釣りをするよっ!!
災いの神ドゥルゲットの予言通り、3度目の戦争は、2度目の大異変を理由に終結した。
敵国ランゲルは、高額な賠償金を支払って捕虜を引き取ったが、それ以上の戦争が出来るほど体力が残っていなかったのか、そのまま退却していった。
別れ際、大河の対岸へ向かう船の上から、水狂の魔剣士グー・グー・ドーが「必ず戻ってきて、ミカエラ王を殺す」と呪いの言葉を吐いて帰っていった。
きっと、彼は復讐を忘れない。父上はこの先、ずっとあの狂戦士を警戒しなくてはいけないのだ。
そんな危険な状態だというのに父上は事も無げに「あの程度の輩はいつでも撃退して見せよう。」というのだった。今の状態ならば、グー・グー・ドーに勝ち目がない。しかし、それでもグー・グー・ドーが父上のカラクリに気が付いたら、そうはいかないだろう。水狂の魔剣士グー・グー・ドーは噂にたがわぬ最強の騎士だった。
父上とグー・グー・ドーが互角の条件で戦った時、その時はどうなるのか・・・・・
それは、僕には計り知れない事だった・・・・。
災いの神ドゥルゲットの予言の最後の一つは、三つ目の大異変だ。すでに3度の戦争と2度の大異変は起きた。
だから、大異変は、もう一度起こる。それが何なのかわからないが、僕達は注意深く用心しなくてはいけない。
そして、気がかりなことがもう一つ。
「気を付けろ? マヌケな転生者ども。お前たちは既に狙われているぞ。
せいぜい、気を付けることだ。」
この言葉だ。
前回、敵国ランゲルは、災いの神ドゥルゲットの予言を聞いて、転生者を奪いに来た。
だが、災いの神ドゥルゲットは、「既に狙われている」と言っていた。
つまり、ランゲルとは、そもそも違う何かが、僕達を今も狙っているという事だ。僕達は更に気を付けなくてはいけない。
そうはいっても、いつまでも幽閉されるように、あの保護区画に住むのも嫌だ。
僕は父上に相談して、月の半分は自由にしてもらった。
その自由な時間に、僕達には、やらないといけないことがあるからねっ!!
僕は、水害の被害救済用に立てられた櫓の上から大河の前に水害がもたらした汚泥広がる大地を見る。
汚泥は既に腐り始め、異臭を放っていたのだ。
僕は、クリス、ミレーヌ。マリア・ガーン、スティール。ユリア。騎士団長ギャレンタインを椅子に座らせると会議の開始を告げた。
「さて、クリス君っ!!」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
「本日の議題は何かわかっているねっ!?」
「ひゃ、ひゃいっ!!さ、3時のケーキにはちみつをかけるか、クリームをかけるかですっ!」
「きりーつっ!!」
僕から「起立」と一喝を受けたクリスは椅子から降りてまっすぐに立つ。
「足は肩幅に開いてっ!」
「ひゃいっ!!」
「両腕を前でクロスさせてから、左右に広げるっ!!」
「ひゃいっ!!」
「ラジオ体操第2のあのポーズ始めっ!!」
「いやあああああああー----っ!!」
「た、体罰反対っ! いじめ、ダメっ!!」
クリスが必死に抗議する姿を僕はお腹を抱えて笑っているけど、このネタは転生者以外には絶対に伝わらないので、二人だけの演芸会みたいに寒い空気になってしまった。
僕は、コホンと咳払いをしてから、汚泥広がる大地を指差していった。
「諸君、あの泥を何と思う?」
スティールがすぐに手を上げていった。
「すぐに除去すべきです。すでに腐り始め、病気の原因になりかねません。」
その言葉に、クリスもミレーヌもマリア・ガーンもユリアもギャレンタインも頷いた。
・・・え?
クリス。君まで同意するのか? 君、歴史の授業を習ってこなかったのかい?
僕は首を左右に振って否定した。
「あれは恵みだ。痩せこけた大地の我が国に外国の肥沃な土が運ばれてきたんだ。
この国の土は火山近くの痩せた土ばかりだ。そこにあのような肥沃な泥が乗ったのだから、来年以降、この辺りは豊かになるぞっ!!
僕の言葉に、スティールが驚いた。
「そ、そんなことがありえるのですか?」
僕はいちいち説明するのが面倒なので「前世の記憶だ。」とだけ答えることにした。
それで納得してもらえるのだから、ありがたい話だ。
「我々が今、やるべきことは、この土地で収穫するにふさわしい北部の農作物の種を買い求めることだ。
それをユリアとスティールに頼みたい。少年少女保護庁の方は、僕とクリスに任せておけ。
君たちは今から北部へわたり、農業のノウハウを手に入れてくるんだ。いいね?」
僕の言葉を受けたスティールとユリアが立ち上がると、僕は旅費と通行手形を手渡して「4日間かけて準備し、5日目に出発しろ。」と命令した。
ついでに「新婚旅行じゃないからねっ」と意地悪を言うと、ユリアは真っ赤な顔でうつむいてしまった。
「・・・・殿下。」
スティールの苦笑いが、ちょっと嬉しそうなのが救いだねっ!!
さて、継に僕達がやるべきことは、この大地の泥を半年かけて再生させることだ。
その為には大規模な土木工事が必要となる。
「まずは異臭を放つこの土地に上から土をかぶせ、落ち葉を被せ、においを消す。
その後、水路を復活させるのだ。」
かつて使われていた水路は泥に塞がれてしまったが、水脈は行き場を失い地の底であふれかえってしまう。
僕はギャレンタインとマリア・ガーンに指示を出し、災害前まで住んでいた住民の古老を尋ねて水路の地図を完成させるように言った。
のこったメンバーは、クリスとミレーヌと僕。
この3名でやるべきことは何か。
「それは、釣りだ。」
僕の言葉にクリスとミレーヌが驚いた。
「釣り?」
「釣りですか? ジュリアン様。一体、何を釣るおつもりですか?」
僕はニヤリと笑うと「狙うのは魚じゃない。僕達転生者を狙っている奴さ!」と、答えるのだった。
災いの神ドゥルゲットの予言が正しいのは、既に証明されている。
ならば、今、災いの神ドゥルゲットが言った通りのことが起きる前に対処することが出来るはずだ。
そのために、僕達は餌を撒き、釣りをするのだ。
対象はもちろん。僕達を狙う得体のしれない敵だ。
これを釣るのにマリア・ガーンとギャレンタインは邪魔だ。敵は警戒して襲ってこないかもしれない。
今。無防備になった今こそ。僕の狙いは成功するはずだ。
そして、その餌場を僕はこの土木工事に決めた。
不特定多数の日雇い労働者が集まるこの現場ならば、敵も襲って気安いだろう。
しかも、土地は汚泥。泥の上で走るのは限界がある。一度仕掛けても逃げ切ることは不可能なはずだ。
僕は、その事を伝えると、工事現場の見回りの同伴者をクリスとミレーヌを交互に連れて行くことに決めた。
こうすることで敵に襲う機会を絞らせるのだ。
必ず、敵はクリスを僕が重なるタイミングに襲ってくるからね。こちらもカウンターの用意ができるってものだ。
全ての準備が整った時、僕は不敵な笑いを浮かべて、クリスを連れて土木工事現場に向かうのだった。




