Time triP
#III
佳織の頭には何も入ってはこなかった。唯一,何かが起こっていることを認識するスペースだけは脳にあった。
「私は…廊下…皆…止まってた…ぐるぐるっと…。」
声にならない息がパクパクしていた口から漏れ出てくる。誰かに話すわけにもいかない。親に話せば大笑い,友達(一方的に思っているだけかもしれない…)に話せば物笑いの種になるわけで,ひとりで考えるしかなかった。
「佳織,保健室行けば?内容頭に入ってないみたいだよ?あ,もとから脳にそんな容量ない?」
せせら笑いながら話しかけてくる隣の『なんたら』。しかしその『なんたら』に対しての佳織の答えは,
「ない。」
の一言。『なんたら』はさぞ残念そうに口を閉じた。
いつの間にか佳織の脚が佳織を家に運び,頭がぼーっとしたまま帰ってきた。
「ただいま〜。ん…わぁ〜…あはは〜。」
周りは動き出し,佳織は高速で自分の部屋のベッドへ歩いて(走っていたかもしれないが)いっていた。
「またかよぉぉぉ…も,なんなの?」
「ぇぇぁああああ!!え?ごめん!え?う…あー…もう終わったわこれぇ!!」
「誰?」
やけに冷静な佳織はどこか一点を見つめ続けていた。
「え〜っと…おけおけ落ち着こう。ンンッ!えー君はこれから時間の宮殿へ行かねばならん。」
「ほ〜。」
「時の宮殿へ!」
謎の人の一言で,また周りがぐるぐる回りだした。でも今回は今までの二回のスピードの比ではない。超高速。
「イヤァァァァ!―」
佳織自身の声も遠のき,意識は遥か遠くへ…
「ゔっ」
足が硬い地面につく。それは骨が折れそうな勢いだった。
「ほらこっち!はやくきて!」
有無を言わせぬはやさで手を引っ張る謎の人。どこかわからない部屋に連れて行かれた。
「まず,僕がここに君を連れてきてしまったこと,誰にも言わないでくれる?」
「…ぉ」
「OK。次に…あっ やべぇ――」
謎の人の見る方向には,いかにも偉そうに,瑠璃色の帽子をきちっとかぶり,踝まで届く長いコートを着ている,若い女性がいた。
「おやおや。シュラ,私は今聞いてしまったわ。この子を連れてきてしまったのね。」
優雅そうな声。佳織はなぜかカチンときて急に強気になり,
「あんのねー!本人おいといてベラベラ喋ってんじゃないわよー!!?」
「あら。申し遅れました,レデュラです。」
「れでゅら?」
「ええ。トキの宮殿の王女ですわ。」
「王女?ぷっは!何言ってるの?そんなことあるわけ――」
「私はトキの宮殿の王女です。時を司ります。あなた,時間が並行していくつもあるの,知ってるかしら?」
ますますよく分からない佳織は顔をしかめ,
「そっ。かえらせてくれなぁ〜い?」
とだけ陽気に言った。
「おほほ。あなたはね…。帰る方法は,自分がここへ来たという運命を変えるの。」
「ん〜?よぉく分からんなぁー。まあいいわ。帰れんならいいわよ。」
「そう。じゃああなたのお世話係を連れてくる。」
「この人とちゃうん?」
「この人は罰則があるの。連れてくるわ。」
早くことが進みすぎた。今の佳織に何を言っても,もう佳織の頭には入ってきはしない。
「シュラ,きなさい!キビキビ歩くのです!!」
シュラなる謎の人はぐったり王女の後ろをついていった。―――ものの一分,王女が帰ってきた。
「王女様,この人?」
「こちらリジュルよ。こっちは…え〜っと」
「佳織!私,佳織です!」
「かおり…えーとじゃあルジュで。」
佳織と言ったのにルジュと言われ,「こいつアホなんか?」と思った佳織だった。
「ルジュ?よろしくね。」
「あ,うん。」
「仲良くするのよ。じゃあ私は仕事に戻るわ。」
と言うと王女はどこかへ消えた。
「リジュル,あたし,なんでルジュなの?」
「現代とこことで名前は変えるものなの。」
「へぇー。あのさ,帰る方法教えてくれる?そこだけはしょられた。」
「んとね…」
リジュルのタメはやけに長く,ドキドキさせた。
「運命を変えなきゃ絶対帰れない。時間を司って,ここへ来た運命を変えて…!」
佳織は涙を一筋流したが,自覚はなかったようだった。




