✟「腐った果実」1/4
Apologetic past
ひとつの腐ったリンゴが樽全体をだめにする
ということわざがある。
腐った果物が発するエチレンガスによって周りの果物も完熟する速度が上がり、腐りやすくなる。
そのことから最初に一個腐ると周囲がどんどん腐っていくという意味合いらしい。
元々ダークエルフ族という種族は存在していなかったとされる。
エルフ族の中から悪魔と密約を交わした存在が、太陽の加護を失い、邪気に呑まれダークエルフになるのだと伝えられる。
エルフ達はいつからか現れたダークエルフを“呪われた種族”として嫌い迫害してきた。
だからエルフ族とダークエルフ族は仲が悪い。
迫害は日に日に激化していく。
そしてとうとう、彼らの間に一生埋まることの無い溝が出来る。
「エルフの森には腐った果実が生る木がある。」
やがてダークエルフ族はエルフ族と戦争をする。
彼らはエルフ族に敗れ、山へと逃げ込む。
これが今彼らが“山の民”と言われる由縁だ。
後にエルフ族は万能細胞説により追い詰められキロネキシア島へと逃げることになる。
が、彼らはそんなことを知る由もなかった。
エドゥとナタリーは長老の話を聞き終わる。
「それが、ピザファットを殺す一番の理由か。」
長老は首を縦に振る。
「そんな。ピザファットはあなた達に何もしてないじゃない。」
「関係ない。エルフ族であるなら誰であろうが殺すしかない。」
エドゥは考え事をする。
「あんたたちは俺たちの力が欲しいんだろ?あいつを自由にしないなら俺たちは手伝わないぞ。」
「そうよ。あたいだって力は使わない。」
長老は今度は首を横に振る。
「ならん。決まったことじゃ。それに、あんたらがこの森から帰るには暗殺教団との戦いは必然。この時点で儂らの目的は遂げられておる。」
バンッ
エドゥは右手で床を叩いた。
「ふざけるなよ!」
ジンがエドゥの肩に手を置く。
「これ以上暴れるなよ。あんたが、サルートをいくつ持っていようがそんなのはどうとでもなるんだぜ。」
「そうか。じゃあここらいったいを火の海にしても構わないと?」
隣にいたナタリーが驚いた顔でエドゥを見る。
「ちょっと!何言ってるのか分かってんの?」
「あぁ!あくまで最終手段だが。」
「待たれよ。分かった。こちらとしても戦力を失うわけにはいかん。だが、ただでエルフ族を野放しには出来ん。」
「じゃあどうすれば解放する?」
「聖剣を取りに行き、ここへ持ってくることですじゃ。」
「いいだろう。だが、約束を守らなかったら分かっているだろうな!」
エドゥは右手と炎をちらつかせた。
「あぁ、必ず守るとも。山の神サンシャシャに誓おう。」
エドゥとナタリーは解放された。
「ちょっと、エドゥ。どうしたの、いつもと様子が違うような気が・・・。」
「うん。ちょっとイライラしてるのかもしれない。」
エドゥは平静を取り戻そうとしていたが、それは無理なことが分かっていた。
さっきから体の中から燃やされているような熱さを感じているのだ。
(ギランの魂が関係しているのか?)
それと同時に空腹感がエドゥを襲う。
「エドゥ。エドゥ?」
ナタリーの声でエドゥは正気を取り戻す。
「あぁ、ごめん。なんでもないんだ。」
「何かあったら、あたいに言うのよ。」
「ありがとう。」
二人が集落の入り口の門まで歩くと、一人の女性がやって来た。
「あなたが、エドゥくんとナタリーちゃんね。」
その女性はグラマラスで、目じりにほくろがあり何とも妖艶な感じだった。
「ウフフフフ。」
女性がエドゥの体をじろじろと見つめる。
「あなた。結婚してるの?」
「えぇ、まぁ。していたというべきかもしれませんが。」
「あら、ならまだチャンスがあるかもしれないってことね。」
「え?はぁ。」
「ちょっと、いきなり何してるの!」
ナタリーがエドゥと女性を引き離す。
「あら、ごめんなさい。いい男がいるとつい誘いたくなるの。」
「もう。それで、何かあたい達によう?」
「えぇ、私は監視役のオクタビア=ブエンディア。あなたの好きなように呼んで頂戴。」
オクタビアが隙をつきエドゥと腕を組む。
「ちょっと・・・。」
「なーに?」
「こら!!」
ナタリーが怒鳴る。
「おい。」
次の瞬間、今度はナタリーが反対側の腕を組んだ。
「動きずらいんだけど。」
エドゥはそう言いながら、心の中ではしっかりと幸福をかみしめていた。
その頃、牢獄でピザファットはジンと話していた。
「何か、今一瞬だが、相棒を妬ましく思ったぜ。」
「どういうことだ?」
「分かんねぇけど、感だよ!感!俺っちの恋愛センサーが反応してんだ!」
「そういうもんか。」
「それより、お前は相棒達の監視に行かなくていいのかよ。」
「俺はここの守りを任されてんだ。」
「なるほどねぇ。」
ところ変わり、暗殺教団の拠点。
「もう少しだ。もう少しで我らが神の再誕が果たされる。」
暗殺者たちの前に一人の男が現れる。
「おぉ。いよいよか。」「我らの悲願が!遂に!」
「だが、楽園に連れていける者は洗礼を受けたもののみである。諸君らの活躍を期待する。」
うぉおおおおおっと歓声が沸き上がる。
「ハーシュ=フジャ様。質問がございます。」
「どうした?」
暗殺教団リーダーのハーシュ=フジャに数名の暗殺者が質問をする。
「我々は先程、複数の能力を持つ者と対峙しました。」
ざわざわとざわめきが起こる。
「複数の能力か。」
「はい。能力者の魂は高貴ですが、複数の能力を持つ能力者の魂はいかほどでしょうか?」
「うむ。その話が本当であれば、複数の能力者は相当神に愛されているということ。」
暗殺者は息をのむ。
「その魂を取ってこれたなら、確実に"山の老人"はお喜びになられる。直ぐにでも洗礼を浴びることが出来るであろう。」
オオオオオオオオオ!!!!
暗殺者たちはこれまで以上の歓声を上げた。
皆がひそひそと相談を始める。
「カーラ、聞いた?今の話。」
「うん…。そいつ狩れば永遠の命が手に入るんだ…。」
「一緒に頑張ろうね。」
「うん…。おねぇちゃん‥‥。」
「こうしてはいられない。お先にごめん。」
「あっこら待て!!俺が先だ!」
「いや、俺だ!!」
暗殺者が次々と外へと飛び出していった。
一人残ったハーシュ=フジャは空を見上げる。
「山の老人よ!あなたの世界がもうすぐ始まります。教会でも悪魔でもない。あなたの素晴らしい楽園が…。我らを再び、あの楽園に導いて下さい!!」
エドゥ達は山を降りながら会話をしていた。
「それで、聖剣の場所っていうのは分かっているのか?」
「一応は分かるのよ。でも誰も聖剣を手に出来ないの。」
「どういうことだ。」
「行って見れば分かるわ。」
「というより、いつまで腕組んでるのよ!」
ナタリーがオクタビアをエドゥから離そうとする。
「そうね、残念だけど。しつこいと嫌われちゃうものね。」
オクタビアがエドゥから離れた。
「やけに素直なところが怖いわ。」
ナタリーが歩こうとする。
「待て!」
エドゥがナタリーの腕を引っ張た。
「え?何何?」
ナタリーは何が何だが分からないまま混乱する。
「そこにいるんだろ?出てこい!」
エドゥが叫ぶ。
「見つかった!」「構うな、どうせ戦わなければならない!」「暗殺者としてどうなんだよ。」
暗殺者たちが姿を現した。
「邪魔だ!」
エドゥは暗殺者たちを次々と薙ぎ払う。
「きゃ。」
後ろでナタリーとオクタビアが襲われる。
恐らく別のところから来た暗殺者だろう。
(く、しまった。少し距離が離れている。)
エドゥは振り返りナタリー達を守ろうと走る。
「隙を見せたぞ!」「放て!!」
エドゥの肩に矢が刺さる。
(また、毒か。)
エドゥは即座に毒矢を抜く。
「うっ。」
足が痺れて、その場に倒れてしまった。
(まずい、ナタリー達が危ない!)
暗殺者の刃がナタリー達を狙っている。
その時だった。
ドン!
大きな岩が暗殺者たちを叩きつけた。
地面が揺れる。
「ナタリーちゃん。大丈夫?」
「え、えぇ。今のは?」
「これから一緒に戦うものね。お互いのサルートは知っておいた方が良いわ。よく見ていてね。」
そういうとオクタビアは手を動かし始めた。
するとそこら中の岩が塊になり、動き始めたのである。
「これってゴーレムってやつ?」
「えぇ、そうよ。私の理想のダーリン像よ!」
オクタビアが手を動かす。
すると、同時にゴーレムの手が動いた。
「まずい、逃げろ!!」
暗殺者たちはゴーレムに背中を見せ、逃げ始めた。
「待ちなさい!」
ゴーレムが逃げる暗殺者たちを次々と捕まえていく。
「くそ!ただの土の塊だ!壊せ!壊せ!」
数人の暗殺者がゴーレムを攻撃する。
しかし、刃や矢は全くと言っていいほど効果がなかった。
「飛んでけー!」
ゴーレムに摑まれた暗殺者たちは投げ飛ばされていった。
「すごい…。」
ナタリーの口からボソッとそんな台詞がこぼれる。




