4-16 空気につけ込み
「おおっとダニエル君ここで攻勢に出る!しかし相手はすでに魔術の構築を終えている!仲間の二人はすでに行動不能で援護は期待できない!今攻撃に転じるのは苦しくないか!?」
「いや、対魔術師戦なら今が最適です!魔術師は一度魔術を放つと次を撃つまでにわずかな隙ができます。なのですでに構えている魔術さえ凌げれば空いての隙を一方的に叩くことができます!」
「そうなんですね!──ああっと!ダニエル君剣に魔術を纏わせて器用に相手の魔術を弾き落とす!ライ先生の解説通り──渾身の一突きが決まった!!──がしかしその隙をララ選手見事刈り取り魔術を頭に的中させダニエル君気絶してしまった!」
「これはすぐに魔術を発射せず隙ができるのを待ってから撃ち抜いたララ選手が上手でしたね」
「ですね。ダニエル君の気絶により勝敗は決まりました!勝者はミカ、ペス、ララ、サリーの四人の勝利です!では治療班の皆さんは選手の治療をお願いします」
とてつもなくやかましい解説と共に試合が決着する。
とりあえず一試合見た感想はうるさい、その一言に尽きる。
しかし解説された当の本人達は気にしてる様子はなかった。
本人が気にしてないとかそんなレベルの音量じゃないしすごい集中してたように見える。
もしかしたら聞こえてない?
どこかで音がシャットアウトされてるのか?だとしたら──これか。
常時展開している《空間把握》を観客の保護を名目に展開された結界術式の解析にまわす。
魔力を流し効果を強めて術式を読み解くと予想通り防音の術式が組み込まれてることがわかった。
それに内側の戦闘音は聞こえたので外側からの音だけをシャットアウトする仕組みっぽい。
さすがに配慮されてて安心した。
実況がうるさくて集中できませんでしたとか言いたくないからな。
「それでは次の第二試合の選手は──」
いかに趣味全開でも仕事はちゃんとやるらしく次の対戦の案内が始まる。
一試合見て大体はわかった。多分これなら問題ないだろう。
まあ見ながら戦うのは緊張するし恥ずかしいけど。
けどそれはそれ、これはこれ。エントリーを了承した以上そんなとこで日和ってるわけには行かない。
とりあえずシード権があるから今日は戦わないし情報収集に徹しようかな。
「──次の第十一試合は休憩を挟み午後から始めます」
折り返しの十試合目が終わり、昼休憩に入る。
「なんか食べに行こう!せっかくだし屋台でなんか買おうよ!」
「いいね、財布は持ってきてあるしお昼ごはん探しに行こう。マルクもいい?」
「ああ。並ぶだろうし早めに行こう」
「だね」
お昼ごはんを探しに屋台が立ち並ぶ正門前へ向かう。
まあ正直探すと言っても《空間把握》があるしすぐ見つかるだろうけど。
というか今更だが凄いな……
ぱっと数えただけで二十以上の出店がある。
そしてそのどれもが高品質で、その割に安い。
一般の人が楽しめるようにって学園側の配慮かもしれないな。
その影響もあってかとてつもない人数の人混みができている。
ここまでくるともはや壮観だ。
とりあえず《空間把握》で情報を拾いながら目的地へ向かう。
こんなに人数いるとキャパオーバーして頭痛くなってくるから範囲絞らないとな。
立ち並ぶ屋台、もはやどれに並んでるのかすら分からないほどの人の列、それぞれが目的地に向かって歩くせいで混沌と化した人の流れ、その情報を拾いぶつからないよう避けながら進む。
その途中、奇妙な情報を拾う。
道のど真ん中でどこへ向かうでもなく立ち止まり、春の陽気の中長袖長ズボンの顔が隠れる服装で、特定の人物を何度も振り返って見ている。
明らかな挙動不審だ。
というより、スリというやつでは?
この人混みなら何か無くなってもすぐには気づかれにくいだろうし、無くしただけ、落としただけと思われて終わることも多いだろう。
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「いや、怪しいやつがいてさ」
「もしかして盗人か?」
「多分。色々怪しすぎる。少し観察してみよう」
「わかった」
ざっくりと現状を伝え、不自然にならないよう列に並ぶふりをして見守る。
そして一分も経たないうちにその男は犯行に移った。
「《氷結束縛》」
「なっ!?」
魔術を使って両手首と両足首を氷の蔓で拘束し、その蔓を地面に固定することで逃げられないようにする。
驚いて走り出そうとしてたが一般人が抜け出せるほどヤワな作りじゃない。
「クソッ!」
「なに、しようとしたんてすか?」
「離せっ!」
「盗みだろ?その人の財布をスろうとした所はきっちり確認させてもらった。大人しく捕まってろ」
「クソが……!」
「マルク、ヒナ、先生か警備員の人連れてきて。私はこのままこいつ捕まえとくから」
「わかった」
「すぐ連れてくるから待っててね!」
マルクとヒナが騒ぎで隙間ができた道を走り出す。
窃盗の容疑で一名逮捕だ。