短絡的って君が言うのかいっ!!
「また、同じ手段を使うのですか?二番煎じで流石にかかってこないのではありませんか?」
ミレーヌは、僕の陽動作戦を完全に否定した。
既に壊滅したとはいえ暗殺者の一族の里で育てられたミレーヌのいう事だけに説得力がある。
クリスもそれに同調した。
「私もそう思います。いくらなんでも短絡的すぎませんか?」
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・しばしの沈黙の後、ミレーヌが耐え切れなくなって「ふふっ!」と、失笑してしまう。
わかる、わかるよ。ミレーヌ、君の気持ちよくわかるよ?
僕も言いたいもん。
クリスに「短絡的なんて言葉を君が言うのかいっ!!?」って、メチャクチャ突っ込みたいもん。
でもクリスが「な、なんで笑うの? ね、なんで?」って狼狽える姿が可愛すぎて、言えないよ・・・・。
ああ、もうっ!!
なんでそんなに可愛いの?クリスティーナっ!!
・・・・などと、いつまでも心の中で悶えていても仕方ない。
僕はいつかのように再び右手人差し指を天に向ける”探偵のポーズ”をとりながら、ミレーヌとクリスに話す。
「そこだよ、ミレーヌ。
ミレーヌ。君は言ったね。流石に二番煎じだと。
クリス。君も言ったね。短絡的すぎると・・・・。
僕は断言する。
だからこそ、この陽動作戦は成功するとっ!!」
ミレーヌは、僕にそう言われてハッとなった。
「そうですわね・・・・。そうですっ!!
短絡的で幼稚すぎる作戦だからこそ、誰もこんな手段を使ってくるとは思わないっ!!
クリスでも考え付かない愚かな作戦ですものっ!」
「酷いっ!!」
ミレーヌの指摘にクリスが両拳を縦にブンブン振って抗議してるっ!!可愛いっ!!
いや、それどころじゃなった。
「その通りだよ、ミレーヌ。
今回の作戦は誰であっても幼稚すぎる、ありえないと考える。
だから、そこに油断が生じるはずだ。それゆえに、この陽動作戦に引っかかるはずだ。」
ボクが自信満々にそう言うが、クリスは、それでも否定的だった。
「・・・・思わなかったらどうするの?」
・・・・・え?
「敵が油断せず、前回の罠を参考に待ち伏せ攻撃に対して、十分な備えをしてきたらどうするんですか?」
普段のクリスからは考えられないような冷静な思考にミレーヌがギョッとした。
僕には、どうしてクリスがそんな答えを導き出せたのか、すぐにわかる。
「・・・・・徹君がそう言ってるんだね?」
・・・・クリスは神妙な面持ちで答えた。
村娘で貧しい育ちとはいえ、それでも両親から蝶よ花よと育てられたクリスには、闘争に対する知識や野性的な攻撃性は全くない。だからこそ、こんな思考ができるとしたら、それはクリスの前世の記憶の残骸・・・・
ヤンキーだった徹君の思考に他ならない・・・・。
正直、僕は今でも前世で僕をいじめていた徹君の存在は、あまり気持ちがいい事ではない。
それでも、今の徹君が僕を応援してくれたり心配してくれたりしていてくれるのは嬉しくもある。
嫌だけど、嬉しい。
僕にとって、徹君の魂の残骸は、そんな存在だ。
・・・・・でも、正しい指摘だと思う。
実際、僕もそう考えているからね。
僕はクリスに言う。
「大丈夫、僕はそのことを見越したうえで作戦を立てているんだからねっ!!
君の未来の旦那様を信じなさいっ!!」
クリス浜見る見るうちに真っ赤になってうつむいてしまった。
「・・・・・・まだ、旦那様になるって決まってないもん・・・・。」とか、ゴニョゴニョいってるけど、君が見せるその照れは、僕の告白に対する答えも同然だよっ!!
僕はにっこり笑うと改めて二人に今回の作戦を話す。
「もちろん。今、クリスが言ったことは、想定している。
敵がこの陽動作戦に引っかかった時こそ、危険な瞬間かもしれない、と。
敵は前回の待ち伏せ攻撃を見越して、十分な対策と用意をして乗り込んでくるはずだ。
だから、僕達は、敵が想像する以上の対策を用意して、敵の浅慮を打ち砕く。
前回の待ち伏せが成功したからこそ、敵は十分な備えをして、僕達転生者に襲い掛かってくるだろう。
・・そう、十分な備えをしてね。
それが十分であればあるほど、油断が生じる。
僕は、その油断をついて見せるよ!」
そうして、僕は二人に罠について説明するのでした。
それが、どれほど緻密なように見えて滑稽な作戦で、突拍子もない考えであったか。
しかし、それ故に二人とも首を大きく縦に振って僕の作戦に同意してくれたのでした。
僕達は、用意周到に何度も入念に打ち合わせをして、敵を誘い込む罠を考えた。
だから、絶対に成功するっ!!
前回の失敗を踏まえてのことだ。今回の作戦ならば魔剣士グー・グー・ドーですら、取り押さえて見せるっ!!!・・・・・たぶん。
僕らは数日間、餌を撒いた。
何気なくクリスとミレーヌという同伴者を交互に変えて土木工事を監督した。
同伴者を変えるタイミングは、一定の規則を設けた。
そうすることで、敵の奇襲のタイミングをこちらで設定できるからだ。
敵はいつ、転生者が土木現場に揃って出てくるのか、注意深く観察しデーター取りをして、その予測を立てる。
僕らは1か月ほど、そうやって釣りをしたのだが、敵は中々、陽動には乗ってこなかった。
「これ以上は、こちらが疲弊してしまい、逆に危険です。」
ミレーヌが作戦中止を申し出た。僕もそう思う。
罠をはる間にも僕らは土木工事現場に兵士を入れておかなければならない。そうなると兵士たちの疲労も考えなくてはいけない。
ここらが、潮時かと。僕もミレーヌの案に同意し、本日をもって最後の陽動作戦とする旨を現場に伝えてから、作戦に移った。
辛抱強く待つものである。
敵は、現れた・・・・・。
しかし、それはボク達の想像を超える登場の仕方だった。
陽動のために土木工事現場を歩く僕とミレーヌの前に、男が空から突然、振ってきて、地面に突き刺さったのである。
ビヨオオオオオンッ! と、音が鳴るかと思うほど、しなる槍の上に男は立っていた。
だが、本来、未だ湿気抜けきれぬ泥上の土地にそのような槍が突き刺さる土台はないはずだ。
見ると、男の槍が刺さった地面は凍り付いていた。
高位の氷魔法だった・・・・。
「なっ・・・・・・。」
想像をはるかに超えるほど、バカげた登場をしてきた敵にミレーヌが言葉をなくす。
無理もない。
僕だって、驚いているよ・・・・。
なんだ? この魔力量はっ!!!?
信じられないほどの高位魔法を自分が登場するための土台に使ってしまうほどの男だ。
災いの神ドゥルゲットが預言する前から、何故か転生者のことを知っていた男だ。
このぐらいの人外であることは、警戒しておくべきだった。
僕はいい気になって「敵の浅慮を打ち砕く」なんて言ったことを後悔した。浅慮は僕の方だった。
まさか、こんな化物が出てくるとは・・・・・・。
槍の上に立つ男は言った。
「舐めてくれたものだな・・・・・・。」
男の声は穏やかであったが、その肉体からほとばしる殺気から、尋常ではないほどの怒りを感じていることがわかる。
「ジュリアン王子よ。お前は、災いの神ドゥルゲットの予言を何と心得る?
お前はあの予言の前にお前達転生者の存在に気が付いていた私を、あの魔剣士グー・グー・ドーと同レベルと思ったのか?
何日もお前のことを観察していたが、その脳天気な性格にはホトホト呆れたわ。
この場でお前とクリスティーナを殺してやろう。
貴様らにこの世界は救えぬ。災いの神ドゥルゲットの予言の後に何が来るのかもわからないまま殺してやろう・・・・。」
男はそういうと槍から飛び降りて氷の大地に立つと、槍を地面から引き抜きざまに中段に構えて名乗る。
「我が名は、魔神フー・フー・ロー。氷と泥の国の王と精霊シャー・シャー・ローの間に生まれた神ならざる神。滅亡と救いをもたらす神と知れっ!!
ジュリアンッ! クリスティーナっ!! 貴様らに死の慈悲を与えんっ!」
その名を聞いて僕は戦慄した!!
魔神フー・フー・ローの伝説は、知る人ぞ知る禁忌の一つだった。
それはまだ、氷と泥の国の王が人間だったころの話。一人の氷妖精の下級貴族と恋に落ちた。
二人の間には、目に入れても痛くないほど可愛い子供がいたという。それがフー・フー・ローだった。
しかし、氷と泥の国の王が異界の神として昇華したとき、氷と泥の国の王は、二人を現世において異界に旅立ってしまった。すでに異界の神となった氷と泥の国の王は、現世に私情で干渉できず、二人を置き去りにするしかなかった。
残された氷精霊の下級貴族シャー・シャー・ローは、氷と泥の国の王を呪って狂った。
そして、わが命を呪いに変えてフー・フー・ローを氷と泥の国の王を殺す刺客に変えたという。それが魔神フー・フー・ローの由来。
だが、魔神フー・フー・ローの体には氷と泥の国の王の善性が残されていて、破壊をもたらす神でありながら、大変慈悲深いと聞いていた。
それが、何故、僕達を狙うのか・・・・・。
「神よ!! お尋ねする。
災いの神ドゥルゲットの予言の後に何が来るというのか? 転生者は、その時に何をなすべきなのか?」
僕の問いに魔神フー・フー・ローは応えず、ただ、「死ね。恋人共々、側で殺してやるのが神の慈悲と知れ」とだけ答えた。
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・ふふふっ!! 何を言ってるの?
「あっははははっ!! 何を言ってるのかな? 魔神フー・フー・ローともあろうお方がっ!!」
僕は急に高笑いをする。
その姿に魔神フー・フー・ローが聞き返す。
「・・・・・なにがおかしい? 気がふれたのかね?」
僕は言う!
ここで言う!!
これが僕の作戦だったからねっ!!
「一体、どこに僕の恋人がいるって言うんだいっ!?」
僕の問いかけに、黙って魔神フー・フー・ローは、クリスティーナを指差すのだった。
だが、指さしてすぐに異変に気が付いた。
「・・・・・・なんだ? この異質な魔力は。」
僕は魔神フー・フー・ローをせせら笑う。
「遠くから見てくれだけを追いかけているから、そうなるんだよっ!!」
その言葉を合図にミレーヌは幻術を解いてクリスティーナの姿から、自分の姿に戻るのだった。
「こ、これは!? 冥界と現世の間の国の王ルー・ラー・ドーンの眷属の魔法かっ!?
信じられんっ!
正気か、きさま・・・・。あんな危険な神の眷属の魔法を使うなど・・・・・・。」
魔神フー・フー・ローは、さらに驚嘆する。
「これほど複雑な魔法をここまで精密に使役するなど・・・・・その女に何をした? ジュリアン王子」
僕は、笑って答えた。
「それは後のお楽しみって奴でっ!!」
僕の作戦は成った。
見事、敵を誘い出し、だまし討ちすることに成功したのだっ!
しかし、釣れた獲物が大きすぎた。人間の手に負える敵なのか? これは
僕は、恐怖でがくがく震える膝を隠しながら、堂々とタンカを切るのだった。




