19、報告書
魔王領『イビル』
その一都市である魔王の住む王城内の大量の本や書類の山に囲まれた一室。
掃除はされているのか疑わしい程物が散乱していて人がいないようなその部屋は扉の中央に人一人分通れるだけで後は書類や本が置かれて通れる所が無い状態である。
入って来た男はそんな本や書類の山の間の一本道を通って更に新しく書類を持って来たのを見て少女の絶叫が場内に響き渡った。
「いやぁーーー!なんでまだ増えるのよ――!!」
「しょうがないでしょう。文句は人間側に言ってくれ。私も同じような状態なんだ」
「管理してる領主や貴族が何もしないでこっちに回してこなければ少しは減るでしょうが!」
私は王城で国境付近の領土の管轄をしている文官のセリヤ・フィリーユ。
実家では低位貴族の三女で成人して家から出ることになり、就職先として魔王様の住む王城が人員を募集していたので受けた所合格した。
最初はそれなりに仕事が回ってくるだけの普通の仕事だった。
休みももらえたし給料も良いしで最高の職場だと思ったのだ。
それがつい最近一気に激変した。仕事で死ぬんじゃないかと思う程しなければいけない事が後から後から回って来て昨夜も徹夜してるのに一向に仕事が減らない。
それどころか更に回ってくる始末で文句を言うのも当然だと思う。
「私もそう思うが今は魔王様も立場があるからな。強くは出れないのは分かっているだろ?」
「何度も聞いたわよ。・・・はぁ、なんで人間との戦いがこんなに急に増えているのよ。それも負けてる報告ばかりだから避難民や被害の請求なんかの問題事ばかりでいい報告ないし、魔王様への報告に行く身になってよ、もう!」
「それは・・・ご愁傷さま」
「同情するなら少しは手伝うと思ってその書類は持って帰って下さいよ」
「それとこれとは話は別」
私が机に倒れ込んでいるのを見た後、懇願した瞳で言ったんだから男なら手伝うよの一つぐらい言ってもいいじゃんか!それを頭掻きながら苦笑一つってなっていない。
申し訳ないと思うなら何気に置いた書類をこっちに近づけるのを控えなさいよ。
「本当にこっちも忙しいから。でも今回の報告は勝っている報告もあるみたいだって言っていたから、魔王様に嫌な顔はされない物だよ。きっと」
「どうせ、貴族が加勢してる戦いでしょ」
男が差し出す書類を受け取ると今、作業しているのとは区別するように机に置いた。
セリアが受け取ったのを確認すると男はすぐに退出し、また部屋はセリア一人になる。
最近になって書類が増えたのは先程の話に出ていたように人間側が国境拡張の為に戦を仕掛けてくることが増えその戦果報告が各地域から送られてきているからだ。
200年前に交わした不可侵条約のルールを破らないよう名目上は一般市民が起こした暴動という事になっていて人族側はこれは人族の総意で起こしていないと言って条約に含まれないグレーゾーンだと主張してくるが戦になる前に上役を派遣したり、何かしらの褒美や魔物対策だと武器を送っていたりと兵の人員を増やし戦力事前に上げて戦いを誘発させている。
こちらでも各区域の領主や貴族に国境付近の強化を促しているが都市や街などの規模と利益がある所に戦力を送るばかりで小さな町や村は放置になっている。
重要視されていない町や村にも兵を増やしたいが表面上は重要な場所で勝利しているという成果を挙げている上兵数にも限度があり無理をさせる訳も行かない為これ以上こちらから強く言えない状態になってしまっている。
結局ここにある書類のほとんどは重要と思われなかった戦力を持たない小さい町や村を攻められた結果だ。
戦力強化した街を相手に戦力増強を行ってくれない町が勝負になるはずもなく、行われた戦いは敗北ばかりでその結果ここには住む場所の失った難民の対処や魔王が対処してくれない事への不満が増加している。
それに戦いに便乗して貴族達が金を巻き上げようと必要な資金以上を請求して来る者が後を絶たず本当の報告を選別するのも一苦労なのだ。
それに問題に上がっている金属で固められた移動式の遠距離型中級魔法を放つ兵器。
見たことが無い兵器で戦の前に調査されていた魔法使いの数に対して開戦してからの魔法を撃つ数が多くて対応出来なかったという報告が多数が上がている。
その報告が上がった箇所では必ず目撃されるので調査を進め出したのたが、勝率の低い戦い程戦場に現れない為、戦った兵の数が少なく残骸の確保も失敗続きで詳細が分からず仕舞いでいる。
ただの文官としての意見だけど人間の思惑に嵌っていると思うのよね。
「これも金欲しさの報告書か。こんなの書いてないでもうちょっと周りを守りなさいっての」
持っていた書類を一通り読み終えて判子を押さずに積み上がっている束の上に置いた。
部屋を埋める山は本を除いてすべて没にした書類関係。この中から魔王様に報告する書類はほんの僅かしかない。
それでも被りで届く物や大事な報告も混ざっているから全部読まないといけないのが難儀だ。
次の書類は・・・
「さっき持ってきた山か。この中にどれだけ重要なのがあるのかな」
今だに終わりのこない仕事に愚痴をこぼすと上から読んでいく。
・・・
・・・・・
・・・・・・・
新しい山の書類に取り掛かって何分立ったか。
セリアは一枚の報告書を読んで思わず立ち上がってしまった。
この書類を持ってきた男が言っていた勝利した戦の報告書だ。
しかしそこに書かれている内容は今までの勝利した内容とはまるで違うものだった。
戦の相手は街で戦いになった成り行きは他の報告と変わらない。
こちらの戦力が今まで報告されている戦力増強をしていない村とそう大差ないものであることからまた負けた書類かと判断した。
敵兵力は倍以上、例の兵器も導入していたし、こちらの兵は魔族の中でも力の低い者しかいない勝てる要素が無かった。それなのに勝敗の結果は勝利したと書かれていた。
最初は目を疑い、次に記載ミスではないかと思った。
私は急ぐように次の戦闘報告の欄を読み始めた。
そこに書かれている事を読んで雷に打たれたかのような電撃が私の中に走った。
決して完璧ではない作戦である。
相手が思い通りに動かなければ結果は予想通りに終わっていただろう。しかしこの作戦はこの局面の戦力差で出来る思考ではない。
こんな策一体誰が思いつくのかと思ってしまう程今までの戦いにはない戦い方であった。
そしてこの戦いではほとんど作戦通りに進んだ事によりその結末の凄さが数字で表れている。
戦いの後、この村は戦を仕掛けるよう仕向けた男とサポートをしていた仲間を断罪し、街には魔族の商人の街への通行の許可を求め、了承した代わりに捕虜を全員解放している。
正直、捕虜は解放に身代金を要求するものと思ったがそれもしていない。
街側が簡単に了承してくれるような要求内容だ。
これでは始末された男の裏で操っていた連中も再度攻めることはできないだろう。
ここで終わりだと思ったらもう一枚あった。ここはでの成果を上げた報酬の要求か?
報告通りにホントにあったのなら請求してきてもさほど驚かないが・・・
しかし書いてあったのは予想の斜め上に行く。
こちらが詳細を掴めていない兵器についてだった。
名称から効果、弱点まで記載されていた。特に魔法使いでなくても使えるというのが報告の裏付けにもなり信憑性があった。
すべてを読み終えると、すぐにセリアは部屋を出た。
魔王様へ報告する為に、そして出来ればこの策を考えた者に会ってみたいと思って、
この書類から魔族側の情勢が盛り返し、戦いに大きく貢献したのだがこれは後の話である。




