで不利になるしな……
こう考えると無意識のうちに戦うって使用方法を除外してたのかな……
現代人と異世界人の感覚の違いが出たかなぁ……
でもまあ戦う以外の用途だったら私のほうが使いやすそうだしな。
それに本来見えないはずのものが視えてるってだけで隠し玉やフェイントに引っかかりにくくなるし強いのは間違いない。
まあ気づけてよかったくらいに思っとくか。
というか他にも変化してるのあるんじゃないか?
……ちょっと探してみるか。