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第1174話 容器

「うん、いいね。これなら十分だと思うよ」


 村の一角に作られた真新しい工房。

 この工房はケチャップ作りのために建てられた、今、村で一番ホットなスポットだ。

 そこで俺は村のご婦人方の視線を一身に浴びながら、そうコメントする。


 ご婦人方は、この工房……いやもう工場と言っても良い位大きい工房で働く、従業員兼開発担当者達だ。

 彼女達一人一人がケチャップの量産化のため、様々なアイディアを絞り出し、日々努力してきた。

 その成果を俺が味わい、そして合格点を出したのだ。


 本来、ケチャップのレシピはアレク君が完成させたのだから、彼が味見をするのが妥当だった。

 しかし、彼にとって本当のケチャップとは、俺の知る向こうの世界のケチャップであり、自身が作ったケチャップは紛い物……とまではいわないが、未完成品だと思っているのだ。

 アレク君が参考にしたケチャップソースも、元々はナポリタン用のケチャップソースだったしな。


 そのため、完成品の最終チェックとして、真のケチャップを知る俺に白羽の矢が立ったのだ。


「そうっスねー。あたしとしては、もう少し酸味を抑えた方が良いっスけど、その辺はタダの好みっスからねー」


 もちろん、そんな村の命運を左右するような重大かつ重要な事をこの俺一人が背負いきれるはずも無く、同じく真のケチャップを知る者としてシュリを巻き込んだのは言うまでもない。

 もっとも彼女には「味見をして感想を言う」としか伝えていないが。


「酸味を抑える……リンゴ酢じゃなくてリンゴそのものを入れた方が良いんじゃない?」

「いや、それだとリンゴの時期を待たないと作れないわよ。ここは保存の効く酢の方が良いって」

「酸味のある果実ならリンゴ以外にもあるでしょ。そっちも試してみない?」


 シュリの指摘を聞き、ご婦人方がキャイキャイワイワイと、まさに姦しく話し合う。


 お? これはまだ色々言って大丈夫な雰囲気なのか?

 後はハンコを押すだけの簡単なお仕事状態では無いのか?

 話し合うご婦人方を見る限り、どうやらもう全て決まっていて早速作り始めようかって時にレシピ開発者が来ちゃったから、とりあえず御体裁を整えるために俺達の意見を聞いたってワケではない様だ。


 なら俺も意見を言わせてもらっても、ちゃんと聞き届けてくれるのかな?

 社に持ち帰って検討させていただきます、じゃ無いのかな?

 実はケチャップそのものとしては問題ないけど、製品として見ると色々気になる点があるんだよな。


「一つは容器だな。ケチャップを詰めるために竹を使ったのは良いけど、サイズがまちまち過ぎる」

「そうだな。こうも大きさがバラバラだと、同じ値段で売れないな」


 俺の指摘にエレさんも同意する。

 竹の器は軽くて丈夫で安いと三拍子そろっている優れモノだが、一点だけ欠点がある。

 その欠点とは、生えてる竹を切り節と節との間を容器にしているため、その節の間隔や竹の太さによって内容量がまちまちになることだ。


 自分用の水筒などといった、他と比べる必要のない容器としては最高なのだが、店頭に並べるとなると非常に宜しくない。

 誰だって、同じ値段なら少しでも量の多いヤツを買いたいからな。


 その点はご婦人方も、自身が消費者側に回ることがあるため、重々承知していた。

 なのでなるべく同じぐらいの大きさになるよう、容器を選んでいる。


 しかし、所詮は相手は植物であり、全く同じ大きさとはいかない。

 この問題を解決するとしたら、缶詰やペットボトルのような全く同じ容器が作り出せる加工方法の開発が必要になるだろう。


 工業化による大量生産が可能になったのは近代であり、産業革命以前の文明レベルでは望むべくも無い。

 同じ製品が溢れる世界なんて、チート技術の結晶なんだよ。


「問題は節同士で蓋にしている点だろうな。ここがまちまちになりやすいから、結果内容量がまちまちになる」

「それは分かってるわよ。でも他に中身が零れないようには出来ないでしょう?」


 俺の指摘などとっくに分かってたわよ! と言わんばかりのご婦人方。

 散々考えた末、どうにもならなそうなので諦めてしまったらしい。

 ご婦人方の中に、安〇先生は居なかったようだ……似たようなシルエットの方は沢山居たのにね。


 しかし、俺も指摘した以上は、何らかの解決手段を提示する必要がある。

 対案無き反対意見など、単なるヤジ以下なのだからな。

 何度ただ反対するだけの上司に、この言葉を言ってやりたかったか。


 勿論俺には解決の糸口になりそうな腹案がある。

 並べられた青竹を見て、良うかん、もとい良い案が浮かんだのだ。

 なので、俺はあの言葉を使うことにした。


「私にいい考えがある」

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