62、護衛依頼
「それでこれがその冒険者の一人と」
マリアの登場してすぐ無能蜥蜴はマリアが邪魔になり殴ろうとして半殺しにあってお縄に付いた。
二人の冒険者は両方魔族ギルドに引き渡され、被害なしで終わりを迎えた。
しかしいざ帰ろうとした弥叉達をイクリさんに呼び止められた。
「ヤシャにお願いがあるの」
そう言われてしょうがなく話を聞くことにした弥叉はマリアとゼルフと共にギルドの個室に案内された。
そこにはさっきの依頼人のおじさんとイクリさん、それからもう一人いた。
「初めまして、私はこのギルドを任されているギルドマスター、ニドネ・ボーショックといいます」
爽やかな笑顔でふざけているんじゃないかって名前を聞かされて思わずステータスを見てしまった。
ニドネ ボーショック
種族:魔人種(魔物人化種族の略)ニードルマウス
性別:雄
年齢:44
職業:ギルドマスター
レベル98
名前が本当だったうえにまさかの高レベル。
イケメン顔の変人がこの世界のレベル高い人の特徴なのかと疑いたくなってしまう。
ここで普通なら流石はギルマスかと思うところだったのだろうが、
「俺、いや私はヤシャ・クドウです」
「知っているよ。冒険者登録したばかりなのに例の反乱にも参加していた新人君」
どうやらこの人は反乱に俺が参加していたのを知っていたらしい。
どこまで知っているか分からないが取りあえず促されるままに席に着いた。
「早速で悪いんだが君に指名依頼を頼みたい」
「護衛依頼ですか?」
誰のは十中八九同席しているこのおじさんだろう。
護衛を頼んだ冒険者は捕まったので代わりに俺達に頼もうという事か。
「君達はこれから向かう方向と同じ方向に向かうから一緒に連れて行ってほしいんだよ」
ギルマスから視線を外しおじさんの方を向くとおじさんは何を思ったのか自己紹介を始めた。
「私はグラム・ゼディルド。治癒師をしている」
「治癒師グラムと言えば魔族領でも指折りの実力を持つ治癒師なんだけど知らないかい?」
ギルマスの質問に俺、マリア、ゼルフの全員が首を横に振った。
そんな人物知るわけがない。
しかし相当有名なのか知らないと知ったギルマスとグラムのおじさん瞬間表情が少し固まった。
「まぁ、知らない人もいるよな。それじゃあその辺も説明がいるか」
「手短にお願いします」
「・・・うん。彼は治癒師だが戦争が起ころうとしている、又は起こり終えた現場に行って怪我人を治していくのを仕事としていてね。彼の今回の依頼もその現地へと送るものだったんだけどさっき見た通り護衛が遅れているんだ」
「それを受けると戦場に行くことになるんじゃないか?」
「確かにさっきの冒険者が受けた時はそれも含まれていたね」
「?」
「でもその戦争はもう始まってしまっていてね。このままじゃ戦争参加どころか終戦後の怪我人の助けられる日数を越えてしまう状態なんだよ」
言っていることを纏めると冒険者が遅れる過ぎた所為で戦後に治療にすら間に合わなくなっているとこれでいいかな。
そんな大事な依頼なのに何冒険者もグラムさんものんびり来ているんだと文句を言いたいが。
「それで君達は領主になったシャル様と面識があるんだよね。だからシャル様に事情を話して門を通らしてもらって現地まで送ってほしいんだ」
「お断りします」
俺は当たり前にそう答えた。
確かに俺達ならシャルに頼むことは可能だろう。しかし他の冒険者のミスを引き受けた上に門を通るのも俺達任せの依頼を受ける気は一切ない。ギルドの失態の尻拭いなぞ御免である。
「待ってくれ。依頼料はそれ相応の物を出すしこっちも無理を言っているのは分かっている。シャル様への説得ができなくても依頼失敗などにはしない」
ギルマスがまだなんか言っているがそういう事ではないのだ。
シャルは今、街の存続のために大事な場面にいるのを俺は知っていて門の通行も意味があってのものだと聞いている。そんなシャルにこんな会ったばかりのおっさん二人の為に無理なお願いをしに行くわけがない。
「話がそれだけならもう行かせてもらいますよ」
そう言って俺は腰を上げ、続いてマリアも立ち上がる。それで部屋を出て帰るだけだったがその途中腕を掴まれた。
まだギルマスたちが往生際悪く掴んできたと思ったら掴んでいるのはイクリさんだったのでその場で止まって振り返った。
「待ってください、ヤシャさん」
「イクリさんいくら頼んでもこの依頼を受ける気はありません」
「ですがこのままではシャル様にも悪い結果になると言ったら?」
「話だけは聞きましょうか」
イクリさんがこんなところで嘘をつくような人ではないことは短い期間だがカウンターで話した中なので疑わなかった。それもシャルに影響がある事なら尚更だろう。
「おぉ、よくやったイクリ君」
「ギルマスは黙って部屋の隅で自分の交渉能力の無さを反省していてください。グラムさんもここは私に任せて黙って座っていてくださいね」
「「はい」」
二人が退場したところで元の場所に座り直し、ギルマスが座っていた席にイクリさんが座り話し合いを再開した。
「それでこの依頼を受けないとシャルがどうなるんだ?」
「実はですね今回の現地は”オガス”なんです」
えっとオガスってどこ?
マリアからの説明を期待したがマリアの方も知らないらしく戸惑っていた。
という事は戦後の新都市か。これはグラムの名前を知らないなんか非にならない常識知らずだとばれてしまう。
「まぁヤシャさんには説明が必要だと思うのでその辺も含めて説明しますね」
どうやらもうイクリさんには常識知らずという認識になっていたらしい。
「”オガス”は大貴族の一角である鬼人種の長である妖鬼が統べている都市の事です。グラムさんはその都市の救助の為にオガスに向かっています。ここまではいいですね」
「はい」
「そしてこの街は残念ながら鬼人種ではなく睡魔族の一族が統治している領地です。
今回の依頼の失敗をすればオガスでは多くの兵が治癒師不足で亡くなる命をかなりの数救えます」
「そんなに凄い人なんですか?」
「あんなですが治癒の腕は確かな実力があります」
なんか隣で凄く肩を落としているおじさんがいるが気にしないで続ける。
「なのに連れて行けなければその理由を求めるでしょう?原因の元凶は捕まえた二人です。ですが残念ながらまだここで出発すれば間に合える状況です」
少しだがイクリさんの言う事が分かってきた。
「つまりグラムが門に通れなくて遅れれば原因の一つとして危害を加えるという事ですか」
「街に直接もありますし先ほども言ったようにこの街は睡魔の管轄。睡魔の長の方に文句を言う事も考えられます。そのどちらでも今の街では大打撃になる程の痛手を負う事になるでしょうね」
「なるほど・・・マリア。どう思う?」
「十分あり得る」
マリアもイクリの仮設は予想される問題としてあり得るという意見か。
ふむ、これは確かに無視できない。
「勿論十分な礼もご用意します。護衛制限も今回は特例という形でギルマス推薦とすれば問題にはなりません。受けてはいただけませんか?」
「イクリさんはこちらの弱いところを的確についてきますね」
「私もよくこの短時間で思いついたと思うわ。それに私の聴きたかった事も答えてくれて」
「いえいえ私としてもこのまま断れたら路頭に迷う事になりますから必死に考えた末の案ですよ」
「「「はははぁ」」」
俺とマリアとイクリさんは全員で笑う。
こうして依頼を受けることが成立した。
「よくやったぞ、流石イクリ君だ」
「ギルド長はさっさと推薦状と始末書を書き始めて下さい」
これ以降ギルドの運営はギルマスはお飾りでイクリさんが取り仕切っていくようになる。




