2-10 魔術探求2
うーん、違う。
ここはこう描かないと違うところで作用するのか、じゃあここをこうして──
六日目の朝八時半、私たちはすでに教室で各々の課題解決に向け試行錯誤していた。
といっても私は運動場に居るのだが。
一昨日と昨日はひたすら情報をかき集め魔術のイメージを固めていた。
そしてなんとかイメージを固めて目標を定めることができたのだが……
魔法陣の構築に頭を悩ませていた。
魔術のイメージはできてるんだがどうもそれを実現する式の構築が複雑すぎで想像と違う形で魔術が不完全に発動してしまう。
描いては実践し、間違えてはやり直す。
参考書を元に何度も描き直す。
魔力が尽きるまで何度も何度も何度も何度も──
「レイチェルさん?大丈夫ですか?もう時間ですよ」
「え?」
もうそんな時間?
確かに時計を見るとそろそろ十二時に差し掛かるところだった。
時間になったので呼びに来てくれたようだ。
「それに、一回着替えてきたほうがいいですよ」
「?」
着替える?なんで?
「汗、すごいですよ」
「汗?ってうわっ!」
まだ暑い時期でもないのに全身汗だくだ。
張り付いて気持ち悪い。
それに──服が透けてる。
「ついでに、シャワーも浴びてきたほうがいいですね」
「すみません、ありがとうございます」
「終礼はいいので先に寮に戻りなさい。二人にはこっちで話しておきます。そのあとはそのまま昼食を食べて見学に行っていいですよ」
「ありがとうございます」
ミシェルに促され寮に戻る。
「ふぅ」
寮の浴室でシャワーを浴びる。
魔力の調節をミスると熱湯が出てくるので加減には気をつけないとな。
さて、もう十分だろう。
浴室から出て体を拭く。髪は特に念入りに拭き上げる。
ある程度水気を取って着替えを着る。
変えの制服があってよかった。着てた制服は洗濯場に持っていかないとな。
「『温風』」
本当に今でもこの魔術を自力で開発できたのは僥倖だった。
今はロングにしているから特にそう思う。
一通り終わり時計を確認すると十二時半を回ったところだった。
この時間ならまだ食堂もやってるし食べてからでも見学は間に合うな。
食べに行くか。
白米と、卵焼きと、味噌汁と……
「あれ?レイチェル?」
「ん?あ、マルク」
「大丈夫だったか?先生から寮に戻ってるって聞いた時は少し驚いたぞ」
「ああそれは……ちょっと練習に夢中になって服を汚しちゃったから着替えを取りに戻ってたんだ」
「ああ、それで。それで今から昼食か?」
「うん。まだ残ってて良かったよ。食べ終わったら同じように課外の見学に行くよ」
「そうか。じゃあまた寮でな」
「うん」
もうスカスカの自由席に座り、取ってきた料理──日本食ばかりだが──を食べる。
ずっと集中して疲れてからか懐かしい味が体に染みる。
箸を止めることなく全部食べてしまった。満腹満腹。
でもやっぱり母さんは料理上手かったんだなって思う。
いや別に不味いわけじゃない。むしろ美味い。
けどやっぱり母さんの料理を食べて五年間育ったのだから比べてしまう。
前世の経験で多少料理は作れるが料理、教わっておけばよかったかなぁ。
昼食を終え課外の見学を終えて寮に戻ってきた。
今日も見てきたのは風と氷と空間だ。
そして帰りに図書室で三人全員で本を借りてきた。
「レイチェルは何借りてきたんだ?」
「今日は魔術の応用とか複合魔術の本と空間属性の本だね。そっちは?」
「こっちも応用魔術の本と、それに加えて地属性魔術の本だな」
「ヒナは?」
「私も応用魔術の本と風属性の本!」
みんなそれぞれ必要な本を借りてきたんだな。
まだどんな魔術を作ろうとしてるのか分かんないな。
まあ他人の進捗にうつつを抜かしてる暇はないんだけど。
「ん?ここがこうなってて、でそれがここに繋がって?ああそれでこうなってるのか」
「ん〜わかんない!レイチェルちゃんここどうなってるの?」
「多分ここはこの式がこうなってて、でそれを繋げてここが──」
それぞれ考えては悩み、それを教えてを繰り返す。
「ヒナ」
「…ん」
「眠いならもう寝ようか。時間も遅いし」
なんだかんだやっぱ二人共秀才ってことかな。
子供ながらにこの集中力。もう八時くらいから初めてもう十時半、二時間半も活字とにらめっこしている。
ただやっぱりここも子供かな。もう眠そうだしあまり遅くまで起きてると明日に響く。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
「…おやすみ……」
六日目が終わり、魔術漬けの日々が始まる。