第1171話 トマト畑が広がる先に
タオル地のネクタイをメンバー全員が装備したクラン『白銀の旅団』。
アレク君一人だけがネクタイを着けていると浮いてしまうからと、結局俺達も着けることにしたんだけど、こうしてみると統一装備感があって案外いい気がする。
これは今回限りの装備としないで、ウチのトレードマーク代わりに着けていてもいいかも……いや、ないな。うん。
流石にネクタイ装備の冒険者は無い。
仮に有りだとしても、せめてタオル地は改めるべきだろう。
マウルーに戻ったらネクタイに良さそうな生地でも見つけてみるか?
まぁ戻ったときの事は戻ったときに考えよう。
それよりも先ずはこのウルザラ村での商談を成功させないと。
俺はネクタイに手を伸ばし、キュッともう一度締めなおす。
いや、商談を成功させるのは俺では無くエレさんだけどな。
ネクタイを締めているせいか、ついそんな事を思ってしまう。
ウルザラ村は塀に囲まれた村の外に畑が設けられている。
畑に挟まれるように作られた道に沿って、俺達はゾロゾロと村へ向かって歩いていく。
昼前の時間帯のせいか、外の畑で作業している人を見かけるな。
俺達が彼らを見つけたように、向こうも俺達の事に気づいたらしく、作業の手を止めこちらを見ている。
やはりこの人数で歩いていると、やたらと注目が集ってくるようだ。
まぁ武装した集団が急にやってきたのだから、「何かあったのか?」とつい見てしまうのは当然か。
目敏い人は、俺達の中にクレアやアレク君、ベルの顔を見つけ手を振ってくれる。
そうして村へ向かって歩いていると、目につくのはやはりトマトだろうか。
赤く瑞々しく実ったトマトが、収穫されている様子が伺える。
他にも芽が出たばかりの畑も見かけたが、クレアによればアレもトマトらしい。
とりあえずトマトケチャップを手に入れるためのファーストステップ『モノがあるか?』に関してはクリアしていそうだ。
今更ここまでエレさんを案内しておいて何だが、そもそもケチャップを作っていない可能性もあったからな。
ここまで来て「全く作っていませんでした」は流石に申し訳なくなる。
しかしその懸念は収穫されているトマトを見て、一応は払拭できそうだ。
あれだけ大量のトマトが、単に食べるためだけに収穫するとは考えにくい。
きっとケチャップ目的で収穫しているのだろう……しているよな? していなかったら困る。
というか、していなかったら、アレだけ大量のトマトを何に使うつもりって話になる。
生食だけで消費しきれる量ではないからな。
何らかの使い道が無いと、収穫しても無駄になる。
……まさかトマトをぶつけ合う祭りとかじゃ無いだろうな?
ただ、ああして収穫している様子を見ていると、「旬ってなんだろう」と思ってしまう。
たしか夏が旬のはずのトマトなのに、季節が初夏の今でも採れるとか謎過ぎる。
もっとも、ソレを言ったら数週間前にも収穫していたわけだが……。
まぁ収穫時期に関しては、そういったモノだと思う事にしよう。
異世界なんだし、そもそも俺の知るトマトと同じとも限らない。
案外、小麦の様に二期作出来るような品種かもしれん。
田舎のウルザラ村の門に、門番なんて気の利いた存在がいるはずも無く。
俺達は誰かに止められること無く村の門を通過したが、村の中もトマトだらけだった。
まさしく、トマト・トマト・トマトだ。
つーか、どんだけトマト作ってるんだ。
ケチャップのレシピが完成し、クレア経由で村に伝えたのは数週間前。
そこから作付けを開始した結果、この光景になったのは分かる。
しかし、そのケチャップの販路は未だ無いはず。
売る当てもないのに大量生産を開始するとか、ギャンブラーにも程がある。
まぁ、その当てであるエレさんが来てくれたから良かったものの、彼女が来なかったらどうするつもりだったのだろう?
行き場のない大量の在庫を抱えたまま村ごと破産したとか、寝ざめが悪いんだけど?




