想像以上に慕われていた
昼飯を終えて後片付けを済ませた俺達は、それぞれ別行動を取る。
午前中はルナとアルテミスが戦闘に慣れることを重視し、あまり手を貸さないようにしていたというダルク達は、午後は六人での連携の練習だと再び町の外へ。
ポッコロとゆーららんは畑の手入れに向かい、マーウはもっとスキルを上げるため素材を購入すると言って服飾ギルドへ走っていき、俺とイクト達とディーパクトはむらさめと共に行動することになった。
「ごめんね、トーマ君、一緒に来てもらって」
「昔からの仲なんだ、気にするな」
申し訳なさそうにしているむらさめと一緒に行動することになった理由は、人見知りのむらさめがコミュ障を発揮して、何かあった時のために付いて来てほしいと頼まれたからだ。
特に急ぎの用事も無いから承諾し、三人と三体で行動することになった。
「行き先は装飾ギルドでいいのか?」
「う、うん。僕もマーウみたいに、スキルのレベルを上げるため、素材が欲しいから」
「金はあるのか?」
「さっき作ったのを、ギルドに売るよ」
そっか、作った装備品を売った金で新しい素材を買って、また作ってを繰り返すのか。
まだ始めたばかりだからあまり高値では売れず、大した素材も買えないが、最初のうちはそんなものらしい。
「まーたー、ねーあもなーかつーりたい」
右手を繋いでいるネレアから、おねだりいただきました。
どうやらむらさめの物作りに触発されたようで、自分も何か作りたいと主張している。
確かに今のままだと、ネレアの木工とか石工とかのスキルを持て余しているし、これは良い機会か。
「分かった。何か素材を買うから、好きに作ってみな」
「あーがと、まーたー」
どういたしまして。
「そういうことなら私も薬を作りたいから、途中で製薬ギルドへ寄ってほしいんだよ」
今度は左手を繋いでいるミコトからの要望か。
新しいメンバーが加わってポーション類が必要になるだろうし、自分で使える金は潤沢にあるから承諾。
「じゃあいくとはね、えっとね、えっと……うぅ……」
生産系のスキルを持たないイクトが、何も作れないと分かって肩を落とした。
「気にしなくていいぞ。その分、イクトは俺達を守るために頑張って戦ってくれれば」
「わかった、いくとがんばってたたかう!」
なんとか慰めようと声を掛けたが、なんとかなって良かった。
あっさり元気を取り戻したイクトは、むんむんと鼻息荒く歩く。
「先輩、この子達って本当にテイムモンスターっすか? 言動が先輩のお子さんか弟妹みたいで、勘違いしそうなんっすけど」
「正真正銘、テイムモンスターだ」
そもそも、こんなに大きな子供を複数人持った覚えは無い。
まあ、いずれはどうなるかなんとも言えないが……。
ついセイリュウとのそんな未来を浮かべている間に装飾ギルドへ到着。
先に依頼が貼ってある掲示板へ行き、作業館で作った物を提供して達成できる依頼があるかを確認。
ネックレス系のアイテムを提供する依頼があったため、それを受けてすぐさま提供して達成。
報酬はネックレスのレア度と品質と完成度によって変動するようで、どれもが低いむらさめのネックレスで得た報酬はさほど高くないが、普通に売るよりはちょっとだけ高いし、他の物を売った金と足せば次の練習用の素材は問題無く買えるようだ。
「ネレアは何の素材が欲しいんだ?」
「ぜーぶ、すこーずつ」
全部を少しずつね、了解。
どうせだから今後もネレアが制作をしやすいよう、ギルドにも登録しておく。
これで登録可能な三つのギルドの枠は、料理、製薬、装飾で埋まった。
といっても、製薬と装飾は素材を買いやすくするために登録したようなもので、作った物を売却したり依頼を受けたりすることは無いがな。
そう思いつつ、ネレアの要望に沿って鉄と木材と石材を購入する。
道具は作業館にあるのを使うから、いらないそうだ。
「ディーパクト君は、料理以外のギルドに、登録するつもりはあるの?」
年下だけど今日が初対面の相手だから、ディーパクトに話しかけるむらさめの喋り方がたどたどしい。
だけど自分から話しかけたのは、人見知りのむらさめとしては頑張ったと思う。
「今のところ、その予定は無いっすね。現実でやらせてもらえない分、こっちでは料理に集中するつもりっす」
両親共働きで保護者不在の状況で、火や刃物を使って何かあったら大変だものな。
ここならそんな心配は無いし、俺みたいに戦うことなく料理ばかりしても、誰も文句は言わないから思いっきり料理をするといいさ。
「よし、次に行くか」
「おっす」
「うん」
「「「はーい」」
素材の購入を終えたら、次は製薬ギルドへ移動。
そこでミコト要望の薬草類を購入し、最後に料理ギルドへ。
分かれる前に受け取った今回の食費を利用して追加の食器類を購入し、ついでにディーパクト用の調理器具を購入。
これについては予めダルク達から許可を得ているから、問題無い。
「うおぉぉっ。自分専用の鍋やフライパンを持てるなんて、なんかワクワクしてきたっす」
その気持ちはよく分かるぞ。
俺も安物とはいえ、自分用の包丁を祖父ちゃんと父さんからプレゼントされた時は、メッチャテンション上がったし。
「ついでだから。依頼を少し見ていこう。構わないか、むらさめ」
「いいよ。僕の都合で同行してもらっているんだし、気にしないで」
だったら遠慮なく。
何人かのプレイヤーが眺めている掲示板の前へ移動し、貼られている依頼を見ながら、依頼の内容やすぐに達成できる依頼についてディーパクトへ説明する。
「なあ、あれって赤の料理長じゃないか」
「あの人が噂の?」
「どうする? 声かけてみるか?」
周囲のプレイヤーの視線が、掲示板から俺へ移っている気がする。
今はディーパクトと話しているから声を掛けてこないけど、話が終わったらどうなることか。
「おっ、トーマじゃないか!」
「こんにちは、トーマ」
聞き覚えのある声に振り返ると、こっちへ手を振るエクステリオとメアリーがいた。
その後ろには、会ったことがないプレイヤーが三人いる。
「よう、二人とも。こんなところで、どうしたんだ?」
「初心者の料理プレイヤーを引率しているんだよ」
エクステリオによると、数日前に【クッキングファーム】所属のプレイヤーが集まる掲示板へ、料理人や農家として第二陣でログイン予定のプレイヤー数名から、引率を求める書き込みがあったそうだ。
なんでも事前にUPOについて調べていても、いざログインするとなると不安だから、とのこと。
初心者相手に悪さをするプレイヤーもいるかもしれないからと、これを承諾して現在に至るらしい。
「大変だな」
「大したことじゃないさ。それに悪質なプレイヤーに絡まれてUPOを楽しめないのは、良い気分がしないしよ」
確かにそうだ。
変なのに付きまとわれてUPOを楽しめなかったら、良い気はしない。
「それに助けてあげれば、うちのギルドへも勧誘しやすくなるしね」
手助けをしている本当の理由は、ニヤリと笑みを浮かべたメアリーが小声で口にしたことじゃないよな。
そんな疑問を抱きつつも互いに自己紹介をして、ついでだからフレンド登録を交わす。
何故か感動の眼差しを向けてくる初心者料理プレイヤー達を他所に、エクステリオと会話をする。
どうやら彼らの他にも、初心者農業プレイヤーをメンバーの農業プレイヤー達が引率しているそうだ。
さらにはこの後で作業館へ行き、この場にいる全員で実際に料理をする予定とのこと。
「だったら一緒に料理するか? エクステリオとメアリーが、どんな料理を作るか気になるし」
「おいおい、そりゃこっちの台詞だって」
「トーマと料理ができる機会なんてそうそう無いから、こっちから頼みたいくらいよ」
なら問題は無いな。
人数が多いから代金は割り勘で個室を借りることにして、エクステリオとメアリーは初心者料理プレイヤー達へ説明を開始。
俺はこの後のことを考え、受付で転送配達システムを使い、調理用の魔道具を扱っているフィシーの店から何点か商品を購入。
それとディーパクトが料理を納品する依頼を二つ受け、二人で食材をいくつか購入する。
「納品物は野菜料理と肉料理を一品。材料、調理法、味付けは問わないが報酬は出来によって変動か」
「うっす。野菜炒めと焼肉ぐらいなら、自分でもなんとかなるっすから」
ファーストタウンの依頼だけに内容は緩いから、ディーパクトでもなんとかなると思ったのか。
調理法も味付けも問わないみたいだし、焼くか炒めるかして塩胡椒で味付けするだけでも提供可能なのは、最初のうちは大きい。
いや、焼きか炒めに拘ることはない。
「調理法を問わないなら、野菜は冷菜でもいいんじゃないかな」
「冷菜、っすか?」
「要するに和え物とかマリネのような、冷たい状態で食べる料理だな。一度茹でたり蒸したりしてもいいが、使う野菜次第では水にさらしたり塩を揉み込むだけで大丈夫だし、トマトとかキュウリみたいなのなら洗えば作れるぞ」
火を使わない分、ディーパクトにも作りやすいだろう。
「それ、楽に作れていいっすね! 作り方、教えてほしいっす!」
「だったら、作る肉料理と野菜料理をそのまま晩飯にしよう。納品分も作って確保しておくのを、忘れないようにな」
野菜を使った冷菜が副菜で、肉料理がメイン。
あとは料理に合わせて主食と汁物を付ければ形になる。
「了解っす!」
返事と共にサムズアップするディーパクトを真似て、イクト達もサムズアップする。
いや、お前達はやらなくてもよろしい。
「トーマ、こっちは終わったから行こう」
「ああ、分かった」
説明と受付での購入を済ませたエクステリオ達と合流し、作業館へと向かう。
道中は初心者料理プレイヤー達から色々と話を聞かれたり、ちょっとヤンチャな第二陣の戦闘職達に絡まれたり、それ以上に態度の悪い第二陣のテイマーからイクト達を寄こせと言われたりした。
なお、ちょっとヤンチャな戦闘職達は突如現れた謎の人波に飲まれていなくなり、態度の悪いテイマーはメアリーがGMコールで保安官を呼んで対処してもらった。
「ああいうのがいるから、ログインに不安を覚える初心者がいるんだよ」
ため息交じりで口にしたエクステリオの愚痴に、皆がうんうんと頷いた。
そんな中でイクト達は、悪質テイマーの件で今までに見たことがないほど不機嫌になっている。
「いくとをますたぁからはなそうとしたわるいひと、すぱってやりたかった」
頬を膨らませたイクトから、プンプンという擬音が聞こえてきそうだ。
スパッとやりたかったというのは、スラッシュモードで切り裂きたいということか?
戦闘で頼りにするとは言ったが、あまり乱暴な真似はしないように頼む。
「ねーあも、まーたーとばーばーやーだから、どっかんどっかんやーたかった」
えーと、俺とバイバイ嫌だからドッカンドッカンやりたかった、かな。
ドッカンドッカンっていうのは、鎖分銅で何回もぶっ叩くことだろうか。
「私達をマスターから引き離そうなんて、良い度胸しているんだよ」
普段は無表情のミコトが怒りを露にしている。
よほど怒っているのか目が据わっていて、初心者料理プレイヤー達に少し怯えが見える。
だけどイクト達ほどじゃないが、俺もあいつには少し怒りを感じた。
プレイヤー間でのテイムモンスターの譲渡や貸与はできないのに、それを知らないのかという呆れよりも、イクト達を奪おうとする神経に対して。
「イクト君達、そんなにトーマ君と、離れたくないの?」
「あたーまえ!」
「ますたぁといっしょじゃなきゃ、やだ!」
「愚問なんだよ」
オドオドするむらさめの質問に、肯定の返事をしたイクト達が一斉に引っ付いてきた。
あまりにしっかりしがみつくんで歩を止めてイクト達を見ると、絶対に離れたくないって気持ちが伝わってくるほど強く衣服を掴み、それがイクトとネレアの表情とミコトの目からも溢れている。
データ上の存在とはいえ、こうまで好かれていると少し恥ずかしくて照れるが、同時にとても嬉しい。
絶対に羞恥心と照れで赤くなっているであろう顔を、両手で覆って隠す。
「今のトーマ君、子供達に好かれて照れている父親にしか見えないよ」
「どうやったらテイムモンスターに、あそこまで慕われるんっすかね?」
「トーマの料理で胃袋を掴んだからかしら?」
「俺が知るか」
むらさめ、ディーパクト、メアリー、エクステリオ。
悪いが今の俺に対して、冷静かつ客観的な意見を述べないでほしい。
後ろにいる初心者料理プレイヤー達のように、「料理長に懐くイクト君達かわいい」とか、「あんなにしっかりしがみついて、よっぽど懐いているんだな」とか、「親子みたいで和む」とかのように、温かい気持ちの籠った言葉だけにしてくれ。
「料理長の料理は、データ上の存在すら魅了するのか」
「あそこまで懐かれるとは、下手なテイマー顔負けだろ」
「どう見てもパパの下を離れたくない子供達です、ありがとうございます」
「さ、最高のおにロリショタの光景が目の前に……!」
「貴腐人で良かったですわ……!」
ざわめきが大きくて聞き分けられないが、周囲も今の俺とイクト達に何やら言っている。
ひとまずこの場から退散するため顔を覆っていた両手を下ろすと、周囲からは温かい目が向けられていた。
冷静な眼差しを向けているのは、むらさめとディーパクトとメアリーとエクステリオの四人だけ。
そうと分かったら、それはそれで恥ずかしくなってきた。
「ますたぁ、どうしたの?」
「今度は俯いちゃったんだよ」
「ねーあたちがぎゅーして、いたーの?」
違うよ、くっ付いたまま見上げているお前達の密着は別に痛くないよ。
でも精神的な何かがガリガリと削られていっているから、そろそろ離れてくれ。
晒し者になっている気分だから、お願いします。
そんな俺の気持ちと裏腹にイクト達はなかなか離れてくれず、この状態が十分ほど続いた。




