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第12話 王国最強からの挑戦


 クロフォード王国本邸。王宮に通ずる廊下を進んでいく。その感、様々な視線を向けられた。

 使用人たちだけでなく騎士や文官からも怪訝、尊敬、或いは畏怖の眼差し。


 まさに、賛否両論という言葉が相応しい状況だった。


「ミナト様、お聞きしてもよろしいですか?」

「何だ?」

「ミナト様が王位継承権を放棄されると耳にしましたが、本当のことなのですか?」

「……どこからそんな話を仕入れたんだ」


 カナデやニアとそんな話もした気がするが、まさか使用人にまで噂が広がっているとは思わなかった。

 それだけ俺の行動が目につくのだろうか。


「いえ、別に他意はありません。単純な興味です」

「そういうのはアルフェンの方が適任だろ。あいつは長男だし、政治能力も高い。俺なんかよりも余程王に相応しいと思うが」


 俺の回答に対してミリウスの答えは淡白なものだった。


「ミナト様に王位継承権があるのも事実なのですよ。それに、クロフォード王国は戦闘力こそが力の象徴。アルフェン様を遥かに凌駕するミナト様が選ばれない方が問題です」


 驚いた。まさかこのメイドが賞賛に近い言葉を言うとは。 

 普段から鉄仮面を被ったように感情を表に出さない彼女が俺に向ける視線はどこか複雑なもののように感じた。もしかしたら彼女なりの配慮なのかもしれない。


「いいのか?ミリウスはアルフェンの側近なんだろ?」

(わたくし)は誰かに忠誠を誓っているわけではありませんので」


 さらっととんでもない発言を聞いた気がする。流石に冗談だろうと思い横目で彼女の方を伺う。

 表情は全く変わらない。マジか。


「あんただって知ってるだろ。騎士団の中じゃ俺を疎ましく思う奴も多い。力はアルフェンより強いかもしれないが、それだけだ。それ以下は全部負けてんだよ」

「なるほど……つまりは、面倒事はアルフェン様に押し付け、ご自分はやりたいことを好きなだけやろうということですね」


 毒口なメイドである。

 しかし、話が早いのも確かだった。

 

「そういうことだ。アルフェンに不満があるなら、あんたが鍛えてやったらどうだ?あいつ、魔力量があるのに統制の方はそこまでじゃないからな。そういうの得意なんだろ?」


 一瞬だが、ミリウスの肩が僅かに震えた気がした。

 本人は隠してるつもりだろうが、内に秘めた魔力の高さは感じ取れる。


 実戦を見たことは一度もない。実力は定かではないが……一応の忠告だ。


「……食えないお方ですね。アルフェン様が手を焼かれる訳です」

「褒め言葉として受け取っておく」


 これ以上の問答は不要と判断したのかミリウスは口を閉ざした。

 そして案内されたのは王の私室。扉を潜ると国王が玉座に一人腰掛けている。


「アドルフ様、ミナト様をお連れしました」

「入れ」

「失礼します」


 威厳に満ちた声音だった。クロフォード王国現国王にして最強の男。

 その実力は国内のみならず国外でも広く知られているらしい。


「お久しぶりです、父上」

「うむ、息災そうで何よりだ。楽にしてくれ」


 勧められるままに近くの椅子に腰かける。

 正面には父親であるアドルフ・クロフォード。強面かつ無口、しかしどこかカリスマ性に溢れているらしくこの男を慕う者は多いらしい。


「まずは先の帝国の娘との試合、見事だった。お前の実力は知っているつもりだったが、まさかあそこまでやるとは思わなかったぞ」

「ありがとうございます。しかし、民からの評判は芳しくないようです。父上にもご迷惑をおかけしました」

「気にするな。むしろ帝国側への牽制にもなった。お前には感謝している」


 父親からの称賛の言葉。

 基本無骨な性格だが、家族に対する愛情は深い。俺にとっては少し懐かしい気分になる。


「ところで、魔力学院に行きたいそうだな」

「え?あ、はい、兄さんも通っていた場所ですから」

「カナデと言ったか。あの子の話ではあまり学業は好まないようだったが」


 どいつもこいつもベラベラと話してくれる。

 さっきのミリウスといい、プライベート情報が筒抜けすぎて怖い。


「最初は気乗りしませんでしたが……やはり知識を得ることは大事だと思います。特に魔力に関しては……」

「アリス・ルノワールが原因か?」

「…………」

「沈黙は肯定と受け取るぞ」

「はい。確かに彼女がきっかけではあります」


 誤魔化すことは不可能だ。 

 しかし、全てを話すべきか迷っていたところで先に父が口を開いた。


「あの後、帝国側の王女から抗議があった」

「でしょうね。あちらとしてもメンツというものがありますから」


 模擬試合とはいえあれだけ完膚なきまでに代表選手をボコボコにされたとなれば黙ってはいまい。


「しかし、当のアリス・ルノワールが試合の詳細を非公開にしてくれたおかげでどうにか収まった」

「そうだったんですか。助かりました」

「……本当にそう思うか?」


 父の眼光が鋭くなる。


「貴様、あの娘とどんな因縁がある?あちらが詳細を伏せているのならば何かしらあると考えるのが妥当だろう」


 その問いかけに答えることはできなかった。

 いや、正確には答えたくなかった。


「申し訳ありません。個人的な事情ですので……」

「個人的事情……か。まぁよい。無理には聞くまい」

「ありがとうございます」

「ただし、条件がある」


 予想外の言葉に思わず目を見開く。


「お前が望むように魔力学院へ留学することは認めよう。手続きもこちらで済ませておく」

「……して、条件とは?」

「私と戦え」

「……は?」


 耳を疑った。

 今、この親父は何と言った?


「何を情けない声を出している?魔力学園に行きたいのなら、この私を越えていけ。それだけだ」

「いや意味わからん!何だその理屈!?」


 急すぎる展開についていけずに思わず口調が乱れる。

 だが親父はそんな俺を無視して話を続ける。


「ふむ、やはりお前は畏まらず普通に話す方が似合う。その方が伸び伸びと戦えそうだ」

「……そうかよ。じゃあ質問に答えてくれ。一体どういう意図だ?」

「言葉通りの意味だ。我が国の宝たる我が息子がどこまで強くなったのかこの手で確認したい。その為に戦う」


 単純明快。それでいて力任せにも程がある。

 これがクロフォード王家だと言われればそれまでなのだろう。


「アリス・ルノワールとの一件で成長を感じたのかもしれん。だが本当にそれで充分かどうか私にはわからない。そこで私自ら貴様の力を試す」

「拒否権は?」

「お前はそんな臆病者か?」


 挑発的な口調に眉根が寄る。

 この男の性格は熟知しているつもりだが、ここまで露骨に喧嘩を売られたのは初めてかもしれない。


「いや、そういう話じゃなくてだな。俺と戦ってどうなる?一応言っとくが、俺はあんたの後継ぎになるつもりはないぞ」

「無論、私が求めるのは王位継承権ではない。ただ純粋な強さを求めているだけだ。クロフォード王国とは代々武の誉れ高い血脈。我ら王族はその頂点に君臨するべき存在だ」


 この野郎……戦闘民族かよ。


「アルフェンにはアルフェンの強みがある。奴が将来、この国を背負うならそれも良い。しかし私の代では私のやり方を通す」

「正気かよ……」

「私はいつだって正常だ」


 いや絶対に狂ってんだろ。

 しかし、もはや逃げ道はないのは明白だった。


「ルールは生死を問わない決闘だ。魔力も無制限。互いに全力を出し切ってこそ真価が発揮されるというものだろう?」

「……やっぱ狂ってんだろ」


 思わずぼやく。

 しかし父親は楽しげに笑った。完全に血に飢えた獣の目つきだ。


「お前相手に手加減は不要だろう。まさか父親相手に怪我をさせたくないとか考えるような子供ではないだろうな?」


 父親が放つ威圧感が増していく。まるで重力が増したかのような圧迫感。


 なるほど、これが国王の力……んな訳あるか。ただの脅しだ。だが効果は抜群だった。


「わかったよ。受けてやる。勝てば学園に行くって話、忘れんなよ」

「約束しよう」


 腹を括った。もうどうにでもなれという気持ちだった。

 父親と戦うことになろうとは夢にも思わなかったがここで怯んではいられない。


 それに俺は……もう逃げないと決めたのだから。


「日取りは明日、正午。互いに合流した後、王国から離れた荒野に移動する。そこならば周りの建物が巻き込む心配もなかろう」


 建物が吹き飛ぶ前提なのかよ。そんなバトルするつもりはないが。

 だが下手をすると俺の魔力コントロールが追いつかない可能性もある以上否定はできなかった。


「今日はしっかりと体を休めておくが良い。ではな」


 言いたいことだけ言って親父は部屋を出て行った。

 嵐が去った後のように静かになり、俺は溜息をつく。


「勝算はおありで?アルフェン様の10倍は手強いですよ」


 この無愛想メイド、煽りも一流である。

 もはや口元緩んでいるのを隠す気がないのだろう。


「アルフェンを10倍強化した程度で済めばいいけどな」

「うむ、では訂正します。アルフェン様の100倍は手強い」


 側近への敬意などまるで感じられない。アルフェンの苦労が垣間見えた気がした。


「まあ、なんとかなるだろ。間違いなく簡単な相手じゃないだろうが」

「余裕があるのですね。相手はこの国最強の猛者。あなた様と同じで生まれつき並外れた魔力量を持って生まれた存在です。加えてアドルフ様は独自の訓練法により人智を超えた領域まで到達しています」

「だろうな」

「それでも、あなたが勝つと?」


 ミリウスの視線は鋭かった。どうやら俺を試しているらしい。


「勝つさ。必ずな」

「……そうですか。ではその言葉を信じましょう。応援しております、ミナト様」


 薄っすらと笑みを浮かべながら一礼するミリウス。やはりこのメイドはつかみ所がない。

 負けるつもりは毛頭ないが、相手はこの国最強の猛者。簡単に事が運ぶとは考え難い。


「挑んで来たのはあんただからな、覚悟しておけよ、親父」


 掌に集まった魔力を握り潰しながら、俺は部屋を後にした。

作者からのお願いです。

面白い、続きがみたいと思われた方はブックマーク、評価をおねがいします。

面白くないと思われた方も、どんな評価でも構いませんので意思表示をしてくれたら嬉しいです。

今後の執筆の糧にしていきます!

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