❦「鍛」4/4
すると、マーリンは再びニコリと笑う。
「二ヒヒ、ところがどっこい。よーく見ててね。」
マーリンが手を前に伸ばした。
「windy」
マーリンの手から風が引き起こされた。
先程のエドゥの風に比べればだいぶ弱弱しく思えたが、木々は一定のリズムを取り揺れている。
「さぁ、消えるよ。」
マーリンの声と同時に蝋燭の炎が消える。
少し遠くて分かりづらかったが、急に辺りが暗くなったので確かに炎は消えたのだろう。
「よし、それじゃあ修行に戻ろうか。最初の条件で手前の蝋燭の炎を消してね。」
「はい!」
エドゥは先程のマーリンの姿を頭に浮かべる。
(彼女はどう動いていた、それほど呼吸はしていなかったように見えた。今までのやり方ではだめだ。)
エドゥは手を前に伸ばし、構える。
「スーハー。」
今まで何となく風を吹かせていたエドゥだが、どうしてそんなことが出来るのか全く考えたことはなかった。今まではそれで良かったのかもしれない、しかしこれからはそれじゃあダメだと彼自身が一番わかっていた。
(風よ吹け、吹け。)
風が勢いよく吹き荒れる。
しかし、一番近くの蝋燭ですらその炎を消せはしなかった。
「くそ。どうして・・・。」
エドゥの体力がどんどん削られていく。
しかし、未だに蝋燭まで風が上手く届かない。
「うん、今日はこのくらいにしておこうか。」
日差しが差し込んでくる。
「二ヒヒ、はじめはこんなもんだよ。これから毎日練習すれば必ず上達するよ。」
「ありがとう、マーリン。」
エドゥは目を覚ます。
肉体的、精神的疲労が少しあったが、その日は聞き込みのため外に出なければならなかった。
エドゥは着替えをし、朝食を食べに自室から出る。
エドゥはふと足を止め、隣にあるピザファットの部屋の扉を叩く。
「おい、起きてるか?」
トントンと最初は優しく叩いていた。
しかし、返事が全くないのでエドゥは扉を叩く音を大きくした。
(あいつまた寝坊するな。)
エドゥは扉を開ける。
「起きろ。聞き込みにいくぞ。」
ピザファットは布団の上で大の字で寝ていた。
「ガァァァァゴォォォォォ~。」
大きな欠伸をしているピザファットはちょっとやそっとなことでは起きそうにもなかった。
(よっしゃ。びっくりさせてやろう。)
エドゥは手を前に伸ばす。
『windyぃぃ~~』
そよ風が手から放たれる。
ピザファットの丸出しの腹に風が当たる。
「はっー!ハクション!」
大きなくしゃみが聞こえる。
ピザファットは寒そうにすると掛布団を掛け寝返りを打つ。
「Dude!早く起きろよ!」
エドゥは布団をはがす。
漸くピザファットは目を覚ました。
「ん?んー何だ。」
「おい、仕事に行くぞ!」
「あと5分。」
「いつもそう言って起きるのは昼ぐらいだろう。今日は早く行かないと聞き込みが出来ないぞ。」
「今何時だよ。まだ朝の4時だぜ。こんな早くに起きてる奴なんていねぇよ。」
「こらー!寝るな!」
エドゥがピザファットを往復ビンタする。
「分かった!分かったから止めてくれ!」
ピザファットが起き上がる。
こうして二人が支度を済ませるとテーブルには朝食が並んでいた。
「コーヒーを淹れましたの。お好みはございますか?」
「あぁ、それくらいは自分がやりますよ。」
「俺っちも自分でやるぜ。それにしてもいつもすまねぇな。」
二人は夫人に頭を下げる。
エドゥはそのままブラックで飲み、ピザファットはミルクを入れ、砂糖をドバドバ入れた。
「おい、そんなに入れて美味しいのか?」
「こうした方が良いんだよ。相棒も何か入れたらどうだ?」
「僕は何も入れないのが好きなんだよ。」
二人はコーヒー談義に花を咲かせていた。
朝食を終えると二人は皿を片づける。
「それじゃあすみませんが、行ってきます。」
「行ってくるぜ!」
二人は扉に手をかける。
「はい、頑張って来てくださいね。」
ホーカンソン夫人の見送りを受けて外へ出る。
外はまだ少し暗かったが、ちらほらと仕事の準備をしている皆の姿が見えた。
「ピザ、よく見て見ろ。皆朝早くに起きて動いているだろう?」
「ふー。相棒ー。朝起きていきなりお説教かよ。止めてくれ気が滅入っちまうよ。」
二人はそんなことを言い合いながら港の方へと向かう。
港に着くと二人は聞き込みを開始する。
「あぁ、確かに最近漁獲量が減っているって話だな。」
「化け物がいるって話だぜ。」
「化け物?ラ・メールのことか?」
エドゥ達は聞いたことの無い名前に首を傾げる。
「ラ・メールって何ですか?」
「知らねぇのか?俺たち船乗りの間では有名な神の使いのことさ。」
「神の使い?」
「おいおい、神使しんしのことも知らねぇのか・・・。」
2人は神使についての説明を聞いた。
神使、神獣しんじゅうと呼ぶものもいるそうだが、それらは天使族とはまた違う、教会が出来る前から神に従っていた4体の獣のことらしい。
ヌー・ヴォラ、ダイ・ムリアー、ラ・メール、エー・ドラムと名付けられたそれらの獣は、神に代わり審判を下す存在として人々に恐れられ、崇拝される存在である。
先程の話で出てきたラ・メールは海にいるとされる神使。
漁師たちは毎朝このラ・メールを模した彫刻に祈りながら漁に出る。
ラ・メールの彫刻は海坊主の姿をしていたりクラーケンの姿をしているものもあった。
「全部姿が違いますね。」
「はーはっは。そりゃそうだよ。実際にそういうものがいるのかどうか誰も知らないんだからね。」
「でもそういう考えは大事だよな。常に善い行いをしないといけないって気持ちになれる。」
話は戻り、噂の化け物の話題になる。
「それで、そのラ・メールの仕業で漁獲量が減っているのか?」
「どうだろうね。いるかどうかも分からないもののせいにするのは逃げだと思うね。」
しかし、あまり有益な情報はそれ以上手に入らなかった。
ピザファットはエドゥの肩を叩く。
「こりゃ、ちょっと実際に海に出た方が早いんじゃねぇか?」
「僕も同意見だ。百聞は一見に如かず。だな。」
「あぁ、それな。」
ピザファットは意味を分かっていないだろうが、とりあえず相槌を打った。
エドゥ達は依頼者のおやじさんの船を探す。
「おう、おめぇら。悪いな。こんな朝早くに起こしちまってよ。」
「いえ、大丈夫です。それよりも今聞き込みをしていたところなんですが。」
「おぉ、そうだったのか!それで何か情報は手に入れられたのか?」
「なんだかラ・メーンみたいな名前の怪物が暴れてるんじゃないかって言ってたな。」
「ラ・メールな。」
「神獣ってやつだな。」
「ラ・メール?」
船の中から少年の声がする。
年は12くらいだろうか、銀色の髪をし、その瞳は海のように青かった。
「おはよう。」
「おはよう、おじさん。」
少年はおやじさんに挨拶をすると、再び船の中に戻っていった。
「今の子は?」
「あぁ、あの子は両親を早くに亡くしてな。俺が世話してんだ。」
エドゥは話を元に戻す。
「その怪物だか何だかが、生態系に影響を及ぼしているか調べたいので、船に乗せてもらってもいいですか?」
「あぁ、頼むぜ。」
2人は許可を得て、船に乗り込んだ。
船が出航する。
丁度その頃ポータム・ポートにある教会に、ある物が届けられた。
カロリーナ、マーリンがいる部屋に一人の男が入ってくる。
「ポテチ=テラーマン、ただいま戻りました。」
「ありがとね、ポテチマン。」
「二ヒヒ、それで。回収は出来たのかい?」
ポテチが大きく息を吐く。
ポテチの口からシャボン玉が飛び出す。
ガム風船のようにシャボン玉が大きくなると、中から巨大なハネジネズミが飛び出してきた。
「これがこないだ私とエドゥが戦った怪物の一匹です。」
「あぁ、待って下さい。実はこれは怪物ではないのです。」
「どういうこと?」
ポテチが鞄から書類を取り出す。
「実はつい先日、アジカトラル監獄から10数名の囚人が姿を消すという事件がありましてね。」
ポテチが書類を机に一枚一枚置いていく。
「この怪物らしきものの遺伝子とその囚人たちの遺伝子が一致したんです。」
2人が机の書類を眺める。
さらにポテチが話を続ける。
「このハネジネズミ達の体にはxx0838からxx0847と刻まれていました。」
「つまり、既に800以上の犠牲者がいるってこと?」
「えぇ、ここ最近で報告される行方不明者の数もそれくらいです。」
「一体だれがそんなことを・・・。」
「目撃情報によると、派手なおかまが一緒に暴れていたとか。」
3人が話をしていると、一般信徒が部屋に入ってきた。
「大変です暴動が起こりました!」




