依頼の帰りの拾い物
「うーん。 そろそろこの魔物のの「敵観察」の情報網羅ももう少しかな。」
サガミは手に取った依頼書を見ながらそう呟く。 彼が依頼を請け負おうとしているのは「ホイールヘッジ」。 転がるのが生き甲斐のようなハリネズミで、その速度は馬車にも匹敵する。 しかもそれなりの大きさでありながら、毛針が地面に刺さったまま残るということで、除去と新たな作物のための土壌が作れないのだそうだ。
「草原地帯の生息なのは、それだけ障害物が少ないから、走り回るにはうってつけなんだろうね。」
そうは言いつつも魔物はBランク指定を受けているので、普通では当然倒せない。 Bランカーになり、様々な魔物と戦ってきたサガミの装備はある程度強くなったものの、それでも1人で倒すのには時間と労力がいる。
クランを作ったのならば、クランメンバーと共に戦えばいいじゃないかとも思われるが、それぞれにやるべき事があるので、簡単には集まらない。 それでもサガミは「敵観察」のスキルもあるので、1人でも倒せる程になっていた。
「ユクシテットさん。 今日はこの依頼に行きますよ。」
「・・・ホイールヘッジか。 最近は本当に増えたよな。」
「繁殖期とか、ですかね?」
「ありえるな。 魔物だって絶滅するわけじゃないからな。 その辺りはシンファとかから情報はないのか?」
「あいにくまだ。 Bランクの魔物は話を聞いてくれないのだそうです。」
「ま、普通の魔物ならば、そうだろうな。 まあいい。 今回も頼むぞ。」
そんなやり取りをしながらユクシテットから了承印の入った依頼書を貰い、サガミはいつものようにギルドハウスを退室した。
「キャロロロロロロ!」
「うわぁ凄く怒ってる・・・もしかして前に退治したホイールヘッジの子どもとかかな?」
魔物の言葉はシンファでなければ分からないが、怒っていることだけは察せれる。 ホイールヘッジは大きな群れを造らないことは「敵観察」の情報で分かっていることだ。 しかし獰猛性はそれなりにあり、自分が危機に陥らない状況でも敵に向かって攻撃をすることもあるらしい。
そしてそんなホイールヘッジが怒っているので、獰猛性は更に増すだろう。 だからこそサガミも、今までのやり方とは変える必要があるだろうと考えた。
「キャロロロ。」
まずはホイールヘッジは丸まった体勢に入る。 本来ならゴロゴロと前進してくるのだが、今回は様子が違った。 今はまるで射出される前の砲丸のように後ろに下がっていた。
「あの構えは知らない・・・土壇場の攻撃か・・・それとも・・・」
サガミもなにかを察知して、前進の構えから受け流しの構えに変える。 そしてホイールヘッジは反動も含めて勢いよく前進してきた。 その時に針が前方に先行して飛んできた。 そしてそれが合図となり、サガミは横に大きく回避行動を取る。 そしてホイールヘッジはそのままの勢いで数メートル転がっていった。
そして起き上がって再度丸まり、今度は鞠のように跳ねながらサガミに向かってくる。 その時サガミの「敵観察」の鑑識が完璧になる。 これによって目の前の魔物の情報がすべて出揃った事になる。 そしてサガミはその情報を元に、サガミはその場に留まった。
「君はどうやら目標に向かって止まらない習性があるみたいだね。 そして針は強力だけと君自身は脆い。 針の再生時間は速くても10分。 つまり」
サガミはアスファルティーとキバロルカの牙で合成した長剣を前に突き出した。 そしてそこにホイールヘッジの、針の無い部分に刺された。
「僕が動かなくたって、君が勝手に自滅の後を辿るわけだ。」
サガミ自身もあれだけ苦戦していた敵に対して、楽に倒せるようになったことに安堵する。 そして信号弾を空へと打ち上げた。
「そうだったのですか。 これは新たに登録の方をしておかなければなりませんね。」
「ギルドウーバーはそういった事もやってるんですか?」
ギルドウーバーのリリストアの言葉に、サガミは疑問をぶつけてみた。
「正確には報告なので、実際に行うのは機関の人間です。 ですがサガミさんの「敵観察」で得られた情報は他の冒険者にとってもかなり有用価値のある情報になります。 こうして前線に出ていること自体不思議な位の情報提供料は入ってる筈ですが。」
「僕と同じ様に「敵観察」の眼を持てる人がいるとも限らないしね。 だから頑張ってるんだけどね。」
「他の冒険者もあなたのように努力してもらいたいものです。」
リリストアが溜め息をつくということは相当のものだろうとサガミも察してしまう。 そんな会話を繰り返しているうちに運搬が終わったようだ。
「それでは我々はこれで。 サガミさんはどうなされますか?」
「僕はいつも通り来た道を地道に帰るよ。」
「承知しました。 では報酬と素材はギルドハウスにて。」
そうしてワープゲートを通って「ギルドウーバー」は去っていった。 そしてサガミも草原を歩くことにした。
「確かまだこの辺りの薬草とかは知らないんだよね。 でも僕の「目標索敵」で認識出来るかな?」
サガミの所持スキルの1つ「目標索敵」。 生物や鉱物を索敵出来る代物だが、サガミでも見たこともない素材は引っ掛からないかもしれないのだ。 そのためサガミは生物図鑑や植物図鑑など、「鑑定士」関係の書物を読み漁ったりもしている。 サガミの考えとしては「無知以上に恐怖するものはない」からである。
草原を歩きながら辺りを「目標索敵」で見回しているが、それらしいものには引っ掛からない。 サガミは未知だからか、それとも距離が遠いだけだからなのかと、一点を凝視したりジグザグに歩いてみたりしている。
「というか、こんな事してないで、ユクシテットさんに依頼完了報告しないと。」
そう思いながら歩いていたら「目標索敵」が引っ掛かったようだ。 左側にあるようで、そこの草原を走る。 草を掻き分けながら索敵に引っ掛かった先を見てみると、そこには丸まっているなにかを見つける。 目を凝らしてみると、どうやら生き物のようだ。
「なんだろう。 尻尾、鱗・・・とかげ? いや、それなら耳はこんなに大きくないし、爪もある。」
そう観察していると、なにやら後ろから鳴き声がしてくる。 振り返ると、何羽かの鳥が空を舞っていた。
「あれは・・・ウィークバードの群れだ。 確か弱った動物を餌にするって特性があったはず。 こうしちゃいられない。 一旦この場から離れないと。」
そうして謎の生物を抱え込み、草原から先ほどの大きな道へと戻ってくる。
「ウィークバードのもう1つの特徴は、自分達自身は戦闘能力がないから、魔物に姿を晒すような場所には来たがらない事。 これなら安心出来る。」
そう言いながら抱え込んでいる生物を再度確認する。 サガミは「目標索敵」と「敵観察」の両方の眼を使いながら、生物を調べている。 これも「調成師」の特徴の1つで、素材や生物を調べるスキルを持てるのだ。 ただしネルハの場合はまだ数をこなしていないので、スキルが顕現しないのである。
「後の特徴は・・・顔に角が一本あるな。 これも素材は鱗と同じかな。」
顔を覗き込んだ時に目を覚ましたようで、その生物は驚いた様子を見せた。
「うわっとと! あ、君、羽があったんだ。 しかもその眼、瞳孔部分が縦長になってる。 もしかして、竜族種なのかな?」
竜族種。 魔物とは違うドラゴンの生体の生き物。 しかし見た目が見た目なだけに魔物と度々間違われる。 竜族種は多少だが大人しいのが特徴だ。 そしてサガミが抱えているのも、驚きはしたものの襲っては来ないことから、竜族種だと判断した。
「それにしては随分と衰弱してるみたいだ。 ギルドハウスに行って、少し見て貰おうか。 といっても竜族種なんて相手にして貰えるのかな?」
言ってみて改めて考えるサガミ。 竜族種はそもそもが個体として少ない上に、魔物と近い認定を受けているため、あまり公にも見せられない。 第一詳しい生体を知らない人物に勝手に預けるのも、サガミは気が引けているのだ。
「小さいってことは子供・・・だよね? いや、そもそも竜の大きさが分からないから何とも言えないけど。 というか動物とか魔物とかは飼ったこと無いから、流石に勝手が分からないよ。」
サガミの言う通り、魔物でも千差万別なのだ。 小型の竜がいたところでおかしい話ではない。 それに動物というのは人間よりも気紛れに生きる。 飼い慣れているとかは関係無いのだ。
「・・・そうだ! こういう時はシンファに頼ってみよう! 竜族種なら珍しがるだろうし、似たような対処法を持ち合わせてるかも!」
そう言ったサガミなりの結論により、彼は竜族種の子供(?)を慎重に抱えつつ、急ぎ足でギルドハウスに向かうのだった。




