04 温泉主新しい仲間と出会う
朝。
森の奥の温泉は、静かに湯気を立てていた。
「……悪くないな。」
岩に腰掛けながら、レンは満足そうに頷く。
簡単に周囲を整え、湯に入りやすいようにした。
といっても、やったのは“流れを整えただけ”。
石の位置、水の流れ、魔力の循環。
それだけで、温泉は見違えるほど安定した。
『……やりすぎ。』
隣で、ルナが呆れたように呟く。
「そう?」
『普通はこんな短時間で“場”を整えられない。』
「まぁ俺、外れスキルらしいから。」
『それ、まだ言うの?』
少しだけ呆れた顔。
レンは肩をすくめる。
その時——
ガサッ。
森の奥で、何かが動いた。
「……何か来た!」
レンの表情が変わる。
だが、敵意は感じない。
むしろ——
「弱ってる?」
気配が不安定だ。
よろめくような足音。
やがて姿を現したのは——
狼の耳と尻尾を持つ、獣人の少女だった。
全身に傷。
服は破れ、血が滲んでいる。
「……っ。」
数歩進んだところで、膝をつく。
「おい、大丈夫か!」
レンは駆け寄る。
警戒よりも、先に体が動いた。
少女はうっすらと目を開ける。
「……みず……」
か細い声。
「水か。任せろ。」
レンはすぐに泉の水を手に取る。
だが——
『待って。』
ルナが静かに言う。
『この子、かなり弱ってる。いきなり高濃度は危ない。』
「……なるほど。」
レンは頷く。
手の中で、水の“流れ”を調整する。
魔力を抑え、身体に優しい濃度へ。
「ほら、ゆっくり飲むんだ。」
少女の口元に運ぶ。
こくり、とわずかに飲み込む。
その瞬間——
「……!」
少女の体がびくりと震える。
傷口が、じわじわと塞がっていく。
「すごいな……」
改めて実感する。
だが、まだ完治には程遠い。
「……温泉、使うか。」
『ええ。それが一番いい。』
「悪いけど、運ぶよ。」
レンは少女を抱き上げる。
軽い。
驚くほどに。
「ちゃんと食べてないな、これ……」
温泉の縁まで連れていく。
「熱くないから安心して。」
ゆっくりと湯に浸ける。
じんわりと、湯気が立ち上る。
少女の体が、力を抜いた。
「……あ……」
小さな声。
苦しさが和らいでいるのが分かる。
傷の治りも、さっきより早い。
『やっぱり、この温泉は特別。』
ルナが静かに言う。
しばらくして。
少女の呼吸が安定する。
閉じていた目が、ゆっくりと開いた。
「……ここ、は……?」
「森の奥。俺の……まぁ、家みたいなものだ。」
レンは軽く笑う。
「急に出てきて倒れたから、勝手に助けた。」
少女はぼんやりとレンを見る。
そして——
「……助けて、くれたの?」
「うん。」
短く答える。
数秒の沈黙。
やがて少女は、小さく呟いた。
「……なんで?」
「は?」
予想外の言葉に、レンは眉をひそめる。
「なんでって……」
少し考えてから、肩をすくめた。
「目の前で倒れてる人を見捨てるほど、性格悪くないよ。」
少女は、じっとレンを見る。
その目に、わずかに揺らぎが生まれる。
「……名前は?」
レンが聞く。
少女は少し迷ってから答えた。
「……ミア。」
「ミア、か。」
レンは頷く。
「俺はレン。で、こっちは——」
『ルナ。』
横から自然に名乗る。
ミアの目が少し見開かれる。
「……精霊?」
『そう。レンのパートナー。』
「おい、軽く言うなよそれ。」
ミアはゆっくりと湯の中で体を起こす。
もう、最初の弱々しさはかなり消えていた。
「……すごい。」
温泉を見渡しながら呟く。
「こんなの……初めて。」
「だろうな。」
レンは笑う。
「俺も昨日見つけたばっかだし。」
しばらくして、ミアがぽつりと呟く。
「……ここ、使ってもいい?」
「は?」
「お金は……ないけど……働く。」
まっすぐな目。
冗談じゃない、本気の声。
レンは少し驚く。
そして——
「……いいよ。」
あっさりと頷いた。
「え?」
「その代わり。」
レンはニヤッと笑う。
「元気になったら、ちゃんと働けよ?」
ミアの目が大きくなる。
そして——
小さく、でもはっきりと笑った。
「……うん。」
こうして。
レンの“温泉拠点”に——
最初の客、そして最初の仲間が加わった。




