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18、ゴブリンVS人間 後編

 戦車に乗りゴブリンを追いかけるアル・ベリウソは痛手を被っている戦局に歯を食いしばり、逃げるゴブリンにこの屈辱を返そうと躍起になっていた。

 テント内での奇襲で50名以上の死亡。

 特に死者は与えられていた魔法使いがほとんどであり、また敵の別動隊により戦車20台が大破、部品の破損による使用不能が10台強と予想以上に被害が出ている。

 どちらも国からの支給品であり、それを失ったのは国からの信頼が低下したようなもの。

 この戦に勝っても自分の失態で今回の功績は無しになったも同然の状態だ。


「くそが!あんな下等生物の分際で俺の出世を!所詮センシャ5台もありゃ村を焼き払える様な存在がいくら頑張ったところで結果は変わらないというのにぃ!」


 アルの乗る戦車の前にはまだ破壊されていない20台が走行している。

 本来の白兵戦という形なら50強の犠牲は痛かったが戦車の操縦に必要な人数は4人、減った兵力でも残った戦車で攻めるのにお釣りがくる。

 体力面で魔術師を連れることができなかったが勝敗はそれでもこちらの有利は変わらないと言って良かった。

 こんな状態でもまだ負ける気は全く感じなかった。

 前方崖が見える前までは・・・



 ゴブリンを追う最前線の戦車に乗る男は反撃もなくただ逃げ惑うゴブリンに不気味さを感じていた。

 こちらは団長が首を刎ねられてたことで仲間の中に戦意喪失したり怒り狂ったりする者がいた。

 しかしゴブリンは誰一人そういった感情で動いた者がいない。

 全員が撤退に反対しないで従っている。

 団長と相打ちしたゴブリンはただの兵ではなく村で唯一の上位ゴブリンであったはずだ。


 そして次に気になるのがなんで兵のいるテントよりセンシャの方が被害が出ているのか。

 普通なら兵士を減らす事を考えるのにセンシャを狙うのは恐ろしさを知っていたからではないか。

 もしこの両方が向こうの計画なら・・・


 ドシャ―――ン!!!


「なぁ!!?」


 前を走行していた戦車マスで何か障害物にでもぶつかったような音を立てて急に止まった。

 ここは森だが開いた場所でセンシャの進行を妨げる物は無かったはずだ。


 一体何が起こっているんだ!?


 そんな疑問が浮かんだ直後今度は自分の乗っている戦車が急に止まったセンシャに避けることが出来ずに衝突してしまった。更に後続も続くように前の戦車に次々とぶつかっていく。


 その勢いで身体が車上から前に投げ出され、前の潰れたセンシャに近づいた事で最初にぶつかったものが何かが見えた。


 壁だ。


 壁と言っても生身でも飛び越えられるぐらいの高さしかない土の壁。

 こんなものでセンシャが止められたのだ。

 最初の戦車は盛り上がった土で車体が前に進めなくなり、引こうにも後ろから来る戦車によって潰されていき、さらに後続は仲間を潰していった。


 この世界の戦車は車内から周りを見渡すための視野を確保することが出来ない。透明なガラスはこの世界では貴重なもので、カメラなんて存在しない。車体の上に顔を出して指示を出す人が必要でそのタイム差が被害をさらに増やしていった。


「何をしてるんだ!!!」


 アル・ベリウソが叫びが聞こえるが左右のいる戦車は動けないと思われる状態であるのに後ろは下がる気配がない。

 夜で最前線まで見えないのでこちらがどうなっているのか分かっていないのだろう。

 再度言うがここは森の中である。

 逃走に使っていることもあり道は障害となる物が少なく戦車でも追撃できるほど開いている。

 見渡しは当然いい。

 前に段差があれば事前に察知できたはずだ。

 

 その証拠に前に走っていたゴブリンはジャンプした動作をした者はいなかった。


 突然だ。

 突然土が盛り上がり乗り上げられずに激突した。


 だが土が盛り上がったとしてもこの車体がぶつかって耐えれるものではないはず。


 どうしてこういった結果になったのか男は理解できない。

 この疑問の答えが聞きたいが答えを出している時間はなかった。

 なぜなら前方に視認していた崖の上から矢と魔法が放たれ側方からは雄たけびを上げて突撃してくるゴブリンが現れる。


 車内に武器は置いてある。


 だがそれを取る暇はない。


 目の前にゴブリンが武器を振りかぶってくるのを見て、


 あぁ俺たちは罠に嵌ったのか


 その答えにたどり着いてすぐ男は絶命した。





 先程まで追う側だったはずなのに急に起こったこちらの多大な被害。

 そんな前線の状況をようやく後続も理解し出した。


「てっ撤退だ!後退するんだ」


 アルは目の前の光景に恐怖し震えながら操縦している兵に叫んでいた。

 その表情にもはや余裕なぞ何処にもない。

 ただ自分が助かりたいから出た言葉だ。

 しかし今更その選択をしても何もかもが遅い。

 アルの乗る戦車より前はすでに仲間達により蹂躙が行われていた。武器を持って戦う者より何も持たずに逃げる者が大半である。

 勝負にもなっていない。

 撤退するにしてももう隊として機能していない。各自で逃げるしかできていない状態だ。


(僕も指揮官を捕縛する命令を遂行しないと)


 手に力を込めて走り車体へと飛び乗る。


 それにしてもこんな状況になるまで何もしてこないとは予想以上に判断が悪い。こんなになってようやく逃げようとし始めたのだから。・・・こんな奴らに大切なものを失ったのだと思うと怒りが込み上がってくる。

 

「ぐぁっ!?・・・ひっ!ゴブリン・・・」


 守る者はおらず武器を持たない。

 このセンシャという武器に絶対の自信があったせいで己を守る武器すら持っていないとは。

 敵は何の抵抗もする事ができず首筋に剣を当て抑えると動けなくなって震えてしまった。


「降参シロ!全軍にブキを捨てサセルんだ」

「化け物に屈する気は・・・ギャアァァ――――!!腕が私の右腕が!!」

「モウ一度イウ、降参シロ。ソレトモもう片方もキラレタイカ」

「する!しますから!!だから命だけは!!!」


 あまりにも一瞬な敗北宣言。

 ただ腕を落としただけで簡単に堕ちた。

 さっきまでの小馬鹿に逃げる仲間を追っていた姿とは対照的に泣き崩れながら命乞いを始めた姿はかなり醜い。

 どこまでもこちらを落胆させてくれる。


「ナラさっさト皆に伝わるヨウに指示をダセ」


 ゴブリン側被害 負傷者27名 死者14名

 人間側被害 負傷者78名 死者107名 戦車60台


 蓋を開けるとゴブリン側の快勝で決着が着いた。




 ◇ ◆ ◇




 勝鬨の上げる歓声が聞こえてくると俺はそっと息を吐き椅子に腰かけた。


「上手くいったか」


 村長達同様テントで待機していたものがテントを飛び出し崖の上から見に行っているが弥叉は戦場で姿を見せる訳にはいかないため、テントから出ることが出来ない。

 戦の状況は随時報告がされているが自分の目で確認することが出来ず、テントを張っている崖下で戦闘が開始してからは一切連絡が無いので上手くいかず激戦に陥っているのか思ったが外の歓声を聞いてホッとした。


 この作戦には不安があったのだから尚更だ。

 弥叉が提案していた作戦の段階が二つ。


 一つ目は奇襲。

 敵の数、武器を減らした上で罠を張った崖下まで誘き寄せる。

 ここで一番の問題は敵が罠だと気づかれること又は深手を負い過ぎることで追ってこないことだ。

 再編成して攻められれば勝つことはまず不可能だった。その為奇襲がどんなに順調でも敵にまだ勝てる余力を残させなければならない。ゴブリンエリートと斥候のホブゴブリンにはそのことを伝え、敵が反撃できるギリギリまで減らせる用頼んでいた。

 そして上手く敵は食い付いてくれた。


 次に二つ目は交通事故で自爆させよう大作戦(仮)である。

 この世界には元の世界より発展した物の一つ。

 本来の使用法は地盤を固めて道を作ったり家を建てられるように地面を凹ませるための物でロジューラと呼ばれている魔法具である。

 効果は魔法具に溜めた魔力量に応じた範囲の地面を圧縮する。凹ませる高さは最大でも1メートル弱で魔力はMPがあれば魔法を習得してなくても使える物だ。

 誰でも使えるが効果が少ない為使い道が少なく商店では売れ残り商品になることが多い。珍しくない物でゴブリン村の商店にも多く置いてあった。

 そんな魔法具で行ったのが戦車を誘き寄せた範囲に多重にロジューラを設置して疑似的な坂を作り上げた。

 効果範囲は設定できるので範囲が広く設定したロジューラから発動していきもっとも落差がある敵最前列は2メートルぐらいになり発動までの誤差も少ないため認識した時には遅く衝突する。

 盛り上げたのではなく下げたので壊れる心配もない。

 また後方になる程に違和感がないためなぜ前線が動かなくなったのか分からなくなる。

 その隙に側方面から控えていたゴブリンが強襲をかけ敵兵を投降させる。


 こんな感じにしているがこの作戦穴が多いんだよな・・・


 敵戦車が落差を乗り越えたりしたら作戦失敗。成功しても戦車をすぐ放棄して肉弾戦になったら向こうと数が変わらないので結果がどうなるか分からないし、敵が降伏しないで逃げたら終戦できずにまた攻めてくる可能性がありそうなればもうチャンスは望めないだろう。

 敵にも味方にも望むことが多い中で最後まで作戦通りに進んだのは運が良かったと言えた。


「ヤシャさん、戦は隊長の息子が敵指揮官を降伏させ勝ちました!」


 テント内に奇襲の報告を行ったゴブリンがさっきまでの落胆していたのから一転喜びを露わにしながら報告をしに来た。


「なら気を抜くなと言っておけまだ敵兵数は向こうのが多いんだ。確実に反撃してこないとは限らない状況で手を抜いて反撃されたら目も当てられん」

「・・・はっ了解しました」


 ヤシャの言葉に慌てて出ていくゴブリン。

 自分の気持ちを素直に言えばいいものをつい強気で言ってしまう。

 その後は当分誰も現れず、どうなったのか細かく聞けばよかったと後悔しながら一人でテントの椅子に腰かけ続けるのだった。



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