4-40 共術
「はぁ……はぁ……──っ!」
身を捩り迫る閃熱の刃を躱す。
しかし完全には躱しきれず、肉が裂け、傷口が焼かれる。
もう何箇所目かも分からない傷を作りながら必死に体を動かす。
もう相殺に使える冷気は残ってない。
このあと攻めることを考えるならこれ以上魔力は使えない。
だから完全に勘と予測で避けるしかない。
幸いおそらくこいつは実戦経験が少ない。
動きが単調気味で狙いが分かりやすい。
ただ、それでも躱しきれない程のスピードがある。
何より《空間把握》が機能しないのがキツイ。
現代人の貧弱な動体視力の代わりに使っていたのにそれが無くなったせいで思うように動けない。
だから躱せもしないし、近づいても上手く動けない。
近づけないなら魔術で戦うしかないんだけど、それは相手が一番得意な条件。攻めれるだけの実力はない。
完全に詰み。私だけじゃどうしようもない。
だから二人が来るのを待ってるんだけど、それももう長くは持ちそうにない。
いかんせん体力がもうない。
戦ってる時間は五分十分程度だろうけど防戦一方だとどうしても消耗が大きい。
相手は魔術だけでその場から一歩も動いてないのに対し、私は魔術も使いながら走り回っている。
その差は歴然、『ステータス』で見ても相手はまだ余力を残してるし、私はからっけつ。
このあと二人の相手をすることを見越してか手を抜いてくれてるおかげで辛うじて耐えてるがそれももうすぐ終わる。
いくら手を抜いてもらってもその攻撃に反応するだけの体力が残ってない。
ああ、なんでだろうな。
こういうピンチの時に限って妙に頭が回る。
頭が回ったところで、体がついてこなきゃ意味ないのにな。
ああ、ほら。もうすぐそこに──
色が白に変わるほどの熱量をもった刃が、眼前に迫る。
「《灼竜砲》!!」
──が、感じるのは熱さによる痛みではなく、熱さでもない、人の体温。
「レイチェルちゃん!!」
「ヒナ……?」
「ちょっと時間稼ぐから息整えろ!《大地の護り》!」
「マルクも……」
足りない酸素を吸い込み、酸欠で霞む世界で情報をかき集め、体を起こす。
私を抱きかかえるヒナ、壁を立て、溶けたそばから立て直すマルク。
二人が居る……ということは間に合ったのか?
「大丈夫か!?」
「私は大丈夫。それより二人は?」
「……すまないが俺は雷の影響で上手く体が動かせない。近接戦には参加できそうにない」
「ごめん私も魔力がほとんど残ってない。そんなに長くは戦えないかも」
二人がここまで追い込まれるってことはかなり大変だったんだろう。
「いいよ、来てくれただけでも嬉しい」
「すまない……」
「ごめん……」
「いいって。それより──」
ヒナの手を借り、立ち上がる。
「勝とう」
「うん」
「ああ」
意思を共有し、立ち向かうため虎の子の魔力を動かす。
「作戦は?」
「さっきヒナの魔術で相手の魔術が乱れてるように見えた。だからあえて氷じゃなくて火で対抗する。多分相反する属性は弾き相殺するけど同じ属性は混ざっちゃうんだと思う。ただそれもそれなりに火力がないと飲み込まれるから私が補助するけど結局はヒナ頼りかな」
「任せて。それくらいならなんとかする」
「じゃあ混ぜて妨害できたらマルク、練習通りに行こう」
「わかった。それまで防御は俺がやる」
「ありがとう。──それじゃ、やろう」
「了解」
「了解!」
合図と同時にそれぞれが動き出す。
「《大地の護り》!」
マルクが防壁を立て、その時間を使って私とヒナで協力し、最大火力を準備する。
「『燃え盛る炎』『炎王の吐息は』『共鳴する』」
「『吹き荒ぶ嵐』『風王の息吹は』『共鳴する』」
イメージしやすいよう、詠唱を変え名前を変え、工夫に練習を重ねて紡ぐ共術。
「行け!」
タイミングを見計らいマルクが壁を還元する。
完璧なタイミング、完璧なバランスの共術。
「「共術《炎嵐共域》!!」」
今使える最大火力を、放つ。