●「風の赴くままに」2/4
「つまり、俺は始めたばかりだから、教えを忠実に守る。ということだな。」
「その通り、そして心得その2!礼節を重んじよ。だ。はい、復唱!」
「礼節を重んじよ。」
「いい声だ。これから練習の時は師匠と呼んでくれ!」
エドゥは頭を下げ、
「よろしくお願いします。師匠!」
と礼を示した。
ここから、ようやく風体術の練習が始まった。
はじめは基本の姿勢の練習だった。
「左足を後ろにしてかかとを上げる。そうだ!その形。そして右足を前に。OKOK。そしたら左手を引いて拳を握る。右手は伸ばして手刀の形に!よし、その構えが基本だ。忘れるな。」
次に呼吸法の練習を行った。
「呼吸は腹式呼吸を意識するんだ。横隔膜を動かしていることを意識して!肩が上がってる!それじゃあ胸式呼吸だ!腹式呼吸に慣れるとより大きく、強く呼吸が出来るようになる!ドギーブレスをやってみよう!舌を出して犬のようにハーハー息を吸って吐いてを繰り返すんだ。肩を上げちゃダメだからな!」
「ハッハッハッハッ・・・・」
「肩が上がってる!正しい呼吸が出来るまで次に進めないぞ!」
「ハッハッ・・・」
「また上がってる!よし、肩を押さえてやるから、相棒は自分の腹に手を当てるんだ。」
ピザファットがエドゥの後ろに回り込み肩を押さえる。
「よし、吸ってー!」
エドゥが腹を膨らませて息を吸う。
「OK!じゃあ吐いて!」
今度は膨らんだ腹を萎ませる。
「よし!それを連続でやるんだ!」
「ハッハッハッハッ・・・」
しばらくして、
「まぁ、最初よりかはましになったかな。」
と練習は次の段階へと移っていった。
「よっしゃ。次で最後だ。」
ピザファットが笑みを浮かべてそう言った。
(何だろう?すごく嫌な予感がする。)
エドゥは身構えた。
「風の流れを感じろ。」
ピザファットは窓を開けると、それ以上何も言わなかった。
(風の流れ?)
確かに窓からは夜風が入ってきて、冷たい風がビシビシと伝わってきていた。
しかし、それだけだ。そこから何をすればいいのか。エドゥは検討もつかなかった。
ピザファットの方を見る。しかし、ピザファットは横になって眠っていた。
(つまり、自分で考えるしかないって事か。今までの練習にヒントが隠されているはず!)
エドゥは基本の構えをとった。
右手に風が当たっている。
そこから全身に風が広がっていくような感じがした。
風を感じながら、腹に力を入れて大きく深呼吸する。
瞬間、体が風を纏い、力が溢れていくのを感じた。
そのことに驚いてしまい、呼吸のリズムを崩してしまう。
すると、風は体から離れていった。
(これが、風体術なのか!)
エドゥは興奮を隠せなかった。地球では絶対にできない。この惑星の不思議な環境がこんなことを可能にしているのだろう。
「やるじゃねぇの、相棒!これが風体術か!これなら戦力が大幅アップしそうだな!」
ピザファットが起き上がりエドゥに話しかけた。
「しかし、一瞬しか出来なかった。まだまだ練習が必要だな。」
「まぁそこは実戦で慣れれば大丈夫だろう。窓を見てみ、もう夜が明ける。」
ピザファットが指さす方を見る、今まで夢中で練習をしていたので気付かなかったが、だいぶ時間が経っていたようだ。
「さて、相棒!ここが運命の分岐点だ。ゲームだったらセーブしたいところだ!さぁ、全力で黒幕を見つけ出して全員を救うぞ!」
「おぉ!」
小屋の扉を開けて二人は走り出した。こうして長い長い一日が始まるのであった。
「相棒!まずはハレイ=コンペって奴を味方につけよう!」
「どうしてだ?」
「その男はアミュレットを持っているんだ!島中に情報を発信することが出来る!黒幕の存在の証拠を手に入れたら直ぐに情報の共有が出来るようにしておかないとな。」
「分かった。どこにいるか分かるのか?」
「あぁ、ここから西の方に進めば奴の家がある。」
「よし、じゃあ西に向かおう。」
「させませんよ。」
エドゥ達の前に戦士たちを連れたラルフが現れた。
「おぉ、ラルフじゃないか、俺っちたちに何か用か?」
「はぁ、ピザファット、何をしているんですか。島を滅ぼす気ですか?早く隣の男を殺しなさい。」
「断るね。まぁ話を聞けよ、俺っちたちはこの島を守るために動いてるんだぜ。」
「二人を殺しなさい。」
話を聞く間もなく、戦士たちが二人を襲ってきた。
「相棒!今朝の練習を思い出せ!」
「あぁ!」
エドゥは風体術の構えをする。
しかし、風を感じることが出来なかった。
「相棒?どうした?」
「風が来ないんだ!どうすりゃいいんだ!」
「分かんねぇ!とりあえず色々やってみろ!」
(やってみろって言ったって。)
エドゥのもとに数人の戦士が向かってきた。
(まだか。風が来ない!)
「くらえ!侵略者ー!」
戦士の一人が飛び掛かる。
その手には槍が握られていた。
(まずい!刺される!)
風に気をとられ反応が遅れる。
「おらぁ!」
ピザファットがエドゥを突き飛ばし攻撃を回避させる。
「相棒!早く立て!実践で慣れるんだ!危なくなったら助けてやる!」
エドゥは言われた通りに直ぐに立ち、再び基本の構えをする。
(落ち着け!もう一度だ。)
今朝のような風の気配が全くしない。
(あれは、まぐれだったんだろうか。思い出せ、あの時と何が違う?)
「キャイヤーーー!」
ピザファットを突破して何人かがエドゥの方に向かっていく。
「相棒!」
ピザファットは何人か止めるので精一杯のようだ。
(次は助けがない!絶対に成功させるんだ!)
エドゥに再び攻撃が迫る。
その時だった。ビュウウウと海の方からだろうか、風が吹いてきた。
(海陸風か!)
「コォォォォ」
肩を上げず、横隔膜を意識し、腹を膨らませ息を吸う。
「コォォォォ」
もう満杯だというところまで息を吸う。
そして、
「ヒュゥウゥ」
溜めた息を全部出し切るように吐く。
筋肉に酸素が行くのが感じ取れた。
(ここだ!)
風を全身に浴びるような感覚が来た。
(よし!このまま一気に!)
迫る槍に右手を近づけ距離を測る。そして、風に身を委ねて槍を回避。
すかさず、左手に力を込めて。
息を吸い、吐き。
風を乗せるイメージで槍の使い手の腹に一発ぶち込んだ。
「おえぇぇぇ。」
一直線にきれいに飛ぶ使い手。
その場にいたものは皆一瞬止まった。
「相棒!やったじゃねぇの!もう免許皆伝で良いんじゃねぇの?」
ピザファットはすごく嬉しそうな笑みを浮かべ。
「何ですか、今のは?アミュレットですか?」
ラルフは困惑の表情を浮かべていた。
しかし、直ぐに余裕の表情を見せた。
「確かに凄い技ですが、条件が揃わないと使えないようですね。皆さん恐れることは有りません。侵略者と反逆者を捕まえ、じわじわと痛めつけて殺してやりなさい。」
ラルフの言葉で、戦士たちは鼓舞された。
大勢が迫ってくる。
ピザファットは刺されながらも回復するから大丈夫と割り切って武器を掴み壊していった。
エドゥはまだ未熟な風体術を駆使して防戦し、隙が出来たら攻撃するというスタンスをとっていった。
一人、また一人と無力化していく。
「まずいですね。」
ラルフの顔に焦りの表情が浮かんできた。
(あの技については観察して大体理解しました。大量の空気を出したり入れたりして全身を強化しているとみてまず間違いはないはず。ピザファットはごり押しをしているだけに過ぎない、とはいえこちらにはあの回復力を上回る攻撃力がない。私のアミュレットは攻撃に向かない。一度手に入れた情報を絶対に忘れない、ただそれだけです。何か決定打はないもんですかね。)




