61、蜥蜴の冒険者
希望を見出したと思った所からの俺の断りの言葉にシャルは捨てられた子猫の様に涙目で「なんでなんで」と断られる理由が分からず見ていられないほど弱ってしまい俺の心を深くえぐられた。
これでシャルを見捨てるのは男としてどうなのだろう。
見かねたマリアが弥叉の言葉の続きを引き継いだ。
「私達もシャルに話があったのよ。明後日までに街を出たいからその為の手続きをしてほしいって」
「それは急ぎの事なのですか?」
シャルはすぐに立ち直れないのでフローウが代わりに話を進めた。
お互いに主が話せずに代理同士が話しているが気にせず話を進める。
「えぇ先約があるの」
◇ ◆ ◇
それは魔族ギルドでイクリさんと街の状況を話していた時に戻る。
「それもその店の職員が」
「俺達がきたときに対応してくれた人かもね」
「その人は信用できるんですか」
「できるよ」
その話が終わったところで後ろから音が聞こえた。
今座っているのは受付カウンター前で当然後ろはギルドの入場口なのだが今まで自分が訪れてから一度もマリア以外の人物がこの無人のギルドに訪れた事はなかった。
それが当たり前になってしまっていたがマリアではない老人一歩手前のおじさん(尻に尻尾が生えている)が来客してきた。
―――キリッ
目線がおじさんに向いている間にイクリさん含む四人の受付嬢は弥叉が最初に見た残念な姿ではないときの姿勢を正した姿でカウンターに座っていた。
いつの間にかゼルフも俺の頭に戻っている。
変わり身の早さになぜ俺の時はそれが出来なかったと文句を言いたい思いであったが何も言わずに状況の変化を眺める。
おじさんは入ってから迷うことなくカウンターに向かうとさらに後ろから二人の若者もギルドに入ってきた。おじさんの連れのようでおじさんの向かった受付嬢との対話を一人がもう一人がおじさんの傍で控える形をとる。あのおじさんどっかのお偉方か?
「いらっ」
「挨拶はいい」
「・・・どのようなご用件で?」
「街の情報が欲しい」
「どのような情報でしょう?」
何ともガラの悪い態度だ。完全に上から目線の命令口調。
それに対して嫌な客なのだろうがプロとして眉一つ嫌な顔せずに笑顔を浮かべ続ける受付嬢達は評価を改めてもいいと思えた。
「街の現状だ。それぐらい分かるだろう」
「申し訳ありませんが先に冒険者の登録を確認させて下さい。ギルドからの状況の提示は発表許可の下りているもの以外本人確認を行う決まりになっておりますので」
「・・・チッ」
さっさと情報をよこせという態度の若者は不快そうに舌打ちしてギルドカードを出現させ提示した。
所属名:煉獄の蜥蜴
階級:オレンジ
魔族ギルドランク:C
所持金:300,000
ついでにステータスは、
デコイ ローン
種族:レッドリザード
性別:男
年齢:25
職業:冒険者
レベル41
結構高い方か?
オレンジは確か護衛と戦闘が互いにCランク以上で所得条件が獲得できる階級だったか。
つまり先輩に当たるんだろうが、若者と思ったら同い年かよ。十代かと思った。
これがみんなが都市を見誤った時の心境か。
それに護衛の二人の尻尾は蜥蜴の尻尾なのね。顔は人とそこまで変わらないけど言われて見ると少し尖っている気がする。
「はい確認できました。現在は護衛依頼中となっていますね」
「そうだ!だが昨日この街に来て今朝出発しようと思ったら街の許可が下りないと街から出られないと門番をしていた兵が抜かしやがって出られなくなって目的地まで向かえなくなってた。だからここに来て情報を寄越せと言っているんだろうが」
あ~なんとまぁタイミングが悪い時に来たな。
今はルシウス派一掃中で街を一時閉鎖中。俺達の様に身元確かでもそれが終わるまで例外は認めないとしているからな。
受付嬢さんも同情半分に街にあったことを説明し出した。
あともう半分は結末が分かっている為の嫌気である。
話の内容はケリンさんの話に反乱があったことを加えた話でルシウスなどは登場しないものだ。
予想通りというかなんというか受付嬢の話を黙って聞いていた男は話が続くにつれて肩を震わせていき尻尾が床をバシバシ叩き始めた。
そして話が終わりを迎えた所で、
「んなことの為に俺達が足止め食ってるっていうのかよ!」
街の事なんて俺達には関係ない発言で関係ない受付嬢を睨み付けた。
「ですがこの件はギルドでは関与しておりませんので正式な手続きを領主の方に頼むしかないかと」
流石はプロ。相手の怒鳴りも何のそので表情笑顔のまま言い返す。
ここに来て俺の受付嬢の評価は鰻上りです。
ここまでそつなく言われれば少しは諦めもつくだろう。・・・かと思われたが蜥蜴男はまだ諦めきれないのか無理難題を言い出した。
「ならギルドから至急のようだと駆け寄ってくれよ」
「ギルドは政治に圧力をかけるのは禁止されています」
「あんた、俺達が何の仕事をしているのか分かっているのか?」
「分かっています。ですが、今回の依頼内容は時間の指定もされていません」
「それが早くいかなければならなくなったんだよ」
「それは貴方の都合ですか?」
「いや、状況が変わって依頼者が早く進みたいと」
最後だけ歯切れが一瞬悪くなったのを弥叉でも理解できた。
嘘かと思ったがおじさんは「もうあまり時間が無いんです」と男の言葉を肯定した。
受付嬢は冒険者の隠している真実まで見抜いたうえで畳みかけた。
「あなた方二人が依頼を受けたのは50日前です。そしてこの依頼の片道は早ければ30日で終われる依頼です。普通なら遅くとももうここをとっくに過ぎているはず」
男の顔が明らかに変わった。
よく見るとおじさんについているもう一人も雰囲気が変わっている。
受付嬢は止めとばかりに最後のひと押しを告げた。
「ではなぜこんな数日の余裕も取れなくなるほど依頼者にとってまずい状況になっている理由は護衛ルートの途中にある従魔レースで有名なゲボルク街で前金使って賭け事していた。違いますか?」
「ぐっ」
「ゲボルク街は道順の始めにある街です。どうせ当時は依頼者が早く進みたいのを自分達の都合を理由を付けて制止させていたんじゃないですか?そして時間が十分あるから大丈夫と思っていたら道中思った以上に遅れてしまい、そのうえこの街で立ち往生になってこのままでは間に合わなくなった。
依頼者が冒険者と意見を合わせているのはなぜその街に行かなければならないかの理由の欄を考えると、いう事を聞いて早く進めるならそれに乗るしかないから。
違いますか?」
二度目の違いますかで冒険者はまだしらを切ろうとしたが依頼者は膝をついた。
「その通りです。この二人に『俺達に話を合わせればすぐに通れるようになる』と言われています。理由もお嬢さんの言う通りです」
「そうですか。ではこの二人は依頼失敗にギルドへの誤報に対するペナルティーに、依頼者の護衛能力の不足による護衛ランクの剥奪、これにより階級も赤に戻ります。この事は所属チームにも連絡を入れておきますのでそのつもりで」
「「な!?」」
「当然でしょう?これでギルドが街に頼むことはないんだから依頼は失敗と判断する。そしてこんな余裕を持たせた難易度の低い護衛依頼にこんなミスを犯して今のままでいられると思っていたのですか?笑えませんね」
チェックメイト。
依頼者の証言が取れて街に出ることは出来なくなったので完全に二人のできることは終わりである。
何も言い返せなくなっていた。
いや~いいもの見せてもらったな。迷惑冒険者を撃退する受付が生で見られるとは思ってもみなかった。
だが一件落着と思ったその時追い詰められすぎた二人は受付嬢に対する逆恨みが限界に達した。
「ふざけんな糞アマ。なんで実力のある俺達が階級下げにならなきゃならねぇんだよ!」
「それがギルドのやる事か」
受付嬢の胸倉を掴んで腕が彼女の顔に向かって振り下ろされる。
イクリさん以外の二人が悲鳴を上げて椅子から転げ悲鳴が上げる。
「お前自分が何をしているのか分かってるのか?」
「ぐおおぉぉ―――!」
「ぐべっ!」
何とか間に合った。
振り下ろせれる拳は受付嬢に当たる直前で受け止める事ができ、もう一人はゼルフが頭から飛んでかかと落としを喰らわせて一撃ノックアウトさせた。
「なんだよてめーは!!」
「さっきから隣にいただろ無能蜥蜴。八つ当たりで女に手を上げる奴を見て助けるのは当たり前だろ」
「ぐっ、離せ!邪魔をするならてめーから」
蜥蜴男は腕を振り払い扉まで一歩引いた。
またかかって来るか、それとも逃げるのかと両方に備えて構える。
「ヤシャ。そろそろ戻るよ」
しかしその心配は一切なくなってしまった。
三章と四章の間の勇者サイドは書きません。




