第17話 ヤンデレ妹の手掛かり
魔力学院に入学から一週間ほど過ぎ、俺の生活も安定していた。
正直、授業は退屈だが退屈なりに暇潰しにはなっている。カナデとは学年が違うが毎朝登校は一緒だ。何故かレイヴンも付いてきているが。
ミリウスも相変わらず俺の監視兼世話役として日々世話を焼いてくれている。カナデとは相変わらず喧嘩する間柄だが、互いに言い合っているだけで敵対まではしていない。
「ミナトは午後の授業、何を受けるの?」
「魔力学概論だな。まあ座学の授業みたいなもんだ」
「あぁ〜。あの先生の講義って、小難しいことばっかだし……つまんないんだよねー」
「カナデはそもそも座学に興味ないだけだろ。毎回寝てるし」
「学年違うのに何で知ってるの!?」
「いや、毎回前を通る度に爆睡してるからな。あの講師の授業の時は特に」
「うー。だってつまんないんだもん」
昼休み。俺はカナデやレイブンと一緒に食堂で食事を摂っていた。
テーブルにはハンバーガーやサラダ、スープなどが並んでいる。メニューは多種多様で味も申し分ない。この世界の食文化も中々侮れないものだ。
「大丈夫ですよカナデ先輩!女の人は多少頭悪くても許されますから!」
「そうかなぁ?でもわたしちょっとだけ頭良いと思うんだけどな~」
「カナデ先輩はおバカすぎてむしろ可愛い部類に入ると思いますよ!」
「……レイブンく〜ん。先輩に対して失礼すぎるよ?」
カナデは頬を膨らませながら抗議しているがレイブンはどこ吹く風といった感じだ。こいつはやはりチャラい性格をしている。
適当に授業を受けて、友達と馬鹿やって。まさに平和そのものだ。
これが俺の望んだ理想の学院生活……ではない。
前世の妹が見せた魔力の謎を解明することが最大の目的だったはずが、未だ糸口すら掴めていないのだ。
教師陣にもそれとなく尋ねてみたが芳しい回答は得られなかった。魔力学院と言えども未知の技術に対する見解は極めて低いらしい。やはり俺が求めている答えはここにはないのだろうか。
「ミナト?どうしたの?」
「いや、何でもない。そろそろ行くわ」
適当に誤魔化し歩き始める。今後の事は追々考えるとして、今は授業を受けなければならないだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、レイブンが声をかけてきた。
「なぁミナト、今日は授業も5時限だけだし街にでも繰り出さねぇか?」
「何だ、またナンパでもする気か?」
「ちげぇっての。お姉さん達が集まる店があるから一緒に行こうぜってことだよ!」
「それをナンパと言うんだろ」
鼻の下を伸ばして興奮気味のレイヴン。
まだ知り合って一週間程度だが、さっきのカナデへの態度といい前世では漫画でしか見たことがないようなテンプレキャラクターだ。
扱いやすい上に俺に迷惑をかけるタイプでもない。レイヴンと一緒に過ごす時間は退屈しなかった。
「馬鹿野郎!そんなんじゃねぇって。日頃の疲れを綺麗なお姉さん達に癒やしてもらうだけだよ!運が良ければ今後プライベートでゲットでお付き合い出来るかもしれないし」
「そんな店があるのかよ……」
「話じゃ学院に通ってる生徒もいるらしいぜ。つか実際、俺も何度か見たことがあるから間違いねぇよ!」
「興味はあるが俺はパスだ。行くならお前一人で行ってこい」
面白そうではあるが、今の俺はカナデやミリウスが傍にいる状況で女性の肌に触れようものなら一体何を言われるか分かったものではない。
「おいおい、いいのか?もしかしたら学院のアイドルとお近づきになれるかもしれないんだぜ?」
「いや、金ないし」
「金なら俺が出すって!奢りだよ奢り!お前もストレス解消のつもりで付き合えよ!」
「そもそもストレス溜まるほどの学校生活送ってないんだが」
「何だよ付き合い悪いな〜」
話にならない。こいつがナンパ目的なのは確定だ。振り切る様に足の速度を上げる。
「せっかく帝国のお姉さん達が集まる店なんだぜ?平民は基本行けないような店に連れてってやるってのに」
その言葉に思わず足を止めた。
「あ?どうした?」
「……それ、本当なんだろうな?」
「え?食いついた?まぁいいけど。オープンして半年くらいの店でさ、最近移住して来た帝国のお姉さん達が接待してくれるんだよ。この学院に通ってる生徒もたまに来るらしいぜ?」
帝国者が経営する店……大した意味などないかもしれないがそれでも気になるものは気になる。
あのヤンデレ妹の手掛かりが全く掴めない以上、例え些細な情報でも拾わない手はない。
「やっぱり付き合うわ。その店、教えてくれ」
「マジ!?さすがミナトだぜ!早速放課後にでも行くか!」
「ああ、そうだな」
意気揚々と鼻歌混じりに歩き出すレイブン。こうして放課後の予定が決定した。
退屈な日々を過ごしているよりはよっぽど有意義な時間になるだろう。何より帝国の連中が集まっているという場所には何かしら情報が転がっているはずだ。少しでも妹の情報が掴める可能性があるのであれば足を運ぶ価値はある。
俺は微かな期待を胸に抱きつつ、残りの授業時間を過ごしたのだった。
やがて放課後、ミリウスが話しかけてくる前に俺は校舎を抜け出した。
アリスのこともあるが、この手の店に行く姿をミリウスやカナデに見られるのは気まずい。特にミリウスは間違いなく説教をしてくるだろうし面倒事が増えるのは避けたいところだ。
レイブンと落ち合い、店があるという繁華街に向かう。
「どんな女の子がいるんだろなぁ。胸の大きいお姉さんがいいなぁ」
「……お前は本当に欲望丸出しだな。羨ましいわ」
「なーに興味ないふりしてるんだよ。お前だって満更でもないくせに!」
否定できないところが悲しいところではあるが、この際割り切ろう。
「で?ミナトって普段どんなタイプの女性が好みなんだ?」
「いきなりなんだよ。別にタイプとかない」
「あぁ?それでも男かよ。好きな女性のタイプくらいあるだろ?」
「大体、俺と付き合う女なんて……」
思わず口を閉じる。脳内に浮かんだのは、前世の忌まわしい記憶。
初めて出来た大切な人が、妹の手によって壊されてしまった惨劇。何も出来なかった無力感。悔恨の念が一気に押し寄せてきた。
「ミナト?顔色悪いぞ。どうした?」
「あぁ、いや……何でもない」
レイブンに心配されるも、平静を装う。
こんなことで狼狽えてどうする。落ち着け俺……。
「そっか。ま、人間誰だって辛い過去はあるもんだしな。気にすんな」
こいつにしては珍しく真面目な表情で慰めてきた。
普段の軽薄な性格の割に他人の心情を察する能力は高いらしい。
「そういうレイブンはどうなんだ?誰か好きとかか
「俺?俺は可愛い子なら誰でもウェルカムだけど?」
開き直ったように胸を張るレイヴン。ここまで堂々としていると逆に清々しさすら感じる。
「カナデ先輩とか最高だろ!スタイル抜群で笑顔が可愛くて……」
「あれが可愛いねぇ……」
「てめ、顔見知りだからって余裕ぶっこいてんじゃねぇよ!そういう奴に限って彼氏が出来たら冷めるんだろ!」
憤慨するレイヴン。
まぁ俺としてもカナデは容姿は良い方で積極的で明るい性格なのは認めるが、同時に厄介ごとを持ち込む性質があることから恋人にするのは御免被りたいとも思っている。
ましてや、結婚なんてことになればニアが義兄になるなど冗談じゃない。
「お、ここだここ。着いたぜ」
レイヴンが指差す先には西洋風の派手な建物があった。大きさは三階建て程度だが外装はゴージャスだ。看板には『ルネサンス』の文字。
「へぇ。意外とちゃんとした店なんだな」
「だろ?貴族が行きつけにするような店なんだぜ?しかも平民でも身分に関係なく入れる数少ないところなんだ」
「それはそれは」
俺が知る限り、こういった店は身分や資産の高低で区別されるのが一般的だったはずだ。
レイブンの話からすると相当人気のある店のようだが……。
「そんじゃあ入りますか。レディ達を待たせる訳にはいかねぇからな」
「おう」
俺はレイブンと共にルネサンスへと足を踏み入れた。




