表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある、宰相様と錬金術師。〜冷徹宰相が仕組んだ仮面舞踏会。見習いはその夜、魂を縛る契約印を刻まれる〜  作者: 佳月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/16

その後



 執務室の扉が閉まると、そこは一瞬にして極寒の地へと化した。


 クヴァレは、手にした資料を握りしめたまま、その場から動くことができない。殺気などという生易しいものではない。アイスベルクの背後に、物理的に目に見えそうなほどの暗黒のオーラが渦巻いていたからだ。


「ベル……ク……?」


 恐る恐る声をかけると、アイスベルク様はゆっくりとこちらを向いた。

 その顔には、完璧な――しかし、瞳に光が一切宿っていない、凍りつくような笑顔が貼り付いていた。


「……殿下。大変ご多忙な国王陛下が、わざわざ宰相の私的な執務室にまで足を運ばれるとは、感服いたしました」


 アイスベルク様の口調は、この上なく丁寧で優雅だった。だが、その一言一言が、鋭利な刃物のようにクヴァレ様の首元へ突きつけられる。


「……あ、いや。その、例の件について……」

「例の件、ですか。……なるほど」


 アイスベルク様は一歩、また一歩と優雅な足取りで近づいてくる。


「人の部屋、もとい執務室に無断で侵入し、あまつさえ私の最も寛ぎの時間を無作法に破壊された、その『例の件』について……ですか?」

「ち、違うんだベルク! ちょっとノックを忘れただけで……」

「そうですか。ノック、という簡単な作法すらも忘れてしまうほど、国王陛下は公務でお疲れなのですね」


 笑顔を深めたまま、アイスベルク様の声のトーンが一段と低く、冷たくなった。


「ならば、なおさらです。休息が必要なようですね。……明日から、現在の執務の倍量をこなしていただく。それが陛下のためであり、王国のためです。ご不満はありませんね?」

「……っ!?」


拒否権など端から存在しない、慇懃無礼な宣告。クヴァレ様は蛇に睨まれたカエルのように震え、青ざめた顔で「は、はい……」と頷くことしかできなかった。



 一方、王宮の庭のアーチの下。

 私は荒い息を整えながら、冷えた石造りの柱に額を押し当てていた。


(ああああ……もう、どうしましょう……!)


 頬の熱が引かない。それどころか、先ほど唇を撫でられた感触が、脳内で何度も何度も再生される。


「……っ! あんなの、ずるい……!」


 逃げ出しても、あの時のアイスベルク様の朱色の瞳が、耳元で響いた囁きが、私を追いかけてくる。

 あの甘い空気、彼が私だけに見せたあの表情。今まで感じたことのない、心臓を締め付けられるような感覚が、今の私を支配していた。


「まだ……まだ、鼓動がうるさいわ」


 心臓の音を隠すように両手で胸を抑えるが、逃げ込んできたはずの庭の静寂さえも、今の私には騒がしく感じられた。

 これから先、彼に会ったとき、私はどんな顔をすればいいのだろう。考えるだけで、再び顔が真っ赤に燃え上がるのを感じた。


(……せめて、今は誰にも会いませんように。この顔を見られたら、きっと何かを勘ぐられてしまう……!)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ