4-18 賭け
「な、なんということでしょう!?三十秒もかからず試合が終わってしまいました!今までの試合の駆け引きや熱い魔術の打ち合いは何だったのか!」
「ベイン君達の作戦勝ちですね。事前に用意してた策をきれいに通しましたね。彼は私の教え子の中でも一二を争うほどの実力者ですが魔術を絡めた戦いや集団戦が苦手でした。しかしその弱点を克服するための作戦を見事なまでに決めましたね!」
今の解説を踏まえ、脅威に対する作戦会議を始める。
「作戦がちゃんとしてるね。あの広さだと大規模な魔術使うと自爆するしベインの接近戦の強さを最大限活かしてる」
「だな。あの結界を破れないと一対一でベインと戦わなきゃいけない。閉じ込められたのが俺かレイならまだいいが……」
「十中八九真っ先にヒナが狙われるよね。こっちは顔も能力も割れてるし」
「だよね〜」
「でも、対策もある」
「問題は分断されることだから密集した状態で始めれば相手も分断しにくいだろうな」
「それに加えてこっちも結界を張れば抵抗できるかも」
「でも無属性魔術使える人いる?」
「だよね〜」
無属性魔術だけは他の属性とは性質が違うから扱える人が少ない。
まず魔術の基本は魔力で魔法陣を構築し、その魔法陣に魔力を通し、属性を付与することで起こる現象を魔術と呼んでいる。
しかし、無属性魔術には付与する属性がないのでイメージしづらい。それに可視化しづらいので調整も難しい。
《魔術壁》くらい基礎的なものなら魔法陣の構築が研究され尽くしてテンプレが開発されてるから読んで真似ただけでも発動自体はできるがそれを大規模かつ状況に合わせて使うのははっきり言って才能が必須だ。
そういう意味では無属性魔術使いを二人も仲間に引き入れられたベインはかなりがんばったんだろうな。
「じゃあ結界を破る手段を考えなきゃいけないのか」
「でも結構上手かったし簡単には壊せないかもよ?」
「ヒナから見てもか?」
「うん。あんなふうに厚みを変えられたら薄いところを攻撃したりとかはできないし一番分厚いところを壊さなきゃいけないって考えたらちょっと時間かかりそう。それに火って結界とかと相性悪いんだよね。多分マルクがやったほうが早いかも」
「たしか結界系の魔術って物理的な攻撃のほうが破りやすいんだっけ?」
「ああ。言ってしまえばあの結界も相手の魔力の塊だ。魔力どうしで妨害し合わない岩や氷に変化させてぶつけた方が効果的かもしれない」
「ん?妨害し合うなら結界も弱まるんじゃ?」
「いや、結界は防ぐことに特化した術式だ。だから押し合いには強くてこっちが一方的に弱体化して終わるだろうな」
「そうなんだ」
となると結局結界を破壊できそうなのは私かマルクだけか。
でもそうなると破壊は間に合わないだろうからヒナが真っ先に閉じ込められたら強制的にヒナが落とされる。
そうなると人数不利が前提条件になる。
それに能力が割れてるから対策もされるだろうしな……
「これどう頑張ってもこっちが不利じゃないか?」
私の心の内をマルクが代弁する。
しかし、まだその作戦に穴はある。
「いや、まだ対策できるところはある」
「え?どうするの?」
「相手の作戦はベインが一対一なら勝てるという前提で成り立ってる。だからベイン以上に強い相手には弱いはずなんだ」
「なるほど、俺かレイならまだ勝てる可能性はある。けどそれでも不利な条件なことには変わりない。結界で動きづらくされたりでもしたら普通に負ける」
「うん。だからこれは一種の賭けなんだけど──」
「……なるほど。たしかにそれなら妨害は入らないだろうが同時にこっちの強みも無くなる。あまり良い作戦とは思えない」
「私もそう思う」
「わかってる。けどこのままだと結局こっちが不利なのは変わらない。だから一番可能性があるのはこのやり方だと思う」
「……わかった。ベイン戦はレイに任せる。ヒナは?」
「マルクとレイチェルちゃんがそう言うなら止めないよ。どっちみち私にできることは無いし」
「なら決まりでいい?」
「ああ」
「うん」
ぶっちゃけこの作戦は賭けだ。根幹から相手の動きに左右される欠陥品の策だ。
しかしこれを通せなきゃ不利な条件は変わらない。
ようするに、やるしかない。
覚悟を決め、欠陥だらけでギャンブルじみた作戦を可決する。