第1163話 トンビに油揚げ
「ショータ! まだ終わっていないぞ! 油断するな!」
モグ肉ゲットだぜ! と勝ち鬨を上げようとした瞬間。
シャーロットから鋭い声がかかる。
いや、油断するなって言われても、モグモルに止めを刺した以上、バトルはもう終わっただろが。
それとも心臓を貫かれたはずのモグモルが、速攻アンデッドになって復活するとでも?
そう言いかけた瞬間、鋭い風切り音と共に何かが落ちてくる気配がした。
何事かと顔を上げてみれば、空から女の子……ではなく、鳥らしき何かが急降下してくるところだった。
これか? コイツを警戒して、シャーロットは油断するなと言ったのか?
勝って兜の緒を締めよ、とは、まさにこの事か。
思わぬ第二ラウンドの開幕に、俺は槍を構え直そうとする。
ところが、なぜか槍が重て持ち上げられない。
まるで何か重りが乗っているかのようだ。
もしやモグモルの呪い?
しかし呪いだろうとノロウイルスだろうと、武器を構えなければ襲撃者への迎撃もままならない。
俺は呪いで重くなってしまった槍をどうにかかかげ、襲撃者に向けて突き出そうとする。
「何をやっている?!」
シャーロットから今度は叱責の声がする。
いや、何やってるって言われても、見ての通り謎の襲撃者に槍を突きだそうとしてるところだろうが。
それともお前は俺に、「大人しく襲撃されてろ」とでも言いたいのか?
冗談じゃない。
俺はこんな所で謎の襲撃者に襲われ、そのままジエンドになるつもりなんか全く無い。
シャーロットの忠告には色々と助けれられているが、こればっかりは聞く必要は無かろう。
そんな事より、襲ってきた襲撃者の方を迎撃する方が先だ。
というか、俺が襲われかかっているというのに、他のみんなは迎撃を手伝ってくれないのか?
「ショータさん、狙われてるっスよ」
分かってるよ。
概観視まで使って見てるんだから、襲撃者が鳥で、俺に向かって一直線に急降下して来てるんだろ?
だからこうして槍でカウンター攻撃を仕掛けようとしてるんだろうが。
そう反論しようとした、その時。
掲げていた手に衝撃が走った。
え? まさか、本当にカウンターが入ったのか?
どうせ向こうが避けるだろうと、とりあえずで槍を突き出しておいたんだけど、マジでカウンターになったのか?
思わず穂先を見ると、何かが槍に刺さっているのが確認できた。
これはもしや、マジカウンター?
しかもピクリとも動かないから、カウンターがそのまま致命傷になったのか?
立て続けに止めを刺してしまったようだが、さっきと違って忌避感は余り無い。
こちらから行ったというより、向こうから突っ込んで来たからだろうか。
出会い頭の事故なら、こちらが全面的に悪いわけでは無く、過失割合はロクヨンぐらいだろうしな。
ま、不幸な事故だったとしても、戦果は戦果だ。
さっきのモグモル戦では俺の出番はお情け程度だったけど、今回は俺の独壇場になった。
働かざる者食うべからず、というのなら、この獲物は俺が独り占めしてオッケーってことだよな?
偶然だろうと何だろうと、運も実力のうちって言うしな。
今度こそはと槍を掲げ、勝ち鬨を上げようとすると、槍が軽い。
お? どうやらモグモルの呪いは、先程のカウンターで雲散霧消したようだな。
いや、もしかしたら単に俺が罪悪感を感じていたせいで、槍まで重く感じたのかもしれんな。
って、今度は槍が軽すぎるぞ?
まるで何者かが槍を上へと持ち上げているかのようだ。
しかも、バッサバッサと羽音までする。
「ショータ! 持って行かれるぞ! 槍をしっかり持て!」
シャーロットの言葉で、ようやく今の状況が把握できた。
槍に刺さっていたのはモグモルのままであり、襲撃者はモグモルを掴んで飛び立とうとしているのだ。
そう、襲撃者の正体は、先ほど豆粒ほどの高さで旋回していたホタカとかいう鳥だったのだ。
ホタカはモグモルを狙って様子を伺っていたが、俺が止めを刺した瞬間を見計らって急降下し、そのままモグモルを奪って飛び立とうとしているのだ。
しかし、俺に出来たのは状況の把握までで、この状況を打開するまでには至れなかった。
というのも、思っていた以上にホタカの羽ばたきが強く、ともすれば俺ごと持ってかれそうな程だったからだ。
成人男性、それも装備込みの体重に加え、モグモルだって小学校低学年ぐらいのサイズはある。
それらを物ともしないで持ち上げられるとか、ホタカの飛ぶ力ってヤバくねぇ?
思わぬ飛行能力に驚き、つい槍を持つ手が緩んでしまう。
俺という重しが無くなったことで、ホタカは槍が刺さったままのモグモルを奪い飛び立つ。
くそっ、このままだとモグモルどころか、愛用の槍まで持ってかれちまう。
どうする? 飛空艇で追うか? だがエレさんがいるのに召喚していいのか?
もともと彼女には見せるつもりだったくせに、いざとなると躊躇してしまう。
それが隙となり、そのままホタカは空高く舞い上がる。
「……ん。お肉、逃がさない」
もう駄目か……と諦めたその時。
救いの幼女が一糸まとわぬ姿でジャンプすると、その真なる姿を現した。




