第1173話 ファーストロット
レウスさんの嫉妬の炎により、干したばかりの洗濯物が直ぐに乾いた状態になった。
となればやるべき事は自ずと決まってくる。
そう、取り込みだ。
干したばかりだというのに取り込むとか、ある意味穴を掘って埋める刑罰と同レベルに思える。
とはいえ、乾いているのに干しっぱなしにする意味もないため、さっさと取り込むことになった。
空は晴れているが、いつ何時急変しないとも限らないしな。
「いや、日光消毒の意味もあるっスよ?」
ふむ……確かに日光に含まれる紫外線に当てることで、洗濯物内に残存している細菌などを死滅することが出来るだろう。
しかし、火龍の王たる人(?)の放った炎に、その程度の効果が無い筈が無い。
現に洗濯物の匂いを嗅いでみても、お日様の匂いしかしないし。
「いや、それダニとかの死骸の匂いっス。というかそれ以前に、ショータさんが匂いを嗅いでるの。オムツっスよ」
「……それを早く言え」
エンガチョしているシュリに向かって投げつけたくなる。
白くて長い布だから、てっきり手ぬぐいか何かだと思ってたわ。
紙オムツなんてチートアイテムが無いこの世界では、オムツといえば布オムツだったのか。
クソッ、高吸収性ポリマーの開発が望まれる。
「でも、これは洗ったばかりだからセーフのはず」
「うーん、確かにセーフな気もするっスけど、じゃあソレで顔を拭きたいっスか?」
「……アウトでいいです」
エンガチョ切ってもらって作業を再開する。
いや、洗ってあるしレウスさんの炎で浄化されてるから大丈夫なはずだけど、それでも一度ついたイメージってのは、そう簡単には拭い去れないんだよ。
ほら、買ってきたばかりの温水洗浄便座だって、誰も使っていないんだから何の問題も無く舐められるハズなのに、どうしても舐めることが出来ないのと一緒なんだよ(そもそも舐める物ではない)。
う〇こ味のカレーは変な味のカレーだから食えるかもしれんが、カレー味のう〇こはタダの雑菌の塊なのと同じなんだよ(無論、俺はどちらもお断りだ)。
うん? 違うか?
まぁいいや、とにかく洗濯物を取り込むのだ。
下手に手を止めていると、真面目に取り込んでいるシャーロットに後で注意を受けてしまう。
注意じゃなくてチューなら大歓迎なんだけどな。
もしくはシチューでも可。
あぁ、シチューといえば海で貝を採ったとき、そのまま焼くだけじゃなくてクラムチャウダーにするのもアリだったな。
海から離れてさほど経っていない筈なのに、もう元日本人の魂が海産物を欲しているようだ。
このままマウルーに戻らず海辺の町へとひとっ飛びしたくなるが、流石にソレは寄り道しすぎか。
とりあえず今夜は炙ったスルメで一杯やって、荒ぶる元日本人の魂を宥めるとしよう。
「あら、終わったのね。丁度よかったわ。早速行くわよ」
俺達が洗濯物を取り込み終わったのを、まるで見計らっていたかのようなタイミングでクレアが現れる。
うん、ちょっと何言ってるか分からない。
まさか俺のモノローグが駄々洩れで、それを聞きつけたクレアが海へ行きたいと言い出したのだろうか?
「何ボーっとしてるのよ。村産ケチャップの第一号がようやく完成したらしいから、さっそく見に行くわよ」
「おぉ! 完成したのか!」
ウルザラ村にケチャップのレシピを伝えて数週間。
キャス姉ぇことキャスカさんは、村の人達を説得し、ケチャップ工場を立ち上げ、遂に量産第一号が完成するまでにこぎ着けた。
そんなタイミングでレシピを伝えた俺達が来る。
これは神様か何かの思し召しだろう、と俺達を量産第一号の試食に立ち会わせたいらしい。
勿論、こちらに否やは無い。
手持ちのケチャップは、シャノワさん達に全部売り払ってしまい在庫切れ。
なので元々ウルザラ村で材料であるトマトを入手するつもりだった。
しかし量産されたというのなら、材料ではなく製品を購入するのも良いだろう。
村で作ったケチャップの味も気になるしな。
アレク君の作ったレシピはあくまで試作段階の物。
それからも、彼は彼なりにレシピの改善に取り組んでいるが、ウルザラ村でも『料理』スキル持ちは居るらしく、ならば量産に向けたレシピを開発していたはずだ。
アレク君が作ったレシピは個人消費用であり、量産するとなると色々と手間暇がかかり過ぎている部分もあるからな。
きっとあちこち改造されて、もはや別のレシピとなっているだろう。
個人用と量産用。
元は同じでレシピでありながら、違う目的に向かって改良された結果がどうなったのか。
これは実に楽しみである。




