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落第剣士が古代魔法に巻き込まれ一億年修行 ~七王の技を宿して世界を救う~  作者: バナナ


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欠けた名簿

朝の光が星環学園の資料室へ差し込んでも、机の上の紙だけは夜のままだった。セレスは羊皮紙、写本石、術式記録板を横一列に並べ、その間へ細い糸を渡している。昨夜まで地下の報告にあったはずの空白を、今度はどこにも逃がさないためだった。カイたちは机の周りに立ち、誰も最初の一言を急がなかった。急いで意味を与えれば、記録を守るはずの作業が、また記録を塗り替えることになる。


「同じ報告を、三つの方法で残します」セレスが言った。「紙には私が書く。石にはリゼットさんが刻む。記録板にはアステリアさんが時刻と一緒に写す。内容が違ったら、正しいものを決める前に違いそのものを残す」


「俺は口で話す役か?」ガロウが腕を組んだ。「字は任せるけど、昨日聞いた音まで消されたら黙ってられないぞ」


「黙らなくていい。ただ、同じ言葉を何度も言わないで」カイは答えた。「繰り返すほど、最初の記憶と後から聞いた話が混ざるかもしれない」


ガロウは不満そうに眉を寄せたが、すぐに頷いた。「じゃあ、一回だけ言う。壁の向こうで三回。間は同じじゃなかった。弱い音だった」


ミナも続ける。「私も三回。最初より二回目が近かった気がする。でも三回目は……怖くなって、耳を塞ぎたかったから、そこは自信ない」


リゼットはその言葉を紙へ移さず、石板の端に小さな印だけを刻んだ。確実なことと、確実ではないことを同じ列へ押し込めないための印だった。アステリアの投影は机の上に淡い星図を開いている。星の一つが、地下への経路を示すはずの位置で何度も明滅した。


「私の記録には、入口から地上連絡鐘までの距離が残っている」アステリアは言った。「けれど、入口の先に何があったかを尋ねると、同じ記録が二つの答えを返す。階段と表示するもの。何もなかったと表示するもの」


「どっちが本物なの?」ミナが訊いた。


「まだ決められない。本物を一つに決めるための材料が、今は足りない」


それは昨夜、レイガが言った言葉と似ていた。強い者がすぐ答えを出さないことは、初めて聞いた時には頼りなく感じた。だが、足りないものを足りないと言えるからこそ、間違った答えを誰かの上へ落とさずに済む。カイは黒い鞘へ指を添え、星図から目を離さなかった。


資料室の扉が二度叩かれた。開けると、記録管理を担当する教員が封のされた薄い箱を抱えて立っていた。顔色が悪い。箱の表には地下訓練路の封鎖番号が書かれているが、その下の搬入者欄だけが白く抜け落ちていた。


「封鎖前の書類を集め直している」教員は言った。「これは昨夜、支所の保管庫から届いたものだ。本来なら、封鎖区域へ入った者と出た者を照合する名簿が入っている」


「本来なら?」セレスの声が少し硬くなる。


教員は箱を机へ置いた。「中身が一枚少ない。いや、そう断定できない。綴じ紐の長さは十枚分なのに、紙は九枚しかない。欠けた紙を抜いた跡もないんだ」


カイは箱へ手を伸ばしかけ、止めた。「触る前に、今の形を写してください」


セレスが頷き、紙の折り目、封の蝋、綴じ紐の結び目を順に描き取る。リゼットは《蒼律》で箱の周囲へ細い光の枠を置いた。ミナはいつものように火花を飛ばそうとして、手を引っ込める。熱で蝋がわずかでも変われば、後で比較できなくなるからだ。ガロウは扉の前に立ち、誰も出入りさせなかった。


封を切る役は、教員でもセレスでもなく、カイになった。持ち主の権限ではなく、切る動作を一度で終えられる者が必要だった。カイは刃先を蝋の縁へ滑らせ、紙に触れないよう封だけを二つに割った。箱の中には番号順に並んだ名簿があり、九枚すべてに同じ印が押されていた。


最初の八枚には、封鎖前の巡回者、試験官、搬送担当者の名と出入りの時刻が記されている。どれも整っていた。最後の一枚だけ、中央に広い余白があった。余白の上には、記入欄としてではなく、まるで最初からそこにあるべきではなかった文字として、短い一文が残されていた。


《帰還者一名。氏名照合保留》


ミナが息を呑んだ。「帰還者って、私たちのことじゃないの?」


「班員五名は別の欄にある」リゼットが指した。そこには五人の人数だけが記され、氏名はそれぞれの報告書と照合済みの印で結ばれていた。「これは別の一名。けれど、誰が書いたのかも、いつ書いたのかもない」


ガロウが机へ身を乗り出す。「じゃあ、壁を叩いてたのは本当に人だったんじゃないか」


「可能性は上がった。でも、同じ人だと決める材料はない」カイは名簿を見たまま言う。「昨日の音と、この一文をつなげるのは簡単だ。でも簡単な線ほど、違っていた時に見えなくなるものがある」


その言い方に、ガロウは一度だけ歯を食いしばった。否定されたわけではない。むしろ、聞いた音を守るために、勝手な名前を与えないのだと分かっている。それでも、助けを待つ誰かがいるかもしれないと考えれば、今すぐ地下へ走りたくなる。


「待つだけなのかよ」


「待たない」カイは顔を上げた。「正規調査班が入る前に、帰還者が地上へ出た可能性を調べる。地下へは入らない。出てきた人なら、入口の外に痕跡があるかもしれない」


教員が迷った。「封鎖区画の周辺も、今は触れないよう命じられている」


「触れません。見て、記録するだけです。必要なら先生に立ち会ってもらう」


アステリアの投影が少し明るくなった。「地上側なら、昨夜の星図と今朝の星図を重ねられる。地下の空白へ踏み込まず、空白が外へ影を落としていないかを比べることはできる」


レイガの許可が出たのは、昼を過ぎてからだった。条件は厳しかった。封鎖線を越えないこと。物を移動させないこと。発見したものをその場で解釈しないこと。五人は一人も欠かさず、白い領域の手前へ並んだ。


地下への階段口は、昨日よりも遠く見えた。実際の距離が伸びたわけではない。白い封鎖膜が、そこから先を景色ではなく境界に変えているからだ。壁の窪み、帰還標識、縄を結んだ場所、番号札。見覚えのあるものほど、今は自分の記憶と照らし合わせる必要があった。


セレスが昨夜の写しを開く。「壁の擦り傷は三本。番号札は四枚。入口側の泥は一か所」


「今は?」カイが訊く。


「擦り傷は三本。番号札も四枚。泥は……二か所です」


二つ目の泥は、封鎖線の外、帰還標識のすぐ脇にあった。人の足跡ほど大きくはない。けれど靴底の模様は、昨夜階段前で見つけたものと同じ三角の刻みを持っている。違うのは向きだった。昨日の跡は下へ向かっていた。今の跡は、地上へ向いている。


誰かが出てきた。そう言いたくなる形だった。


だが足跡は一つだけで、次の一歩がない。帰還標識の前で、泥は唐突に途切れていた。乾いた石の床に移ったのか、それとも途中で消えたのか。カイはしゃがみ込んだが、指先を伸ばさない。近づきすぎれば、自分の影でさえ証拠を変える。


ミナが小声で言った。「ここまで来たなら、追いかけたくなるね」


「うん」カイも小さく答えた。「でも、追うために来たんじゃない。帰った痕跡があるなら、帰る場所を先に守る」


リゼットが封鎖線の外側へ、白い札を一枚置いた。札には名前も、救助対象という言葉も書かれていない。ただ、《未照合の帰還者に関する痕跡。保全要請》とだけ記した。誰であるかを決めずに、誰かである可能性を守るための文だった。


その瞬間、アステリアの星図が大きく揺れた。地下へ延びる光ではない。地上の廊下、資料室、保管庫、そして学園の正門へ、細い点線が四つ伸びていく。どの線も途中で消え、最後の一つだけが、校門の外にある古い連絡塔の前で止まった。


「候補?」セレスが訊く。


「候補です」アステリアは即座に答えた。「確定経路ではない。昨夜の空白と同じ性質を持つ記録の乱れが、そこにあります」


レイガは星図を見てから、五人を見た。「今日はここまでだ。連絡塔は正規班が確認する」


ガロウが反論しかける。けれどカイが先に、封鎖線の外の足跡を指した。


「俺たちが見つけたのは、追跡の許可じゃない。保全が必要な証拠です」


「……分かってる」ガロウは低く言った。「分かってるから、余計に腹が立つんだ」


ミナがその横で、握った手をほどいた。「次に誰かがここへ来た時、この足跡を『最初からなかった』って言わせない。私たちが見たって、残せるようにしよう」


セレスは新しい記録札へ、今度は足跡の形だけでなく、見た者の位置まで描き込んだ。カイは少し離れた場所に立ち、見下ろした角度を言葉にする。リゼットは全員の発言が終わるまで札を閉じない。アステリアは星図の点線を、消えそうになるたび別の媒体へ複製した。


救助はまだ始まっていない。誰を救うのかさえ、分かっていない。それでも、救助の前に消えてしまうものを残すことはできる。カイは階段の闇ではなく、地上へ続く一つだけの泥跡を見つめた。名を知らない帰還者がいるなら、その人が再び世界から抜け落ちる前に、せめて帰ってきたという事実だけは手放さない。


白い封鎖膜の向こうで、誰も触れていない連絡鐘が一度だけ鳴った。音は短く、昨夜の壁を叩く音とは似ていなかった。それでも五人は、聞き間違いだと片付けず、それぞれ別の紙へ時刻を書き留めた。今度は誰にも、空白を一人で抱えさせないために。


【主人公ステータス】対象:夜凪カイ種族:七紋人個体ランク:Bレベル:Lv.25HP:302/320(ランクB)魔力:403/430(ランクB)攻撃:136(ランクB)防御:119(ランクB)速度:150(ランクB)技能:基本剣術(ランクB・Lv.8)/黒影歩(ランクB・Lv.7・安全十五歩・反動十秒)/迅雷駆(ランクC・Lv.2・直線三射)/鏡砕返し(ランクC・Lv.1・二連続)/焔皇砕(ランクD・Lv.1・威力三割)/蒼天鎧(ランクC・Lv.2・十五呼吸)/虚空掌握(ランクD・Lv.1・一対象三秒)状態:通常安全出力B・条件付き上限A。第51〜58話は実戦C〜B級相当だが、事務上の評価・所属とは区別する。


【主人公ステータス】対象:夜凪カイ種族:七紋人個体ランク:Bレベル:Lv.25HP:302/320(ランクB)魔力:403/430(ランクB)攻撃:136(ランクB)防御:119(ランクB)速度:150(ランクB)技能:基本剣術(ランクB・Lv.8)/黒影歩(ランクB・Lv.7・安全十五歩・反動十秒)/迅雷駆(ランクC・Lv.2・直線三射)/鏡砕返し(ランクC・Lv.1・二連続)/焔皇砕(ランクD・Lv.1・威力三割)/蒼天鎧(ランクC・Lv.2・十五呼吸)/虚空掌握(ランクD・Lv.1・一対象三秒)状態:通常安全出力B・条件付き上限A。第51〜58話は実戦C〜B級相当だが、事務上の評価・所属とは区別する。


【主人公ステータス】対象:夜凪カイ種族:七紋人個体ランク:Bレベル:Lv.25HP:302/320(ランクB)魔力:403/430(ランクB)攻撃:136(ランクB)防御:119(ランクB)速度:150(ランクB)技能:基本剣術(ランクB・Lv.8)/黒影歩(ランクB・Lv.7・安全十五歩・反動十秒)/迅雷駆(ランクC・Lv.2・直線三射)/鏡砕返し(ランクC・Lv.1・二連続)/焔皇砕(ランクD・Lv.1・威力三割)/蒼天鎧(ランクC・Lv.2・十五呼吸)/虚空掌握(ランクD・Lv.1・一対象三秒)状態:通常安全出力B・条件付き上限A。第51〜58話は実戦C〜B級相当だが、事務上の評価・所属とは区別する。


【主人公ステータス】対象:夜凪カイ種族:七紋人個体ランク:Bレベル:Lv.25HP:302/320(ランクB)魔力:403/430(ランクB)攻撃:136(ランクB)防御:119(ランクB)速度:150(ランクB)技能:基本剣術(ランクB・Lv.8)/黒影歩(ランクB・Lv.7・安全十五歩・反動十秒)/迅雷駆(ランクC・Lv.2・直線三射)/鏡砕返し(ランクC・Lv.1・二連続)/焔皇砕(ランクD・Lv.1・威力三割)/蒼天鎧(ランクC・Lv.2・十五呼吸)/虚空掌握(ランクD・Lv.1・一対象三秒)状態:通常安全出力B・条件付き上限A。第51〜58話は実戦C〜B級相当だが、事務上の評価・所属とは区別する。


【主人公ステータス】対象:夜凪カイ種族:七紋人個体ランク:Bレベル:Lv.25HP:302/320(ランクB)魔力:403/430(ランクB)攻撃:136(ランクB)防御:119(ランクB)速度:150(ランクB)技能:基本剣術(ランクB・Lv.8)/黒影歩(ランクB・Lv.7・安全十五歩・反動十秒)/迅雷駆(ランクC・Lv.2・直線三射)/鏡砕返し(ランクC・Lv.1・二連続)/焔皇砕(ランクD・Lv.1・威力三割)/蒼天鎧(ランクC・Lv.2・十五呼吸)/虚空掌握(ランクD・Lv.1・一対象三秒)状態:通常安全出力B・条件付き上限A。第51〜58話は実戦C〜B級相当だが、事務上の評価・所属とは区別する。


【主人公ステータス】対象:夜凪カイ種族:七紋人個体ランク:Bレベル:Lv.25HP:302/320(ランクB)魔力:403/430(ランクB)攻撃:136(ランクB)防御:119(ランクB)速度:150(ランクB)技能:基本剣術(ランクB・Lv.8)/黒影歩(ランクB・Lv.7・安全十五歩・反動十秒)/迅雷駆(ランクC・Lv.2・直線三射)/鏡砕返し(ランクC・Lv.1・二連続)/焔皇砕(ランクD・Lv.1・威力三割)/蒼天鎧(ランクC・Lv.2・十五呼吸)/虚空掌握(ランクD・Lv.1・一対象三秒)状態:通常安全出力B・条件付き上限A。第51〜58話は実戦C〜B級相当だが、事務上の評価・所属とは区別する。


挿絵(By みてみん)

【主人公ステータス】

対象:夜凪カイ

種族:七紋人

個体ランク:B

レベル:Lv.25

HP:302/320(ランクB)

魔力:403/430(ランクB)

攻撃:136(ランクB)

防御:119(ランクB)

速度:150(ランクB)

技能:基本剣術(ランクB・Lv.8)/黒影歩(ランクB・Lv.7・安全十五歩・反動十秒)/迅雷駆(ランクC・Lv.2・直線三射)/鏡砕返し(ランクC・Lv.1・二連続)/焔皇砕(ランクD・Lv.1・威力三割)/蒼天鎧(ランクC・Lv.2・十五呼吸)/虚空掌握(ランクD・Lv.1・一対象三秒)

状態:通常安全出力B・条件付き上限A。第51〜58話は実戦C〜B級相当だが、事務上の評価・所属とは区別する。

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