二度目の
新しく加わったルナちゃんとアルテミスちゃんのレベル上げと連携の練習を終えた私達は、晩御飯を食べるためにトーマ君達がいる作業館三階の個室へ向かう。
移動中は戦闘での改善点や連携の見直しといった反省会をして、作業館に到着したら晩御飯はなんだろういう話題で盛り上がる。
そうしてトーマ君が教えてくれた部屋へ――。
「だらっしゃらあぁぁぁぁぁぁっ!」
入った直後にダルクちゃんが両手を突き上げて、歓喜の雄叫びを上げた。
思わず耳を塞ぐほど大きい声だけど、それも仕方ないよね。
だってテーブルの上には、積み上げられた揚げ物の山がいくつもそびえ立っているんだから。
「ふんぐぐぐぐ! 夢じゃない! ふんふんふんふん! 現実だ!」
ゲームだから夢でも幻でもないのに、頬を強く引っ張ってひねったり両手で頬を何度も叩いたりして、揚げ物の山が本物だって確認している。
その姿にトーマ君とメェナちゃんとルナちゃんとミコトちゃんが呆れて、イクト君とマーウちゃんとゆーららんちゃんがキャッキャッと笑って、他の皆は苦笑している。
「アホなことしていないで、早く座れ」
「りょーかい! さっ、皆も早く着席しよう!」
すっかりハイテンションのダルクちゃんに促され、既に準備してくれていた席に皆が座っていく。
私もトーマ君の隣に座って微笑みを交わし合い、目の前に並ぶ料理を見て情報を確認する。
晩御飯はジャガイモの冷菜、焼きジャガイモ皮チップス、そしてダルクちゃんの目を釘付けにしている揚げ物は……粉チーズ入りタックルラビット唐揚げ?
粉チーズ入りタックルラビットの唐揚げ 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:3 品質:9 完成度:97
効果:満腹度回復8%
MP最大量30%上昇【4時間】 腕力30%上昇【4時間】
俊敏30%上昇【4時間】
衣に粉チーズを加えて作った唐揚げ
軽く下味を付けた肉の旨味にチーズが加わり、一味違った美味しさを演出
やや小ぶりの一口サイズで食べやすい
*タックルラビットのモモ肉を小ぶりの一口大に切る。
*醤油、酒、おろしニンニク、おろしジンジャーを揉み込み下味をつける。
*おろし金でチーズをすりおろし、粉チーズにする。
*油を火に掛け、衣用に小麦粉とチーズを合わせる。
*油の温度が適温に達したら、肉に衣を纏わせて揚げる。
*揚がったら油を切って完成。
「あら、こちらの唐揚げは衣に粉チーズを加えているんですか?」
「まあな。こうするとチーズのコクが加わって、肉に挟んだり上から掛けるのとは一風違った美味さになるんだ」
私と同じで情報を確認したアルテミスちゃんの質問に、トーマ君が淀みなく答えた。
トーマ君のうちのお店では、こういう唐揚げは出していなかったからどんな味が気になる。
「普通の唐揚げより小ぶりなのはなんで?」
「粉チーズを衣に加えると焦げやすいから、油を中低温で揚げるんだ。だけどそれで大きな肉を揚げると、中に火が通るまで時間が掛かる。そうなると今度は衣に油が染みて油っぽくなる。衣の配合を調整すれば解決できるんだけど、それよりも肉を小ぶりにして肉に火が通りやすくした方が簡単だからだよ」
今度はルナちゃんの質問に淀みなく答えて、皆が「へぇ」って感心している。
簡単にできる方法を選んだのは、ディーパクト君のためかな。
小さめに切るだけなら、そう難しいことじゃないもんね。
「じゃあ、こっちの少し焦げがあるのはディーパクト君の?」
「そうっす。油の温度調整を少しミスったっす」
「中には火が通っているから、安心してくれ」
だったら大丈夫だね。
一応情報を確認したら、レア度は同じだけど品質が四で完成度が五十一だった。
そして最後の一品は、何かの麺料理。
大好きな麺料理だから最後に回したそれを、わくわくしながら確認する。
スカルコンドルうどん 調理者:プレイヤー・トーマ
レア度:5 品質:8 完成度:95
効果:満腹度回復10% 給水度回復9%
体力+5【2時間】 器用+5【2時間】
風属性耐性付与【中・2時間】
スカルコンドルの骨を主体にした出汁のスープを使用
あっさり系ながらもコクのある味わいが麺とよく合う
作り方はめんつゆですが、出汁が鶏ガラのようなのでラーメンスープのよう
*スカルコンドルの骨と野菜を煮こんで作った出汁を必要な分だけ鍋へ。
*醤油、みりん、酒を加えて煮る。
*その間にネギを輪切りにして、唐辛子を魔力ミキサーで粉状にする。
*つゆが出来たら麺を茹で、しっかり湯切りして器へ。
*器へつゆを注いでネギを浮かせ、一味代わりの粉唐辛子を添えて完成。
これ、ラーメンスープ風のうどんなんだ。
昨今はうどんやおそばにラーメン風のスープを使う店もあるから、こういうのも有りだね。
決めた、大好物の麺類が伸びるのと温かいスープが冷めるのが嫌だから、最初にこれを食べよう。
前菜だとかベジファーストとか関係無い。
美味しいものは美味しいうちに食べないとね。
「それじゃあ、いただきます!」
待ちきれないダルクちゃんの号令に続いて、皆で「いただきます」をして食事開始。
真っ先に唐揚げを食べるのは、ダルクちゃんとディーパクト君とマーウちゃんとネレアちゃんとイクト君。
私と一緒にうどんをすすったのは、ルナちゃんとゆーららんちゃん。
他の人達はジャガイモの冷菜やジャガイモの皮チップスから食べている。
「あぁぁぁっ! 唐揚げ様が、唐揚げ様がこんなにいぃぃぃっ!」
ダルクちゃん、個室とはいえは煩いのはいただけないよ。
せっかくトーマ君の手作りうどんを味わっているんだから、静かにしてとは言わないけど、もう少し声を抑えて。
「くぅ、やっぱ先輩の唐揚げの方が美味いっすね」
「そこはしゃーないんじゃないの? トーマの方が、技術も経験も上なんだしさー」
「でぃーぱーとのもおーしーよ。まーたーほどじゃなーけど」
「ますたぁのほうがずっとずっと、おいしー!」
「ぐほぁっ!? 分かっていても敗北感が凄いっす!」
慰めているマーウちゃんはともかく、イクト君とネレアちゃんはもう少しソフトに言ってあげた方がいいね。
「イクト、ネレア。ディーパクトだって一生懸命作ったんだ。よほど不味いならともかく、この味なら普通に食うのには十分なんだから、そういうことを言うんじゃない」
「あう。はーい」
「ごめーなさい」
二人へ教育的指導を入れるトーマ君は、すっかり二人のお兄さんがお父さんだね。
甘やかすだけじゃなくて、やりすぎない程度にしっかり注意するところが頼もしいよ。
将来は良いお父さんに……いやいやいや、気が早すぎるって。
頭に浮かんだトーマ君との未来に顔が熱くなるのを感じながら、誤魔化すように唐辛子粉を少し加えたうどんを勢いよくすする。
「ジャガイモの冷菜、シャキシャキしていいじゃない」
「酸味を利かせて、あっさり味だから、良い前菜だね」
「一番のポイントは食感を適度に残しているところなんだよ。固すぎず柔らかすぎず、シャキシャキとした適度な食感の心地よさが、酸味の利いたあっさり味を歯応えからも後押しして前菜らしくしているんだよ」
味わうように冷菜を食べているメェナちゃんとむらさめ君の感想に対して、ミコトちゃんの食レポが炸裂。
相変わらず見事なものだね。
この子の食事に対する設定はどうなっているのか、本当に気になるよ。
「皮チップスもいけるわよ。皮だけのは初めてだけど、美味しいわ」
「これは皮だけだからですかね。大地の味を感じるというか、そういう感じですのね」
「ポテトチップスとは違う食感と風味で、これはこれで手が止まらないです」
皮チップスを食べているカグラちゃん、アルテミスちゃん、ポッコロ君、ころころ丸の手が止まらない。
ああいうのはそうなっちゃうよね。
「うどんの方はどうだ?」
「うん、美味しいよ。太めの麺だから、醤油ラーメンのスープみたいなコクのあるおつゆとも合っていて、普通のうどんやラーメンとは違う美味しさがあるね」
味を聞かれて答えると、トーマ君が安堵の表情を浮かべた。
そんな表情を近くで見せられると、見惚れて食べる手が止まっちゃうよ。
「こうしたスープで食べるうどんも美味しいのですね」
「パスタみたいなソースを使ったうどん屋もあるし、こういうのも有りね」
私と同じうどんを食べているルナちゃんとゆーららんちゃんが、美味しそうに麺をすすってスープを飲んでいる。
さて、そろそろ他の料理も食べようっと。
冷菜はシャキシャキとした歯ごたえが良くて、唐揚げは下味とチーズのコクでお肉がすごく美味しい。
唐揚げを食べてペラペラ語っているミコトちゃんの食レポに比べれば全然だけど、トーマ君は皆の美味しいって反応を見聞きしているだけで満足そうな表情をしているから、感想を上手く言えているかなんて関係無いよね。
「それでトーマ、私達がいない間は何していたの?」
「ああ、それがな」
粉唐辛子をザーッとうどんへ流し入れるメェナちゃんに尋ねられて、トーマ君が私達が不在中の出来事を語る。
えっ、変なのに絡まれたの?
イクト君達を寄こせって言われた!?
そういう人達が一定数出ちゃうのは仕方がないとはいえ、一人のゲーマーとしては嘆かわしいね。
「大変だったわね。一緒にここを借りた、エクステリオ達は?」
「お前達が来る前に、初心者料理プレイヤー達を連れて先に出たよ。次は食材を買える店を案内するってさ」
だからエクステリオさん達はいないんだね。
それからさらに話を聞くと、今日の晩御飯はディーパクト君が受けた依頼のためってことと、ミコトちゃんが水出しポーション類を仕込んでくれたこと、ネレアちゃんがむらさめ君と色々作っていたことを教えてくれた。
「ネレアちゃん、何を作ったの?」
「いろーろ。てつのゆーわとか、いしのねーれすとか、きのばーちとか」
鉄の指輪と石のネックレスと木のバッチ、かな?
どれも最初のうちに使う装備で、作る方もスキルのレベルが低いうちは量産するものの定番だね。
だけどネレアちゃんはスキルのレベルがそれなりにあるから、もっと良い物が作れるはず。
むらさめ君に合わせて作っていたのかな?
「あーしも似たよーなもんだね。とりあえず今は数を作っては売って、そのお金で素材を買ってまた作ってを繰り返して、スキルのレベルを上げてるとこ」
マーウちゃんも似たようなものなのは、まだレベルが低いから仕方のないことだね。
焦らず、楽しんでやってもらいたいよ。
「あと、ポッコロとゆーららんは合流した後で、ミコトと何かの薬を作っていたよな」
「はい。アルテミスちゃんとルナお姉さんのため、一時的に状態異常やデバフを与える効果のある薬を作りました」
「それを武器に使って相手に攻撃が当たれば、状態異常やデバフを与えられます。確率なので、絶対ではありませんがね」
いやいや、十分だよ。
例え確率で与えるとしても、相手にデバフを掛けたり状態異常にしたりする、ていう選択肢ができるだけで戦いの幅が広がるからね。
使うイメージとしては、矢じりとか刃の部分に薬をつける感じみたい。
「だるくおねえちゃんたちは、なにかあった?」
「へっへーん! よくぞ聞いてくれたね、イクト君。実は僕達はレベルが六十に上がって、二度目の転職をしたんだ」
得意気な笑みを浮かべたダルクちゃんが、唐揚げを飲み込んで次の唐揚げを取りながら言った通り、私達はルナちゃんとアルテミスちゃんのレベル上げをしながら連携を練習中、レベルが六十に上がって二回目の転職をした。
この辺りのモンスターから得られる経験値は、今の私達にとっては微々たるもの。
だけどもうちょっとでレベルアップ、ていうところまできていたから、微々たる経験値でも数をこなしてレベルアップに至ることが出来た。
「お姉さん達、何に転職したの?」
興味津々といった様子のゆーららんちゃんに尋ねられ、私達は順番に転職先を答える。
ダルクちゃんは重戦士から、防御と物理攻撃に秀でた職業の騎士。
カグラちゃんは戦巫女から、直接戦闘と魔法を両立できる闘戦巫女。
メェナちゃんは俊闘士から より速さと攻撃力を得られる嵐闘士。
そして私は魔法師から、MPと魔力と知力に優れた魔導士。
これが二度目の転職をした私達の新しい職業。
「ダルクが騎士って、似合わないな」
「どういう意味さ!?」
そのままの意味だよ。
私もダルクちゃんが騎士だなんて、ゲームでなければイメージ湧かないもの。
「どれも強そうなんだよ」
「うふふ。二回目の転職なんだもの、それに相応しい名称じゃないとね」
だとしても、カグラちゃんの闘戦巫女はどうかな?
メェナちゃんの嵐闘士は、嵐の如く猛烈に相手を攻めるってことでまだ分かるよ。
でも似たような意味の闘と戦とが入った巫女って、それはもう巫女としてどうなのかな。
その巫女さんはどういう方向性へ進みたいんだろう。
「じゃー、明日の予定もよゆーってことだね」
「油断は禁物だけど、キャリーする側としてはレベルが一つでも上がったのは助かるわ」
明日の予定は、新しく加わった皆を先の町へキャリーすること。
ただ、ポッコロ君とゆーららんちゃんところころ丸は一緒に行動しない。
理由は非戦闘職が多いと、先々で守るのが大変だから。
ルナちゃんとアルテミスちゃんはまだレベルが低く、先へ進めば実質的に私達とイクト君達の四人と三体で戦うことになる。
非戦闘職はトーマ君、ポッコロ君、ゆーららんちゃん、ころころ丸、マーウちゃん、むらさめ君、ディーパクト君の六人と一体。
戦闘要員の方が多いとはいえ、万が一のことを考えて外れても問題の無いポッコロ君とゆーららんところころ丸は、ご飯時に連絡をして合流することにしたの。
「何日か掛けて、僕達が行ったことのある町は全部回るつもりだから、よろしく」
「明日は最低でもサードタウンウラヌス、出来ればフォースタウンハーフムーンまで行きたいわね」
「移動しやすいよう、祈祷スキルでモンスターとの遭遇率を下げるし、なんとかなるわよ」
「急ぎ足で移動するわけじゃないから、安心してね」
せっかくのUPOの世界だからね。
移動目的とはいえ急ぎ足で通過するのは勿体ないよ。
ただ、町にはあまり長居せずに出ちゃうけどね。
町中なら、後で転移して訪れてゆっくり見て回れるもの。
「僕達は畑の手入れをして、ポーション類の補充をしておきますね」
「できればお兄さんも外れて、食事の用意とかしたいんじゃないですか?」
「しょうがないさ。イクト達がいるのといないのでは、大違いだからな」
本当にそれ。
イクト君とミコトちゃんとネレアちゃんがいてくれれば、戦う時に大助かりだよ。
戦わないトーマ君が加わることくらい、なんともないよ。
というよりも、私としてはトーマ君と一緒にいられて嬉しい。
「なんにしても、明日の朝飯と昼飯はあまり手間のかかる物が作れそうにないから、そこは勘弁してくれよ」
そこは移動優先で行動するから仕方ないよね。
皆もそれを分かっているから、大丈夫とかオッケーって声が次々に上がる。
トーマ君のことだから、こういうこと言っておいて割としっかりしたのを作ってくれるんだろうね。
「トーマ! うどんの替え玉ちょうだい!」
「はいはい、ちょっと待っていろよ」
おっと、いつの間にかトーマ君の方を見ていて手が止まっていたよ。
早く食べ切って、私も替え玉もらおうっと。
それから予定の確認や雑談をしながら食事を続けて、後片付けが済んだらポッコロ君とゆーららんちゃんが収穫物を、私達も戦闘で入手したお肉や採取したハーブを、報酬や食費と共に渡して作業館を退館。
途中で料理ギルドへ寄ってディーパクト君の依頼を達成させ、宿を探して部屋を取る。
「セイリュウちゃんとトーマ君は、二人部屋の方が良いかしら?」
「だけどイクト君達がいるじゃない」
「はいはーい、ある程度の距離は離れられるので、隣の部屋で預かるというのは?」
「「それね」」
「あのなぁ!」
冗談でもそういうのはやめて。
まだ心の準備ができていないから。
いやいや、心の準備ができていても今はまだ恥ずかしさで倒れちゃうよ。
その後、無事に男女別で部屋を借りて就寝しました。




