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新たなスキル

「あー、悪いなサガミ。 今シンファはちょっと長めの依頼に参加しちまった。 少なくとも2日は帰ってこないぞ。」


 ギルドハウスに戻り、ユクシテットに依頼完了報告書を渡しつつ、シンファがいないかの確認をしたところ、このように返事が来た。


「そうですか・・・じゃあ僕が面倒見てあげるしかないのか・・・」

「他に預けるって選択肢はお前にはないのか。」

「えー? 竜族種ですよ? 保護より観察のために見せるくらいなら、僕が保護と観察を両方やった方が安全だと思うんです。」

「・・・お前の人を頼らない性格までは治らなかったか。 いや、この場合はサガミの方が正しいか。」


 ユクシテットは溜め息を付きながら、意見の合理性を考えていた。 この場合ならば預けるのが一般的ではあるが、サガミの言い分も間違ってはいなかった。 そもそもその生物を持ってきたのはサガミなのだから、どうするかは彼次第なのだ。 文句は言えない。


「んじゃ、そいつの面倒は任せる。 なんか変化があったら、一旦俺に報告しろ。」

「ありがとうございます。 それでは。」


 そう言ってギルドハウスを去ろうとした時に、どこからか視線を感じたサガミであったが、ユクシテットの殺気で全部無くなったように感じた。 リリストアの時もそうだったが、人間本当の実力は分からないものだ。 そんなわけである意味一番安全な方法でサガミはギルドハウスを去る事が出来た。


「さてと、自分で面倒を見るとは言ったものの、具体的にどうしようかな?」


 自分の家に竜族種の子供を入れたのは良いが、どこから手を付ければ良いのか分からないサガミであった。


「とりあえずお腹は空いている、というよりいつから食べてないかも分からないかな? 「目標索敵」とか「敵観察」ってそんな風に使えたかな?」


 やってみたことはないし、何より今回の場合、相手のステータスを見ることになるので、想像以上に気を使うのかもしれない。 「鑑定眼」ならまだしも目標特化になってる2つの眼で確認できるかも怪しかったサガミである。


「出来ないなら出来ないでもいいんだけどね。 「目標索敵」! 「敵観察」!」


 2つのスキルの名前を叫んだ後に、出来たのは「敵観察」の方だった。


『フレムドラコ

 炎を主に使用する。

 状態 空腹

 疲労困憊による睡眠不足

 鱗の汚れ』


「ふむふむ。 ステータス自体はそんなに多くは見られないのか。 でもこれだけ分かれば十分か。 お腹が減って眠たいってことは、多分あの草原で何日も食べず眠れずを過ごしたってことだよね。」


 フレムドラコの子供を撫でながらそう呟くサガミ。


「それならご飯を作らなきゃね。 君を見つけたのが昼近くだったけど、色々と後回しにしちゃってたからなぁ。 夕飯時になったし、丁度いいかな。 竜族種だけど、なにを食べさせればいいんだろ? 普通の食欲なら流動食じゃなくてもいいだろうけど・・・やっぱりお肉かな?」


 そんなことを考えつつ自分の分とフレムドラコの分を作っていく。


「竜族種だから主は肉かもしれないけど、野菜は食べるのかな? いや、味付けを少し濃くすれば食べてくれるかな? なら葉物野菜の方がいいかな。 味も染み込みやすいだろうし。」


 本当に誰のために作っているのか分からないのだが、とにかく自分の分と共に夕飯を作っていったのだった。


「待たせてごめんね。 とりあえずご飯を作ったけれど、食べられそうかい?」


 そう言いながら少し深めの皿に盛られた肉と野菜の炒め物をフレムドラコの前に差し出す。 一応ミルクも用意してあるので、食べられないならそちらを飲んで貰うようにする。


 フレムドラコは目の前の料理に不思議そうに見ていたが、その芳しい香りに、一口肉を食べると、目を輝かせるような表情で料理にがっつくのだった。


「ははは。 そんなに勢いよく食べたら汚れちゃうよ。 でもそっか。 それだけお腹が空いていたんだね。」


 そんな様子を見ながら自分も夕飯を食べる。 自分で食べてみて、いつもよりも濃い味付けにしてしまったように感じたが、フレムドラコが食べられるなら、そこまで問題にはならなかった。


 夕飯を食べ終えて洗い物を済ませたサガミは、次は体を洗ってやろうと思ったのだが、そもそも竜の洗い物など知らないので、どうしたものかと迷っていた。


「とりあえずはお湯で洗い流すだけにしてみようかな。 それで駄目ならブラシとか使えばいいだろうし。」


 そう言うわけで風呂場に連れていく事にしたサガミ。 サガミの住んでいるところは一人暮らし生活にしては少々広めの部屋を借りているので、風呂場にフレムドラコを連れていっても少し余るくらいの広さがある。


 お湯を作り、体にかけながら手だけで鱗を擦る。 すると小さな鱗はポロポロと剥がれるように落ちていき、そこから別の鱗が見えていた。


「なるほど、汚れた鱗の代わりに下から新しく鱗が作られるんだ。 それならそんなに強く擦らなくても大丈夫っぽいね。」


 お湯をかけながらそんな風に語りかけるものの、そもそも竜では喋れないのではないかとも思えた。 そんなのはサガミには関係無い話だが。


「ふーん。 翼があって、角があって。 角はその額の一角だけみたいだね。 あとはあそこにいた理由かな? 親とはぐれたって線が一番高いかもだけど、子を強くするために小さい時に親と離れる育て方をする生物もいるから、一概には言えないかな。」


 フレムドラコの体を乾かした(というよりもほとんど乾いていた。)サガミは「敵観察」で観察しつつ、フレムドラコの小さな体を撫でていた。 大きさとしては中型犬位だろうと思いながら撫でていると


『テロン』


 と音がなり


『新たなスキル 「使役」を獲得いたしました。』


 という通知が頭に響いた。 どうやらサガミにスキルが付与されたようだ。 それと同士にスキルの説明文が映し出された。


『使役

 魔物、もしくは動物を使役することが出来る。 使役した魔物もしくは動物は使役主と生命を繋ぐ事が出来る(しなくてもよい。) 生命を繋いだ場合、生命力の一部を互いに与えることが出来る。

 ただし条件として

 1:自分のランクよりも低い魔物もしくは動物であること。

 2:連続8時間以上の観測、もしくは飼育を行うこと。

 3魔物もしくは動物自身に使役される意志があること。

 以上の条件全てが揃わなければ使役は不可能とする。

 片方、もしくは両方の生命が失われた時、この使役は解除される。』


「使役・・・かぁ。 調成師で使役ってなんか変じゃない?」


 説明を受けた後にそう笑い返すサガミであったが、調成師自体がまだまだ未知なるスキルが多い職業でもある。 これで「調成師」が覚えるスキルを1つ開示したことになるので、手柄といえば手柄なのだ。


「うーんと。 使役の条件が「自分よりもランクが低く」て、「連続で観測や飼育をして」いて、「相手の同意が」あれば使役完了って事かな。」


 ざっくりと自分の中で落とし込み、フレムドラコに目を向ける。


「君は、僕に使役されたいかい? それともここから離れてお母さんを探しに行くかい?」


 言葉はおそらく通じないだろう。 ならばせめてフレムドラコの気持ちを聞いておこうと思ったサガミ。 そしてフレムドラコと目があい、数秒間見つめあった。 フレムドラコの深紅にも似た紅い瞳は、吸い込まれそうな透き通った目をしていた。 そしてそんなことをしていたら「ピロリ」という音がなった。


「使役完了。 これによりフレムドラコはサルガミット・コーナンの従者となりました。」

「あ、使役できた。」


 冗談半分のような感覚だったが、どうやら本当に出来ているようだ。 サガミ自身も反応は薄いものの、驚きはあった。


 そしてフレムドラコは小さく欠伸をした。 気が付けば時刻は10時を回っていた。


「うーん、僕はもう少し起きているけれど、君は先に寝てもいいよ。」


 そう言うとフレムドラコは丸まってすぐに眠ってしまう。 サガミは目に届く距離で様子を見ながら、自分の次なる知識を得るために勉強を行い、さらに1時間程勉強をして、自分の部屋はないので、そのまま床に布団を敷いて眠ることになる。 その前に体調を崩さぬように、フレムドラコにも布団をかけてから、サガミは眠りについた。


「・・・ん、ふあぁ。」


 朝、サガミは目を覚まして、体を軽く動かす。 そしてフレムドラコの方を見た時に・・・全てにおいて目を疑った。


 何故ならそこには確かにフレムドラコが寝ていた場所なのだ。 そこに何故赤髪の()()がそこで丸まって眠っているのか。 サガミには理解するのに時間がかかったが、理解をするのに決定的な物を見つけた。 それは少女の額だ。 その額に赤く燃えるような一本角があったからだ。 その一本角でサガミはその少女が、自分が面倒を見たフレムドラコだということを証明したのだ。


 少女は静かに目を覚まし、サガミの事を見た後に、自分の姿を改めて見る。 が、どうして人の姿をしているかまでは分からないらしい。


「・・・あー、まぁ落ち着いて。 君に害は加えないけど、ちょっと動かないでくれるかな?」


 サガミは改めてその少女に「敵観察」と「目標索敵」のスキルをかける。 しかし今度はなにも出てこない。 もしかしてと思い、新たなスキル「使役」の方で確認する。


『フレムドラコ 使役主 サルガミット・コーナン

 種族 竜人族

 状態 空腹 起床による思考力低下』


「君・・・竜人族だったんだ・・・」


 色んな感情が混ざりすぎて、どう反応したら分からなくなってしまうサガミ、当の少女は首を傾げるのみだ。


「・・・とりあえずはユクシテットさんに相談かな・・・?」

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