❦「探偵業 始めました。」3/4
「ずいぶん酷使したね。」
「そうでしょうか…。」
エドゥは自分の手を見る。確かに少し痛いのだが外見に異常はないしさっきファイルをめくっていた時も
特別痛みを感じたりしなかったのだ。しかし、目の前の魂というべき存在はエドゥの手は酷使されボロボロだと言ったのだ。
「…君は…」
魂が再び語り掛けてきた。
「どうやら死者と対話し力をもらう能力を持っているね。」
「!?どうしてそれを!?」
正直驚きを隠せなかった。自分とピザファット以外がそれを知ることなどあり得ないからだ。
仮にこの魂というべき存在が、広場での騒動を見ていたとしよう。それでも普通は獣化などの線で推理するのが自然だ。そうエドゥは思っていた。
しかし、目の前の魂は全てを知っているかのように能力の詳細を語って見せたのだ。
「それがあなたの能力ですか?他人の能力を理解するといった感じの。」
魂が笑ったように見えた。
「まぁ今更能力の詳細などばれても問題にはならないか。私の能力は触れた相手の過去を見る能力。あなたがこの部屋に入ってからずっと私はあなたの過去を見てきた。しかし、実に興味深かった。教会から渡航禁止が言い渡されたキロネキシアの実態をこの目で見ることが出来るとは。しかし、気になる点もある。島にどうやって入った。私の能力では人の誕生の瞬間まで余すことなく見れるはずなのに君の島に入る以前の記憶がまったく見えない。実に興味深い。」
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。」
エドゥは興奮した様子の魂をなだめた。
「おおぉと、すまない。どうも気になることがあると口数が増えてしまうんだよ。まだ名乗りもしていなかった。ウィリー=ブロッジーニだ。探偵をしている。いや、していただな。」
「エドゥ=ベレンです。」
エドゥとウィリーはお互い挨拶をかわした。
「さて、」
ウィリーが手をたたく。
「もうホーカンソン夫人とはあっているね。」
エドゥはこくりと頷く。
「君ともう一人のエルフくんは今彼女の能力の影響を受けている。」
「やっぱり彼女も能力を持っているんですね。」
「そうだ。彼女の能力は特殊でね。生まれながらではなく死後身に着いた能力なんだ。」
「死後に能力が?」
エドゥは首をかしげる。
「さっきファイルに出ていたエドワール=コクトーという男がいただろう。あいつはこのポータム街にも来ていたんだ。昼は普通の医師として、そして夜は殺人鬼として。」
ウィリーの話が続く。
「エドワールは新薬と偽って謎の薬を多くの民に投与していたんだ。時には彼が殺した死体にもね。」
ウィリーがため息をつく。
「その新薬が彼女の死体に影響を及ぼしたようだ。それで今の彼女が能力を使えるんだ。」
「それじゃあやっぱり、ホーカンソン夫人はその男に殺されていた、ということか?」
ウィリーは頷いていた。
「彼女だけではない。多くの者が。そして、」
ウィリーの口調が震えているのが聞いて感じられた。
「…僕もね。」
エドゥは何も言えなかった。
「すまない。こんな話はするべきじゃなかったかもしれない。でも言わずにはいられなかった。君という希望を僕たちは見つけてしまったのだから。」
「自分が希望?」
「そうだ。私はこの能力で奴をあと一歩のところまで追い詰めた。でもねこの能力は戦闘にはほとんど役に立たないんだ。私は奴より弱かった。そのせいで夫人やおおくの者の仇をとれなかったんだ。」
ウィリーの表情は見えないが、感じられる。きっと彼は死後も自責の念にかられていたのだろう。
「俺にあなたの力を貸してください。」
気が付けばエドゥはそんなことを言っていた。
「良いのかい?いくら君が能力を持っているとは言え危険なことに変わりはないのに。」
「こんな話を聞いて黙っていられませんよ。それに利害じゃなくて縁を大事にって考えが気に入ったんで。」
「ハハハ。死人との縁でもかい。」
「えぇ。」
エドゥとウィリーは手を握った。
「じゃあ、いくよ。」
魂がエドゥの体に入っていくのを感じた。
エドゥはその場に倒れ込んだ。
「おや、先客だね。ウィリーだ、よろしく。」
ウィリーがエドゥの中に無事入り込むともう一つ魂が入っていた。
「……別に何をしようが勝手だが、うるさくだけはするな。」
そういうとエドガーの魂は奥へと消えていった。
「全く、ずっといるならたまには出てくればいいのに。」
そういうと、ウィリーはエドゥが起きるまでずっと待つことにした。
エドゥが目を覚ました時、空はすっかり暗くなっていた。
「しまった。意識を失っていた。」
エドゥは体を起こした。
すると急に頭の中に声が響いた。
(ようやく起きたかい?)
「ウィリーなのか?」
エドゥは声に返答した。
(頭に思うだけで返事出来ると思うよ。おっと、それより。僕の能力は受け継げたかな?)
(この場に人がいないから確かめようがないよ。)
エドゥは何となく壁に手を付けてみた。
「ん?」
すると、エドゥの頭の中に見たことのない記憶が流れ込んできたのだった。
それは壁が出来る以前の記憶。
この壁が作られる過程といった方がいいだろうか。
入ってくる情報が多く、頭が痛くなったエドゥは壁から手を放した。
すると、先ほどまで流れた情報が、ぱっと入ってこなくなった。
(うーん。どうやら僕の能力より弱くなっているみたいだね。見た感じだと触っている時間の分だけ過去を遡っているといった感じか。)
エドゥはもう一回壁に手を当てた。
しかし、今度は何も起こらなかった。
(おや?変だな?どういうことだ?)
(分かった気がする。さっきは左手で壁を触ったんだ。そして今は右手だった。)
エドゥはウィリーに説明して、もう一度左手で壁を触った。
先程とまったく同じ記憶がエドゥに入り込んできた。
(そうか。能力は左手でしか発動できないのか。もしかして右手にはエドガー君の能力があるからかな?)
エドゥは手を放した。
(そうかもしれない。…今思ったんだが、エドガーも僕の中にいるはずだから彼とも会話が出来たってことになるよね。)
(そこは、ほら、彼はシャイだから。)
エドゥは何となく理解した。
「あっ!」
エドゥが急に大声を上げた。
(どうしたんだい?いきなり?)
「ピザファットのことすっかり忘れてた。ウィリー、ホーカンソン夫人の能力について詳しく教えてくれ。」
(あぁ、彼女の能力は分かりやすく言えば、この宿をどんどん増築するといった能力なんだ。)
「でもそれだと外見がもの凄いことにならないか?」
(そこは、超能力だから。)
「全く、便利な言葉だな。」
こほんと一息つく。
「じゃあやっぱり、総当たり作戦は正しかったんだな。っち、なんか癪だな。」
(ははは、さすが君の相棒だね。)
エドゥ達は扉を開けた。
中庭、食堂、と色々な場所に出る。
しかし、夫人には出会えなかった。
「きゃあああああ、助けてー。」
上の方から悲鳴が聞こえた。
「ピザファット!?何やってんだあんなとこで。」
ピザファットが空から落ちてきた。
「相棒~。優しく受け止めてね。」
「危ね。」
エドゥは左に一歩避けた。
「うぐっ。」
ピザファットの巨体が地面にめり込んだ。
「ひどいよ。神様~。相棒に天罰を。」
隣で騒いでいるピザファットを無視してエドゥは上の方を見つめる。
(あそこの窓から彼は落ちてきたみたいだね。)
「じゃあ、あそこに夫人がいる可能性が高いってことか。」
(だけど、あの高いところにどうやっていくかが問題だね。)
「手はあるよ。」
(気来風躰掌ってやつかい?)
「いや、もっと確実な手だ。」
そういうとエドゥは服に手を入れ何かを取り出した。
ウィリーは直ぐにエドゥの行動を理解した。
「ピザファット、これ持ってってくれ。」
「んー。重っ!」
エドゥは重りを外し、一気にジャンプした。




