表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界にダンジョンが現れたので、好き勝手生きることにした  作者: 人間適合


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/3

世界が変わった日

「それじゃあ、夏休みだからといって夜更かしばかりするなよー」


担任の言葉に教室中が沸いた。


終業式前最後の登校日。


つまり明日から待ちに待った夏休みだ。


「やっと休みだ!」


「海行こうぜ!」


「宿題どうする?」


クラスメイトたちが盛り上がる中、俺――佐野颯太は静かに帰り支度をしていた。


特別目立つわけでもない。


成績も見た目もごくごく普通


友達はいるが、クラスの中心人物というほどでもない。


どこにでもいる高校二年生だ。


趣味はゲーム、アニメ、ライトノベル。


休日は家でのんびり過ごすことが多い。


夏休みに入ったら新作ゲームをやり込み、積んでいるラノベも読む予定だった。


「佐野、また休み明けな」


「おう、またな」


友人たちと別れ、校門を出る。


空は快晴。


蝉の鳴き声が響いていた。


家までの道を歩きながら、颯太はスマホでゲームの最新情報を眺めていた。


「この新作、面白そうだな……」


そんなことを考えながら歩く。


だが今日は少しだけ気分を変えた。


いつもの大通りではなく、近道になる細い道へ入ったのだ。


住宅街の裏手。


人通りも少なく、昼間でも静かな場所。


「暑いし、早く帰りたいからな」


そう呟きながら歩いていると――


ゴゴゴゴゴッ!!


突然、地面が揺れた。


「うわっ!?」


颯太は慌てて電柱に手をつく。


地震。


そう思った。


だが何かがおかしい。


揺れはすぐに収まったのに、空気が妙に重い。


嫌な静けさが周囲を包んでいた。


蝉の鳴き声さえ聞こえない。


「なんだ……?」


その時だった。


目の前の空間が歪んだ。


まるで水面が揺れるように景色が波打つ。


そして。


バキッ。


ガラスが割れるような音とともに、空間そのものに亀裂が走った。


「え……?」


颯太は目を疑う。


亀裂は徐々に広がり、人が数人程度入れそうな穴ができた。


その先は真っ暗。


何も見えない。


まるで洞窟の入口のようだった。


「いやいやいや……」


思わず後退る。


こんなの現実にあるはずがない。


だがゲームやアニメが好きな颯太には、どこか見覚えがあった。


異世界ゲート。


ダンジョン入口。


空間の裂け目。


フィクションなら何度も見た光景だ。


「あり得ないだろ……」


そう言いながらも視線は離せない。


近くに人はいない。


車も通らない。


静まり返った路地裏。


目の前には謎の穴。


普通なら警察を呼ぶべきだ。


だが好奇心が勝った。


少しだけ中を見てみたい。


そんな気持ちが湧いてくる。


「入口を見るだけなら……」


自分に言い訳しながら近づく。


穴の中から冷たい空気が流れてきた。


そして颯太は恐る恐る中を覗き込む。


その瞬間。


グイッ。


身体が引っ張られた。


「えっ!?」


抵抗する間もない。


視界が真っ暗に染まる。


身体が浮くような感覚。


そして――


ドサッ!


地面に投げ出された。


「いてて……」


顔を上げる。


そこは見知らぬ洞窟だった。


湿った空気。


土と岩の匂い。


壁には青白く光る鉱石。


明らかに日本ではない。


「まじかよ……」


思わず声が漏れた。


頬をつねる。


痛い。


夢じゃない。


ゲームの中みたいな青白い鉱石が壁に埋まり、湿った空気が肌にまとわりつく。


どう見ても日本じゃない。


いや、日本どころか地球かどうかも怪しい。


「いやいやいや……」


頭を抱える。


数分前まで普通に下校していたはずだ。


夏休みの予定を考えていた。


新作ゲームを買って、積んでいるラノベを読んで、だらだら過ごそうと思っていた。


それがなんで洞窟なんだ。


なんで異世界みたいな場所にいるんだ。


「これ絶対おかしいだろ……」


だが。


恐怖と同時に、胸の奥が少しだけ高鳴っていた。


ゲーム。


アニメ。


ライトノベル。


そんな作品が大好きだった。


主人公が突然異世界へ飛ばされたり、ダンジョンへ潜ったりする物語を何度も読んできた。


もしこれが本当にそういう展開なら――。


「いや、落ち着け俺」


慌てて首を振る。


現実は物語じゃない。


モンスターが出てきたら死ぬかもしれないのだ。


そう自分に言い聞かせる。


だが心のどこかでは、


『ちょっとワクワクしてる自分』


がいた。


その時だった。


ガサッ。


「っ!?」


物音。


反射的に身体が強張る。


洞窟の奥。


暗闇の中で何かが動いた。


小石が転がる音。


何かを引きずるような音。


颯太の心臓が一気に跳ね上がる。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


「な、なんだ……?」


喉が渇く。


手のひらに汗が滲む。


逃げたい。


だけど目が離せない。


そして。


物陰から姿を現した。


緑色の肌。


尖った耳。


小柄な体格。


醜悪な顔。


手には錆びたナイフ。


その瞬間。


颯太の脳内で警報が鳴り響いた。


見間違えるはずがない。


ゲームでも。


アニメでも。


ラノベでも。


何百回と見てきた。


初心者モンスターの代表格。


「うそ……だろ……」


乾いた声が漏れる。


そいつは口元を歪めた。


「ギギッ……」


獲物を見つけた肉食獣のような笑み。


そしてゆっくりとこちらへ歩き始める。


颯太の背筋に冷たいものが走った。


さっきまでのワクワクは一瞬で吹き飛ぶ。


ゲームの画面越しじゃない。


CGでもない。


着ぐるみでもない。


本物だ。


目の前にいる。


生きている。


殺意を向けている。


その事実を理解した瞬間――


颯太の思考は完全に停止した。


目の前にいる存在は、


どう見てもゴブリンだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ