32、再会
倒れ伏した親ガルロルフを見ても、身体の部位を切る光景を見ても、残った死体を燃やされ冒険者が消え去った後も子ガルロルフはその場から動こうとせずただ黙って見つめ続けていた。
何を見ているのか、何を考えているのかを弥叉には理解できないし子ガルロルフだからこその感情なのだと思う。
戦闘中、こいつは見ていなければ戦場に飛び出していたと思っていたのだが親が殺されていく光景にも身体を震わせただけで動かなかった。
何も感じていない訳ではなく感じたうえで耐えている。今の子ガルロルフの顔が悲しそうな表情をしているのを見て何も感じていない非道なのだとは思えなかった。
弥叉は子ガルロルフが動くのを待った。
親ガルロルフが最後に子ガルロルフを弥叉に向かわせたのが託されたような気がしたから。
子ガルロルフは終わったのか身体を起こすと弥叉の頭に乗ると早くいけというように一鳴きした。
子ガルロルフの身体は頭にフィットして綺麗に収まっている。
図々しいなと思いながらその場から離れるために歩き始めた。
この洞窟を普通に歩く訳にもいかないので陰にコソコソと移動する。不慣れな弥叉の足では慣れている子ガルロルフの足と比べると非常に遅い。
それでも文句を言ってこないで黙って頭に乗っているので鬱陶しいとまでは思わなかった
それからしばらくお互いに黙って洞窟を進んでいった所で弥叉が口を開いた。
「なぁお前これからどうするんだ?」
「ク~ン?」
「俺はこの洞窟を出て行くつもりだ。お前はどうしたい?」
返事はない。
というより喋れないため返事をしないで返したと見るべきか。
弥叉は質問を変えた。
「ここに残って過ごすか、それとも俺と一緒に洞窟を出る「キャン!」」
今度は分かりやすい返事が返ってきて弥叉の頬が少し緩む。
「なら早く出ないとな」
そう言って分かれ道を左に曲がろうとして違うと頭を噛みつかれるのだった。
◇ ◆ ◇
子ガルロルフと洞窟を脱出することになって一人の時とは状況が変わっていた。
利点となったのは子ガルロルフはこの洞窟の出口の位置が分かるのか分かれ道で弥叉が間違った方へ行こうとすると頭を噛みついて教えてくれる。
おかげで髪は唾液まみれになっているが非常に助かっているので我慢した。
それに魔物を察知するのが早く弥叉では突破できなかった魔物密集地帯も魔物と魔物の間を通って進むことができた。
(これなら脱出もできる)
そう思っていた時期がありました。しかしそんな簡単に行けるものではなかった。
その問題は食料。
またか、と思うが今度はあの時より深刻である。
食料問題になっているのは子ガルロルフ、その理由は単純。
草とか花の効果を受け付けない魔物だからだ。
弥叉は草を食って腹を誤魔化しHPは回復するので動けるがガルロルフはそれができないどころか狼なので肉食である。草で腹が膨れるわけがない。
ではどうしなければならないか・・・答えは、
「はああああぁぁぁぁ!!」
「ガルァ!」
この洞窟の魔物を倒さなくてはならなくなったという事。
今戦っているのはこの洞窟に来て一番レベルの低かった魔物。
それでもそのレベルは42。
倍のレベル差のある魔物である。
それに自分から戦いに挑むのに抵抗はあったし猿に殺される寸前までされた事を思い出したが先に仕掛けていく子ガルロルフを見て僅かばかりの勇気をもらって前に出ることができた。
ちなみに子ガルロルフのレベルは20。
潜在能力はあの親を見ていれば目の前の魔物の比ではないが今は子供。弥叉同様に格上の相手との対戦である。
2対1ではあるがそれでようやく戦える状態である。
敵の姿はアルマジロ。
ただし大きさはゾウガメと同じくらいかそれ以上。
素早さはないが背面にある鱗甲板は弥叉と子ガルロルフでは歯が立たないほど硬い硬度を有しており、丸まって突進されると避けるしか術がなくなる。
弥叉の武器はショートソードと鎖にダガー、訓練で使う大剣。
そのうち手に持っているのはショートソードとダガー。大剣でも鱗甲板を破ることができないと動きやすい武器を選択した。
狙うのは鱗甲板のない腹側。
ガルロルフも弥叉と狙いが同じ狙いをつけているようでどちらもアルマジロの体力を奪う動きを心掛けている。
そんな単純な戦法は意外にも通用した。
理由はロングスネークと同じで元々は集団で行動しその強固な鱗甲板で敵が攻撃できないうちに全員で敵に突撃し轢いて押し潰してしまうのが本来の戦い方であり単体ではそこまでの攻撃力も技もない。
レベル42だが防御力レベル50以上を誇るが攻撃力はレベル20そこそこといった魔物だ。
この洞窟で生きていけるのも草食で魔物を倒す必要が無いからという理由である。
つまり運よく最下級の魔物の中でも当たりを引いたのだがそんなこと戦っている本人達は知る由もない。
「おら!」
「ガル!」
アルマジロがようやく動きを止まり、疲れが露骨に表れ出した所をガルロルフが顔を狙って視線を誘導し、その間に使っていなかった大剣をアルマジロの下へ差し込み、てこの原理よろでひっくり返した。
後はもうこっちの思うがまんま腹側を攻撃しまくりアルマジロは絶命するのだった。
「よっしゃー!!」
ついでに言うと疲れていない、怪我を負ってない、状態異常がない魔物を弥叉が仕留めたのはこれが初めてのことであった。
弥叉の喜びは置いといて魔物と戦わないといけないきっかけであるガルロルフはよほど腹が減っていたのか倒したその場でアルマジロの肉にかぶりついた。
弥叉はガルロルフが食べ終わるのを待って、食べ残った肉をアイテムボックスにしまった。
弥叉も久々に肉を食べたかったがこれからどれだけかかるか分からないのにガルロルフの食料を減らすようなことはしない。ガルロルフが空腹になる度に倒せそうな魔物を探し戦闘を行うより自分が草で空腹を誤魔化す方がましだからだ。
(これなら結構持つかな?)
しまい終えるとアイテムボックスに興奮したガルロルフが頭に乗って今のは何かと聞くように騒ぎ始めるのを付き合いながら影に隠れて出口に向かって移動を再開する。
岩陰に隠れた弥叉達は食料となる魔物の捜索で出口に行くルートを外れてしまっていたのでそちらへ戻ろうとして
―――悪寒が走った。
ガルロルフも感じたのか騒ぐのを止め、毛を逆立てて僅かに震えていた。
悪寒の正体は恐怖。
弥叉はまだ姿の見えていないはずのそいつにガルロルフと遭遇した時と同じような感覚に陥る。
この洞窟にはガルロルフ以外にも災害級と呼ばれる魔物が存在する。
ガルロルフより強い魔物がいてもおかしくないと弥叉は悪寒がしてから足が前へと進めなくなってしまった。
悪寒が消えるまで相手が遠ざかってくれるのを待とうしたが、その願いも虚しく時間が経過する度にプレッシャーは強くなるばかりでどうやらこちらに向かって来ているようであった。
ガルロルフは頭から離れ弥叉の隣で身構える。
そして身構えてから数十秒後、その姿が弥叉達の視界に入り、
「ヤシャーー!!!」
「ぐぶふーー!?」
その正体を捉える前に姿がぶれて次の瞬間、腹にヤバいほどの衝撃が襲い掛かって来た。
鳩尾にクリーンヒットした衝撃で弥叉は勢いそのまま身体が浮き上がり吹き飛ばされ着地した衝撃を受けた後気を失ってしまうのだった。




